第107話 罠狩りと奇妙な視線

 ジョブはスカウトレベル16、料理人レベル13、熟練職人レベル10で、追加スキルに〈初級属性ランク3魔法〉、〈かすみ網の罠〉、〈トリモチの罠〉後は生け垣刈り用にミスリルソードを装備した。

 そして相談が結果、レスミアはスカウトレベル15にした。迷路なので地図と見比べながら現在地が分かる〈マッピング〉は、あった方がいいからな。それに、ミスリルソードを羨ましそうに見られたが、折角練習した弓を優先したようだ。


 17層に降りると、レスミアは生け垣を見て驚いている。


「見事な生け垣ですねー。しかも、あんなに高いのは初めて見ましたよ。お手入れ大変そう……」



 ランドマイス村では茶の木が植えられている事が多いけれど、街の裕福な家では色々な生け垣があるらしい。大きな庭を飾り立てるのに、このレッドロビンも使われているのだとか。レスミアは高さに驚いているが、ダンジョンの壁代わりになので自然な物ではない。現に、午前中に燃やした部分が綺麗に生い茂っているからな。



 先ずは最初の宝箱部屋を目指すため、通路には出ずに階段部屋の端に向かう。そして、生け垣を5本根本から断ち切って、倒れる前にストレージに格納した。背の高い生け垣が消えると、その向こうの通路に繋がる。3mもない狭い通路を横切り、再度生け垣を切り裂くと宝箱部屋の前に到着した。土壁で出来た小部屋のようだ。

 レスミアが苦笑しながら話し掛けて来た。


「何かズルしている気分です。魔物に1匹も出会わずに辿り着いちゃいましたね」

「前もやったから今更だろう。強いて言うなら、簡単に壊せる壁にしたダンジョンが悪いな。他の人でも、ノコギリがあれば壊せるだろ」


 〈猫耳探知術〉と〈敵影感知〉で扉越しに探ってみるが、何も反応は無い。扉を開けて中を覗いて見ると、ポップアップが沢山表示された。トラップハウスだ!



 とは言え、俺達は2人共〈罠看破初級〉がありトラップハウスも2回目なので、驚きはしたが問題無い。手分けして素材になる罠を解除して回る。そして扱いに困る奴、警報装置の罠が残った。

 別に放置すればいいのだが、狭い通路で戦うよりも誘き寄せて一網打尽にするのも良い。地図を見てみると、階層の端なので、そこまで魔物が押し寄せてくるとは思えないが……

 レスミアに相談すると、警報装置で誘き寄せる方で一致した。そして迎撃方法について話し合う。


「前回の〈ウインドシールド〉だとウインドビーが耐性持っているからな。罠術師の罠スキルで嵌めるのはどうだろう?」

「それなら〈フレイムシールド〉に変えればいいじゃないですか? 蜘蛛にも効きますよ」


「いや、シルクスパイダーに火属性は弱りはするけど、倒せるわけじゃないからな。それに〈フレイムシールド〉は試した事が無いから、どの程度弱るのかも分からない。その点、罠スキルは倒せないけど、拘束するから逃げられたり、攻撃されたりする心配が少ないぞ」

「……私は罠スキルを見た事が無いので心配なんですけど、ザックス様を信じますね」


 レスミアの了解も得られたので、罠スキルを使って準備を始めた。入り口の扉は蝶番ごと切り取って回収し、上部に〈かすみ網の罠〉を設置する。そして、入り口の周囲には〈トリモチの罠〉を張り巡らせた。

 俺の配置は入り口の直ぐ横、レスミアは入り口の直線上と、前回とは逆だ。




 準備が整い、レスミアが警報装置のスイッチを押すと、けたたましいアラームが「ジリリリリリリリ」と鳴り響く。

 すると、鳴っている最中だというのに〈敵影感知〉の圧力を感じた。近くに居たのが飛んで来たに違いない。


「蜂が来ます!」


 レスミアの警告の後、入り口に仕掛けた〈かすみ網の罠〉に掛かりながらウインドビーが飛び込んで来た。後続にもう1匹の圧力を感じたので、即座に〈かすみ網の罠〉を張り直す。2匹目もゴールネットに突っ込んだボールのように、網に包まれながら飛んで行き、トリモチ地帯を超えた辺りで地面に落下した。

 再度〈かすみ網の罠〉を張り直しながら、ウインドビー達に目を向けると、レスミアが弓矢でトドメを刺している。


「レスミア~、踏み潰すだけでも倒せるぞ!」

 そうアドバイスしたのだが、物凄い嫌そうな顔をされた。


 やはり速度が違うので、その後もウインドビーばかり5匹来たが、全て〈かすみ網の罠〉に掛かって撃墜した。入り口が狭いので1匹ずつしか入れず、即座に罠を張り直すことでギリギリ対処出来たのが良かった。


 ついでに、面白い発見もする。両手に魔力を込めておき、左右の流れを遮断する事で、右手と左手交互にスキルを使う事が出来る事に気が付いたのだ。これで張り直しも2連打する事が出来て、捗った。

 更に後続のウインドビーを6匹撃墜した頃、ようやく地面を走るシルクスパイダーがやって来る。


 先頭のシルクスパイダーが入り口を潜り抜け、トリモチに脚を取られた。つんのめって倒れたところに、レスミアの放った矢が突き刺さる。

 2匹目は1匹目を踏み台にして乗り越えて来るが、その隙にミスリルソードで脚を切り落とす。すると、バランスを崩して、横に転がって行く。その先もトリモチ地帯だ。何匹もの脚を切り落としていると、器用にジャンプして逃げて行く個体もいたが、結局トリモチ地帯に降りて動けなくなっていた。最後は弓矢の的になって沈んだ。


