第130話 罠術師の知名度と意識改革の一歩目

 あらすじ:自己紹介したら、何故か驚かれた。解せぬ。


 いの一番に、聞いてきたのはオルテゴさんだった。


「おいおい、あんちゃん! 複数のジョブ持っているのは噂で聞いてが、罠術って何だ? 前、一緒に作った落とし穴の事か?」


 おっさんに詰め寄られても、暑苦しいだけなので、両手をかざして抑えた。以前の農作業着だと農家のおじさんにしか見えなかったが、鎧を着ているせいか威圧感がある。

 それにしてもオルテゴさんと落とし穴作ったのは先週の話なのに、懐かしく感じるなぁ。


「罠術師の覚えるスキルの事ですよ。足元にトリモチ張ったり、くくり罠を設置したり、魔物の動きを阻害するのに便利なんです。使い勝手が良くて、最近のお気に入りジョブですね」

「良いなそりゃ! 森で狩りをする時に使えそうじゃないか。先週もそれ使ってくれれば、イノシシを捕まえるのも楽に出来たろうに」


「落とし穴作りした頃には、まだ持ってなかったんですよ。それに、罠術はダンジョン内でしか使えないので、どの道無理ですね」

 地上では使えないと知るや、肩を落としてしまった。落とし穴作りも大変だったから、スキル一つでポンと出来る手軽さが欲しいのは良く分かる。俺も付けっぱなしだから。

 それにしても、罠術師は知名度が低いのか? そんな疑問が浮かんだ時、フノー司祭の声が聞こえた。


「おい、フルナ。罠術師って聞いた事あるか?」

「さぁ? 私は初耳ね。旦那なら知っているかも知れないけど、出発しちゃったしねぇ。

 むしろ、ギルド長のアンタが知らない方が問題じゃない?」


「ううむ、ギルドの資料にあったか? ちょっと調べてみるか」


 フノー司祭が顎をさすりながら、カウンターの奥に行こうとしたので、慌てて止めた。今から資料漁りなんて時間の無駄過ぎる。採取系のセカンドクラスという事だけを開示して、何とか納得してもらえた。


「採取系のセカンドクラス……植物採取師なら村にも1人いるけど、結構年配のお婆ちゃんなのよね。ホラ、蜜リンゴ採取でレベル上げるのは大変だから……

 もっと若い頃に成れていれば、街の方で引っ張りだこになっていたかも、何て話の種にしているわ」


 フルナさんの話をまとめるとこうだ。

 採取師になる人は戦闘が苦手なので、10層の肉狩りはせず、3層にしか行かない。採取で経験値が入ると言っても3層の採取地は狭い上に取り合いになる。そして、魔物はパペット君しか出ないので雀の涙くらいしか経験値にならない。


 詰んどるやん。


 更に、罠術師の解放条件の難しい項目『魔物を罠に掛ける。野生動物を解体する』なんて、この村の人が達成する気がしない。

 最後の望みを託してローガンさんに聞いてみる。


「あの、自警団にはスカウトが足りないって聞きましたけど、採取師は居ないのですか? 11層で採取しますよね?」


「おらんのう。アイテムボックス目当てでも採取師より、職人の方が多いんじゃよ。内職でレベルが上がり、熟練職人になれば便利なスキルで、一端の職人と見なされる。11層で採取しとるアイテムボックス役も、引退後を見据えて職人じゃ」


 あかん! 致命的に歯車が噛み合っていない。

 採取師が10層で肉狩りして、11層で採取するだけでも、若いうちにレベル15に到達するだろうに。そうすれば農作業も楽に……



 俺が介入するべき事なのか?

 頭の中の冷静な部分が、そう囁く。ちょっと前なら只の探索者だから、それで終わっていた。


 でも今は、レスミアと出会えた村だ。出て行った後に思い出になるにしても、放置しては後味が悪い。それに、ダンジョンの階層が増えたのは、山賊が原因の可能性が高く、村側の怠慢が原因では無いはず。


 ……いや、11層から進まず、肉狩りしかしてないのは怠慢だけどな!


