第128話 村の事情と〈不意打ち〉の花

 カウンター裏の小さいテーブルを借りて昼食を取り始める。レスミアの分を渡しそびれたが、フルナさんが情報料代わりに昼食くらい出すだろうと、ムッツさんは苦笑しながら言った。

 何の情報か察しはつくけど聞き流した事にして、先程の会議について聞いてみる。


「調査は騎士団の仕事なのだから、さっさと要請すれば良いのに……何か理由があるんですか?

 オルテゴさんの言った『村側の貢献』に関係してそうですけど」


 カウンターで書き物をしていたムッツさんは、ハッと顔を上げる。そして、頭を掻きながら話し始めた。


「そうか、君にしては冷たい反応に見えたけど、知らなかったならしょうがない。

 ザックス君の言う通り、ダンジョンの調査は騎士団の仕事だ。でも、騎士団が常駐していない村や町はちょっと違うんだよ」


 騎士団が調査した結果から、ダンジョンが育たない=階層が増えないようにする為、魔物を倒し採取をする量を決定するそうだ。騎士団が居れば業務の一環で討伐や採取をする。


 ただ、騎士団の常駐しない村では、これを自警団が代行して行い、マナが貯まらないようにするらしい。村長、自警団長、ダンジョンギルド長が管理して、ダンジョンが育たない最低限の量を討伐と採取をする。


「もちろん村の活性化の為、新しい素材を入手する為とかで、敢えて放置して育てる事もあるけど、事前に領主様や騎士団に申請しておかないといけない。

 その申請も無いのにダンジョンが育ったらどうなるか……責任者の3人は処罰されるだろうね。管理出来なかった責任で……」


 ああ、そう言う事か。少しでも村側の貢献が有れば、責任問題が軽くなる?

 そりゃ、騎士団に通報する前に交渉材料が欲しいだろうな。


「僕としては、ザックス君にも調査を手伝って欲しいと思っている。だから、村側からも戦える人員は出すようにするよ。最低限、レベルが高くて当事者のフノーはメンバーに入れる」


「まぁ、俺としても2週間程村でお世話になっているし、レスミアは村長の所でお世話になっています。事情を聞いて断わる不義理はしたくないですね」


 俺の言葉に、ムッツさんはホッとしたように息を吐いた。


「ただ、俺からも条件は付けますよ。

 期間は騎士団が来るまで、その後は騎士団に判断を仰ぎます。後、調査メンバーはレベル20を超えた人に限って下さい。低レベルを育てる時間は無いです。

 最後に、ちゃんとギルド経由の依頼にして報酬を下さい」


 本当なら、サンダーディアーの周回で稼ぐつもりだったんだ。ギルドの実績や錬金釜の資金の足しにしたい。

 なんて考えていたら、2階からキャアキャアと黄色い声が聞こえてくる。フルナさんかな?


「上は楽しそうでなにより。

 まぁ、君の条件も最もだ。特に最後の報酬に関しては重要だよね。領主様から君への補助金が余りそうなんて聞くし、村長にたっぷり出して貰おう」


 いつもの営業スマイルが黒く見えた。後の調整はムッツさんがやってくれるそうで、部外者の俺は御役御免だ。レスミアが降りて来るまでは、ここで休憩させてもらう事にした。ムッツさんが教会に戻る前、腑に落ちないといった様子で呟く。


「この村、僕の曾祖父さん達が入植して出来たんだ。それから、ずっと階層が増えたことは無いんだよ。今だって、肉狩りが多いかもしれないけど、ちゃんと管理はしていたはず。

 何が原因なんだろう? 半年前に騎士団がボス狩りに来た時は無かった筈だから、その後何かあったかなぁ?」


 脳裏に『異変』と言う言葉が過ぎる。ただ、機密情報なので話す訳にもいかず、首を傾げて誤魔化した。




 レスミアが降りて来たのは、15時近くだった。お昼休憩は2時間なので、いつも通り。むしろフルナさんは休憩し過ぎな気もするけど、俺達を見てニンマリと笑う様子からスルーした。


「すみません、話が弾んでしまって」

「俺も作業したい事があったから問題ないよ。

 この後、サンダーディアー相手に試してみたいんだけど、付き合ってくれないか?」


「ええ、もちろんですよ!」

 弾むような声を聞くだけで俺の心臓も弾むのは、心境の変化のせいか? いや、前からだった気もする。カウンターで作業していた物をストレージにしまい、レスミアを促して出口へ向かった。


