第103話 各種スキルの研鑽と研磨
武器を混ぜ棒代わりにするのは危ないな。もっと早く気付け。
穴の空いた鍋をストレージに放り込みながら反省する。
それにしてもミスリルがあんなに魔力を流しやすいとは知らなかった。フルナさんの使っていた混ぜ棒よりも通りが良い。魔力は多く消費したけれど、調合液まで出来ていたからなあ。
そこでハッと気付いた。鍋の方もミスリルの方が良いのでは?
早速、ミスリル製の祈りの盾にポイントを割り振って取り出す。そして、逆さまに置いた盾の内側に水を入れて〈錬金調合初級〉を発動……出来なかった。
クッ、鍋か釜じゃないと発動出来ないのか。昔の戦争では兜で煮炊きしたり、鍋を防具代わりにしたり、なんて話もあるくらいなのに、融通の効かないスキルだ。
結局、2つ目の鉄の鍋とワンドで調合する事にした。ワンドは武器な気もするが、鉄の鍋は破壊出来ないのでセーフだ。魔法を使おうと考えなければ、魔力の通りが少し良い木の棒だしな。
穴の詰まったストローのような、もどかしさを感じながら魔力を流し掻き混ぜる。それでもなんとか、鍋の中の魔方陣が青く光り、純水が完成した。午前中の時と比べると3倍以上の時間と魔力が掛かった気がする。
そのまま続けて調合液にする事が出来たが、やはり時間と魔力が多く掛かった。
どうも、ある程度の魔力が水全体に行き渡らないと純水や調合液にならないのに、鉄の鍋では綺麗に混ざらず、濃淡が出来るので余計に魔力が必要になるようだ。
皆が錬金釜を使う訳だなあ。
まあ、無い物強請りをしてもしょうがない。調合液を空いている桶に移し、鉄の鍋で再度練習を始めた。目指すは、意識せずに調合液を作れるくらいだ。
日が落ちて、手元が暗くなったところで終了にした。桶には数回分の調合液が溜まっている。数日ほど時間を置くと魔力が抜けてしまうらしいが、ストレージに入れておけば問題ない。後々、創造調合を練習する時まで保管しておこう。
家の中に戻ると、レスミアが料理の配膳をしているのが見えた。
「そろそろ呼びに行こうと思ってたところです。お風呂がまだのようですけど、先にご飯にしませんか?」
「あぁ、いいよ。温かい内に頂こうか」
今日の夕飯はメインは鶏肉料理で、バフ料理は大根と豚肉のピリ辛スープだ。ダンジョン産食材が限られているので、似たような料理にならないように、献立を考えてくれたらしい。
【食品】【名称:解毒草の根と豚肉のピリ辛スープ】【レア度:E】
・食材を炒めてから煮込む事で、肉の旨味が解毒草の根に味が染み渡っている。ピリッと辛くて後引く美味しさのスープは体を温めてくれる。
・バフ効果:HP微小アップ、毒耐性微小アップ
・効果時間:5分
ピリ辛の大根がホクホクで美味い。葉っぱの解毒草と同じ植物とは思えないな。まあ、解毒要素はバフ効果の毒耐性に現れている。微小だけどな。
「お口にあって良かったです。でも、効果の方はその通りなんですよね。豚肉の方も、私が作った料理の効果は全部【微小アップ】なんですよ。ザックス様と作った最初の豚肉炒めだけが【小アップ】。何が原因なのでしょうね?」
食事を続けながら、考えるが思い当たる節は……そう言えば今日の料理には踊りエノキが入っていないな。昨日のカリカリ焼きは美味しかったが、ムトルフ君が好きと言っていた豚肉で巻くのも美味しそうだ。
そこでハッと気付いた。
「今日の錬金術を習ったときに教わった事だけど、踊りエノキには他の素材の効果を強めてくれる効果があるそうだよ。もしかして、バフ料理にも同じ影響があるなら微小アップを、小アップに強化してくれた……とか?」
「う~ん。でも、昨日の料理には踊りエノキを使いましたよね?」
「昨日のカリカリに焼いたのは美味しかったけど、付け合わせだったから? 料理のメインに使わないと駄目とか、条件があるのかもしれない」
レスミアは昨日の料理過程を思い返しているのか、目を閉じ頬に手を当てて考え混んでいる。そして、思い出したように指をピンッと立てた。
「あ! 白ワインで煮る前に、豚バラ肉から出た余分な脂だけ別のフライパンに移したんです。エノキ卵は、そっちで焼いたから……
明日にでも、もう一度踊りエノキの料理を試してみますね」
「それならエノキを豚肉で巻いたのがいいな」
折角なのでリクエストしたら、「簡単ですから、お安い御用ですよ~」と了承してくれた。
食後のお茶も終えて、レスミアは蟹脚を煮込みにキッチンへ行った。俺は今日習った錬金術のメモを見直して、書きそびれた事や、重要そうな事を書き足した。錬金釜が手に入るのは、まだ先になるので忘れない内に書いておこう。
書き物がひと段落したので、風呂に行くとレスミアに一声かけたところ、呼び止められた。レスミアはパタパタとキッチンからやって来て、アイテムボックスから丸い物を取り出して見せてくる。
「お風呂掃除の時に、ツルツルの石玉?のような物を見つけました。ザックス様の忘れ物ですよね?」
昨日磨いた石玉だ!
