第125話 光属性魔法と見落とし

 早速、新しく覚えた光属性魔法を試し撃ちしてみる。


「〈サンライト〉!」


 発動すると、上からの光が増えた。昼間なので分かり難いが、太陽とは別の光球が頭上に現れている。眩しくて直視出来ないが、手にしたワンドの直上、かなり高い位置に出現しているようだ。

 後で、ダンジョン内でも使ってみよう。


 次いで〈ライトクリーニング〉の魔方陣に充填する。充填が完了すると、地面に点滅魔方陣が現れた。範囲魔法と同じく『指定範囲』なのだろう。

 今のところ、汚れと言えばブーツだな。〈くくり罠〉を仕掛ける際、アクアディアーが作る水溜まりや泥濘みに足を踏み入れたので泥だらけだ。


 自分の足元に点滅魔方陣を持って来て……あ、対象も選べるのか。自分を中心に直径3m程の点滅魔方陣が足元に固定された。


「〈ライトクリーニング〉!」


 魔方陣から光が溢れ、キラキラと点滅する光の粉が乱舞する。ブーツの泥に光の粉がくっ付くと、泥だけが霧散して消えていった。他にも、体のあちこちからマナに還元された煙が上がる。


 光が収まる頃には、ブーツは綺麗になっていた。体から出ていた煙は汗汚れとかだろうか? 午前中だけなので、そこまで汚れていないと思うけど。



 汚れといえば、思い出した。ストレージから血塗れの盾を取り出す。捨てても戻ってくる真相は分かっても、封印していた物だ。

 試しに〈ライトクリーニング〉を使うと、大量の光の粉が舞い上がり盾に殺到する。大量の煙が出ては消えていき、どぎつい血汚れが徐々に薄くなっていく。土汚れの数倍の時間を掛け、光が収まると血痕は消えて無くなり、茶色の皮の盾に戻っていた。


 これは凄い!

 その日の洗濯物に〈ライトクリーニング〉すれば、洗濯する必要性が無くなるな。それどころか、体の汚れも落とせるなら、風呂に入る必要も……いや、体を温めて解すには風呂は必要だな。




 〈ライトボール〉を試す為に、19層に降りた。坑道階層なので少し薄暗く、光源として〈サンライト〉で光球を生み出した。天井すれすれに表れた光球は、広範囲を照らし出してくれる。蛍光灯の様な明るさで、ヒカリゴケやランプとは雲泥の差だ。更に、俺が移動すると追従して移動し、頭上の位置をキープしてくれた。

 あかん、便利過ぎだ。ランプの重さから解放されるのも良い。MPに余裕があれば、ずっと使っていたい魔法だ。



 ついでに採取するつもりで進むと、アクアディアーとウインドビーのペアを感知した。魔方陣に充填してから近付き、ウインドビー目掛けて発動させる。


「〈ライトボール〉!」


 ワンドの先の魔方陣から小さい光の玉が高速で射出された。初級の中でも最速の〈ウインドカッター〉より早い!

 こちらに気付いたウインドビーが回避行動を取るが、光の玉はそれを追いかけるように急カーブして命中した。その瞬間、光の玉が弾けて膨張する。通路の半分程に広がった光は、そのまま消えていった。


 ウインドビーがポトリと落下し、巻き込まれていたアクアディアーがフラついている。外傷は無いけどダメージは入っている? 槍を構えて警戒しながら近くが、アクアディアーが攻撃してくる様子はない。それ以前にこちらを見てこない。いつもなら、直ぐ角を向けてくるのに……もしかして、盲目の状態異常か? 心なしか目が焦点に合っていない気がする。



 観察する事、5分。ようやくアクアディアーが俺に気付いた。まぁ、トリモチで拘束しているから、もう遅い。懐中時計をポーチに戻し、槍で一突きするだけで倒れ伏した。


 分かった特性は、弾速が早くホーミングし、着弾点から数mの範囲を攻撃、盲目の状態異常を与え、ダメージもそこそこに与える。


 流石、上位属性。威力は耐久の低いウインドビーを一撃で、アクアディアーは瀕死か。十分過ぎる。

 覚えたばかりのジャベリン系が霞んでしまった。いや、光属性では弱点をつけないので、初級属性もまだまだ使えるはず。


 確か、光属性と闇属性は互いに弱点になる……だったか。上級の闇属性魔物なんて何層から出るのだろうか?

 しまったな。上級属性魔法を初級属性の魔物に使った場合、ダメージがどうなるか習ってないぞ。中級から初級で2,3割ダメージが増えるらしいから、上級なら倍の4~6割くらいは増えるかも?


