第141話 一路順風に立ち込める暗雲

「私にはちょっと太くて持ち難いですね。長さも、もっと短い方が良いです」


 朝ご飯の後、出発準備を終えても集合時間の2の鐘には少し時間があった。その空き時間を使って、昨日作った尻尾サーベルをレスミアに試してもらっている。

 俺には普段使いしていたショートソードの柄はしっくりくるのだが、女の子には合わなかったようだ。色々意見を聞きながら〈メタモトーン〉で改良を加えていく。




「良い感じです! これなら、あの百合の花も切れそうですよ!」

「……まぁ、植物だしな。千切りは無理でも、ざく切りくらいは出来るんじゃないか?」」


 レスミアがしっくりくる持ち手、と言って持ってきたのは、愛用の包丁。それを参考に柄の形を整えてみた。まぁ、重さは包丁と似たようなものだし(長さは別物だけど)、本人が扱いやすいならいいか。魔物を切るのも料理するのも大した違いはないし、料理人なんてジョブもある事だしな。


「後は魔力を込めるのが、楽になると言う事ないですね」

「尻尾の付け根を触っている指から流せば簡単だよ。慣れれば、こんな風に……振っている時だけ魔力を流せばMPの節約になるし」


 攻撃する前から魔力を流して、刀身を硬化させても無駄だしな。突き詰めると、切り裂く瞬間にだけ硬化していれば良い。俺もまだ、そこまでは出来ないけど。ただ、鞭のように尻尾を振っている途中で硬化させると、フェイントになって面白い。魔物相手じゃ意味無さそうだけどな。


「その指からって、どうやるんです?

 スキルを使うみたいに、右手に魔力を集めるまでは、なんとか出来ますけど……」


 レスミアはアクティブスキルが料理人のアイテムボックスしかないので、魔力の扱いに慣れていない。残りの時間は練習に当てる事にした。

 両手で扱えれば、二刀流から刀身を交差させてオオバサミとか、シザー〇ンとかはさみネタが使えたのに……

 ん?自分でやれって?

 片手剣と小盾のセットやナイフは訓練されたけど、二刀流は習ってないんだよ。レスミアのように器用値の補正が高い訳でもないし。それに、自分でネタ武器を使う気にはならない。





 二日目の調査は、昨日と逆周りの壁沿いを進んだが、階段は発見出来なかった。魔物も素材も初日と同じ種類しか出ず、総額で90万円程の稼ぎだ。休憩の時にキャラメルナッツをお茶請けに出したら、それだけで元気が回復して、初日よりも調査が捗ったお陰でもある。

 パーティーからの不満の声は水筒竹の生えている場所が殆ど無かった事くらい。初日最後に訪れた滝の休憩所まで足を延ばしてみたが、色付きが数本見つかっただけ。お酒が熟すのには1日じゃ時間が足りないようだ。



 今日は昨日と同じジョブを装備していたが、育成枠としてジョブを5次職に増やしてみた。小休止の度にステータスを開き、切り替えていたので、少しはレベルアップ出来たようだ。


・村の英雄レベル21→22  ・スカウトレベル20→21 

・料理人レベル19→20   ・植物採取師レベル19→20

・商人レベル15→17


 主力のジョブが軒並みレベル22になってしまったので、経験値が勿体ないなぁ。2つくらい育成枠にして、追加スキルで補っても良いかな? スカウトとか〈敵影感知〉があれば良いし……



【ジョブ】【名称:料理人】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15、一人で一食分の料理を作る。

・体の資本である料理を作るサポートジョブ。ダンジョン産の食材を使うことで、様々な効果があるバフ料理を作ることが出来る。

 非戦闘職ではあるが、多少のステータスアップはあるので、多少は戦える。食材の探求は程々に。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値中↑、耐久値中↑【NEW】、器用値中↑

・初期スキル:職人スキル、アイテムボックス小、バフ料理初級

・習得スキル

 Lv 5:初級鑑定

 Lv 10:筋力値中↑、インペースト

 Lv 15:食材調達

 Lv 20:耐久値中↑、初級属性ランク0魔法【NEW】



 レベル20で耐久値が上がったが、ステータス補正だけを見ると、まるで戦士のようだ。シェフとかパティシエは、体力がいるから男性が多いなんて話を聞いたことがあるけど、それだけ肉体労働なのだろう。戦闘スキルが無いので自前の技量だけで魔物を料理しないといけないけどな。


 後、ランク0魔法が増えたのを知ったら、レスミアも欲しがりそうだ。ただ、依頼で新階層を調査している間は、サンダーディアー道場に通えないからな。行く暇が出来てから、教えよう。



【ジョブ】【名称:植物採取師】【ランク:2nd】解放条件:採取師Lv15以上、植物系採取地で多く採取する。採取物をその場で食べる。

・非戦闘職。植物系採取地に特化し、採取地で採取をすると経験値が貰える。〈自動収穫〉スキルと各種手腕スキルを習得して、作業時間を短縮することが出来る。その分、多くの採取地を巡ろう。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑、器用値小↑、敏捷値小↑

・初期スキル:採取師スキル、自動収穫、葉物収穫の手腕

・習得スキル

 Lv 5:初級鑑定

 Lv 10:敏捷値小↑

 Lv 15:投擲術、果物農家の手腕

 Lv 20:アイテムボックス小、フォースドライング【NEW】



 こちらは、ステータス補正は変わらずに、スキルが2つ増えていた。まぁ、アイテムボックスは極小から小に大きくなっただけで、〈フォースドライング〉は錬金術師で既に持っているので、ちょっとがっかり。

 対象を乾燥させる〈フォースドライング〉を覚えたのは、植物系の採取がメインのせいだろう。葉物野菜やハーブ類は言うまでもなく、ドライフルーツ、干しキノコなんてのも定番…………踊りエノキを乾燥させたら、どうなるんだろう?

