第131話 村人でも出来る20層ボス攻略法

 結局、九十九折りの土手道を歩いて行く事に。コシを痛めかけた2人は、フノー司祭が〈ヒール〉を掛けたのだけど、歩みは遅めだ。俺達、若者組とちょっと離れてしまっていた。土手道では魔物は出ないので、多少離れたところで問題はない。


 丁度良い、レスミアと打ち合わせしておくか。フルナさんが居るのは余分だけど、多分面白がって聞きたがるだろう。理由もなく遠ざけるには、フルナさんの口の巧さが強敵過ぎる。適当に受け流せれば良いのだけど。


「レスミア、今のうちにボス戦の打ち合わせをしておこう」

「あれ? 昨日のやり方じゃないんですか? 角も脚も出させないって、てっきり昨日の事かと」

「自信満々って感じだったものね。聖剣ってそんなに強いの?」


 やっぱり茶々入れが入った。レスミアに目配せしてから、スルーして打ち合わせを続ける。


「いや、昨日の改変だな。〈潜伏迷彩〉と〈不意打ち〉は無しで行こう。多分先制に毒矢を撃ち込んで怒らせれば〈潜伏迷彩〉が無くても接近出来る。気休めかもしれないけど〈隠密行動〉もあるしな」

「〈隠密行動〉……そんなのもありましたね。効果有るのか無いのか分からないですけど。

 後、〈不意打ち〉無しだと、攻撃力が減りますよね。毒矢を使うのに戻して、本数多目にしてはどうですか?」

「〈潜伏迷彩〉ってスカウトのスキルよね。アレ、もうちょっと上のレベルじゃなかったかしら?」


「う~ん、毒矢だけだと、(作業)コストが……サンダーディアーに3本かな。後は普通の矢を首に撃ってくれれば良いよ。〈二段突き〉で早めに喉を潰すから」

「了解しましたぁ。そうすると、最初にサンダーディアーに……」

「ちょっと、2人でイチャイチャしてないで、私も会話に混ぜなさい!」


 おしゃべり好きを放置するのは無理があったか。レスミアの腕を引っ張って駄々を捏ね始めた。これが2児の母か……いや、今日の格好は10代っぽいから、あまり違和感がないようにも見える。まぁ、興味を引けそうな物なら、肩に担いだコレで良い。


「イチャイチャではなくて、打ち合わせです。フルナさんは本番を観戦するまで知らない方が楽しめると思いますよ。

 代わりに、コイツを貸します。鑑定すると面白いかもしれませんよ」


 そう言って、黒毛豚の槍を渡してみた。

 フルナさんは片手で受け取ろうとして、重さによろけていたが、自分の杖をアイテムボックスにしまってから検分し始めた。


「何これ、この間のレア種の角よね? 見た目が微妙な槍と思ったけど……」


 興味を引けたようで何より。今のうちに打ち合わせを済ませよう。途中でフルナさんの笑い声が聞こえてきたけど、スルーだ、スルー。




「それでは、他の皆さんは少し離れた所で、俺達のを見ていて下さい」


 休憩小屋の奥にあるボス部屋への赤い扉。それを潜る前に振り返り、念押ししておいた。皆の目は期待半分、不安半分と言ったところか。懐疑的なのは、俺が聖剣を持たずに槍を担いでいるせいだろう。フノー司祭が心配そうに話しかけてくる。


「ザックス、そんな槍だけで大丈夫なのか? 念の為、防御の奇跡を掛けた方がいいんじゃないか」

「無くても大丈夫ですよ。もう6回目で慣れましたから。

 それじゃ、レスミア、行くぞ!」

「はい!」


 部屋に踏み入ると同時に、駆け出した。水溜まりも無視して水を跳ね上げながら、一直線にボスの登場する魔方陣を目指す。


 レスミアがボス正面側、俺が真後ろに配置に着いた。以前とは少し違い、魔方陣の縁ギリギリに陣取り。更に、俺は片膝をついて、小さく目立たないようにする。〈隠密行動〉を頼りにするのは初めてだけど、無いよりマシだろう。


 魔方陣の光が収まり、サンダーディアーが戦闘開始の鳴き声を上げる……のを邪魔して、首に毒矢が突き刺さった。くぐもった鳴き声が響く中、俺もクラウチングスタートを切る。