「レスミアちゃん、またいつでも来なさいね」

「あ、はい。相談に乗ってくれてありがとうございます!」


 何となく、振り返ると揶揄われる気がして、レスミアの手を握り引っ張って外に出た。後ろから「まぁまぁ! 嫉妬!嫉妬ね!」と聞こえて来たので、薮蛇だったか……


 そのまま早足でダンジョンに向かったのだが、途中で蜜リンゴ狩り帰りの奥様方に捕まった。どちらにせよ、揶揄われる運命だったか……




 その後、サンダーディアーを数回狩ってから帰宅した。


「今日は記念日ですから!」

 と、レスミアは張り切って料理を始めたので、先にお風呂を頂くことにした。いつもはレスミアが先に入るけど、〈ライトクリーニング〉でダンジョンの汚れを綺麗にしたので、料理を優先すると言い出したからだ。お風呂は後でゆっくり入るらしい。

 綺麗にするだけなら〈ライトクリーニング〉で十分だけど、やはり風呂に入らないと疲れが取れない気がするので、同意する。

 風呂に浸かりながら、今日1日の成果を確認した。


 ・基礎レベル20→21   アビリティポイント40

 ・村の英雄レベル19→20  ・僧侶レベル16→21 

 ・罠術師レベル20→21   ・修行者レベル16→21

 ・錬金術師レベル16→21  ・遊び人レベル15→20

 ・採掘師レベル15→17   ・植物採取師レベル16→19

 ・料理人レベル16→19



 僧侶のレベル20はMPのステータス補正が上がっていた。


【ジョブ】【名称:僧侶】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、他者を無償で治療する(薬品はレア度B以上、身内は除く)

・創造神を信仰し、祈りを捧げる信徒。神へ魔力を捧げる事で回復の奇跡を授かる。パーティーを支える、HP回復と状態異常回復のエキスパートで、補助も少し使用出来る。魔法使い系よりはHPがあるが、防御力は低いので無理は禁物。後方で回復と補助に専念しよう。


・ステータスアップ: HP小↑、MP中↑【NEW】、知力値小↑、精神力中↑

・初期スキル: ファーストエイド

・習得スキル

 Lv 5:ディスポイズン、カームネス

 Lv 10:精神力中↑

 Lv 15:ヒール、アンティセプス

 Lv 20:MP中↑【NEW】



 修行者レベル20も耐久値のステータス補正が上がっていた。地味すぎるジョブなので、〈獲得経験値中アップ〉の効果くらいしか使っていない。〈正拳突き〉もどこかで試さないとなぁ。



【ジョブ】【名称:修行者】【ランク:1st】解放条件:見習い修行者Lv10

・己の力や技量、精神力を鍛えるために鍛錬をするジョブ。獲得経験値が増えるスキルがあるので、基礎レベルを上げるには持って来い。戦闘向きではないが、最低限の格闘スキルを覚える。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値中↑【NEW】、敏捷値小↑

・初期スキル:見習い修行者スキル

・習得スキル

 Lv 5:受け身

 Lv 10:敏捷値小↑

 Lv 15:正拳突き

 Lv 20:耐久値中↑【NEW】



 そして、同じく〈獲得経験値中アップ〉用の遊び人は、新スキルを覚えていた。



【ジョブ】【名称:遊び人】【ランク:1st】解放条件:2ndジョブに就いたことがなく、1stジョブ8種類のうち戦闘系ジョブをLv5以上、非戦闘系ジョブをLv10以上にする。

・ジョブを転々と変え、遊び歩いた結果……末路とも言う。

 戦闘力は無いが、色々なジョブを経験した事により口が回り、レベルが上がれば歌や踊りも覚える。ダンジョン内での休憩時や、寝泊りする場合、その話術や芸でパーティーメンバーを楽しませる事が出来るかもしれない。