 おっと、冷静な部分がツッコミを入れてしまった。

 まぁ、何にせよ。どう介入するのか、もうちょっと考えてみるか。



 簡単な打ち合わせが終わり、出発する。門の前で門番さん達に激励され、ダンジョンへの道を進んだ。


 道中では、レスミアをフルナさんに取られてしまったので、オルテゴさんと話していた。村の側に広がる林を見ると、21層の様子に似ている。その林を歩くなら、とコツを色々レクチャーしてもらった。



 ダンジョンのエントランスに有る転移ゲート。その青い鳥居をリーダーのフノー司祭が操作しているのだが、やけに時間が掛かっている。ウィンドウから階層を選ぶだけなので、直ぐの筈なのに?

 振り返ったフノー司祭は難しい顔をしていた。


「ううむ。21層が増えているのに、選択出来んのだ。

 これはあれか? 俺が21層に足を踏み入れていないせいかも知れん。ザックスがリーダーで試してみよう」


 おもわずレスミアと顔を見合わせる。折角、小芝居までしたのに無駄だったか。お互いに苦笑しながら、腹をくくる。

 俺が簡易ステータスを出そうとする前に、ローガンさんが手を挙げ、申し訳無い様な声色で話し始めた。


「すまん。儂のせいじゃ。20層の討伐証を持っとらんからのう」


「ローガン、そう言う事はもっと早く言ってくれ。セカンドクラスなら討伐証は持っている物だと思ってたぞ」

「40年間、肉狩りしかやっておらんからのう」


 ある意味凄いな。肉狩りのプロか。レベル11から25まで、減衰する経験値をコツコツ貯めるとは……時間が掛かり過ぎて真似したくないな。俺とは真逆のスタイルだ。


 眉間をさすっていたフノー司祭は、意を決した様に大声で言い放つ。



「皆、聞いての通りだ。先に20層のボスから倒しに行く! 強敵だが、気合い入れろよ!」


「あ、それなら俺とレスミアの2人で倒しますよ。時間も勿体無いですし、ササッと終わらせて21層に行きましょう」


 わざと水を差すように、手を挙げて提案したところ、またもや視線が集まった。

 サンダーディアーは強敵だ。戦った事がある人ほど、そう認識しているに違いない。そんな中で、一番レベルの低い俺達だけに任せて良いのか、そんな迷いのある視線に感じた。


「あ~、それなら任せていいんじゃないか。あんちゃんなら聖剣が有るから大丈夫なんだろ。

 それに、俺が盾役やるには、この盾じゃ駄目なんだよ。20層のボス用に作った盾じゃないと、あっと言う間に麻痺しちまう」


 オルテゴさんがカイトシールドをノックしながら言った。確かに金属製だと帯電した槍角を防御しただけでアウトだ。後で聞いた話だけど、対サンダーディアー用の盾というのは、魔力を通さない素材を使っているらしい。ただ、魔法には強くても物理的には弱く、槍角の攻撃を受けていたらボロボロになり、1戦で使い物にならなってしまったそうだ。


 正攻法で戦う場合、ここにいるメンバーでは正直言って厳しいと思う。


 でも、正攻法ではない戦い方なら?

 ボスが強過ぎるから、肉狩りに落ち着いてもしょうがない。ボスを倒せるのはセカンドクラスに至って正規の騎士団員入り出来るようなエリートだけ。そんな考えをぶち壊す事が出来るかも知れない。村へのお節介の一歩として、先ずは役職者の意識を変えてやろうじゃないか!



「ええ、任せて下さい。怪我どころか、角も脚も出させずに完封しますよ」


 周りの不安を払拭させる為、ちょっと大袈裟に、ふてぶてしく宣言する。

 俺とレスミア以外のメンバーが呆気に取られていたが、フノー司祭は直ぐに復帰して許可してくれた。


「まぁ、そこまで言うなら任せようじゃないか。ただし、危険な時は介入するからな」


 改めて、青い鳥居を操作して20層へ降りた。



 ショートカットを提案して、時間短縮をしようとしたのだが、1個目の段差飛び降りで断念した。年配の2人が「この高さはコシに来る!」と脱落し掛けたからだ。21層に入る前、ボスに到達する前に戦力外になりかけるとは、予想もしていないよ!

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