第139話 フィールド階層の収穫物

 水から炭酸やソーダに代わると言っても、ダンジョンの不思議植物に常識は通用しないから、深く考えたら負けだな。自分の中の常識が塗り潰された気もするけど。サイダーだけレア度がDと高くなっているのは、変質した後だからか?

 軽く捻れば外れる……青い所だけ抜くのは無理だな。そうなると、上の水筒竹も回収するしかないか。


「レスミア、この青色と水色の竹を取るから手伝ってくれ」

「は~い、私も始めてなので、ちょっとワクワクします。実家の店だと既にバラバラでしたので」


 2人で支えながら青い竹を捻ると、パキッと軽い音を立てて外れた。そこから、節毎に捻って順にバラしていく。下の方は500ml缶で、上に行くほど小さくなって行き、350ml、250ml、150mlサイズの竹が採取出来た。

 途中で枝葉も付いていたけど、こっちも下に折るだけで簡単に外れる。なんか植物っていうより、空き缶を縦積みして色塗っただけの……そう、劇の小道具に見えてきた。いや、重くはあるから中身の入った缶ジュースか?


「ここの突起を引っ張れば、蓋が外れますよ」


 レスミアが缶コーヒーサイズの水筒竹で実演してくれた。竹の内側は節から1cm程下に蓋が付いており、プッチンしたくなるような突起が付いている。それを倒さずに上へ引っ張ると、蓋が丸ごと外れた。缶詰のように蓋が外れる事で、コップとしても再利用出来るそうだ。


 一口飲むと、冷たくて美味しい水だった。家のキッチンに有る魔道具や〈ウォーター〉で出す水よりも美味しく感じる。ただ、竹は常温なのに中身だけ冷たいのは魔法瓶っぽい。竹のコップにも断熱効果があるのか聞いてみたが、


「いえ、蓋を開けたら只の竹コップですよ? 温かいお茶を入れると、外まで熱くなりますし。後、温かい物を入れると、竹が悪くなりやすいそうですよ。宿屋の奥さんが竹コップを長持ちさせる秘訣って教えてくれました」


「あら、竹はコップ以外にも細工物を作る職人にも人気よ。ちょっと短いから大きな物は作れないけど、代わりに色付きの竹が手に入るもの。

 と、言うわけで、その青と水色の竹を買い取らせて頂戴」


 横合いからフルナさんが、黄色の竹を片手に話に加わってきた。他の男性人は、まだ肩車して採取している。


「あっちは手伝わなくて良いんですか?」

「ええ、見つかったエール筒竹は4つしかなかったもの、あれが最後よ。

 そっちも色付きが2つ採取出来たなら、話は早いわね。色付きの竹は精算せずに、1人一つずつ持ち帰りたいって話になっているのだけど、どうかしら?」



【食品】【名称:エール筒竹】【レア度:D】

・中にエールを貯め込んだ竹。強度はあるのに節の部分で捻ると簡単に分離し、携帯サイズの水筒になる。内蓋のプルタブを引っ張ると外れて、中のエールが飲める。黄色くなるとエールの飲み頃。



 黄色はエールか。酒は要らないかな、とレスミアにも確認してみる。


「私も構いませんよ。ワインとか、お料理に使えるお酒なら欲しかったですけどね」

「それなら、炭酸筒竹の方でいいんじゃないか? 確か炭酸水で煮込むと肉が柔らかくなるって聞いた事があるし」


「へ~、それは知りませんでした! 今度、試してみますね!」


「それじゃ、こっちの水色のソーダも飲んでみたいので、空の竹筒なら譲りますよ」


 炭酸水を瓶に詰め替え、ソーダを手持ちのコップ3つに移し替えた。空になった色付きの竹をフルナさん渡し、ソーダはここの3人で山分けする。500ml缶サイズだから、分けても十分な量があるからな。


「私にもくれるの? ありがとう。

 色付きの空の竹筒は1個100円で買い取りね。中身入りなら青が1000円と水色が1500円ってところよ」


 フルナさんはアイテムボックスに竹筒をしまうと、中銅貨2枚を差し出してきた。500mlのソーダが1500円か~。テーマパークや、富士山の自販機よりも高いな!

 まぁ、魔物がうろつくダンジョンでしか取れないなら、こんなものか?


