第127話 村の有力者会議
レスミアとの関係が進み、猫耳を触る許可が降りた。
フニフニと柔らかい猫耳は触り心地が良く、夢中で撫でていたら、腹の音が鳴った。ハッと我に帰り、手を離す。
すると、その隙にレスミアが硬革のキャップを被り直し、猫耳を隠してしまった。
「触り過ぎです!」
恥ずかしそうに、赤らめた顔も可愛い。
「おっと、お腹も空いてきた事だし、帰ろうか。一応、魔物2種類とプラスベリーを採取出来た。一次情報としては十分だろ」
「あ! まだドロップ品回収してないですよ。ダンジョンに吸収されていませんよね?」
忘れていた! 慌てて戦闘のあった花畑に向かうと、アクアディアーの皮を発見した。
「あ! 残ってましたよ。百合根です!」
踏み倒された花の付近を探していたレスミアが、白くて丸いジャガイモのような物を掲げた。百合根って茶碗蒸しに入っているのしか知らないため、調理前の生は初めて見る。よく見ると球根か?
【素材】【名称:百合根】【レア度:D】
・リーリゲンの球根。巨大な植物魔物だが、球根の大きさは地上の物と大差ない。これは歩くためのデッドウェイトになるのを避けるためである。その代わりに、潤沢なマナと滋養に富んでおり、体に良い。
まぁ、料理はレスミアに任せれば良い。色々とストレージに格納してから〈ゲート〉のスキルで脱出した。
村への帰り道、 並んで歩きながらプラスベリーをつまむ。
普通のラズベリーと勘違いしていたレスミアは「バフ料理の材料になるから勿体ないです」と遠慮していたが、3袋も有ると知ったらパクパク食べ始めた。
「やっぱり、私達が探索する事になるんでしょうかね?」
「まぁ、十中八九そうだろうな。ただし、それを当然のように押し付けられそうになったら、拒否するつもりだよ。魔物が3匹出る所で、俺達2人じゃキツイってね。
ダンジョンの調査は騎士団の役目って習った……だよな?」
確認のためにレスミアに話を返すと、口をもぐもぐしながら頷いた。
「この村と言うより、ノートヘルム伯爵の領地だから力にはなりたいけど、騎士団からしたら部外者だからな。勝手に調査するのも、迷惑になるかも? 騎士団の副団長が、管轄が云々って言っていたし」
レスミアに目を向けると、食べる手を止めて顔の前で手を振った。口の中の物を飲み込んで、ようやく喋る。
「私も知らないです。騎士団が対処するとは習いましたけど、その騎士団のいない村がどうしているなんて教えてもらっていませんよ。私の地元はダンジョン在りませんでしたから」
あぁ、隣国のドナテッラにダンジョンが少ないから、レベル上げに来たのだったっけ。
それは置いといて、どう対応するべきか? 21層の素材とかは気になるけど、それより優先なのは、ここでしか取れないサンダーディアーの皮だ。
「そもそも、どこまで緊急事態なのか分からないからな。急ぎでないなら、後回しにしてもいい。
村から街まで馬で2日、往復なので4日、騎士団の準備時間がどれだけか分からないから即応して1日と仮定しても、騎士団が来るまで最低でも5日は掛かるはず。
5日もあればサンダーディアーの皮も結構集められるから、騎士団が来てから判断を仰ぐのはどうだろう。
仮に部外者はお断りとされても、当初の目的の皮集めが終わっていれば、問題ないから。
急ぎの場合は、その理由次第かなぁ」
「私はどっちでも良いですよ。
21層が見つかった時は、ザックス様と一緒に居られる時間が伸びて、内心嬉しかったんです。けど、これからはずっと一緒なので……」
頬を染めて上目遣いされると、こっちも気恥ずかしい。視線が絡むと顔が暑く感じる気がする……それを誤魔化す為にプラスベリーを一粒摘んで、レスミアの口元に寄せた。
「はい、あーん」
「……あ~ん。
これ、思ったより恥ずかしいですね」
そう言うと、赤い両頬を隠すように手を当てて、俯いてしまった。以前、やった時は苦いだけの解毒草だったけど、今日のは甘酸っぱいプラスベリー。空気まで甘酸っぱく感じた。
村の丸太外壁に沿って歩いて行くと、門が見えて来たので、じゃれ合いはここまでにした。ただ、その門の向こう側の櫓に居た人が、何か下に叫んでいる。
「帰って来たぞ~。って、言ってますね」
レスミアの猫耳は聞き逃さない。けど、不穏な感じがする。
門の前まで来ると、門番さんが出迎えてくれ……急かされた。
「待ってたぞ! 村長達が教会に集まっているから、直ぐに行ってくれ」
これは、急ぎの理由があるケースだな。
取り敢えず、門番さん達には伝言のお礼にプラスベリーを一掴み渡し、労っておいた。
教会は広場にあるので、直ぐそこ。足を進めていると、隣のレスミアがそっと体を寄せてきて囁く。
「あの魔法の事……いえ、村の英雄のジョブの事は話さないで下さいね」
「分かっているよ。面倒ごとは御免だからな」
答えながら、撫でやすい位置に来た頭に手を伸ばしたが、スルリと逃げられる。数歩先に進んだレスミアは振り返り、花開くような笑顔を見せた。