 今のところは、高速ホーミングと盲目狙いで使う方が良いかもしれない。




 採取を終え、ダンジョンの裏手で蜘蛛の巣解体をしていた。シュピンラーケンの調合に沢山使ったが、まだまだ蜘蛛の巣の在庫はある。暇を見つけて解体しておかないと。


 黙々と解体していると、名前を呼ばれた気がした。


 村への道に目を向けると、猫耳と銀髪が光を反射してたなびくのが見える。レスミアが走って来るのは珍しい、と言うか初めてだ。懐中時計を見ても3の鐘の前、お昼には丁度良いかもしれないけれど、走って来る理由は思い至らなかった。


 レスミアに向かって手を振ると、向こうも気付いたようで、手を振り返してくれた。それでも、走る速度は落とさずに駆け寄って来る。


「大変です!? ダンジョンの階層が増えてるかもって!」


 近くに到着するやいなや、慌てふためいた様子で捲したてる。取り敢えず、ストレージから冷たい水を取り出して、渡した。


「はい、これ飲んで落ち着けって。

 俺達以外に誰も攻略していない筈なのに、何処からそんな話になったんだ?」


 レスミアが水を飲んで息を整える内に、腑に落ちない点を聞いてみた。すると、自分を指差して「私ですぅ~」と呟いた。


 雑貨屋へ買い物にいった際、フルナさんに捕獲され、シュピンラーケンの服の採寸をする事になったそうだ。楽しくおしゃべりしながら採寸を終え、お礼にお菓子を進呈したら、



『そうそう、ハチミツが沢山手に入って、色々とお菓子を作ってみたんです。お茶菓子にどうぞ。昨日、ボスの休憩所で食べましたけど、ザックス様にも好評でしたよ』

『ありがとう。子供達も喜ぶわ。

 あら? でもコレ、ホールじゃない。ボス部屋前の待合室はテーブルも無い所なのに、お茶の準備するのも大変じゃなかった?』


『いえ、そっちでは無く、ボス戦後の方ですよ。テーブルだけでなく、水場や御手洗いの有る方です。お茶の後、食器を洗えるのが良いですよね』

『……待って、待って、おかしいわ!20層のボスを倒しても、休憩所への魔方陣は出ない筈よ!

 私が昔、ボスの皮を集めた時はそうだったもの』




 なんて会話の後に、ダンジョンギルドに連れて行かれたそうだ。フノー司祭も交えて話し合った結果、21層が増えている可能性があると。

 レスミアは自分の所為で大騒ぎになったと、項垂れながら言う。


「フノー司祭の方で関係者を集めて相談するから、私達には本当に21層があるのか確認してきて欲しいそうです」


「了解。だけど、レスミアが気にする事じゃないだろ。俺も気が付いて無かったし、他の人達は20層に来てもいない。むしろ、レスミアのお陰で早く気付けた。お手柄だろ」


 撫でやすい位置に来た頭を、ちょっと乱暴気味に撫でておく。優しくするより発破になるだろうと思って。


 作業途中だった蜘蛛の巣や道具を片付け、外していた硬革装備を付け直す。急ぎというなら、昼御飯より先に見て来た方が良いだろう。レスミアを促して、ダンジョンの入り口へ向かった。


 ただ、ちょっと疑問もある。ダンジョンの階層が増えるというのは、大騒ぎになる事なのだろうか? 騎士団が調査するとか何とか習ったような覚えはあるけど。




 20層の道中をショートカットして大扉の前に着いた。

 ジョブを罠術師レベル20、僧侶レベル16、修行者レベル16、錬金術師レベル16に切り替え、レスミアにミスリルソードを渡して、抗麻痺剤を飲む等の準備を整える。簡単な作戦を打ち合わせしてから、ボス部屋に突入した。



 部屋に入ると同時に駆け出して、ボス達の出現位置の背後に回る。魔方陣が光りだす頃には〈潜伏迷彩〉で姿を隠した。

 光が消えると、サンダーディアーが正面のレスミアに対して威嚇の鳴き声を上げる。近くで聴くと、甲高い叫び声が耳にくるな。

 後脚に〈くくり罠〉を設置して、吊り上げてやると、鳴き声が途中で止んだ。


 逆さ吊りの向こうにいるレスミアと目が合う。予定通りと頷いてみせると、お供のアクアディアーに向かって行った。あちらは任せて、サンダーディアーが混乱している内に、俺も仕上げをしないと。


 ストレージから蜘蛛の巣を取り出し、サンダーディアーの頭から槍角に被せた。午前中に失敗をしてから、石床ならくっ付く事は確認済みだ。危険な槍角を封じることに成功した。

 ただ、蜘蛛の巣なので伸び縮みする。フリーの時よりも角の可動域が狭まっているから、槍ならいけるか?