そう言えば、落とした後は慌てて風呂から出たので、拾い忘れていたな。まあ、知られたから、どうという事でも無い。強いて言うなら、もうちょっと練習しておきたかったが。
「熟練職人ジョブで、石を磨くスキルを覚えたから、その練習に磨いてみたんだ。元が石玉とは思えない程ツヤツヤになったろう」
「確かに光を反射してますし、手触りも良いですよね。でも、これを〈ウインドシールド〉で撃ち出すのは勿体無いですよ?」
……撃ち出さないよ!
「そうじゃなくてな。この前、レスミアにあげたターコイズを磨いてツヤツヤにしたいなって」
「……私のターコイズも綺麗になるのですか! お願いします!」
一瞬ポカンとした顔を見せたが、直ぐに満面の笑みに変わる。そして襟元のボタンを外し、手を入れて紐を引っ張り出す。その先には小さな袋が付いており、中からターコイズが出てきた。
「もしかして、いつも身につけている?」
「もちろんです! 大事な物なので肌身離さず持っていますよ。はいこれ、よろしくお願いしますね」
両手で握られて、お願いされた。手渡されたターコイズは、人肌で温かいのが生々しく感じられる。こんなに嬉しそうにするとは想定外だ。お風呂は後回しにして、リビングのテーブルに座りなおした。
磨くと粉が出るので紙を敷いてから、〈ポリッシング〉を使用する。ターコイズの原石の角張ったところから削り、丸くしていく。
ふと、対面に座る音がして目を向けると、キッチンに戻ったはずのレスミアが座っていた。両肘を突き、両手で頬を覆って笑顔を抑えている。しかし、嬉しそうな目線はこちらの手元に釘付けだ。
「見ているだけですので、お気になさらずに続けて下さい」
そうは言っても、俺の視界に入るものが気になって仕方がない。丁度、磨いている手元の先には、テーブルに乗せられたレスミアの胸がある。頬杖を付いているせいで、両サイドから余計に大きく強調されていて、目が吸い寄せられる。先程のターコイズの温かさを感じたせいで余計な事を想像してしまう。
……あ、駄目だこれ。
早々に自制心で我慢するのを諦めて、こっそり〈作業集中〉を発動させた。
魔力を大目に使って細かく研磨し、時々布で磨いて出来栄えを確認する。角を丸くして、平面の部分も光沢が出るまで研磨した。その間、レスミアは鍋を見に行くのに何度か席を立ったが、直ぐに戻って来るので気は休まらない。追加で〈作業集中〉を使い、なんとか完成した。
「わぁぁ! これはもう宝石ですね! 綺麗」
ハンカチの上に乗せたターコイズを、うっとりした表情で見つながら、そう言って喜んでくれた。あの笑顔だけでも、手間を掛けただけの甲斐はあったな。テーブルの上を片付けた後も、レスミアはトリップしたままなので、そのまま風呂に行く事にした。
風呂でサッパリ、スッキリしてからリビングに戻って来ると、蟹の良い匂いがした。レスミアは、テーブルでターコイズを眺めたまま動いていない。
匂いの元キッチンで茹でられている鍋の様子を見に行く。弱火なので、焦げ付いてはいないようだが、蓋を取って中を覗いてみると白濁としたトロミのあるスープだった。お玉で掻き混ぜてみると、具材が殆ど無い。溶けてしまったのだろうか?
【食品】【名称:蜘蛛脚のスープ】【レア度:E】
・蜘蛛の脚と各種野菜をじっくりコトコト煮崩れるまで煮込み、旨味を凝縮させたスープ。このままでも美味しいが、他の料理のベースにもなる。
・バフ効果:器用値微小アップ
・効果時間:10分
お、バフ効果は器用値か。微小アップでは気休めにしかならないから、踊りエノキの強化が効いて欲しいものだ。
その後、スープの事を完全に忘れていたレスミアを正気に戻して、村長宅まで送り届けた。
ベッドに入ったところで、思い出した。寝る前に今日のレベルアップ確認だけしておこう」
・戦士レベル14→15 ・採取師レベル14→15
・修行者レベル12→14 ・料理人 レベル10→13
・錬金術師レベル10→13
戦士レベル15で覚えたのは〈フルスイング〉だ。
【スキル】【名称:フルスイング】【アクティブ】
・渾身の力を込めて武器を振り回し、近距離の敵をノックバックさせる。長柄武器を使えば複数の敵を吹き飛ばす事も出来る。
ノックバック効果が強いのは〈ブレイブスラッシュ〉で、よく知っている。複数の敵を吹き飛ばすなら、槍の方がいいのだろうけど、狭い通路では巻き込み注意だな。
【スキル】【名称:採取の心得中級】【パッシブ】
・採取品の品質が良くなり、採取地の素材が増える。
採取師レベル15で覚えたスキルだが、下位の初級はイマイチ実感が分からなかった。品質が上がると鉱石系は金属の含有量が増える。植物系は効能が上がったり、数が増えたりするらしい。どちらにせよ収入が増えるので、中級は実感出来くらい効果があるといいな。
これで確認は終わり、ステータスを閉じて寝ようとしたが、ジョブ欄に【NEW】マークが付いている事に気が付いた。眠気が吹き飛んでしまい、ワクワクしながらジョブ一覧を開く。植物採取師、採掘師、罠術師と、3つも増えている事に思わずベッドから飛び起きてしまった。
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