 警報機で集まって来たシルクスパイダーは計9匹。最後の1匹が、トリモチに掛かった仲間を何匹も踏み台にしてトリモチ地帯を抜けようとしている。

 俺を無視して後方のレスミアを標的にしているのは明白だ。いつもの様に蜘蛛の巣で誘き寄せるには、レスミアと離れ過ぎているので無理と判断し、止めを刺していた8匹目から剣を抜き慌てて後を追った。


 トリモチ地帯を迂回するのは時間の無駄、シルクスパイダーの死骸に飛び乗って足場にする。ミスリルソードの付与スキルの効果で体が軽い、飛び石の要領で馳け抜けた。



 丁度、シルクスパイダーが地面に降りたところで、後ろに追いついた。シルクスパイダーの着地を狙った矢が飛んで来るが、横にジャンプして躱される。俺はそれに合わせて、死骸から飛び降りながら斬りかかった。


 ミスリルソードの長い刀身を振り下ろし、脚を2本切り落とす。そして着地と同時に左手を地面につけスキルを発動させた。


「〈トリモチの罠〉!」


 シルクスパイダーの足元が白い粘着質に変わる。残った脚を動かして逃げようとするが、トリモチにくっ付いた脚は離れない。今更、追い駆けっこするのは面倒だと、拘束を優先したが正解だったな。

 一息吐いてから立ち上がり、止めを刺す為に剣を振り上げる。しかし、それが油断だった。


「うわっ!」


 いきなり白い奔流を浴びる。シルクスパイダーの尻から出た粘着糸が吹き付けられたのだ。まだ動く左手の盾を構えたが、その上からも大量に吹き付けられ、拘束される。

 互いに粘着で拘束し合ったところで、幕を引いたのは1本の矢だった。胴体に矢を受けたシルクスパイダーが崩れ落ちる。その向こうから、レスミアが駆け寄って来るのが見えた。


「これで最後ですね。後続が来るような音は聞こえませんから。

 ザックス様、動けます?」

 ちょっとだけ、からかうような声色に聞こえた。以前、レスミアも粘着糸塗れにされて涙目になっていたからなぁ。お陰でストレージに粘着糸を格納出来る事は知っている。何食わぬ顔でしまってしまえば、粘着質も残らずに解放された。


「……大丈夫だよ。最後は油断した、援護ありがとう」

「うふふ、お任せあれっですよ」


 ニッコリと笑うと、矢の回収をし始めた。それを手伝っていると、周囲の死骸が消えてドロップ品に変わる。粘着地帯の真ん中に落ちてしまった、絹糸の束を回収するのには難儀した。レアドロップなので回収したいのに、手は届かない。最終的にかすみ網の時のように、ストレージを近付けるとトリモチは煙のように消えていく事に気が付いた。万が一、罠を張る場所を間違えても、大丈夫だな。



 そうしてドロップ品を回収し終わるが、21個しかない。魔物はペアで出現するので偶数の筈なのに?

 その疑問が晴れたのは、先に進んでからだった。



 次の宝箱部屋を目指して生け垣を破壊しながら進む。警報装置で一網打尽にしたせいで魔物も居なくなって快適な道のりである。ただの巨大迷路ならアトラクションとして十分なのだが、所々にある大きな蜘蛛の巣で現実に引き戻される。いや、迷路を破壊し直進している時点でアトラクションじゃないな。


 壁が生け垣のせいか、蜘蛛の巣は今までとは張り方が違う。行く手を遮るように通路を塞いでいるか、上に蓋をするように張られていた。それを回収していると、レスミアがこちらを見ているのに気が付いた。


「どうかしたのか?」

「いえ、ザックス様の視線かと思ったんですけど、違いますね。あっちの方から誰かに見られているような……」


 レスミアが指を指したのは、生け垣の向こう。当然、誰かが居るようには見えない。取り敢えず、生け垣を破壊して少し進むと、俺も視線?を感じ始めた。ん? これって……


 更に進むと、通路を塞ぐ蜘蛛の巣にウインドビーが絡め取られていた。俺達の接近に気付いて藻掻き始めるが抜け出せない。ペアのもう1匹を〈敵影感知〉で探すが、何も感じない。

 ああ、警報装置で集まった魔物が奇数だったのは、コイツのせいか。警報で召集を受けて急ぐうちに、蜘蛛の巣に引っかかった間抜けに違いない。ウインドビーが蜘蛛の巣に捕まったまま毒針の先に魔方陣を展開するが、真下に向いているので意味が無い。流石に哀れ過ぎるので介錯してあげた。


「あ、視線が消えました。蜂のせいだったんでしょうか?」

 レスミアが不思議そうに首を傾げているが、俺にはピンッと来た。レスミアのステータスを覗いてみる。


「レスミアもステータスを見てみると良い。その視線みたいな圧力、新しいスキルの所為だよ」

「……あ!スカウトがレベル16になっています! 〈敵影感知〉ってザックス様が言っていたのですね。視線じゃ無かったのかぁ」


 疑問も解けて良かったと笑い合ったが、はたと気付く。あれ、レスミアの方が〈敵影感知〉の範囲広くないか?

 女性は視線に敏感とか聞くけど、その所為だろうか?

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