 手に持っていた黒毛豚の槍で胴体を突く。あまり深くは刺さらないが、暴れる槍角の間合いの外から攻撃できるのは良い。連続して攻撃していると、反対側から緑の剣閃が走った。

 首筋を深々と斬り裂いたレスミアは、そのまま後ろに下がって行く。悔しそうな顔をしていたのは〈不意打ち〉が発動しなかった所為だろう。蜘蛛の巣に掛かったまま、首が結構動いているので、どこかで視界に入って認識されたのかも知れない。


 そうこうしている内に、枝角に魔方陣が現れ、同時に槍角が紫電を纏い始めた。槍角に絡まった蜘蛛の巣にも、光が走っている。


 ヤバイ! 今は魔法をセットしていないから〈ストーンシールド〉で防御も出来ない。先に止めを刺すべく、傷の深い首筋に槍で攻撃を仕掛けた。2度、3度と突き刺すが、止まらない。魔方陣の光が完成に近づく事に、焦りを感じ始めた頃、再度緑の光が横に降り抜かれた。


 血飛沫を上げながら、首が飛んで……行かずに蜘蛛の巣に引き戻された。



「ふ~、危なかったですね。本当なら最初の一撃で決まってたと思うんですけど」

「お疲れ様。雷魔法を使う前に倒せたから、十分早かったと思うぞ」


 レスミアを労いながらも、転がった首の先、槍角が気になった。戦闘中にチラリとだが、蜘蛛の巣にも雷が流れているように見えたのだ。転がった首の方に向かい、観察してみると、槍角に絡まった蜘蛛糸が溶けて千切れ掛けていた。


「……こりゃ、電流の熱で溶けたな」

 蜘蛛の巣解体の時、ブラストナックルで溶かしてしまった事を思い出した。そうなると、拘束出来るのも、雷魔法を使われるまでだな。確か、『余剰魔力で帯電している』と鑑定文にはあった。本体の〈サンダーボール〉の威力も高いに違いないから、蜘蛛の巣も簡単に溶かされてしまいそうだ。


「どうかしたんですか?」

 後ろからレスミアが覗き込んできた。蜘蛛の巣の状態を見せながら、説明すると、


「それなら、私の〈不意打ち〉で早く終わらせるから、良いじゃないですか?」

 昨日の夜にレスミアが提案した通りに〈くくり罠〉から、蜘蛛の巣拘束、〈不意打ち〉の流れは上手くいった。


「ただ、それだと俺1人で周回するには、難しいんだよ。攻撃力が足りないから。いっそ聖剣で〈ブレイブスラッシュ〉すれば、勝てるだろうけど、経験値が勿体ないしなぁ」

「その分、周回すれば良いじゃないですか。無茶をして怪我をするのはやめて下さいね」


 う~む。腹案は考えていたから、そっちを試して駄目なら考えよう。

 ドロップ品の皮と宝箱を丸ごと回収して、魔方陣から休憩所に移動した。



 11層と同じなら、休憩所の奥にはダンジョンへ繋がる扉がある筈だ。と言うか、昨日も見ているので存在している。ここのダンジョンは20層までだから、てっきり開かない物だと決めつけて、調べていなかったのだ。


 後、階層が増えるのも異変の一種なのだろうか?

 全ての宝箱部屋を確認しても、異変らしき事が無かったので、報告書に纏めて終わった気でいたよ。あぁ、だから21層があるなんて考えなかったのかもしれない。


 扉に向かおうとしたら、袖を引っ張られた。隣のレスミアが、片手を額に当てて項垂れている。


「ザックス様、この案内板……」

 そう言いながら指差す方、11層の休憩所にもあった案内板を読んでみる。



21休憩所、御利用案内

・20層ボス討伐証を持つ者のみ利用可能。

 ただし、灰色ネーム赤字ネームは討伐証を持っていても利用不可。強制的に21層へ退出させる。

・魔物侵入不可、戦闘スキルや攻撃系魔法使用不可、及び戦闘行為をするものは強制的に21層へ退出させる。

・帰還用転移ゲート、仮眠室2部屋、炊事場(竈&水場)、個室トイレ、テーブル等の設備有。

 利用者の体から離れ、12時間放置されたものはダンジョンに分解吸収されるので注意。」



 最初の1行目に答えが書いてあった。


 頭痛がしたような気がして、俺も頭を押さえてしまった。






 ―――――――――――――――――――――――――――

 と、いうわけで、村編はもうちょっとだけ続くんじゃよ。

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