第110話 敏速華ニャンの働きと反動

 幻惑床の罠を越えた後は、階段近くの植物系採取地に寄った。新しく覚えた〈自動収穫〉にレスミアが驚いたくらいで、特に問題無く収穫し終える。


 階段部屋で小休止しながら、この後について話し合うと、珍しくレスミアの方が先に進むように主張した。まあ、ミスリルソードを鞘ごと掲げているので、分かりやすい。


「折角、ミスリルソードを使える機会が来たのに、あんまり戦えてないです!

 夕方までの時間一杯、レベル上げしましょう!」


 時間的に18層を抜けるのは無理であるし、特に断る理由もないので了承した。俺もジョブが増えすぎてレベル上げが追いついていないからな。主力の村の英雄や魔法使いも上げたいが、レベル15になっていないジョブも新スキルのために上げたい。悩ましい。


 結局、錬金術師レベル13、熟練職人レベル14、植物採取師レベル10に、追加スキルで〈罠看破初級〉、〈獲得経験値中アップ〉に、経験値増の4倍というレベル上げセットなった。基礎レベルが17に上がり、アビリティポイントが38に増えたので、ミスリルソードを出していてもギリギリ4倍がセットできたのだ。


 魔法が全くないのはちょっと不安だけど、「範囲魔法を使われたら、私の斬る魔物が減っちゃいます!」と訴えられたので、任せることにした。ここしばらくは、弓ばかり使っていたので、ストレスでも溜まっているのだろうか?




 18層に降りると、そこは木々が立ち並ぶ階層に戻っていた。上空の枝葉は少ないので、日差しも良く、並木道のような様相で散歩には丁度いい。そんな並木道をレスミアは疾走していた。


 ぴょんぴょんと逃げ回るシルクスパイダーを〈敏速〉で早くなった動きで追い詰めて斬り、シルクスパイダーの飛び掛かりを回避しながら、カウンターで叩き斬る。流石にウインドビーには追いつかないようだったので、誘き寄せて振り向きざまに斬っているが。


 俺の出番はあまり無い。時折、罠の位置を教えて解除する程度。一応、シルクスパイダーを追い詰めたり、ペアで出てくる魔物の片方を相手取ったりはしているが、レスミアが相対する魔物を倒すまでの時間稼ぎでしかない。

 嬉々として剣を振るう様はバーサーカーモードというか、狩猫ジョブなだけに狩りモードと言うべきか。



「たあああぁぁ!」


 裂帛の声と共に、振り下ろしが、シルクスパイダーの胴体を両断する。

 壁際の木を足場に三角飛びで跳び上がり、上空から奇襲する技だ。スキルではなく、ただの体術である。


 幻惑床の罠の時に、ミスリルソードで跳躍力が上がることを発見し、蜜リンゴの収穫の際に木に跳び上がるのに便利と気付いてから、戦闘にも活かせないか考えた成果らしい。高く飛び上がっても、勢いよく地面に飛び降りても〈猫着地術〉があるので、軽やかに着地している。

 レスミアの敏捷値のステータス補正はC、そこにミスリルソードの付与スキル〈敏速〉か〈軽量化〉が加わって、この体術が可能になる……のか? 


 逃げ回るシルクスパイダーを捉えるために使ってみたら、上空からの攻撃は避けられなかったので、目下練習中だ。繰り返す毎に、跳び上がる高さが高くなっている。その様子はまるでニンジャか猫のよう……猫人族だったわ。




 ツルハシで3山目の土山を崩す。ガラガラと崩れる土の中に、鉱石玉や魔水晶が見え隠れしているのが結構好きだ。さて、今回は宝石が入っているといいが。大きなシャベルで大まかに突き崩して選り分けていると、ふらふらと歩く影が近付いて来た。


「わたしも、手伝います~」

「まだ、ふらついているじゃないか。休憩してなよ」

 選り分けた鉱石の前に、ペタンと女の子座りをしたのはレスミアだ。


 破竹の勢いで戦い続けた彼女は、15戦30匹を倒す頃には疲れで動きが急に鈍くなり、へたり込んでしまった。幸いにも、採取地の近くだったので〈フレイムスロワー〉で魔物を焼却しながら、彼女を背負って駆け込んだ。


