第124話 ランク4魔法と、潜伏スキルの練習

 20層に降りて来た。

 ボス階層の土手道を見ると、ついショートカットしたくなるけど我慢。午前中は、試し撃ちとスキルの練習の予定だ。レスミアに釘を刺された事もあるけど、ボスの下位互換であるアクアディアー相手に通じるか実験しておきたい。



 〈敵影感知〉を外して〈二段突き〉をセット。土手から下の部屋が丸見えなので、感知する必要もない。

 早速、一部屋目にはウインドビーが2匹居た。土手の上から〈ファイアジャベリン〉を充填し始めながら、その間もワンドを構えて、2匹が直線状になる位置取りを変えるのだけど……ウインドビーが、ふらふらし過ぎ!


 不規則に進行方向を変え、上下にもふよふよと動くので狙い難い。2匹を射線に収めるため、土手から坂を降り、壁の上に立って距離を詰める。しかし、そのせいで近い方の1匹に気付かれてしまった。射線上から逃げられる前に、魔法を発動させる。


「〈ファイアジャベリン〉!」


 燃え盛る火の槍が魔方陣から射出された。火属性の光剣の様に、半透明なクリスタルで出来た長い槍……いや、やっぱり杭だな。そのクリスタルの様な杭が、全体から炎を噴き出し、尾を引いて飛んで行く。


 しかし、こちらに気付いた手前の方は、高速で右横に、斜め下に、後ろに飛び回り回避された。「のろま~」と挑発されている気分だが、本命として狙った奥の1匹は貫かれ、燃えているのでセーフ。


 やはり、ウインドビー相手に範囲魔法以外は使わない方がいいな。俺は部屋の中に飛び降り、背中を向けてウインドビーを誘い出してから〈フルスイング〉で打ち返してやった。



 気を取り直して、アクアディアー相手に各種属性のジャベリンを打ち込んでみた。


 〈ファイアジャベリン〉は耐属性でダメージは半減しているのにも関わらず、深々と刺さり、傷口を焼いた。一撃で倒せなかったが、動きが鈍っていたので、かなりのダメージだったようだ。


 〈アクアジャベリン〉も同属性なのでダメージは半減する。青いクリスタルのような槍が刺さりはしたけれど、倒すには至らず。属性的な副次効果はよく分からない。〈アクアシールド〉のように粘着性がある訳でも無いようだ。


 〈ウインドジャベリン〉は属性的に等倍。風属性らしく、他の属性よりも飛ぶ速度が速く、アクアディアーを縦に貫通して倒した。緑のクリスタルのような槍が風の刃を纏っているようで、周囲にも影響があるようだ。現に、近くを掠ったウインドビーの羽が切り刻まれていた。


 〈ストーンジャベリン〉は弱点なので、2匹でも楽々貫通する。ただ、他と比べると、飛ぶのが遅いな。属性的な副次効果はもよく分からない……槍が残るのが特徴か?

 火や風属性の槍は、しばらくすると消えてしまうし、水属性に至っては只の水になってしまう。


 ランク4魔法全体に言えるのは、ランク1と比べると威力が高い。MP的には1.5倍程度なので、は、こちらの方が良いな。

 後は、複数匹をまとめて串刺しにするのが理想だけど、それに固執し過ぎるのもよくない。直線上に位置取りしようとして、無駄に時間が掛かったり、魔物の接近を許したりするからだ。

 一度、危うく角に刺されるところを、ギリギリ躱してゼロ距離発射したよ。


 まぁ、基本的に弱点を付くのは変わらない。ただ、弱点違いの魔物がペアで出た場合でも、ある程度のダメージを与えられるのは良い。〈アクアジャベリン〉とか、いまいち分からないのもあるけど、追々だな。



 さて、魔法の検証は程々にして、次に行こう。


 土手の横に伸びる坂道を降りて、〈潜伏迷彩〉を使ってからこっそり部屋に入る。

 近くを飛んでいるウインドビーに近付いても、気付かれる様子は無い。しかし、槍を構えて突き出した瞬間に効果が切れ、槍や体に色が戻る。

 突然現れた俺の姿に気付いたのか、ウインドビーが向き直った瞬間に、串刺しになった。


 呆気ない程、楽に倒せたと喜んだのも束の間、鳴き声が聞こえた。

 鳴き声の方へ目を向けると、部屋の奥にいるペアのもう1匹、アクアディアーがこちらを向いて前脚を掻いている。

 姿が見えれば、流石に気付くか。


 アクアディアーが頭の角を俺に向け、突進してくる。


 引き付けてから斜め横に回避し、その流れで背後を取った。そして、アクアディアーが方向転換する前に〈潜伏迷彩〉で隠れる。


 ……一応、真後ろだから死角になっていて、姿を隠したのは見えないはず。


 通り越して停止したアクアディアーはピョンと跳ねて、180度向きを変える。

 その頃には、俺も側面に回り込むため、移動し始めていた。効果が切れないように、足音を立てないように、はやる心を抑えてゆっくり進む。



 しばらくの間は、獲物の姿を探すようにキョロキョロと首を振っていた。

 しかし、段々こちらへ首を向ける時間が長くなる。半分ほど距離を詰めた頃には、完全にこちらを向いていた。


 ……あ、これは足音で感付かれているな。


 そう思った次の瞬間、アクアディアーが走り出した。ただし、突進のコースは俺から1m程はズレている。完全にバレている訳ではないようだ。俺の横を走り抜けて行くのを、これ幸いにと〈くくり罠〉を設置した。