 

 くねくね踊るのが、どう変化するのか少し気になって〈フォースドライング〉を掛けてみた。すると、ヘドバンしたり、隣と捻じれていたりしていたのが、徐々に鈍くなっていく。エノキが乾燥し、茶色に変色すると、完全に動かなくなってしまった。

 案外普通だったな。パフォーマーなら、傘の辺りが破裂するような自爆芸くらい見せてくれると期待したのに。


 切り干し大根のようにカリカリになってしまった乾燥エノキは、レスミアがスープに使ってくれた。干し椎茸のように、良い出汁が出るらしく、夕飯のオニオンスープは深い旨味とタマネギの甘さが相まって美味しい。

 料理を褒めちぎっておいたら、夕飯後に追加で乾燥エノキを作るように頼まれてしまった。


「修理してもらったブレンダーのお陰で楽になったんですけど、乾燥は陰干ししていますから、助かります。これと、これと、こっちも……」


 香草や野菜、岩塩などを色々と出されたけど、スキルを使うだけなので、大した手間じゃない。乾燥後に〈パウダープロセス〉も使って粉末加工までしておくと、喜んでくれたので、頼まれるがままに乾燥と粉末加工を手伝った。

 若干作り過ぎた気もしたけど、在庫はストレージに預かっておけば湿気る事もない。ついでに、野外で料理をする時でも使えるので、レスミア特性ハーブブレンドソルトも預かっておいた。




 調査3日目。

 外周部の調査が終わったので、その内側の未調査部分を始める。

 2時間ほど探索したところで、地図を確認していたフノー司祭から提案があった。


「初日に引き返す事になった道を、先に調査するのはどうだ?

 目標と言うか目星を付けるなら階層の中心と言うのも定番だしな。群れとった犬っころ供も、解散しとるだろ」


「いいんじゃないかしら? 果樹園も復活しているなら、蜜リンゴとナッツが大量に手に入るもの」


 小川から果樹園、その先の中心を目指すと言う意見に反対も無く、進む事になった。小川ではトーチカ3本が復活していたが〈ロックフォール〉で押し花にして、押し通る。


 果樹園では蜜リンゴの木だけでなく、サーベルスタールト3匹が待ち構えていた。既に何度も戦っているので問題はない。更に、索敵済みなので、魔法の充填も完了済み。


「こっち来いやあああ!!!」


 こっそり接敵し、向こうがこちらに気付くと同時に、オルテゴさんの〈ヘイトリアクション〉で注意を引いた。サーベルスタールトが攻撃力アップのバフを使う前に呼び寄せる為だ。そして、オルテゴさんの前に2枚〈トリモチの罠〉を張る。1枚では3匹引っ掛からないから。


 一旦斜め後ろに下がり、サーベルスタールトがトリモチに掛かったところで、魔法を発動した。


「「〈アクアニードル〉!」」


 オルテゴさんを挟んだ反対側にいる、フルナさんも同時に発動。合計10本の水の針がサーベルスタールト達に襲い掛かり、1匹が倒れる。瀕死になった1匹もオルテゴさんの鉈で頭を殴られて沈んだ。最後の1匹はトリモチで身動きが取れないところを矢で射られ、メイスで頭をぶん殴られ、こうべを垂れたところを、レスミアの尻尾サーベルで首を半分切られて倒れた。


 戦闘時間は1分も掛っていない。

 慣れもあるけど、行動パターンから最適化していったお陰かな。

 先に索敵して魔物の種類が分かれば、対処方法も変えられる。こういった情報もダンジョンギルドがまとめれば良いのに、〈自動収穫〉をしながらの雑談で、そうフノー司祭に話してみたが、


「ウチのギルドでも魔物の簡単な行動パターンを書いた資料はあるが、誰も読まねえからなぁ。お前さんが言うような、対処法とか詳しくは書いておらん」


「そんなのがあるなら、ダンジョンに挑む前に読みたかったですよ。ここのダンジョンを20層まで制覇してからじゃ……」


「いや、パラパラっと見ただろ。カウンターに置いてある奴だぞ。

 まぁ、情報が少ないのは、対処法なんてジョブによっても変わるからだ。魔法で倒せとか、〈挑発〉でおびき寄せろとか使えるジョブは居ないとな。索敵にしてもレスミアの嬢ちゃんみたいに、音で判別しろなんて書かれても意味が無い」


 カウンターの……薄っぺらい冊子か。

 一応、貴族の学校や、羊皮紙の図鑑、個人出版したような本には詳しく書かれている事もあるそうだ。もちろん前者の方から精度が高くなり、値段も高い。個人出版になると与太話や推測ばかりの情報も混ざって来るそうで、当たり外れがあるそうだ。


 もちろん他の探索者や、ギルド職員に聞き込みしたりするのも含めて、情報収集出来るかどうかが、ダンジョンで成功する鍵になる。


「まっ、情報があっても進めない連中も居るがな……」


 その言葉に振り返ると、フノー司祭は何かを懐かしむように、遠くを見つめていた。



 果樹園で採取と小休止を終えて、中心部へと進んだ。

 前回と同じで、中心へ誘うようにスタミナッツの木等が配置されており、採取物を回収しながらだと歩みが遅くなる。〈自動収穫〉している間にレスミアとローガンさんが少し先を偵察に向かった。



 しかし、こちらの収穫が終わる前に、慌てた様子で戻って来る。


「不味いです! この先、10匹以上の群れがいます!」

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