 どうやら、ミスリルソードの付与スキルが強力な故に、長時間の使用は身体がついて行けなかったもよう。僧侶レベル15で覚えた〈ヒール〉を掛けてみたが、あまり効果は無かった。HPも減っていないし、怪我でもないからか? 疲労の様だからスタミナ回復の方が良いだろうか? そんな魔法も薬も持っていないけど。取り敢えず、自然回復量が上がる薬草と、冷やしたリンゴ水、蜜リンゴのお菓子を渡して休憩させた。


 さっさと帰るのが良いのだろうけど、レスミアを背負って村に帰ると、それはそれで噂になりそうな気がする。以前、酒場で酔い潰れたレスミアを背負って帰ったけど、その後で色々な人に揶揄われたからな。


 そんな訳で、レスミアが回復するまで採掘作業をしていた。途中から、レスミアも作業を始めてしまったが、ブラシ掛けして種類別に選り分けるだけなので大丈夫だろう。




 二重の意味で大丈夫じゃなかったよ。

 採掘が終わってもまだふらついていたので、背負って帰る事にした。しかし、少し早い時間だったせいで、帰り道に奥様方に出会って囲まれてしまったのだ。


「まあっ! レスミアちゃん、怪我でもしたの?!」

「ジニアさん、こんにちは。走り疲れただけですから、大丈夫ですよ。そちらはリンゴ狩りの帰りですか?」


 背中のレスミアが答えると、奥様方もホッとしたように表情を緩める。それと同時に微笑ましい物でも見るような感じになり、レスミアと雑談をし始める。背中で井戸端会議をされるのは、ちょっとだけ居心地が悪い。

 少し離れてヒソヒソ話を始める人もいて……それが耳を貸し合い、伝言ゲームのようにリーダーっぽいジニアさんに伝わると、にんまりと笑った。


「……それは言えてるねぇ。

 レスミアちゃんが防具を付けたままだと、疲れも取れ難いでしょ。ホラホラ、一旦下ろしなさい」


 奥様方によってレスミアが降ろされると、あれよあれよと言う間に硬革装備が剥ぎ取られた。更に「こんな物着ていたら、レスミアちゃんが痛いでしょ」と言われて、俺の硬革装備も外されてしまう。


 それから改めてレスミアを背負うが、革のドレスやズボンは着ているので、露出は前回よりも少ない。奥様方が話のネタにしたがっているのは分かるが、このくらいなら余裕だな。


 なんて余裕ぶっていたら、後ろで内緒話のように囁く声が聞こえる。すると、俺の肩を掴んでいたレスミアの手が首に回された。ギュッとされると、甘い香りと柔らかさが伝わってくる。


「すみません。皆さん悪気はないのですけど」

 レスミアが話すと、首筋に息が掛かって……自分でも顔が暑いくらいに感じる。オバさん達に背を向けて歩き出したのだが、周囲に群がられて歩きながらの井戸端会議が始まった。


 何処其処の息子さんと彼処の娘さんが仲が良いとか、隣の芋畑が豊作だとか、前に来た騎士がカッコ良かったとか、話がコロコロ変わりながら、時折俺達も揶揄われる。

 新手の拷問かと思いつつも、足を進めた。




 レスミアを村長の家へ届けてから、帰宅した。疲れているのに夕飯を作ってもらうのも悪いからな。ストレージに入っている料理で十分だと説得して、村長の奥さんに蟹の脚と豚肉を差し入れたら、早めに休ませると快く引き受けてくれた。


 装備品の手入れを済ませてから、風呂を沸かして入る。

 のんびりお浸かりながら、ステータスを見直した。今日1日で上がったのは以下の通り。


 ・基礎レベル16→17 アビリティポイント38

 ・僧侶レベル14→16    ・スカウトレベル16→17 

 ・修行者レベル14→17  ・料理人 レベル13→16

 ・錬金術師レベル13→16・熟練職人レベル10→17

 ・採掘師レベル1→10   ・罠術師レベル1→11

 ・植物採取師レベル1→14


 警報装置で乱獲したり、レスミアが奮闘したりでレベル上げが捗ったな。午後の間中、付けっぱなしだった熟練職人なんて7も上がっている。まあ、これだけ上げても、手持ちのジョブの半分は手付かず。ちょっと数が増えすぎたな。でも、非戦闘職でも面白いスキル覚えるのがいけないんだぁ。


