第136話 ダンジョンからの差し入れ?
今日のお昼は、オルテゴさんからの差し入れの極太ソーセージのホットドッグに、レスミアが昨日大量に作って余った夕飯だ。フルナさんもアイテムボックスから、バスケットに入れたサンドイッチを取り出しているが、困惑気味のよう。
「普通、ダンジョン内の食事なんてサンドイッチとかの軽食でも十分なのに、暖かいスープや熱々のグラタンが出て来るのは、贅沢過ぎよ。家で夕飯を食べるのと変わらないじゃない!」
「ガハハ、美味いからいいじゃないか!
お、こっちの百合根もニンニクが効いていて美味いぞ」
「ありがとうございます~。それにはジニアさんから貰ったイノシシベーコンも入っていますよ。イノシシの脂と百合根が合うんです」
「おぉ、ウチのベーコンか! こりゃ良い。あの百合の花をもっとしばいて、母ちゃんのお土産にするかぁ」
一見すると剥いた玉ねぎのような、花びらのような形をした百合根は、ホクホクとした食感と優しい甘みに、イノシシのサラリとしながらもコクのある旨味が加わり、美味しい。百合根は苦味がある筈なのに、あまり感じないのはイノシシ脂かニンニクのお陰か。
【食品】【名称:百合根のガーリックオイル焼き】【レア度:D】
・百合根とベーコンをガーリックオイルで炒めた料理。ホクホクの百合根と旨味が凝縮したベーコンの相性が良い。
ダンジョン産の調味料が使われているため、効果時間が伸びている。
・バフ効果:器用値微小アップ
・効果時間:15分
こっそり〈詳細鑑定〉したところ、レア度Dでも効果は『微小』だった。イノシシベーコンは地上産なので、百合根の効果だけのはず。増強効果のある踊りエノキを入れていないから、これは普通の料理として作ったに違いない。
バフ料理の場合は効果と味を両立させるのが難しいと、レスミアが楽しそうに愚痴っていたからな。
まぁ、普段の料理は美味ければ良い。
パンよりソーセージが大きいホットドッグを齧っていると、先程収穫し終わった木が煙となって消えていくのが見えた。順々に消えていき、果樹園のような広場があっと言う間に只の空き地になる。
頭上の枝が消えた事で、木漏れ日が差す所が青空の広場に変わるとは……自然じゃ有り得ない光景だけど、中々に幻想的にも見えた。
そうして、最後の木が消えていくと、今度は広場の中央に煙が立ち込める。地面から吹き上がるように空へ広がっていき、中から蜜リンゴの木と、背の低いプラスベリーの木が現れた。既に赤いリンゴと、赤紫色のベリーが生っている。
驚いていたのは俺とレスミア、ローガンさんだけだったので、フィールド階層では普通の事のようだ。採取地では、人がいると採取物が再生しないので、生えてくるのは始めて見る。
「あら、採取したその場で生えて来るなんて、運が良いわね」
「運が良い……確かにデザートが向こうから来てくれるなんて、気が利いてますよね。ちょっと取りましょう」
先に食事を終えていた女性陣が、此れ幸いにとデザートタイムに入った。収穫するのも楽しそうなので、〈自動収穫〉は後でいいか。
瑞々しいリンゴを頂きながら、フルナさんに気になっていた事を聞いてみる。
「これだけ直ぐに生えてくるなら、木自体も採取していいんですよね?