「けぷっ……甘いですけど、炭酸が強くて苦手です。私はいつものリンゴ水の方が良いなぁ」


 レスミアの可愛いリアクションを愛でつつ、俺も飲んでみる。


 うん、普通のサイダーだな。強炭酸って訳でもないし。

 あぁ、村のエールは微炭酸だったから、普通のサイダーでも強く感じるのかな。更にレスミアは酒を飲み慣れていないし。


「エール筒竹とかが、気軽に飲めるのは探索者の特権ね。まぁ、そのせいで市場に出回る数が少ないのは問題だけど」


「それなら、自警団の人達を釣る餌になるんじゃないですか? 10層で肉狩りしていたみたいに、酒を求めて21層を目指すと良いんですが……」


「それは、あっちの飲兵衛達に任せましょう。

 ちょっと、そこの3人! ダンジョン内で飲むなって言ったでしょう! 没収するわよ!」


 採取が終わったのか、男性陣が黄色の竹筒を片手に打ち鳴らすのが見えた。そして、蓋を取ろうとしていたところを、フルナさんが叱り飛ばす。

 時間も夕方だし、今日の調査はここまでかな。

 サイダーの残りをグイッと飲み干す。喉を弾ける感触を懐かしく感じながら、撤収準備に掛かった。




 ダンジョンギルドに帰って来て、今日の成果物を精算すると、総額で66万を超えた。1人頭11万だな。まぁ、総額の半分以上は、果樹園で蜜リンゴとスタミナッツが大量に取れたお陰でもある。21階層の1/3程しか調査していないし、採取物は見つけられた物しか取っていないのに、これだけの成果が出れば十分だろう。


 そして今回は、約束通りに欲しい品物があれば買い戻すことが出来る。年配の男性陣はツマミになりそうなスタミナッツを1袋(収穫時の大袋でなく小袋で)と、家族へのお土産のプラスベリーや百合根をいくつか買って帰っていった。


「銀鉱石は約束通り全部、私が頂くわよ。後は毛皮にチタン鉱石、各種属性晶石もね。レア度Dは、ザックス君の〈初級錬金調合〉じゃ加工出来ないから、文句無いわよね」



【素材】【名称:チタン鉱石】【レア度:D】

・チタンを含んだ鉱石だが、含有量は少ない。銀灰色で鉄より硬く、軽く、耐食性に優れた金属。鉄の半分程の重量なので、軽くて強い武器が作れるが、重量を生かすような武器には不向き。また、高級な日用品や魔道具においても幅広く使われる。



 硬く軽いチタンも欲しいけど、インゴット化出来ないなら鉱石だけ持っていても仕方がない。交渉して銀のインゴットと共に、インゴットを買う約束だけ取り付けておいた。

 そして、属性晶石と言うのは、魔水晶の属性版だ。



【素材】【名称:火晶石】【レア度:D】

・ダンジョンの火属性のマナが凝縮した魔力の結晶体。コンロや暖炉等の火や熱を扱う魔道具の動力源として扱われる。



 魔水晶は色無しの水晶だったが、各属性の色が付いた水晶だ。火は赤い半透明のクリスタルだな。魔水晶は沢山取れるが、その中に色違いが混ざって出てくる。採掘した本数的に1割程度しか出ないけど。これが初級の4属性分、産出した。火属性(赤色)、水属性(青色)、風属性(緑色)、土属性(茶色)って感じだな。



「……仕方がないですね。代わりに尻尾と鉄鉱石、燃石炭に食材は俺が買い取りますよ。レスミア、スタミナッツはどれくらい欲しい?」


「大袋で2袋もあれば十分ですよ~。プラスベリーと百合根は多めで、毒キノコはいりません。ラベンダーは安眠効果があるなら少し欲しいですね。ポプリにして枕カバーに香りを移せば良く眠れるかも?」


「あ~レスミアちゃん、スヤスヤベンダーは薬品にする前だから、眠気を覚える程度だけど、常用は辞めた方が良いわ。ポプリやお茶にしても、寝付けない時だけにしておきなさい」



【素材】【名称:スヤスヤベンダー】【レア度:D】

・ラベンダーの亜種。ダンジョンのマナで変質し、睡眠効果のある香りを放つ。香りだけでなく葉にも同様の成分が含まれ、お茶にしても効果がある。取扱注意。



 これは百合の花畑とは別の場所にあったラベンダー畑で採取した花だ。紫色の小花が並んでおり、只のラベンダーにしか見えないが、葉っぱの形が違うそうだ。ギザギザな葉っぱを斜めから見ると、ZZZとゼットが連なったよう……