 僧侶レベル15で覚えたのは〈ヒール〉と〈アンティセプス〉だ。



【スキル】【名称:ヒール】【アクティブ】

・HPを中回復する。裂傷や打撲、出血などを癒し、正常な状態へと戻す。ただし、骨折には効き難い。


【スキル】【名称:アンティセプス】【アクティブ】

・浄化の奇跡。手をかざした場所に浄化の光を当て、毒素などを消し去る。ただし、光の届かない体内に入り込んだ毒には効かない。



 浄化魔法、もとい浄化の奇跡か、僧侶っぽい。体内に効かない場合は〈ディスポイズン〉を使えばいいのかな、弱毒にしか効かないけど……



【スキル】【名称:正拳突き】【アクティブ】

・徒手空拳の基本技。腰の回転力と拳の回転力を拳に乗せて殴る。



 修行者レベル15で覚えたけど……正拳突きで修行……木の幹でも殴ればいいのだろうか?

 まあ、それは冗談としても、リーチが短いし、硬革のグローブ付けていても、魔物と殴り合いするには不安だな。ブレイズナックルみたいな、トゲトゲが付いた金属製のガントレットくらいは欲しい。


 次は錬金術師レベル15。〈初級属性ランク0魔法〉と〈初級属性ランク1魔法〉、〈量産の手際〉を覚えた。



【スキル】【名称:量産の手際】【パッシブ】

・錬金調合スキルで消耗品を作成する際、まとめて作ると完成品の数が少し増える。



 まだ、錬金釜が無い俺には早いスキルだな。錬金釜……ああ、レシピに×10が多かったのは、そういう事か。まとめて作ればお得になると。どれだけ増えるのか気になるけど、フルナさんが実演してくれた時は驚いて、数まで見ていなかったからなぁ。

 後、魔法を覚えたのは地味に嬉しい。ランク1の単体魔法でも、弱点を付けば戦力になる。


 料理人レベル15で覚えたのは、待望のアレだ。



【スキル】【名称:食材調達】【パッシブ】

・魔物のドロップ、レアドロップ品に食材がある場合、その出現確率を倍にする。ON/OFF切り替え可能。



 倍だよ倍! レアドロップにも効果があるのは良い。ウインドビーならハチミツが手に入りやすくなるし、シルクスパイダーなら蟹脚が……シルクの糸束は食べ物じゃないか。それもそうか、食材以外が手に入り難くもなるから、悩ましいな。

 幸いとして、ステータスの装備中スキル一覧にある〈食材調達〉に、ON/OFFチェックボックスが付いていた。切り替える手間は大したことがないので、戦闘ごとに切り替えるのも手か。


 そして、最後は熟練職人レベル15。



【スキル】【名称:メタモトーン】【アクティブ】

・効果対象を粘土のように柔らかくする。ただし、生物には使用出来ない。

 対象のレア度が高いほど魔力が必要になる。土魔法の亜種。



 物作り系のスキルか。そういえば〈ポリッシング〉でターコイズの角を削ったけど、この〈メタモトーン〉で柔らかくすれば、体積を減らさずに丸めれたな。今更か、次の機会があれば試してみよう。



 風呂から上がって、報告書に宝箱部屋の調査結果をまとめ、攻略本用の記事には新しく覚えたスキルを追記した。特に〈食材調達〉と〈メタモトーン〉は良い。

 ドロップ品の食材を書き出している時に、ハッと気が付く。魔物の情報を集めた魔物図鑑も必要じゃないか? 各魔物の弱点属性やドロップ品は覚えているけど、〈詳細鑑定〉の説明文の細かいところまでは覚えていない。これは、もう一度鑑定してメモって来ないとだめだな。


 今日のところは、眠気が来るまで〈メタモトーン〉の使い道を模索した。








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 次回は他者視点の閑話です。

 ちょっと長めですが、分割せずにそのままいきます。

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