教会の中に入ると、男達が話し合っている。普段なら長椅子が2列で並んでいるが、今日はテーブルを中心に、長椅子がコの字に配置されていた。会議の参加者は村長とフノー司祭、ムッツさん、オルテゴさん、後は見覚えがあるけど名前までは知らない男性が4人。
計8人の視線が、こちらに向いた。居心地の悪さを感じながらテーブルに近づくと、村長が口を開いた。
「ザックス殿、階層が増えたとは本当でしたか?」
手に持っていたプラスベリーの袋(1/3くらいしか残ってないけど)をテーブルに広げ、その横に百合根を置く。
「はい。21層は森林のフィールド階層でした。少しだけ様子を見て来ましたが、遭遇した魔物は鹿の魔物アクアディアーと植物型魔物のリーリゲン。
こっちの百合根がリーリゲンのドロップ品で、袋のプラスベリーが採取して来た物です。一応、21層が存在したという証拠になると思います」
会議の場がザワつき、何人かの男性が額に手をやり、項垂れてしまう。そんな中、百合根とプラスベリーに手を伸ばしたムッツさんが〈中級鑑定〉を使った。
「レア度D……百合根は地上にもあるし、そろそろ旬だから取れるけど、レア度がある時点でダンジョン産だ。こっちのプラスベリーに至っては効果付きだから、ダンジョン産以外に有り得ない。確かに21層があるのは確定だね。
村長、階層が増えたと断定して話を進めよう」
話を振られた村長も頷き、参加者の顔を見回してから話し始めた。
「そうだな。騎士団へ調査を依頼するのは当然として、村として事前調査をするかどうかだが……」
「待った! 聖剣のザックス殿は、騎士団からダンジョンの調査依頼を受けていると聞いたぞ。そのまま21層もお任せすれば良いじゃないか」
村長の言葉を遮り、壮年の男性が声を上げる。その周囲の人達が、期待するように、目を向けて来た。
予想通りだったけど、押し付けが早すぎないか。溜息を吐きたいのを我慢して、こう返す。
「騎士団からの調査依頼は20層までなので、既に終わっていますよ。そうですよね、フノー司祭?」
「ああ、20層ボスの討伐証も確認して、終了の判子は押したぞ」
フノー司祭を巻き込みつつ、回避に成功した。胸を撫で下ろしていると、背中をポンポンと優しく叩かれる。チラリと見ると、後ろにいたレスミアが笑っていた。隣に居ないと思ったら、俺の背中に隠れていたのか。
さて、義務が無い事は主張しておいたし、さっさとお暇しようとしたら、別の声が上がる。
「それなら、村からの調査依頼をすればいいじゃないか。聖剣があれば戦闘も問題無いはずだよな。現に少し見て来てくれたんだ」
山賊と宴会のパフォーマンスでしか聖剣を見ていないと、こう言う発想になるのか。実際はMP消費が激しいし、必要アビリティポイントが多くて、普段使いし難いのに。人数が2人な事も合わせて、反論しようとしたら、オルテゴさんから援護が入った。
「それについては反対だな。あんちゃんは騎士団から直接依頼を受けるくらい仲が良いんだ。そのあんちゃんが依頼で調査をしても、村側の貢献にはならんだろ。村の人員も出すべきだ」
「出すと言っても、自警団の中に20層以降へ行ける奴が居るのか?」
席に座っている面々の視線が、一人の初老の男性に集まる。俺が報告してから、ずっと項垂れている人だ。
「……おらん」
長い沈黙の後、ポツリと呟いた。周囲も、しんと鎮まり返る。
駄目そうな流れだ。さっさとお暇しよう。
「それでは、部外者の私達は報告も終わったので、退出しますね。調査を優先していたので、お昼もまだ食べていないんですよ」
踵を返そうとしたところ、出鼻を挫くようにバンッと音が鳴った。ギルドと繋がる扉が開かれ、トレイを抱えたフルナさんが入って来た。
「はいはい、お茶を入れてきましたから皆さんも休憩して下さい。
あと村長、お昼返上で調査して来てくれた2人に、お礼くらいは言っておくべきでしょう」
「ああ、そうだな。ザックス殿、協力ありがとう」
頷いて、礼を受ける。
「プラスベリーはお茶菓子として、召し上がって下さい。では、失礼します」
テーブルから百合根だけ回収して、今度こそ撤退しようとしたのに、早足で歩いて来たフルナさんに捕まった。ニンマリと笑う顔には「面白い物見っけ!」と書いてあるようだ。
「あらあら、レスミアちゃん! 午前中より良い顔してるじゃない!
お昼を食べるなら、家に来なさい。相談の続きもしましょう」
「え?! ザックス様も一緒にですか?」
「そんな訳ないでしょ。
あなた! ザックス君は店の方でお願いね!」
そう言うと、あれよあれよと言う間にレスミアを捕獲、両肩を掴み押して出て行った。
呆気に取られていると、テーブルの方にいたムッツさんが立ち上がって、声を掛けてくる。
「僕らも行こうか。カウンターの裏を使うといい」
促されて雑貨屋へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます