第133話 埋蔵銀発掘と植物型魔物

 先頭は森歩きに慣れているオルテゴさん、〈敵影感知〉が出来るローガンさん。

 真ん中に、出来るだけ温存する回復役のフノー司祭とフルナさん。

 最後尾に〈敵影感知〉持ちで、魔法の遠距離攻撃出来る俺と、〈猫耳探知術〉で索敵出来る遊撃のレスミアだ。


 後ろからついて行くと、俺達が歩いた道とは違い、迂回している事に気が付いた。ダンジョンに入る前に少し聞いた、歩きやすいルート選びってやつだな。


 うん、乗り越えられる高さと言っても、わざわざ切り立った崖を登る必要は無いよね。レスミアは足場になる所があれば、ピョンッと跳び上がるので、俺も負けじと付いて行ったせいでもある。

 森に慣れるまでは自重した方がいいな。腰を悪くしそうな人やフルナさんに、崖登りは勧められないし。


「ちょっと待って!」


 フルナさんの声で歩みを止める。

 皆が止まりフルナさんに視線を向ける中、当の本人は直ぐ横の崖下に近寄って行く。あれは昨日、足場にした出っ張りか?

 手にした杖で、出っ張りに積もった落ち葉が散らされ、足元に生えた雑草を踏み倒している。


「やっぱり、見た事ある形と思ったけど、鉱石の土山よ!」

 その声に近付いてみると、半分が崖の壁に埋まっている土山だった。いや、こんな風に隠されたら、見つけるのも難しい。レスミアも気付いたのか、アッと小さく驚いている。


「ハイハイ、男性陣は採掘をお願いね。私は鑑定がお仕事だし」

「俺とザックスでやるか。オルテゴはこの先のルート確認、ローガンは地図を書いていてくれ」

「あ、ローガンさん。俺の画板があるので貸しますよ」


 ストレージから採掘道具と画板を出し、作業を始めた。ツルハシをフノー司祭と交互に振ると、あっという間に崩し終わるが、奥からもう一つ出て来た。完全に崖の中なんだが……崖も切り崩しながら、何とか掘り出す。


「フィールド階層だから、色々な所に隠れているわよ。流石に、完全に隠れている事は少ないらしいけど」


 レスミアが小さいスコップで選り分け、鉱石にブラシ掛けし、フルナさんが鑑定しながら、雑談していた。


「宝石とか出ないですかねぇ。今のところ、魔水晶と鉄鉱石、燃石炭ばかりですけど」

「21層だから、新しい素材は出るでしょうけど、数は少ない筈よ。

 あら、これは石玉じゃないわね、裏側の色が……〈初級鑑定〉!

 ぎ……銀鉱石!!

 銀よ!銀が出たわ!」


 フルナさんの大声で皆が集まり、掲げられた鉱石を覗き込んだ。石玉の中に細い線のような光沢が、いく筋も入っている。



【素材】【名称:銀鉱石】【レア度:D】

・銀を含んだ鉱石だが、含有量は少ない。精錬された後は食器や宝飾品用として使われる。また、魔力は通しやすいので、魔法使いの武具等に使われることもある。



 21層でもう貴金属かと思ったら、含有量が少ないのか。それでも銀は銀なので、女性陣の喜びようは凄く、残りの鉱石も手早く確認し始めた。


 しかし、結局採取出来た銀鉱石は、1つのみだった。元々の土山が2山しかないので、総数が少ないのでしょうがないとも言えるけど……

 道すがら、フルナさんがキョロキョロとする事が多くなったのは言うまでもない。



 プラスベリーを採取した場所に到着したが、木ごと無くなっていた。〈マッピング〉で思い出せる限り、周囲の状況は合っているので間違いない。


 フィールド階層では、採取地は存在せず、採取物は全域に広がっているそうだ。しかも、どこかで採取すると、そこからは消え去り別の場所に出現する。採取地のように回復時間も要らないらしい。その為、フィールド階層を歩き回れば延々と採取が出来る。ギルドの半分ルールも対象外なので、採取天国に違いない。


