第99話 玉磨かざれば光なし

 風呂に浸かりながら、ステータスチェック。今日1日で上がったのは以下の通り。


 ・基礎レベル15→16

 ・僧侶レベル10→14    ・スカウトレベル14→16

 ・職人レベル14→15   ・採取師 レベル10→14

 ・修行者レベル10→12  ・遊び人 レベル10→11  

 ・錬金術師レベル1→10  ・料理人 レベル1→10

 ・熟練職人レベル1→10


 新規のセカンドクラス達が一気に上がったが、ボスを使ったレベリングの結果だ。そして16層に着いた事で、経験値が勿体無いので使えなかった村の英雄と魔法使いが解禁された。明日からはレベル15に近い、戦士や採取師のジョブを上げたい。新しいスキルが増える筈だからな。


 新しく覚えたスキルを再確認していて、思い出した。いや、思い付きを試す前に実験をした方がいいな。ストレージから石玉を取り出し、ジョブに熟練職人をセットした。そして、湯船から腕だけ外に出してスキルを使う。


「〈ポリッシング〉」


 右手に溜めた魔力が指に集中したのが分かる。その指で石玉を撫でるとザリザリと音を立てて削れた。元々、石玉は丸いが、綺麗な真球という訳でもない。表面は荒く凸凹しているが、それが面白いように削れる。削った後の指を見ても皮膚が削れた様子は無い、代わりに指の魔力は少し減っている気がした。


 石玉全体を削って凸凹を減らし、綺麗な真球を目指す。5分程で効果が切れたが、時間制限と言うより指の魔力が無くなると終了っぽい。

 次は大目に魔力を込めて発動すると、削る音がシャリシャリと軽く、細かく削れるようになった。削り出る砂をお湯で洗い流し、削ると表面がツルツルになっていく。子供の頃に作った泥団子を思い出して、楽しくなり熱中してしまった。



 効果が切れその次、攻撃魔法と同程度の魔力を込めて再度発動させると、削れる音がしなくなる。石玉の表面を撫でると、削られた砂が出るがパウダーと言った方がいいほど細かいのだ。石玉全体を磨くように撫でていくと、光沢が出てきた。大理石のような艶を目指して、夢中になって磨きを掛けていたが、


「ザックス様~、まだお風呂ですか~? ご飯出来ましたよ~」

 いきなり聞こえた声に驚いて、石玉を取り落としてしまった。コロコロと転がる石玉に目を向けようとしたが、脱衣所の扉がノックされる。

「のぼせてませんか~?」と心配するような声が聞こえて、慌てて湯船から上がった。


「大丈夫だ! 今出るよ!」

「は~い、リビングで待ってますね」


 危ない危ない。お風呂という事も忘れて熱中し過ぎたか。湯船から出ると体が熱いほどだったので、水のシャワーで頭と体を少し冷やしてから出る事にした。



 夕食は、昼の豚バラの薬草炒めと同じ材料を使った料理がメインだった。ダンジョン産以外の食材も多く使い、美味しく料理したら効果はどう変化するのか? と言う話を帰り道にしたせいだ。

 豚バラと薬草に玉ねぎなどの野菜を追加して、炒めた後に白ワインとセージと数種類の香草で15分ほど煮込んだらしい。豚バラの白ワイン炒めはサッパリとしていながらも、色々な甘味が出ていて美味しい。

 踊りエノキはみじん切りにされて、卵と粉チーズと混ぜてから平べったく、カリカリに焼かれていた。同じフライパンで焼かれたのか、豚の脂も染みていて美味い。美味しいのだが、効果の方が……



【食品】【名称:豚バラの白ワイン炒め】【レア度:E】

・豚バラ肉と野菜を炒め、白ワインで少しだけ煮込まれた料理。白ワインで豚肉が柔らかくなり、香り豊かな一品。

・バフ効果:HP自然回復量微小アップ、HP微小アップ

・効果時間:5分



 うーん、効果時間が短くなるのは予想していたが、小アップの効果が微小にランクダウンするとは思わなかった。他の食材が悪さをしているのか? 中々に難物だな。レスミアも鑑定結果を聞いて考え込んでいたが、直ぐに食事を再開した。


