第134話 植物を刈り取る形をしている

 1戦目では、バラバラに戦っていた即席パーティーだが数回戦うにつれ、多少は連携が取れるようにはなってきた。また、同時に問題点も浮き彫りになる。


 魔法で数を減らして、オルテゴさんの〈ヘイトリアクション〉で注意を引き付け、残りを囲んで倒す。フノー司祭の指示した簡単な基本戦術だ。


 その中の問題の一つは、フルナさんの魔法威力と命中率の低さである。何度か試したがフルナさんの〈ストーンバレット〉では3発全弾当たっても、アクアディアーが倒せない。全弾当たれば倒せる俺と比較したところ、知力値が低いせいと推測した。魔法使いの中アップ補正を入れてCの俺と、錬金術師の小アップを入れてもEのフルナさん。2段階も違えば、威力も差が出るに違いない。


 そしてもう一つは、距離の問題だ。


「ちょっと距離が遠いのよ。普通の1.5倍はあるのに、1発でも当たるだけ上出来よね」


 普通の距離ってなんだ?!


 情報を擦り合わせしていくうちに、俺とレスミアの問題でもあると気付いた。元々猫耳で索敵し、先制攻撃で魔法を撃ち込んでいる。多少遠くても当たるように練習していたのだけど、〈敵影感知〉と〈猫耳探知術〉のお陰で、更に早く遠くの敵を発見出来るようになった。

 罠ハメや近接で倒すウインドビーやシルクスパイダーは兎も角、ワイルドボアとか追いかけっこするのが面倒なので、遠くから早々に〈エアカッター〉で沈めていたからなぁ。いつの間にか、魔法の射撃精度と言うか、射程距離が伸びていたようだ。〈エアカッター〉の弾速が速くて、遠距離射撃も偏差射撃もしやすいのがいけない。


 そのため、他のメンバーを考慮せず、当たり前のように遠い距離から戦闘開始していては、上手くいく筈もなかった。


 更に、距離の問題はまだある。

 今までの敵は、戦闘に入ればこっちへ向かって来るのが多かった。しかし、21層から登場したリーリゲンはニョロニョロ歩くといっても、基本は遠距離から魔法を連打する固定砲台だ。(魔法を使わない場合は)こっちから近付いて倒しに行かないといけない。


 そのため、開戦距離が遠い=走る距離が長い=おっさん達はバテてしまった。


 現役を引いてから10年以上経ち、レベルは高くても肉体的には衰えている。更に森の中を踏破し、戦闘では走り回る。1戦くらいならまだしも、数戦すると疲労困憊になり休憩する事になってしまったのだ。



 休憩しながら、話し合いをした結果、出来るだけ接近してから戦闘を開始する事になった。他にも倒す優先順位や、お互いの立ち位置、援護に入る際の掛け声など決める事はいくつもある。



 集団戦闘もなかなか難しいなぁと、実感させられた日になった。

 これから深層に行くにつれ、魔物の出現数は増えていく。それに対抗するのにパーティーメンバーも増やす必要があるので、徐々に慣れていくしかない。


 でも、いきなりフルパーティーはやめておこう。合わせるのが大変だから、1人ずつで良いや。

 取り敢えず、欲しいと思ったのは盾役だな。特に〈ヘイトリアクション〉要員が居ると、盾役に魔物が群がっている間に罠が掛け放題なのだ。


 俺も盾の扱いは習っているし使ってはいるが、どっしりと受け止める大楯ではなく、バックラーのように受け流す方なんだよな。

 それに、自分で〈挑発〉しても〈くくり罠〉が掛け難い。出来れば前脚より後脚を釣り上げたい今日この頃なのだ。





「〈くくり罠〉!」

 オルテゴさんに向かっていたアクアディアーを吊り上げる。罠術師のアピールのためにコツコツと引っ掛けているが、戦闘スキルが無いフノー司祭には高評価だ。一方的に殴れるので……