 後脚がスイッチを踏み抜き、ロープで括られ跳ね上がる。突進の勢いが付いたまま吊り上げられたアクアディアーは、振り子のように揺れながら唖然としているように見えた。


 ふむ、レスミアの猫耳でも足音で大体の位置はバレていたし、ここの土床では足音を消して歩くのにも限度がある。何より、見つかった状態で〈潜伏迷彩〉しても、魔物は都合の良く忘れてくれないか。他のパーティーメンバーが注意を引いてくれれば、別かもしれないけど。



 まぁ、考察するのは回数をこなしてからでもいいか。次の試しに移る。


 宙吊りのまま暴れるアクアディアーの頭目掛けて、ストレージから蜘蛛の巣を投げた。直径2mを超える大きさの蜘蛛の巣は、首から角まで粘着糸で貼り付き、地面に落ちる。

 ただ、暴れて首を振り回すので、体に粘着糸が絡むものの、地面にはくっ付かなかった。砂まみれになってしまったからだ。

 土床じゃ、くっつく訳もないか。いや、ボス部屋は石床だから、そっちでも試さないと駄目だな。午後までには、まだまだ時間はある。もうちょっと試行錯誤してみるか。


 今回は失敗と切り替えて、蓑虫と言うか、チャーシューのように雁字搦めになったアクアディアーに槍を向けた。




 その後は、姿を消して罠術スキルで嵌める練習をしながら踏破した。

 ボス部屋には行かず、ダンジョン外に出て小休憩する。釘を刺された事もあるけど、コソコソと足音を立てないようにするのは意外と疲れたから、しょうがない。


 自分でもよく分からん言い訳しつつ、昨日のアップルケーキを1本頂く。ナッツの芳ばしい香りが気に入っているし、疲れた体には甘いものが良い。


 お昼までには、少し時間がある。何をしようかと考えるついでに、ジョブの入れ替えをしようとしたところ、村の英雄がレベル20になっていた。

 既に19だったから、雑魚戦でも十分に経験値を稼げたようだ。確認すると、ステータス補正は上がっていない代わりに、新スキルが3つも増えていた。1つは回復の奇跡〈ヒール〉。


 残り2つは〈光属性ランク0魔法〉と〈光属性ランク1魔法〉だった。


 あれ? 光ってでは? 〈詳細鑑定〉を掛けてみると、



【スキル】【名称:光属性ランク0、便利魔法】【アクティブ】

・サンライト(周囲を照らす)

・ライトクリーニング(指定範囲を浄化する)


【スキル】【名称:光属性ランク1、単体攻撃魔法】【アクティブ】

・ライトボール(光の玉を撃ち出し、被弾した対象を確率で盲目の状態異常にする)



 本当に光属性だ……中級属性も持っていないのに、すっ飛ばして上級属性が手に入るとは。

 後、上級属性は光と闇って習ったのだけど、光だけ? 初級が4種使えるみたいに、てっきり2種類かと思っていたのに……スキル名に『上級』と入っていないせいか?


 まぁ、考えても分からないことは、ノートヘルム伯爵やエヴァルトさんに投げるか。相談する内容が増えたので、報告書が厚くなりそうだ。



 改めて、村の英雄のスキル構成を見てみると、

・ブレイブスラッシュ

・初級属性ランク0魔法(適正;火水風土)

・アイテムボックス中

・中級鑑定

・ヒール【NEW】

・光属性ランク0魔法【NEW】

・光属性ランク1魔法【NEW】



 近接の必殺技に、回復魔法、攻撃魔法、便利魔法に、鑑定やアイテムボックスといった便利スキル。最初は高いステータス補正だから、前衛向きと思っていたけど、魔法が増えた。ただ、知力補正は小なので、魔法使いには及ばないというか〈ライトボール〉しかない。ただ、前衛を続けるにしても〈ブレイブスラッシュ〉しか戦闘スキルがない。レベルが上がって、色々覚え始めた専門ジョブに比べると、見劣りするよなぁ。


 ジョブの説明文にあった『前衛用と後衛用の両方を覚えるため中途半端になりやすい』と言う内容にも同意する。まぁ、最終的に勇者になるにしても、英雄なら、こんなものなのかな?

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