「効果は残念でしたけど、先ずは美味しいのが一番ですからね。お昼の時よりも、断然良い味になったでしょう。

 後は、良い効果が出るまで色々作ってみるしかないですよ。ただ、自分で作っても効果が分からないので、ザックス様の〈詳細鑑定〉が欲しいです」


 出来の悪い物まで、毎回口頭で教えてもらうのは心苦しいらしい。俺的には、鑑定する程度なら大した手間でも無いので問題ない。でも確かに、失敗作かもしれない物を見せるのは嫌だよなあ。

 そこで、ふと気が付いた。


「試してみるか、〈初級鑑定〉!」



【食品】【名称:豚バラの白ワイン炒め】【レア度:E】

・バフ効果:HP自然回復量微小アップ、HP微小アップ

・効果時間:5分



 解説文は無いけど、バフ効果までわかるじゃないか。普通の人でも効果が自分で分からないと、スキルが生かしようがないと思ったが、やはり料理人で覚えるスキルで問題ないようだ。


「料理人のレベル5で覚える〈初級鑑定〉でもバフ効果が分かるみたいだ。明日も10層のボスを倒してレベル上げしないか?」

「本当ですか!? 是非、お願いします!」


 10層を突破してから毎日のようにしばき倒しているけど、経験値が美味しいのがいけないのだよ。



 夕食後、レスミアは昨日の続きを始めた。蟹の脚の殻をむき終わり、今は身の部分と野菜を煮込んでいる。その合間にお菓子作りまでしているので、本当に働き者だ。


 一方、俺も昨日の続きを書いていた。今日はダンジョン食材の話題がホットだったので、ダンジョン産素材の鑑定結果も書き写しておこうと考えたのだ。

 ただ、名前とレア度、解説文しかないので、ジョブに比べると情報量が少ない。これでは、ギルドにある冊子の情報と大差がないので、見た目や採取方法、利用方法なども書き加える。


 しかし、何か物足りない。自分でもよく分からない違和感の原因を考える……


 あ!写真だ!

 図鑑みたいに、素材を写真付きで解説すれば、分かりやすくなるはずだ。文字だけで見た目を語っても実物を見た事が無いとピンとこないからな。

 よし、スマホか、デジカメで……って、有る訳無いだろ!


 そうなると、絵しかないか。

 気は進まないが……被写体の蜜リンゴを取り出して、新しい紙に描いてみる。



 何処かのロゴマークのようなリンゴになった。一応、リンゴには見える……筈だ。いや、写真のような立体感の有る……写実的だっけ?そんな絵を目指したのに、描き方が分からない。漫画とか挿絵とか見ていたのになあ。

 う~ん、そういえば、遊び人のジョブが〈絵を描く〉スキルを覚えていたな。試してみるか。ジョブを切り替えて、再度挑戦する。



 線の歪みが無くなり、若干綺麗なロゴマークが描けた。描くのは上達した気がするけど、知識が増える筈もなかった!


 その後も、被写体を変えて色々描いてみたが、2次元的に描くのが精一杯だった。

 駄目だこりゃ、絵に関しては保留にしよう。絵が上手な人に頼んでもいいし、カメラのような魔道具が有るかもしれない。




 翌日。今日は錬金術を教えて貰う予定なのだが、朝一は店の方も忙しいからと言われ、8時からの予定だ。空いた時間で蜘蛛の巣解体をしながら、ブラストナックルで魔力の制御訓練をする。


 右手で剥がして、左手の棒で巻き取る。更に右手で糸を長めに触って、溶かし切る事も出来るので、作業効率は上がる。左手に魔力が流れないように集中するのは難儀したが、熟練職人のジョブが新しく覚えた〈熟練集中〉を使うと雑念が消え失せて、黙々と解体する事が出来た。しかも、〈作業集中〉よりも効果時間が長いので再使用する手間が少ない。使い終わった後に懐中時計を見て気付いたが、効果時間は1時間のようだ。タイマー代わりにも使えそうだ。