 吊り上げた後は他に任せて、自分の担当のリーリゲンに向かう。斬撃武器が有効なのは確かで、ショートソードで切り裂く事は出来る。(欠け補修した所も問題なく切れている)

 ただ、弱点らしき太い茎は、デカい花弁と根っこムチに守られているので攻撃が届かない。先ずは切り刻む必要があった。


 左から右上に掬い上げるように切り、花弁の上側を切り落とす。そして、返す刀で雌しべを切り落とした。

 切り裂いてもダメージになっている気がしないので、切り離すように剣を振るっているのだ。少々面倒だけど、よりは断然楽。横合いから振るわれたムチを切り払うが、剣が当たった所を支点にグイッと曲がり、背中を打たれた。

 痛みは大したことが無いが、根っこムチはぐねぐねと柔軟性があって、切り落とし難い。正直、俺の技量が足りないのだ。


 リーリゲンと何度か戦ったが、俺との相性は悪いな。槍は効かないし、剣で攻撃しても防御が硬く、何より罠術スキルが効かない。

 軽いせいか〈くくり罠〉を仕掛けても、スイッチを踏み抜かないため作動せず。〈トリモチの罠〉でくっ付けても、持ち上げていた根っこは振り回すし、届かない場合は〈アクアニードル〉を使い始めるだけ。



 それでも、2発目の〈ストーンバレット〉を準備しないのは、必要が無いからだった。

 俺と戯れているリーリゲンの背後に、銀色の何かが。その直後、ジョキンッと小気味よい音が鳴ると、大きな花はぽとりと落ちた。



 持ち上げられていた根っこムチが、パタパタと倒れていく。太い茎も倒れると、着地を決めていたレスミアの姿が目に入った。ゆっくりと立ち上がった彼女は、右手の採取バサミを俺に見せながら、チョキチョキ鳴らし不満そうに言う。


「やっぱりハサミじゃ、格好つかないですよぉ」

「そうは言っても、ダガーより良いって言ったのはレスミアじゃないか」


 短く切れ味もイマイチなダガーでは、リーリゲンの太くしなやかな茎を切断するのは難しかった。その点、ハサミは茎を挟み込めば易々と切断する。採取バサミなので普通のハサミより短いが、その分切れ味は良い。太い茎も2、3回で両断出来る優れ物だ。


「それに大きなハサミで戦うキャラもいたから、そこまで変じゃないと思うけど……」

 確か右腕に開いた状態で取り付け、腕を曲げるとハサミが閉じて両断するのだったか? ロボットでも突き刺したり、挟み込んだりするのがいたなあ。


「そんな、おっきなハサミは持てませんよ!

 もう、いっそミスリルのアレにしませんか? 木に登るのも楽になりますし」


 小さいハサミでは数回攻撃する必要があるが、その手間を減らす一撃必殺の手段がレスミアにはある。〈不意打ち〉だ。

 しかし、この階層では落ち葉の所為で足音を消すのが困難である(植物魔物が音で認識するか知らないけど)。その為、木の上からの奇襲で〈不意打ち〉を掛ける事にした。

 元より木に登るのが得意なうえ、レベル20のステータスアップで敏捷値がCに上がった事により、木から木へ飛び移る事も可能になっていた。

 猫かな? 猫人だった。そのうち忍者にでもなりそうだ。


 先程、上から落ちてきたのも、その成果であり、ハサミの音が1回だったのは〈不意打ち〉が成功したお陰だ。万事上手くいったのに、何が不満なのだろう?

 格好がつかない……ミスリル……


「ああ、成る程。ミスリルが手に入ったら、格好良いミスリルバサミを作るのも面白いかも?」

「もう、違いますよ! ハサミから離れて下さい!」


「ハイハイ、そこのお二人さん。イチャついてないで、そろそろ出発するわよ」

「イッ、イチャイチャはしてないですよ! フルナさんもハサミを武器にするのは変だと思いますよね?」


 レスミアは、フルナさんに弁明しに行ってしまった。ちょっと揶揄い過ぎたかな?