 ただし、魔物もそこら中に居るし、採取物も隠れるように配置される為、楽ではない。一応、出現するパターンは決まっているらしいので、採取物の生えた場所を記録して行けば、多少楽になるらしい。


 まぁ、その地図作りが完成するまでは、大変なのは確定だ。


 プラスベリーが取れなかった事に、落胆したレスミアの背中をポンポンと軽く叩き、慰めてから次に向かった。



 花畑に近付くにつれ、〈敵影感知〉の圧力を感じ始めた。俺達は斜面の上から、木の幹に隠れて様子を伺っている。


「鹿が2匹に、花が1匹か。真ん中のでかい花が魔物なんだな?」

「ええ、リーリゲンは水を吸うと、〈アクアニードル〉の充填が早くなる特性があります。なので、あれは不味いですね」


 花畑の真ん中にいるリーリゲンは、1匹のアクアディアーから〈ウォーター〉で水を貰っていた。

 最初から準備万端か。まだ、こちらには気付いていないだろうに。

 まぁ、〈敵影感知〉で位置を把握して、事前に魔法を充填している俺も似たようなものか。


「ザックスとフルナの魔法で、1匹ずつやってくれ。残りの鹿は他の面子でやる」

「分かったわ。私はリーリゲンを狙うわね」

「では、離れている方のアクアディアーで」


 同時に魔方陣を出したのに、何故かフルナさんの方が早く完成した。俺が驚いているのが見て取れたのか、フルナさんは得意そうに笑う。たかが数秒、されど数秒の差は大きい。俺の魔方陣が完成してから、フノー司祭の合図と共に魔法を発動させた。


「〈ストーンバレット〉!」「〈ストーンバレット〉!」


 微妙にズレた魔法名と同時に、前衛陣も斜面を駆け下り始める。俺も着弾を確認する前にワンドを腰に刺し、槍を拾って駆け出した。


 斜面を降り始めると、自分の魔法が離れた方のアクアディアーに当たるのが見える。そのまま倒れたので、他に目を向けると残りの2匹は健在だった。いつの間にかアクアディアーが前に出て、脚を引きずっている。リーリゲンの盾にでもなったのか?

 後ろのリーリゲンが花の先に魔方陣を出すのが見えた。その魔方陣は、俺の倍以上の速さで光の線が走り完成していく。


「こっち向けやあ!!!」


 その大声と共に魔方陣の矛先が、前を走るオルテゴさんに向いた。戦士系のセカンドクラス重戦士のスキルだ。〈挑発〉の範囲版〈ヘイトリアクション〉と言うらしい。〈挑発〉と同じく、発動の台詞は何でもいいので、決して〈こっち向けやあ〉何てスキル名ではない。


 〈アクアニードル〉の針が飛んで行くが、オルテゴさんの構えたカイトシールドに全て弾かれる。しかし、即座に充填を始めた魔方陣に、オルテゴさんは足を止めて防御に専念した。


 その横を追い抜いて行くと、フノー司祭が手負いのアクアディアーと戦い始めていた。バトルメイスを振り回して、角と切り結んでいる。参戦しようと思ったが、押しているようなので必要なさそうだ。

 バトルメイスの攻撃範囲に入らないように、少しだけ迂回し、通り抜けざまにアクアディアーの後脚にトリモチを仕掛けた。拘束しただけだが、援護には十分。駆け抜けた後ろから、フノー司祭の気合の入った声とアクアディアーの鳴き声がセットで聞こえたから大丈夫だろう。



 そして、リーリゲンが〈アクアニードル〉の2射目を撃ち出した時、更に奥の草むらからレスミアが飛び出して来た。姿が見えないと思ったら、草むらに隠れて迂回していたらしい。タイミングとしてはドンピシャだ。俺も走りながら槍を構えて突撃した。


 リーリゲンの大きな花を槍で突き刺し、同時にレスミアのスモールソードが太い茎を貫く。


 やったか!

