第93話 目標の追加

 食事のお茶を終えて、2人で洗い物をしながら雑談をする。レスミアは今日の午前中、村長の奥さんからく……脚の身の料理法を色々習っていたらしい。ただ、メインのクリームシチューは煮込み時間がかなり掛かるので、下拵えまでした後、奥さんが煮込んでくれて。ダンジョンから帰宅してから、ベシャメルソースを追加して仕上げをしたそうだ。


 脚の身クリームシチューは美味しかったので、また食べたいとお願いしてみた。すると、レスミアは嬉しそうに顔を綻ばせたが、すぐに困った顔になってしまう。


「やっぱり、煮込み4時間がネックですねぇ。毎回、奥さんに頼むわけにもいきませんし、村長一家の分まで用意するとなると、蜘蛛の脚の数が沢山いりますし」

「ん? それなら、朝か晩の空いた時間に煮込むのはどうだ? それ以外の時間はストレージに入れておけば問題無いだろ」


「あ!? それもそうですね。煮込んでいる途中でも時間が止まるなら、次の空いた時間に続きを煮込めばいいんだ」


 どうやら俺のストレージは、完成品の料理を入れておけば、熱々のまま保温出来る場所のように認識されていたようだ。

 洗い物が終わったばかりだというのに早速、下拵えをすると言うので、脚を6本取り出して調理台に置く。今日習った調理法を、忘れないうちに練習しておきたいそうだ。


 家で一番大きな鍋を取り出すのを手伝ったが、お湯が沸くまで時間が掛かるので手持ち無沙汰になる。「手伝いが必要になったら声をかけてくれ」そう言っておき、リビングのテーブルで書き物をする事にした。




 白紙を購入した頃から、漠然と考え始めていた事が漸くまとまった。


 色々な人から聞き集めたが、ジョブの解放条件はあまり知られていない。

 学校などで教える場合も『〇〇をしていたからジョブが取れた』と言う経験則をまとめ、それを子供達にやらせるそうだ。

 スカウトのジョブが欲しいなら、罠を覚え、隠れている練習用の罠を見つけ、弓の訓練をして、地図の読み方や描き方を学び、遊ぶ時も隠れんぼが多かった等。血筋が必要な魔法使いと教会での修行が必要な僧侶(間違いだが)、以外のファーストジョブの経験則は出来るだけ実施する。

 これは、どんなジョブなのか経験するのは悪くないけれど、職人希望の子が戦闘訓練で怪我したり、戦士希望の子が木箱作りに挫折したり、不満も多いらしい。


 そこで〈詳細鑑定〉の情報を公開したら、どうだろうか? そうすれば無駄な訓練は減り、自分が目指すジョブの訓練に集中出来る。まあ、為政者であるノートヘルム伯爵や教育者との意見の擦り合わせが必要だろうけど。


 それに、ダンジョンギルドに置いてある冊子。普通の鑑定では名前とレア度しか分からないからと言っても、書かれている情報が少な過ぎる。魔物は生息階層と見た目、ドロップ品くらいしか書かれていないのだ。

 その点〈詳細鑑定〉なら弱点属性や対属性、魔物の解説文まである。この辺も需要はある気がする。


 ただ、どうやって公開するかと言う問題があった。ノートヘルム伯爵に丸投げするのも悪いからな。


 そのアイデアをくれたのは、自伝「財宝は地獄への誘い道」を出版して平民に広めた自称トレジャーハンターの話だった。印刷技術があるなら、本にして売ればいい! 最低でも、この国の学校や教会に売れば、そこそこの数になるはずだ……多分。売れれば売り上げも入って美味しい!


 つまり、ジョブデータや魔物、採取物、罠等の詳細情報、ついでに魔法の考察なんかも加え、本にして普及させる『異世界ダンジョンの攻略本』計画だ!



 まあ、今のところ青写真を描いただけ。これがクラッシュしてブルースクリーンにならないよう、先ずは資料にまとめてノートヘルム伯爵に相談だな。


 テーブルに白紙とインク、丸い下敷を出して、ファーストジョブの〈詳細鑑定〉結果を書き写し始めた。



 今のところジョブは11種類しかないので、然程時間も掛からずに書き写し終わる。レベルアップで覚えたスキルも少ないからな。後はスキルを覚えたら追記していけばいい。

 魔法やスキルの詳細は別紙にまとめる事にした。戦闘用の攻撃スキル、罠看破などのダンジョンを進むのに便利な探索系スキル、生産活動に使える一般スキル等々。分類はこんなものか? まあ、スキルの数が増えたら、小分類を作ればいいか。


 ただ、魔法やスキルは〈詳細鑑定〉の説明文が簡潔すぎる場合もあるので、追加で所見と言うか、考察も書き加えた。〈二段斬り〉は体が勝手に動いて少し不快だが、剣筋は参考になるとか、ランク1単体魔法の属性別の弾速比較や、壁打ちした時の破壊力比較。ランク2壁魔法の悪用……もとい応用方法、特に〈ウインドシールド〉の砲撃に関しては筆が進む進む。非力な魔法使いでも、力自慢な戦士なみの打撃力を持てる! 


 書き進めていくが、普段使っていないスキルは内容が薄くて寂しい。考察も感想も書きようが無いのでしょうがないが。商人の〈逃げ足〉や、スカウトの〈弓術の心得〉、〈初級鑑定〉、普通のアイテムボックスとか、暇を見て使えるものは試してみるか。


 二日続けての書き物で、インク壺でインクを付けるのにも慣れてきた。しかし、ちょくちょくインクを付けなおすのが面倒に感じて、ボールペンが欲しくなる。ボールペンの魔道具とかないだろうか?




「え?〈弓術の心得〉の効果ですか?

 あまり意識した事は無いですけど……ジニアさんの訓練を受けて、昔の感を取り戻すのは早かったですね」


 既に〈弓術の心得〉を使っているレスミアにインタビューしてみたが、反応は薄い。むしろ、そんなスキルもありましたね的な反応だ。パッシブだから分かり難いのはしょうがないけど、ネタとして書けないなあ。

 ついでにレスミアのステータスを覗かせてもらって、狩猫とお昼寝子のジョブも書いた。お昼寝子は、昼寝するだけで経験値が貰える不思議なジョブだが、レベルアップして覚えるスキルが分からないのは残念だ。



【ジョブ】【名称:お昼寝子】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、猫族、猫人族専用

・神の寵愛を受けし特殊ジョブ。寝ているだけで経験値が入りレベルアップしていく。戦えないわけではないので、狩猫の様に運用できるが、お昼時になると寝てしまう。睡眠警戒があるので野営の時には便利。幸運値の補正がある数少ないジョブなので、それを目当てにすることもある。

・猫人族がお昼寝子の上位にクラスチェンジすると、猫族よりの体格に近づく。


・ステータスアップ:HP小↑、耐久値小↑、敏捷値小↑、幸運値小↑

・初期スキル:お昼寝経験値小アップ、睡眠警戒、お昼寝の心得



 しかし、レスミアに頼んでレベル上げするのも、ちょっと躊躇する。万が一、セカンドジョブにしてしまうような事があれば、レスミアがロリっ子になってしまうからだ。あの巨乳が無くなるのは勿体なさ過ぎる。パチンッパチンッと殻剥きをしているメイド姿を眺めながら、そんな事を考えてしまった。




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余談ですが、レスミアが弓の特訓を受けた日は、アイテムボックスを使うために職人のジョブでした。感を取り戻す云々について〈弓術の心得〉は関係ありません。

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