 レスミアに見送られて出発し、時間通りに雑貨屋を訪ねた。店内ではムッツさんがカウンターで書類仕事をしており、フルナさんは商品棚の方で男の子と話している。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「いらっしゃい。待っていたわ。先に紹介しておくわね。私の息子のムトルフ。

 ホラ、挨拶しなさい」

「ムトルフ、9歳です!こんにちわ! 光の剣の兄ちゃん!」


 一見すると、少し小さいムッツさんの様だ。息子さんと言うより弟くらいに見える。中学生くらいの見た目のムッツさんに、小学生くらいの子供……ファンタジーだな!


「今日はムトルフに錬金術の基礎を教えるついでに、錬金術師希望のザックス君が見学する。そういう建前で行くから宜しくね。

 あくまでも、私はあなたの師匠ではないから」


「以前から言ってましたからね。了解です。ムトルフ君も今日は宜しく」

「うん! よろしく~。

 ねぇねぇ、今日は光る剣持ってないの? 綺麗だったから、また見たいなぁ」


「ムトルフ、あまりワガママ言うんじゃない。

 はいこれ、今日の分の明細書ね。錬金術の前に野菜を持って行ってくれないか」


 カウンターで書類仕事をしていたムッツさんが、息子さんを窘めながら色紙に書かれた明細書を持って来てくれた。野菜を回収して代金を払うが、つい並んだ親子を比べて見てしまう。俺の視線に気付いたムッツさんは、複雑そうな顔をした。


「息子の成長は嬉しいけど、後何年で身長が追い抜かれるか。なんて考えたくないねえ。人族は成長が早すぎるよ」


 ん? まるで種族が違うような言い方に疑問を浮かんだ。ムッツさんはビル何とか族、フルナさんは人族だから、息子さんはそのハーフじゃないのか?

 聞き返そうとしたが、フルナさんの声に遮られた。


「それじゃ、私のアトリエに行くわよ。あなたは店番宜しくね」


 そう言って、店の奥の扉を開けて行ってしまった。気になるけど急ぎでもないので後回しでいいか。そう結論付けて、フルナさんの後を追った。

 扉の奥は、以前穀物の買い取りに入った場所だ。更にその奥の扉から外に出る。雑貨屋とダンジョンギルドの裏手は空き地になっており、轍が見えるので搬入搬出用の場所なのだろう。

 その空き地を通り抜け、裏手の林に入る。


「僕もお母さんのアトリエ行くの初めてなんだよ。いつもは危険だから駄目って言われてたんだ」

「俺もこれから習うところだから、詳しくはないけれど、調合と言うなら危険な薬品とかも有るだろうからなあ。子供が分別が付く……悪戯しないようになるまでは仕方がないと思うよ」


「もう、子供っぽいイタズラはやめたよ。最近は物作りの方が面白いからね」

「えー、学校で変な形の木剣作ってたって、聞いたわよ。あんまり奇抜なのは辞めなさいね」

「なんで、母さんが知ってるの?!変じゃなくて、カッコいいのだよ! 」


 なかなか、しっかりしたお子さんと思いきや、中二病を発症しているのか。早くない?


 そんな、おしゃべりをしながら歩いていると、林の中に丸太が建ち並ぶのが見えてきた。村の周囲を囲う外壁だろう。ん? そういえば、なんで村の中に林があるんだ?

 普通、住宅地か農地にする筈だよな。その辺を聞いてみると、


「簡単な話よ。防犯目的でアトリエの場所を分かり難くするのと、万が一魔道具を暴発させたりした場合に村まで被害が出ないように隔離してあるの」


 そして、フルナさんが丸太の外壁に触れると、隠し扉が自動で開いた。その扉の向こうは村の外ではなく、外壁に囲まれた隠れ家が目に入る。村の木造住宅とは違い、レンガを使った石造りの家だ。中心から煙突が伸びているため、玉ねぎの様にも見える。


「私のアトリエへようこそ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る