 と、思った瞬間、横合いから腕を打たれた。


 反射的にバックステップで距離を取る。打たれた右の二の腕が少しだけ痛むが、動くのに支障はない。硬革装備のない部分を打たれても、HPゲージも2%も減っていないので、大した攻撃ではないと判断する。


 離れてみて、攻撃の正体が分かった。リーリゲンの脚というか根っこ。それが何本も持ち上がり、全周囲でムチのように振り回されていた。しかも、攻撃を受けたのにピンピンしている。

 そこでハッと気付いた。


 百合の花の急所ってどこだ?

 動物のような心臓などの臓器は無いし、血を流す訳でも無い。


 既に貫いた花弁ではないし、太い茎も切り倒すくらいはしないと駄目だろう。突きしか出来ない黒毛豚の槍では決定打にならない。後は花の中心、雌しべか? それとも根っこの根元とか?


 前回倒したのを思い返してみる。光剣に切り刻んだ(オート放置したので見ていない)のと、〈ライトボール〉が弾けた光のドームだ。参考にならん!


 攻めあぐねていると、上から矢が落ちて来て、根っこを縫い止めた。今日のパーティーで弓矢装備なのは1人しかいない。レスミアは曲射が得意ではないし。

 動いていない時を見計らったとは言え、細い根っこを曲射で撃ち抜くとはローガンさんもやるじゃないか。


 根っこムチの結界が消えたので、当たりを付けた箇所に攻撃を仕掛ける。雌しべ、花の根元、根っこの根元、〈二段突き〉も使った三段突きをしても、まだ倒れない。レスミアも反対側から攻撃しているのに。持ち上がっていた根っこが、数本地面に落ちたので効いているとは思うけど。


 反対側のレスミアとアイコンタクトして、再度攻撃しようとしたところ、急に焦ったような声を上げた。


「ザックス様!右に退いて!」


 レスミアも飛んだのを見て、反射的に従う。そして、飛んだ先で反転すると、盾を構えたまま突進するオルテゴさんが見えた。


「うおおおおお!!」


 そのままリーリゲンを盾で体当たり。ただ、軽いためかあまり吹き飛ばなかったところに、抜刀したがリーリゲンの太い茎を両断した。


 地面に落ちたリーリゲンは萎びて動かなくなる。


「やっぱり、斬撃の方が効きそうか。レスミアはどう思う」

「同感ですねぇ。スモールソードじゃ突いても効いている気がしませんでした。感触的に〈不意打ち〉も不発みたいですし。落ち葉のせいで足音は隠せないのが駄目かなぁ」

「弓矢の方も同じじゃな。縫い止める事は出来ても、効いたようには見えんかったのう」

 いつの間にか合流していた、ローガンさんも同意してくれた。まぁ同意されたものの、どうしたものか。俺はショートソードに持ち変えれば良いが、レスミアの武器が無い。久々のダガーかミスリルソードの2択かなぁ。


「ガハハハ! やっぱり植物には鉈が一番だ。森歩きには最適だぞぉ」

 止めを刺したオルテゴさんは上機嫌だ。幅広で重そうな鉈は、枝とか薪を切るには良いけど戦闘用には短くないか? ダガーよりは長いけど。まぁ武器と言うより……


 ちょっと思いついたので、リーリゲンの死体?切り花?で試してみる。ストレージの採取道具フォルダから、採取バサミを取り出して、太い茎を切ってみた。太いので1回では切り落とせない。ただ、切れないわけではないので、3回ほどチョキチョキと刻んでみると両断出来た。

 俺の行動を不審に思ったのか、手元を覗きながら小声で聞いてきた。


「今度は何をするんです?」

「ん? レスミアの対リーリゲン用の武器を考えていたんだ。ダガーと採取バサミどっちが良い?」


「ハサミは武器じゃ無いですよ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る