 ドロップ品のビニールにはいった片栗粉を拾って、後を追った。



【素材】【名称:片栗粉】【レア度:D】

・カタクリからではなく、リーリゲンの百合根から作られたデンプン粉。料理のとろみを付けるのに使われる。



 因みに、あんかけみたいな、とろみのあるソースを作るのに使うそうだ。俺も片栗粉の使い道なんて他に……唐揚げだっけ? 竜田揚げの方だったか? くらいしか覚えていないなぁ。アイデアだけレスミアに教えておこう。



 そんな感じで、魔物を倒しながら進む一方、採取の方はあまり発見出来ていない。蜜リンゴの木のように目立つのは、遠目でも簡単に見つかる。低木であってもプラスベリーのような果実が目立つ物や、パララセージの様に目立つ花があれば比較的見つけるのは容易だ。

 ただし、雑草に紛れる薬草や解毒草はギリギリ見分けがつくが、落ち葉に隠れるキノコ類を見つけるのは難しいってレベルじゃない。


 なら、怪しそうな所の落ち葉や雑草を払えば良いと思ったのは浅はかだった。


 ショートソードの鞘で怪しい木の根元を払ってみたところ、煙が噴き出したのだ。慌てて離れて〈ブリーズ〉の魔法で吹き流し、事無きを得たが他のメンバーには迷惑を掛けてしまった。


「あんちゃん、調査の途中だからこそ、慎重に頼むぜ。大雑把にしていいのは、何が取れるか把握してからなぁ」


 実際、隠れていた煙キノコの横には真っ赤な毒キノコが生えていた。幸いにも胞子を噴き出すタイプでは無かったが、危ない事には違いない。



【素材】【名称:ヨイテングタケ】【レア度:D】

・テングタケの亜種。食べると天狗も酔っぱらうという。実際にはアルコール成分は入っておらず、免疫力と肝機能を低下させる毒を含んでいる。摂取すると酒に弱くなり、他の毒や病、魔法的な状態異常にも掛かりやすくなる。人族的に食用ではないが、非常に美味。



 食用じゃないのに美味ってどういう事???

 触っても大丈夫らしいので、ハサミで真っ赤な柄を切り取り採取した。柄だけでなく、傘の裏側のヒダヒダまで真っ赤で、上に反った皿のような傘の上部だけが茶色……ああ、真っ赤な柄を長い鼻に見立てれば、小さい天狗の面に見えるな。名前の由来かな?

 近くで一緒に採取していたフルナさんに、使い道を聞いてみたところ、


「麻痺毒薬とかの材料だけど、単体だと使い道はないわねぇ。調合するには別の毒キノコもいるし、そっちも生えてないと、只の食べられないキノコね。

 あ!一応言っておくけど、毒系の素材を売る場合はギルドか、錬金術師協会に登録された錬金術師にしなさい。そこらの商人に売って、毒殺事件でも起きたら疑われるわよ」


 大量に持っているウインドビーの毒針や、それを加工した毒矢の扱いが気になったので、詳しく聞いてみた。一応、自分で採取してきて、調合する場合は管理しようがないので黙認されるそうだ。それでも調合品を販売しようとするなら、錬金術師協会の許可がいるらしい。毒物がダンジョンで手に入るなら、それくらいの管理は必要だろうな。


「まぁ、貴族とか権力者が毒殺されるなんて、定番な話ですからねぇ」

「だから、貴族はレベルを上げるなんて聞くわね。即死しないだけの体力があれば、〈ディスポイズン〉で治るもの」


 レベルを上げて物理で耐えろってか?

 貴族も大変だ。このヨイテングタケが、単体ではそこまで強い毒じゃないと言われても、食べると病気に弱くなるだけとか、十分怖い。


 慣れるまでは偶然見つけるか、踊りエノキだけ採取しよう。アイツは踊っているので、落ち葉が積もっていてもガサガサ動いて判別しやすい。時折、落ち葉を吹き飛ばすほど元気なのも居るくらいだ。

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