第132話 セカンドクラスのスキルとルール違反

「は~、よく考えたもんだ。俺の時なんて、盾と抗麻痺剤くらいしか用意してなかったぞ」

「ううむ。しかしだなぁ、網の方はなんとか作れると思うが……どうだ、フルナ?」


 フノー司祭は拘束網を検分していたフルナさんに話を振る。網目に渡しているワイヤーを指でなぞり、確認していた顔を上げると、複雑そうに言う。


「そうね、素材があれば作るのは簡単よ。魔道具と言うには簡素すぎるから、道具に分類されているけど、雷の魔力を地面に逃す発想は面白いわね。

 錬金術師協会で似たような事を書いた本を読んだことがあるの。大型の魔道具に溜まり過ぎた魔力を大地に逃すとか。勿体無いと思っていたけど、防御としてなら使えるのか~」


 アイディアとしては電気を逃すアースだったけど、この世界だと雷の魔力になるのか……


「でもね、ちょっと作りが雑じゃないかしら?

 ココ! もう切れているわよ。切れた端と端のワイヤーの色が微妙に違うから、強度が違う素材をくっ付けたのね。そういう所は破損しやすいのよ!」


「よく分かりますね。転び罠のワイヤーだけだと数が足りなかったんですよ。〈メタモトーン〉で細く伸ばしても長さが足りないので、自作のインゴットから作ったワイヤーで補ったんです。

 まぁ、元より補修しながら、改良しながら使う予定でしたので……〈メタモトーン〉」


 指摘された断線箇所をコネコネして繋ぎ直す。ボスの強い引っ張り力や、雷魔法を浴びて劣化、破損しない訳がないからな。昨日から使って初断線なら、持った方ではないだろうか。

 俺達の話が途切れたのを見計らってか、フノー司祭が話を戻した。



「細かい話は、そこまででいい。網が作れるなら、後は罠術師とやらの方だな。

 ザックスの口振りから察するに、取り方まで分かっているんだろう。採取師レベル15以外の条件は何だ?」


「逆に聞きますけど、いくらで買いますか?」

「なに?! 金取るのか!」


「勿論ですよ。皆さんの反応から、かなりレアなジョブと分かりましたし、サンダーディアー相手に戦う方法は色々見せてあげたでしょう。ここからは有料です」


 唖然とするフノー司祭に対して、言い切っておいた。村のためにという気持ちはあるけれど、無償でする気は無い。更に言うなら、自警団を改革して、11層以降の攻略に乗り出すというくらいの気概を見せてくれないと、教える気にならない。


 楽しそうに、ニンマリと笑っているフルナさんには、見透かされているか?

 まぁ、それならそれで、こちらに引き込むだけだ。


「フルナさんなら、いくらで買いますか? 」

「そうねぇ、本当に誰も知らないジョブの情報なら、金貨数枚かしら?

 先に情報をチラ見せして、本命の値段を釣り上げる……商人らしい手段ね。

 でも、そこは村の為とか言って、無償で教えるのが男らしいじゃない! 女の子にモテるわよ」


 チラリとレスミアに笑顔を向ける当たり、楽しんでいるな。

 急に視線を向けられたレスミアは、慌てたように首を振った。いや、どう言う意味合いの首振りか分からんけどな。


「村の為と言うなら、フルナさんが出しても良いのでは?

 ムッツさんが蜜リンゴの調合品を売りに行ったので、かなりの儲けになるはずですよね。あ、お金でなくとも錬金釜でもいいですよ!」


「自警団の話だから、只の村人の私がしゃしゃり出る訳にもいかないわね。役職者に任せるわ。

 そうそう、ザックス君。教える時は村限定にして、外に漏らさない事を〈契約遵守〉で縛った方が良いわ。フノーがダンジョンギルドの本部に報告したら、拡散されて情報の価値が無くなってしまうもの」


 自分が巻き込まれそうになると手の平を返して、実際に手を振ってフノー司祭に打ち返すフルナさんだった。しかも、俺への助言までしてくれるとは、ありがたい。後で蜜リンゴを売りに行こう。

 しかし、ギルド経由で情報が広がるとは……よく考えたら、分かる事だったな。村にあるのは支部なのだから。危ない、危ない。


「フルナよぅ。そこまで教えんでも、いいじゃないか」

「あら? ザックス君が領主様と繋がっているのは知っているでしょ。勝手に情報を拡散したら、領主様のお怒りを買うかも知れないわよ。むしろ、私に感謝するべきじゃないかしら?」


 フノー司祭は、低く呻いて押し黙ってしまった。隣のオルテゴさんは、フノー司祭の肩を叩いて大笑いしている。


「まあまあ、実際に決めるのは、騎士団が来てからになると思いますから、急がなくても良いですよ。自警団がどうなるかにもよりますし」


 ムッツさんは最悪の場合、役職者に処分が下ると言っていた。処分というのがどの程度か分からないが、降格とか交代はあるかもしれない。

 まぁ、異変の話があるから、厳しい処分は無いと思うけどね。


 話を棚上げしたところで、ずっと静かに話を聞いていたローガンさんが口を開いた。



「ザックス殿は、自警団の団員達でも20層のボスを倒せると思いますかのう?」


「すみません、自警団の方とはあまり交流が無かったもので、判断材料が少ないです。ええと、肉狩りしていた弓使いの方は普通に戦えそうに感じますけど、11層の採取に普段着で来ていた人は厳しいでしょうね。

