第98話 ネタになる蜘蛛と魔法威力の疑問

「家族への手紙に「得意の弓でバンバン魔物を射抜いて、パーティーに貢献してる」って書いちゃいましたよぅ」


「貢献しているのは、本当だから問題ないよ。ジョブのレベルを上げて覚えたスキルだって、レスミア実力の一部だろう。

 極論を言うなら、魔法はジョブの力だから、俺は無力だって嘆くようなものだぞ」

「それは、そうですけど……」


「それでも気になるなら、これから上手くなればいいさ。ダンジョンで実戦するだけでなく、〈弓術の心得〉を参考にしてみるとか、どうだろう?

 俺もスキルの〈二段斬り〉や〈二段突き〉の動きを真似して、自力で二段斬り出来るように練習したからな」

「参考にですか……ちょっと考えてみます」



 予想以上に時間が掛かってしまったので、残りは火力の力技で押し切ることにした。シルクスパイダーの時と同じだな、素早くても逃げられない範囲を焼き払えばいい。幸いにも午後の探索は〈エアカッター〉しか使っていないのでMPには余裕がある。


「〈フレイムスロワー〉!」


 地面の点滅魔方陣から炎が吹き出し、ウインドビーを中心に直径5mを焼き焦がした。火が弱点のウインドビーは薄い羽が燃え上がり、次いで胴体もあっと言う間に黒焦げになって落下する。中身がスカスカなだけあって、よく燃えるようだ。


 一番の懸念だった延焼は、少しだけ枝に燃え移っていたが、程なくして鎮火した。おそらく、生えている木なので水分が多くて燃え難いのだろう。ダンジョンだけあって、枯葉や落ち葉も無いから、燃えるのは生い茂っている枝葉だけだしな。

 9層の時は盛大に炎上したのは、崩落防止の丸太が乾燥して燃えやすかったせいに違いない。


 そして、運悪く〈フレイムスロワー〉の範囲内の枝に隠れていたシルクスパイダーが火に巻かれて落ちて来た。枝に糸を飛ばして命綱にしようとしていたようだが、延焼していた枝にくっ付いた糸は、溶けて千切れる。

 それでも、その一瞬で体勢を整えたシルクスパイダーは、8本の脚で地面に着地した。思わず拍手したくなるような着地だったが、そこから何故か動かない。その姿に微妙な違和感を覚えながらも、トドメを刺すために近付こうとしたら、レスミアに止められた。


「弓の練習台にさせて下さい」


 いつになく真剣な表情だったので、任せる事にする。シルクスパイダーなら逃げ回るだけで、然程危険は無いからな。時間は掛かるかもしれないが、練習しろと言った手前、幾らでも付き合おう。


 レスミアの放った矢は、予想通りシルクスパイダーの横飛びジャンプで回避される。しかしその直後、予想外の光景が目に入った。

 着地したシルクスパイダーが倒れ伏したのだ。もがく様に脚を動かしているが、立ち上がれない。そこに矢が射掛けられた。4本目でシルクスパイダーの頭を射抜き、動かなくなる。


 隣で小さなガッツポーズで喜ぶレスミアに、シルクスパイダーが倒れた理由を聞いてみた。


「火に巻かれて着地していた時、脚の爪が曲がっているのが見えたんです。昨日茹でていたから分かったんですけど、熱で柔らかくなっていて、着地に耐えられなかったのかなぁって。

 後は、脚の身は熱を通し過ぎると固くなるので、動きにも影響があると思ったのですけど、予想以上に動けないみたいですね」


 矢の回収ついでに近付いてみると、確かに脚先の爪がグニャリと曲がり、横飛びジャンプ後に体の下敷きになった脚は中程でゴムホースのように折れ曲がっていた。

 蟹の足の鑑定文には、熱すると柔らかくなるとあったが、生きている内も特性は同じなのか。ドロップした食材を料理していたから気付けた、なんてエピソードも面白い。ネタとして頂こう。

