第116話 地の利と鹿魔物

 翌日、朝から18層を攻略し始めた。


 ジョブは4つ装備して戦士レベル15、魔法使いレベル15、遊び人レベル11、罠術師レベル11に経験値増3倍。そして、追加スキルに〈投擲術〉、〈敵影感知〉だ。


 魔物も戦い慣れた敵なので、問題ない。ウインドビー相手に鏡を使う場合と、音だけで判別するのを交互に行い、振り向き攻撃の精度を上げた。


 その他には、折角覚えた戦士の新スキル〈フルスイング〉を使ったのに、ノックバック効果がイマイチ実感出来なかった程度だ。ショートソードをバットの様に高速で振るうのだけど、シルクスパイダーやウインドビーは脆いので両断されてしまった。ゴリラゴーレムくらいの耐久がないと駄目だな。


 同じノックバック効果持ちの〈ブレイブスラッシュ〉と比べてみるのも面白いかもしれないが、既に手持ちのジョブが全てレベル10を超えているので、行く気にはならない。その内、ジョブが増えたらでいいか。




 18層の中心にある鉱物系採取地に到着。

 魔水晶をザクザクと掘り出していると、崩れ出る土山に、赤い物が混じっているのがチラッと見えた。ツルハシでの採掘を中断し、期待しながら小さいスコップで選り分けながら探すと、小さな赤い石が付いた石玉が見つかる。それにブラシを掛けて土埃を取ると、赤く橙色っぽい半透明な宝石だった。透明ではないのでルビーじゃないだろうけど……



【宝石】【名称:カーネリアン】【レア度:E】

・魔水晶の属性が偏り、火属性のマナが凝縮して鉱物化した物。火晶石の成り損ないだが、見た目と希少性から宝飾用として扱われる。魔水晶のように魔道具の動力にすることは出来ない



 初めて聞く宝石だ。色合いから昨日の夜の花火を思い出す。

 説明文からターコイズの属性違いと分かるな。それなら、残りは風と土属性の宝石もありそうだ。まぁ、宝飾品にしか使えないから、沢山あっても使い道はない。レスミアへのプレゼントにするくらいかな。


 それでも、レア物が手に入ると嬉しい。ホクホク気分で、残りの採掘を行なっていたら、何故かカーネリアンが追加で2つ出て来た。計3つも宝石が手に入ったけれど、稀に良くあるって状態かねぇ?



 その後は、特に波乱も無く階段部屋に到着した。小休憩をしながらジョブを見直してみると、遊び人と罠術師がレベル15になっていた。遊び人で覚えたスキルは、



【スキル】【名称:タップダンス】【アクティブ】

・一定時間、足音が金属音に代わる。この音は軽快に鳴らすほど、周囲の人や魔物の注目を集める。



 確か、足音を鳴らしながら踊る奴だっけ? 何かのCMで見た覚えがある。踊りという時点で無理だ。俺に活かせる気がしない。取り敢えず、〈タップダンス〉を発動させてみる。少し歩いてみると、足音がカンッ、カンッ、と金属音っぽく変化している。CMのようなステップはよく分からないので、足をバタバタさせてみると、カタタタッと甲高い音が鳴った。

 う~ん、確かに敵の注意を引きそうな音だ。〈挑発〉の広範囲版みたいに使えれば……重装の騎士がタップダンスをしながら、敵を引き付ける?

 真面目にやれ!って、突っ込みたくなるわ!


 まぁ、使う事は無いだろう。次、いこう。

 罠術師レベル15で覚えたのは〈解体の素養〉と〈くくり罠〉だ。



【スキル】【名称:解体の素養】【パッシブ】

・鑑定済みの敵を自身が倒した場合、ドロップ品の数が稀に増える。



 ドロップが増えるとか必須スキルじゃないか! 制約はついているけれど、魔法で倒す機会が多いから問題ない。まあ、ってあるので、過度な期待は禁物だけど。

 


【スキル】【名称:くくり罠】【アクティブ】

・前方に、くくり罠のスイッチを設置する。スイッチを踏んだ者は、天井からロープで宙吊りになる。ただし、天井がない場所では、壁の上部からの宙吊りになる。更に、天井がなく壁が遠い場合は、その場にロープで足を括る。