魔力の通りの良い木材が欲しいのですけど……」
「別に構わないわよ。フィールド階層だけでなく、ギルドルール外の31層以上でもレアな木材は伐採するもの。この前話した弓矢でも作るのかしら? 弓は結構難しいわよ~」
「いえ、錬金調合の混ぜ棒とか、ワンドを作ってみようと思いまして。
本当なら、フルナさんの杖みたいに金属が良いんですけど、魔力の通りが良い金属は手持ちに無いんです。だから、蜜リンゴの木とか魔力を蓄えていそうなので、その木材で試作してみようかなって。魔方陣の充填速度が早くなるかも知れませんし」
未だに、ワンドを混ぜ棒代わりに使っているからな。変色はしていないけど、そろそろ専用の混ぜ棒とか、予備のワンドが欲しい。
因みにフルナさんが持っている金属製の杖……に見える大きな混ぜ棒(マドラー)は、実際に大きい方の錬金釜の調合で使っているらしい。錬金術師は調合道具にお金を掛けるから、戦闘用の杖やワンドを後回しにしてしまう。そのため、魔力伝導率が良い混ぜ棒を、そのまま戦闘でも使う人が多いそうだ。
そもそも「お店が黒字になっていれば、ダンジョンに入る必要は無いわ」との事で、自分で採取して経費を削減しないといけないのは、駆け出しか赤字経営の証拠なのだとか。錬金術師の仕事は調合なのだから、素材はダンジョンギルドや錬金術師協会から仕入れるか、人を雇って取りに行かせるのが普通である。
フルナさんが今回の調査を嫌がっていたのは、そんな(プライド的な)理由があったそうな。
「そう言う事なら、蜜リンゴよりレア度の高いプラスベリーかスタミナッツの木の方が、魔力の通りは良いと思うわよ。
それに、太い木から切り出すより、枝をそのまま使った方が良いと聞くわね。切り出すと魔力の通り道まで切れてしまうそうよ」
ほうほう、それは面白い事を聞いた。魔力の通り道……水を吸い上げるみたいなものか? と、なると細めの枝が多いプラスベリーの木がいいか。
「後は……そうね、魔力の通りの良い金属なら銀があるわよ。午前中に取れた数個では足りないけど、午後も同じくらい取れれば小さいインゴットに調合出来るわ……〈中級錬金調合〉ならね」
「中級じゃ俺には……あ! 今日採取した銀鉱石を全部寄越せって事ですか?!」
「寄越せとは人聞きが悪いわね。レシピを持っている私の方が適任というだけの事でしょう。欲しいなら、小さいインゴットを定価で売ってあげるわよ!」
ぐぅの根も出ない。〈初級錬金調合〉しか持っていない俺ではストックしておくしかなく、貯め込んでから調合依頼をしても、手数料が取られるので同じ事だ。何より相場が分からないので、フルナさんの言い値になるのが怖い。技術料をいくら上乗せして来るんだろう。
戦々恐々としながらも、銀鉱石の買い取り権をフルナさんに渡すと約束した。銀で作りたいアイデアがあったので、背に腹はかえられない。
「そんなにビクビクしないでも、暴利を取ったりしないわよ。ウチの雑貨屋は村に根差して、良い物を安く売るのがモットーだもの。(生活必需品は)」
「フルナさんは頼りになりますから、お任せしていけば良いですよ。私も色々相談していますし」
「銀鉱石なんぞ、お前ら以外に欲しがるのは居ないから好きにせい」
「女に口で勝てる訳ないからな! 俺もウチの母ちゃんに勝てた試しがないぞ」
ギャラリーがワイワイ言ってきた。ああ、皆が居るところで交渉を仕掛けて来たのは、買い取り前に見せておく為だったのか。百合根とかスタミナッツとか欲しいって言う人もいたからな。
そんな時、広場の一角に煙が立ち込めるのが見えた。また木が生えて来たのかと、少し期待しながら様子を見ていると、煙の中から出て来たのは3匹の犬。
背中が灰色の毛並みで、腹は白い。一見するとシベリアンハスキーに似ているが、鋭い歯をむき出しにした大きな口と、犬にしては長く真っ白な尻尾が目立っていた。
そんな犬3匹は互いに向き合って円陣を組み、遠吠えを上げる。
「「「ワオーーーーン!!!」」」
その途端、3匹が赤いモヤ……オーラのようなものを纏う。遠吠えで我に返ったフノー司祭が大声で指示を出した。
「魔物だ!!! 戦闘準備!!
オルテゴ、引き付けろ!」
その声に、俺達は慌てて武器を取って立ち上がった。
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