 この事でレスミアを褒めちぎっておいたら、少しは元気が戻ったようだ。



 シルクスパイダーの属性は土、対属性が水、弱点属性が風。火属性はダメージこそ増減しないが、弱点に次いで効く属性でもあるんだよな。単体魔法を使うなら弱点でいいが、範囲魔法のついでに巻き込むなら、ダメージ+防御力低下+行動阻害のデバフなんて十分過ぎる。


 延焼の心配も少なく、シルクスパイダーにも効くと分かった。気兼ねなく〈フレイムスロワー〉で殲滅して5戦、レスミアの料理人を取ることが出来た。




 ダンジョンを脱出して、村に戻ったのは門が閉まるギリギリだった。門番さんに挨拶してから家路につく。

 9月も後半に差し掛かり、暗くなるのが早くなっている。最近のダンジョン内では使わなくなっていたランプで道を照らし歩きながら、料理人のバフ料理について盛り上がっていた。やはり、レスミアでもダンジョン食材だけでは献立のレパートリーがかなり制限されるらしい。特に香草などの調味料が足りないので、味が単調になるとか。


 俺は香草なんて、初めからブレンドされたハーブソルトくらいしか使った事がなかったからなあ。しかし、こちらに来てから、見た目が似ている料理でも味がガラリと変わることもあると知った。今の家でも20種類程の香草が準備されていて、献立によって数種類を使って味に深みを出すとか……


 自炊をしても、野菜炒め程度で塩胡椒とか、醤油で済ませていた元大学生には難しいね。俺にとっての料理人ジョブは、食材が出やすくなる(予定)だけだから……

 料理は本職にお任せしよう。ついでに日本食の再現も、そのうちお願いしよう。



 帰宅してから、レスミアにシャワーの順番を譲り、いつも通り装備品の手入れをする。革製品をブラッシングして汚れを落とす。ショートソードも汚れを拭いたり、軽く研ぐ程度なのだが、珍しく異常を見つけた。ソフトレザーシールドの中心付近の革に2cm程の小さな穴が空いていたのだ。

 シルクスパイダーの奇襲を受け流すのに装備していたが、蜘蛛の巣で誘き寄せる方法を編み出してからは使っていない。いや……そう言えば、ウインドビーの魔法を迎撃、爆破した時に、盾に何か当たったような衝撃があったな。痛みも無かったのでスルーしたが、えーっと〈ウインドニードル〉だったかが刺さったのか?


 穴の位置からして、盾の下の硬革グローブがある位置だったので、そちらも確認すると錐で突いたような小さな傷が出来ていた。ふむ、硬革装備は貫通出来ない程度の威力か。それなら、硬革製の盾にすれば問題ないかな。




 ん? 〈ウインドニードル〉弱くないか?

 普段から〈エアカッター〉で魔物を両断していたから、違和感を感じた。似ている〈アクアニードル〉はパペット君と壁打ちくらいしか使っていないので、比較対象にし難いが、それでも土壁を穴だらけにする威力はある。


 弱点以外の魔法を打ち込んだケースの記憶を探ってみる。ジーリッツァに〈ウインドカッター〉と〈ストームカッター〉を撃ち、羊毛の下の皮も切り裂いていた覚えがあった。いや、ジーリッツァは斬撃耐性持ちだから、魔法の斬撃〈エアカッター〉がどう作用したのか分からない。魔法だから効いたのか、斬撃だから軽減されてあの程度なのか?


 今日のシルクスパイダーに火魔法も、瀕死になっている時点で半分弱点みたいなものだから、参考にならない。


 情報が足りないな。ダメージが少ないのは有難いけど、どこまで頼っていいのやら。油断して直撃したら即死は勘弁して欲しい。かと言って、ワザと食らうのも怖い。仮に、腕や足に〈エアカッター〉受けて斬り飛ばされたのでは洒落にならないからなあ。

 取り合えず、魔法の考察としてメモしておいて、後で魔法に詳しそうな人に聞くまで、一旦保留かな。

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