 うん、名前と一緒で、知っていれば見分け易いと思おう。


 そして、採取する場合は匂いを嗅がないように、口と鼻を布で覆わないといけない。俺の〈自動収穫〉で、あっと言う間に終わったけどね。〈葉物収穫の手腕〉の適用範囲だったようだ。ただ、パララセージは葉っぱしか回収してくれないのに、スヤスヤベンダーは葉っぱと花の両方を回収してくれる。基準がよく分からん。



「おいおい、お前ら。全部買い戻さんでも、明日の調査でも手に入るんだから、程々にしろよ。それに、ダンジョンギルドとしても、収穫物のサンプルが欲しいんだが」


 フノー司祭が呆れたように言ってくるが、サンプルが欲しいとか初耳だ。そんな後出しの要求こそ、明日の調査の時でいいだろうに。


 フルナさんはサッサと報酬以上のお金を払い、素材をアイテムボックスに掻き込んでいる。

 それを見習って俺もストレージに回収すると、ギルドには毒キノコとスタミナッツとその原木が数本、後は低層でも取れる素材しか残らなかった。




 家に帰ると、今日は1日家事が出来なかったレスミアが張り切って、夕飯に取り掛かった。疲れているだろうし、ストレージに入っている料理で良いと言ったのだけど、


「新しい食材もあるので、作りますよ!」


 元気そうだから良いかな?

 俺も家事の手伝いとして、今日着ていた装備に〈ライトクリーニング〉を掛けた。掃除洗濯の代わりには十分だろう。着替えて来たメイド服姿のレスミアも、もう一度〈ライトクリーニング〉し、リビングや風呂、トイレなども片っ端から浄化して回った。


 そして、キッチンの流し周りや調理器具に掛けていく。鍋やフライパンの裏側の黒ずみが綺麗に消えていくのは気持ちが良い。それなのに、ちょっとだけ複雑そうな顔をしたレスミアから待ったが掛かる。


「ザックス様、キッチンはそこまでで良いです。掃除よりも先にお願いしても良いですか?

 お料理に使いたいので、小袋分のスタミナッツの殻剥きをお願いします」


 ペンチのような物を手渡され、背中を押されて追い出された。

 むぅ、キッチンは女の城とも言うし、勝手をするな!と言うことだろうか? レスミアが帰った後にしよう。


 倉庫に〈サンライト〉を浮かべ、テーブルにスタミナッツの大袋を取り出した。見た目はどんぐりだけど、丸々とした大きさは栗のよう。これをペンチで割って、中身を取り出せばいいらしい。

 ただ、ペンチとはちょっと形状が違う。先端に軸が有り、途中の丸いギザギザの所にナッツを挟み、ハンドルを握って押し割るようだ。握力を鍛えるハンドグリップかな?



【道具】【名称:ナッツクラッシャー】【レア度:E】

・鉄製の殻割り器。クルミ等の硬い殻を挟み、押し割る事が出来る。



 クラッシャーとか厨二心をくすぐる格好良いネーミングなのに、ナッツと付いた途端に怖くなるな。男の弱点だし……

 ナッツを挟んでグリップを軽く握ると、パキッと割れた。ふむ、握力トレーニングにもならない。殻を剥がすと茶色い渋皮に包まれた丸いナッツが出てきた。おつまみとかのナッツセットで見たこと有るような無いような。前世でも酒を飲んだ記憶も少ないし。


 パキパキと割るのは簡単だけど、殻から取り出すのと細かいゴミが出るのは面倒だ。ゴミは後で〈ライトクリーニング〉するからいいとして…………ピンッと思いついた。



 実験として、殻を割っただけのスタミナッツ1個に〈ライトクリーニング〉を掛ける。すると、光の粒子に包まれて殻だけが消えていった。テーブルの上には渋皮まで剥がされた、肌色のナッツが残っている。


 渋皮まで消えるとは予想以上の結果だ。渋皮も余計なゴミと認識されたのか?

 まぁ、これが分かれば、後は流れ作業。殻を割って別の袋に放り込み、貯まったのをまとめて〈ライトクリーニング〉するだけ!


 途中でナッツクラッシャーを使うのも手間に感じ、殻を割る方法を変えた。スタミナッツ2個を握り、筋力値中アップ補正の握力で握り割るだけ。一度に2個割れる! 両手で割って4倍の効率だ!

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