 登場の魔方陣が大きいといっても、サンダーディアーも大きい。あっという間に後ろ脚に辿り着き、


「〈くくり罠〉!!!」


 観戦者にも聞こえるように、大声でスキルを発動させた。

 足でスキルを発動させたので、そのまま走り頭側に回る。その頃には、サンダーディアーの脚が巻き上げられて行くところだった。


 レスミアは俺と目が合うと、直ぐにお供のアクアディアーの方に向かって行く。

 そして、サンダーディアーが逆さまになるのに合わせて、ストレージから取り出したかすみ網をバッと広げ、角に被せた。四隅に付けた鉄杭の重りで、程良く包み地面に落ちる。

 更に、鉄杭の片側に重りの岩を乗せたら、拘束網Ver2の完成だ。



 これは罠術スキルのかすみ網ではなく、ダンジョンの罠から回収した物だ。細い編目が枝角に良く絡み、そのうえ強度があり導電性も多少あるので、採用した。

 四隅の鉄杭は対雷、アース代わりだな。これもダンジョンの罠、転びの罠のワイヤーと鉄杭を再利用している。ワイヤーは何本か網目にも通して導電性と耐久性を上げている。〈メタモトーン〉で被膜状にくっ付けただけだけどな。


 最後の重りの岩は〈ロックフォール〉で出てくる釣鐘岩から切り出した物だ。昨日試した時には、釣鐘岩だとデカくて邪魔過ぎた。なので、何種類かサイズ違いを切り出して、サンダーディアーの首振りでも動かせない、程良い大きさを割り出してみたのだ。

 この重りで首が必要以上に動かないようにし、同時に鉄杭が確実にアースの役割を果たせるようにしている。



 この拘束が完成すれば、勝ちは確定だな。駄目押しに追撃と行こう。

 槍の石突き側を両手で持って、高く振り上げ、


「〈フルスイング〉!!!」


 角ではなく頭を狙って、スキルを発動させた。長い槍がしなる程の勢いで、クリーンヒットする。

 ホームランの勢いで飛んだ先、重りの岩に角や頭がぶち当たった。重りの岩の存在を有効活用して、一撃で2度の衝撃とダメージを与える。

 まぁ、ボスなので、この1回程度じゃ死なないし、気絶もしてくれないけどな。時間稼ぎには十分。


 一旦ボスは放置して、お供のアクアディアーの方を倒しに行った。



 ここからは、ちょっとだけ手抜きだ。全力で攻撃すれば、倒せるのだけど、ギャラリーに雷魔法を見せておきたいという意味もある。チラリとギャラリーの方に目を向けると、こちらを指差して騒いでいるのが見えた。


 その後、お供は弓矢で死に体だったので、槍でサクッと倒す。手の空いたレスミアと2人でサンダーディアーをチクチク攻撃していたら、ようやく枝角に魔方陣が出現した。


 拘束網の周囲にある水溜まりから離れて、しばし様子見。

 槍角が帯電する端から、ワイヤーや網に流れているようで、見える程の紫電を纏う事は無かった。


そして、魔方陣が一瞬光り、充填が完了する。

魔方陣から青紫色の球体が撃ち出され……て直ぐの網に接触し、破裂した。



 この時に雷が周囲に撒き散らされるので、近過ぎたり、水溜まりを踏んだりしていると感電してしまう。昨日、うっかりして片足が痺れたのは内緒だ。


 ともあれ、魔法が不発した後は攻撃を再開する。首筋には既に矢が何本も刺さり、槍で喉も潰して呼吸もままならない状態だ。特に毒矢が刺さったところを、更にぶっ叩いて食い込ませると出血が増える。〈二段突き〉のスキルも使って、速やかに止めを刺してあげた。



 サンダーディアーの死体や血溜まりが消えていき、ドロップ品の皮と木の宝箱が現れる。槍と矢の血糊を拭いて後始末をしていると、ギャラリーの皆さんが近付いて来た。オルテゴさんが興奮気味に駆け寄って来て、賞賛してくれた。


「あんちゃん、すげぇな! あっと言う間に吊るし上げて、本当に一方的に倒しちまうんだからな」


「言ったでしょう、もう慣れた相手だって。

 あ、そうそう、フノー司祭。ボスは俺達だけで倒したので、ドロップ品と宝箱は貰いますよ。護衛依頼も21層からの筈ですし」


「ああ、勿論だ。見ていただけで、分け前を寄越せとは言わんさ。そんな事よりも、詳しい話を聞かせてくれ」



「ええ、構いませんよ。その為にのですから、休憩所で話しましょうか」


 宝箱を丸ごと回収した事でフルナさんが騒いだが、適当に宥めて休憩所に移動した。



 休憩所のテーブルに拘束網Ver2を出し、作り方からサンダーディアーのハメ方まで、掻い摘んで解説した。


「……と言うわけで、11層から19層までに、罠や毒針などの素材を集める。熟練職人に拘束網と毒針を作ってもらう。後は罠術師が吊り上げ、攻撃役の戦士とスカウトが居れば、倒せるんですよ。


 ね、簡単でしょう」





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 因みに、拘束した後に全力攻撃で倒す場合、気絶するか死ぬまで〈フルスイング〉を連打します。

 流石に絵面が悪いので、千本ノックの刑はカットしました。

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