 以前見かけた罠だな。あの時は、壁際まで引っ張られてから、宙吊りになっていた。天井が無いパターンだったか。

 実際に試し打ちを……折角なので、右足先に魔力を集めて〈くくり罠〉を発動させた。右足の50cm程先にポップアップが現れる。パッと見では分かり難いが、直径50cm程の円状に、少しだけ凹んでいるところだな。

 ただこれ、魔物に踏ませるのは難しくないか? 〈トリモチの罠〉の1/4以下のサイズで、更にスイッチを踏ませないといけない。手間がかかる分、天井から吊り下げる効果は強いけどな。

 自分を囮として誘き寄せるしかないかねぇ……あっ! 〈タップダンス〉があった! 罠を設置して踊れば……って、それこそ〈挑発〉で十分だわ!


 まぁ、ここで頭を悩ませても仕方がない。実戦で使えば何か思いつくだろ。そう切り替えて、セットしたジョブの遊び人を外し、植物採取師レベル14を装備した。




 19層に降りると、そこは懐かしい炭鉱階層だ。土壁に囲まれ、天井にはヒカリゴケが光っている。最近は明るい空の階層だっただけに、暗く狭く感じた。壁のヒカリゴケを採取してランプに入れる。


 この階層は入り口近くに採取地が2つ、出口近くに宝箱部屋と好立地だ。

 脱出する手段があればの話だけどな。俺の〈ゲート〉や、スカウトが覚えるらしい〈脱出ゲート〉、これらがないと、20層のボスを倒さなくては帰れない。強いって噂のボスだ。これも無理なら、11層まで登らないと……1日かけて、魔物と戦いながら歩けば帰れるか?って、くらいに大変だけど。



 少し進むと、飛び回る2つの圧力を感じた。ウインドビーに違いない。いつも通りなら〈フレイムスロワー〉で焼き払うのだけど……天井を見て、少し試したい事を思いついた。


 ウインドビーに近付いてから、前方の天井から〈かすみ網の罠〉を張る。

 今まで交戦した経験からウインドビーの習性として、攻撃する時は獲物の背後に回る。そして交差する時も、なるべく離れて移動する。


 つまり、狭い洞窟内で離れようとするなら、天井付近を飛ぶに違いない。なんて考えている間に、ウインドビーが高速にかすみ網に突っ込んで行く。網に包まれ、そのままの勢いでボールのように後ろに飛んで行き、墜落した。

 あぁ、高速移動時に罠に掛けるとこうなるのか、止めを刺しに行くのが面倒だな。残った1匹は、鏡で背後を確認しながら叩き斬った。


 2匹相手でも、魔法無しで倒せたな。罠術スキルの方が、MP消費が少ないので助かる。ウインドビーは狭い洞窟の方が倒しやすい。こちらに地の利ありってね。



 曲がり角の先から、空を飛び回っていない魔物の気配を感じた。角からこっそりと覗いて見ると大きな鹿っぽい魔物が2匹いる。鹿の角って、頭の上とか斜め後ろに木の枝のように伸びるイメージだったけれど、鹿魔物の角は槍の様に突き出ていた。

 しかも、前に伸びた左右の2本角の間にある魔方陣から、水が出ている。何をしているんだ?



【魔物】【名称:アクアディアー】【Lv19】

・大型の鹿型魔物。特徴的な角を武器のように振り回し、突撃からの突き刺しで攻撃してくる。非戦闘時には〈ウォーター〉で地面に水を撒き、泥濘を作って自身が戦いやすい場に変える。アクアディアーの蹄は泥濘でも走れる構造をしており、駆け回る事が出来る。遠距離攻撃に〈アクアニードル〉も使う事もあるが、基本的に角での攻撃を好む。

・属性:水

・耐属性:火

・弱点属性:土

【ドロップ:鹿油】【レアドロップ:鹿皮】



 いきなり2匹はキツイな。範囲魔法の〈ロックフォール〉でまとめて潰すか? でも、どんな感じか戦ってみたくもある。なんて迷っていたら、水撒きを終えたアクアディアーと目が合った。しばし、睨み合って沈黙が流れた後、目の合っていない方が甲高い鳴き声をあげ、突撃して来るのが視界の端に映った。驚いて目を走って来る方に向けたら、睨み合っていた方も走り出す。


 慌てて曲がり角から下がり、足元に〈トリモチの罠〉を仕掛ける。更に下がってショートソードを構えながら〈くくり罠〉を仕掛けていると、1匹目が躍り出て来てトリモチに引っ掛かった。前脚が引っ付いて剥がそうとしているが、抜け出せないようだ。あれなら後回しにしても大丈夫か?