 ただ、スカウト不足と聞いていますので、いっそのこと全員スカウトに変えて適性の有る無しを判断するのも良いかもしれませんよ」


「全員ですか! それはまた……」


「特に罠術師は、スカウトよりもサポート寄りですからね。戦士のように正面切って戦うのが好きな人には向きません。スカウトも採取師も罠術師も、攻撃スキルはありませんから。

 まぁ、攻撃スキルが無いから弱いっていう事もないですけど。21層の調査でも罠術スキルを使いますから、有用かどうかは見て判断して下さい」


 俺の言葉を噛み締めるように聞き、頷いた後「村長や、年配の団員共相談してみます」と返してくれた。

 色々とサービスで喋ったけど、多少は前向きになったかな。ついでに罠術師の情報を高く買ってくれると嬉しい。あぁ、ノートヘルム伯爵に手紙も書かないといけないな。今夜にでも書くか。



 話し合いが終わり、そろそろ本題の21層に向かおうと席を立った時、ローガンさんが思い出したように話し始めた。


「そういえば、先程のボス戦でレベルが16に上がりましてのう。新しいスキル〈ツインアロー〉を覚えたんじゃ。

 ザックス殿はジョブの話が好きと聞く、試し撃ちを見てみますか?」


「良いですね! 気になります」


 セカンドクラスのスキルを、先んじて見られるのは嬉しい。二つ返事でお願いした。

 ローガンさんが壁に向かって弓を構え、矢を番える。





 次の瞬間、矢を放り投げて、21層へのドアへ歩き出した。

 いきなりの行動に呆気に取られていると、ローガンさんも慌てた声を上げる。


「なんじゃぁ! 体が勝手に動いて!」


 そして、扉を開けると、そのまま出て行ってしまった。自動的に扉がバタンッと閉まると、静寂が訪れる。



 その沈黙を破ったのは、レスミアが手を叩いた音だった。


「あれじゃないですか? アレ!

 ホラ、案内板に書いてある、ここです。」

 部屋の中央にある案内板を指差してから、小走りに近付き、読み上げた。


『 ・魔物侵入不可、戦闘スキルや攻撃系魔法使用不可、及び戦闘行為をするものは強制的に21層へ退出させる。』


 皆の「あ~」という声がハモった。




 休憩所を出ると、ローガンさんが項垂れていた。

 強制退出された後に戻ろうとしたが、『12時間、休憩所の出入り禁止』と表示されたらしい。なかなかに厳しい処置だ。いざという時の避難所として使えないし、特に中の脱出ゲートが使えないのは痛い。


「まぁ、俺の特殊スキルで外に出られますから、問題ありませんよ。

 そんなことより〈ツインアロー〉を見せて下さい!」


「なんじゃ、それは……」


 困惑するローガンさんに〈ゲート〉で帰りは心配ない事を説明して、拾っておいた矢を返した。何故か釈然としないようではあったけど。


 近くの木の目標に、弓矢を番えたローガンさんがスキルを使用した。


「〈ツインアロー〉」


 その瞬間、番えた矢の直ぐ横に、半透明の矢が出現する。そして、矢が放たれると、並走して飛んで行き、木の幹に2つ並んで刺さった。

 ツインってこういう事か。自動で2連射するとか、2本同時発射かと想像していたよ。半透明の矢は魔法に見えなくもない。そんな話をレスミアとしていたら、フルナさんが補足してくれた。


「スキルに使う魔力を固めたような物だから、魔法に近いのは確かね。でも、矢が半透明な時点で魔法じゃないわよ。

 半透明なのは属性の色が無いからなの。魔法だったら、九つの属性のどれかの色になるからね。だから、属性の弱点は突けず、威力は低いわ。

 まぁ、どんな相手にも効くっていう側面もあるけど、普通の矢を使わない代わりにMPを消費するってだけの話ね」


「所謂、無属性ってやつか。でも、弱点を突けなくても、矢が2本になればダメージも2倍、実質弱点を突いたようなものじゃないか?」


「あ、それはいいですね。弓矢は威力が低いので、本数撃たないと倒せない事が多いので……

 セカンドクラスはレベル25でしたね。後、4つです」


 レスミアの弓矢が弱いのは、小さめの短弓なせいもあるだろう。筋力値がEのままだしなぁ。

 何か、軽くて強い武器があれば良いのだが……(ミスリルソードは奥の手)


 矢を回収しに行っていたローガンさんが戻って来る。


「よし、そろそろ出発するぞ。先頭はオルテゴとローガンだ、頼んだぞ」

 フノー司祭の号令で出発する。当ても無いので取り敢えず、昨日と同じく壁沿いに進むことになった。

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