・ステータスアップ:幸運小↑

・初期スキル:逃走加速、気休め話術、スタチュー、獲得経験値中アップ

・習得スキル

 Lv 5:歌う、踊る

 Lv 10:ジャグリング、絵を描く

 Lv 15:タップダンス

 Lv 20:口笛【NEW】、口軽話術【NEW】



【スキル】【名称:口笛】【アクティブ/パッシブ】

・口笛が上手くなる。

 魔力を込めて口笛を吹くと、その音色で魔物を誘き寄せる事が出来る。発動にスキル名を言う必要はない。


【スキル】【名称:口軽話術】【パッシブ】

・話すのが上手くなる。ただし、話に熱が入ると、口が滑りやすくなる。



 また、何とも言えないスキルだ。いや、〈口笛〉はまだ使えそうか? 罠術スキルで罠を張って、〈口笛〉誘き寄せれば……まぁ、評価するのは実際に検証してからだな。


 次の錬金術師は新しく知力値小がステータス補正に加わり、新たなスキルも覚えていた。



【ジョブ】【名称:錬金術師】【ランク:2nd】解放条件:職人Lv15、魔法使い系の血筋、薬品系アイテムを調合する。

・薬品や魔道具を作り、ダンジョン探索をサポートするジョブ。専用スキルの錬金調合は、材料をあらゆる物の元となるマナへ還元し、再構成することで新たな調合品へと変化させる。しかし、大量のMPと術者の確固たるイメージが必要になるため、難易度は高い。

 一応、初級属性魔法も少し覚えるため、ダンジョンで戦えなくもない。


・ステータスアップ:HP小↑、MP中↑、筋力値小↑、耐久値小↑、知力値小↑【NEW】、器用値中↑

・初期スキル:職人スキル、初級鑑定、錬金調合初級

・習得スキル

 Lv 5:アイテムボックス小、インペースト

 Lv10:フォースドライング、MP中↑

 Lv 15:量産の手際、初級属性ランク0魔法、初級属性ランク1魔法

 Lv 20:知力値小↑【NEW】、パウダープロセス【NEW】



【スキル】【名称:パウダープロセス】【アクティブ】

・対象を粉末加工する。乾燥した状態でなければ使用できない。風魔法の亜種。



 ああ、ポーションとかの薬品作り用か。〈フォースドライング〉で乾燥させて、〈パウダープロセス〉で粉末にするのだろう。

 何度か料理の手伝いで香草を〈フォースドライング〉で乾燥させてから、修理した魔道具のブレンダーで粉末化していたけど、更に手間が減りそうだ。



 風呂から出てキッチンを覗くと、キッチン台の上には沢山の料理が並んでいる。沢山あるからと手伝いを申し出たが「もう終わりますから、リビングで待っていて下さい」と追い出された。

 昨日も御馳走だった気もするけど、女性は世界が違っても記念日とか好きなんだなぁ。記念日と言うと、俺も何か用意した方が良いか? ただ、手持ちが無い。宝石のカーネリアンはあるけど、石玉から取り出しただけで、何の加工もしていない。それにターコイズの二番煎じだよな。


 ストレージを漁っていると、何かの雑誌を思い出した。プレゼントと言えば花束か。丁度、リーリゲンと戦った花畑から、切り倒された花も回収して来たのだ。

 色とりどりの百合の花を5本程まとめて持ってみる……ちょっとキザ過ぎるな。恥ずかしい。

 ラッピングする紙やフィルムも無いし、花瓶にしよう。倉庫に行き、保管されていた花瓶の中でも綺麗な物を選び、活けてみる。小学校の日直以来だけど、見栄えが良くなるように何度か差し替えて調整した。


 リビングに戻ると、丁度配膳が始まったところだったので、テーブルの中央に花瓶を飾り付けた。レスミアの座る席の方から綺麗に見えるようにっと。


 後ろから、カランッと軽い木の音がした。振り返ると、レスミアが驚いた表情で口元を抑えていた。その足元には、木製の取り皿が落ちている。それを拾って、レスミアにどうかしたのか尋ねても、目を潤ませて花瓶を指差すだけ。


「あぁ、記念日なら飾り付けくらいは欲しいと思ってね。なかなか華やかで良い雰囲氣じゃないか?」


 その途端、涙が零れ落ちた。

 笑顔が見られると期待はしていたけど、泣かれるとは予想もしていない。慌てて宥めようと近寄ったら、正面からぎゅっと抱きしめられた。


「……うぅ、すみません。姉(の結婚式)を思い出して、嬉しくて胸が一杯になっちゃいました。

 〈不意打ち〉ですよ」


 俺の胸に顔を埋めて話すので、所々聞き取れなかったが、喜んでくれたようなのでいいか。俺の背中に回された手は力強く、逃がしてあげませんと言われているようで、ちょっと嬉しい。お返しに、レスミアの小さな背中に手を回して、ぎゅっと抱き締め返してあげた。




 今夜の件は効果があり過ぎた。レスミアは胸が一杯だからと、夕飯が進まなかった程で、代わりに百合の花を嬉しそうに眺めていた。

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