 安堵しているとその後ろから、もう1匹が飛び跳ねるように出てくる。直進してくるのではなく右前に跳ね、左前に跳ね、ステップを踏んでいるかのよう。折角仕掛けた〈くくり罠〉のスイッチも飛び越えられてしまった。俺の近くに着地したアクアディアーは頭を振るって、薙ぎ払うように角で攻撃して来る。


 長い2本の角は枝分かれしており、そのどれもが鋭角で危険だ。迫る角をショートソードで切り払いながら、横に避ける。硬い音と共に、切り払った右手に衝撃が走った。


 ……硬い!


 驚きながらも、側面を取った。振り上げていたショートソードを振り下ろし、胴体を斬り裂く。が、浅い。毛皮に阻まれて、少し肉を切った程度だった。


「〈二段斬り〉!」


 更に追撃、逆袈裟に切り上げ、同じ逆袈裟に斬り下ろして、大きく肉を切り裂く。切られた痛みのせいか、女性の悲鳴のような鳴き声を上げ、角を振るってきたのでバックステップで距離を取った。


 そして、向き直ったアクアディアーと対峙するが、切られた事で警戒しているのか、角を振り回して威嚇するばかり。無駄に長い角なので近寄れないし、切った側面に回ろうとしても、追従する様に方向転換する。


 埒が明かない。攻撃する隙が無いなら、作るしかない。ショートソードを振りかぶり、スキルを発動する。


「〈フルスイング〉!」


 高速でスイングされたショートソードは、アクアディアーのにクリーンヒットした。スキルのノックバック効果で、アクアディアーが後ろに吹き飛び、尻もちをつく。


 スキル後の短い硬直が解けると、俺は直ぐに駆け寄って追撃を掛ける。先程とは逆に振りかぶり、スキル無しで角を強打した。


 ……右腕が痺れる!


 角を切り落とすか、へし折るつもりで、振るったのに角はまだ健在だ。鉄製の剣じゃ無理なのか?


 次の攻め手に迷っていたが、一向にアクアディアーが立ち上がらないのに気が付いた。何故か項垂れるように首を落とし、角が地面に着いてしまっている。息はしているので、死んではいないが、剣でつついても動く様子はない。


 あっ! 角を連続で叩いたから、気絶したのか? 頭に直結している部位だし。

 なんにせよ、止めを刺すチャンスだな。折角首を差し出してくれているので、ショートソードを首に振り下ろす事、3回。硬い首を何とか切り落とした。


 噴き出す血を避け、罠に掛かっている、もう1匹に目を向ける。

 未だにトリモチに捕まったままだけど、角の先に魔方陣を出しているのが見えた。あれ?……脳裏に鑑定文が過ぎる。

 嫌な予感がして、俺は回り込むように駆け出した。魔方陣が一瞬光るのが見え、水の針が出現する。


〈アクアニードル〉の弾速は、それほど早くない。射線から逃れるように走る速度を上げると、射出された水の針は後方に外れていった。


 ふぅ、危ない、危ない。1匹目を倒すのが遅れていたら、後ろから撃たれたかもな。


 罠に掛かったアクアディアーの周囲は水に濡れて泥濘んでいた。コイツ、〈アクアニードル〉撃つ前に、〈ウォーター〉で水を撒いていたな。足を滑らせないように、注意しながら近く。


 ただ、コイツも面倒だ。頭付近は角を振り回すし、後脚はフリーなので近付くと蹴り上げてくる。周囲は水浸しで泥濘んでいる。


 まぁ、いいや。的にしよう。ワンドを左手で抜き、魔方陣に魔力を充填。


「〈ストーンバレット〉!」


 弱点属性の試し打ちだ。大きめの礫が3つ、射出されてアクアディアーを打ち据える。胴体に2発めり込み、頭に当たった1発は、角を1本へし折ると、横倒しに崩れ落ちた。


 あれ?! あんなに硬かった角がアッサリと……弱点属性のせいか?

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