第89話 蜘蛛の巣採取と解体
13層に入りなおした。階段を目指すついでに蜘蛛の巣を狙うつもりだ。ここからのジョブは戦士レベル11、スカウトレベル11、職人レベル11に追加スキルで魔法をセットしてある。
武具はショートソードにソフトレザーシールドにした。盾を装備するのは久しぶり。買い替えるのを忘れていたのでソフトレザーのままだが、シルクスパイダーの不意打ちを受け流すくらいなら問題無いだろう。
とは言え、1人でシルクスパイダーの相手をするのは、まだ難しい。逃げる蜘蛛をどうするか考えないと。
まあ、手っ取り早い手は直ぐ思いつく。
「〈ストームカッター〉!」
地面の魔方陣から突風と風の刃が吹き荒れる。地面にいたワイルドボアは切り刻まれ、樹々の上の方に隠れていたシルクスパイダーが突風に煽られ、落ちて来る途中で風の刃に両断された。ついでに蜘蛛の巣が張られている、反対側の杉の木も輪切りになってゴトゴトと音を立てて崩れ落ちてきた。
範囲魔法の効果範囲的に、片側の杉の木が切り倒されるのは仕方がないんじゃよ。杉の木の残骸とドロップ品を回収してから高い位置に張られた蜘蛛の巣への下に行く。杉の木の間に張られており、大きさは直径2m以上、糸もうどん位太く、人間でも掛かりそうなデカい巣だ。
さて、ここでフノー司祭に習った採取方法を試すところだが、このサイズだと時間がかかるよな。なんとかして持って帰りたい。
いや、それ以前に3m程の高さなので、ストレージのウィンドウが届かない。先程範囲魔法に巻き込まれた木の残骸を足場にすれば届くと思うが……
丁度、良いものを手に入れた事に気が付いた。
「〈緊急換装〉!」
聖剣で両側の木を切り裂き、そのままストレージにまとめて格納した。フォルダを見ると杉の木が2本と蜘蛛の巣が増えている。成功だな。縦糸にバラすのは家に帰ってからにしよう。
魔物は〈ストームカッター〉で蹴散らしながら、出来るだけ蜘蛛の巣も回収して進む。地面近くに張られた蜘蛛の巣は、そのままストレージに格納出来た。
しかし、シルクスパイダーが見つからない場合、隠れている場所に見当をつけて範囲魔法を打っているので、倒し損ねる事もある。その時は追い駆けっこになった。
切り掛かるが逃げる、ぴょんぴょん逃げる。飛び道具……と言うにはアレだが、先日作った薄切り丸太をフリスビーの要領で投擲する。シルクスパイダーが左右に逃げた所を切り掛かる算段であったのに、斜め後ろに逃げやがった!当然、切り掛かるには距離がある。コイツ頭いいな!
その次は逆に、切り掛かりをジャンプで逃げられた後、着地を狙い投げナイフを投擲する。しかし、脚に弾かれた。再チャレンジしても、回転して飛んでいくので柄の方が当たって刺さらない、と散々な結果に終わった。
結局〈エアカッター〉を充填して、着地を狙うように撃つ事でなんとか倒せた。
その後も、色々と考えては試すが上手くいかず。〈ストームカッター〉で薙ぎ倒すのが最適解になり始めた。しかし、追加で〈エアカッター〉を使う事もありMPの消費が激しい。階段近くに辿り着く頃にはMPが2割程しか残っていなかった。
それは、MPが減り過ぎて頭が重く感じ始め、範囲魔法で倒し損ねたシルクスパイダーと対峙している時だった。〈エアカッター〉を使うのに躊躇している隙に、珍しくシルクスパイダーの方から襲い掛かってくる。
前脚の振り下ろしを盾で斜めに受け流し、もう片方の前脚の追撃を避けるためにバックステップで後ろに下がり……背中から蜘蛛の巣へ突っ込んだ。
バレーボールのネットにでも、もたれ掛かったような感触に、慌てて抜け出そうとするが、粘着糸がくっ付いて離れない。両手両足どころか、背中全面に蜘蛛の糸が張り付いて動けない。混乱する頭で打開策を考えて……
「〈緊急換装〉!」
腰の剣帯に聖剣が出現する。
腕が動かなきゃ、意味が無い! 〈プリズムソード〉も抜刀して、柄を握っていなければ発動出来ないじゃないか!
考えろ、何か別の打開策……あ!指先くらいは動くから、魔法なら使える!
そう思いついたが、目の前のシルクスパイダーが両方の前脚を振り上げた事で、考えが霧散する。動けないが身をよじるくらいはして、致命傷を避けなければ……硬革装備なら耐えられるから、そこで受ける!
振り下ろしの軌道を注視していたのだが、何故か攻撃は来ない。それどころか、上げた前脚を上下に揺すっている。次第に全身を上下に動かし始めた。例えるなら「えい!えい!おーっ」と勝鬨でも上げているかのよう。
あ、これ蜘蛛の巣に獲物が掛かったから喜んでいるのか? 傍から見ると何か間抜けだが、お陰で頭は冷えた。そうだよ、蜘蛛の巣なんだからストレージに回収すればいい。
ストレージを開いて、蜘蛛の巣をしまうと呆気なく解放された。
シルクスパイダーの方はこちらに背中……と言うか大きな腹の後ろを見せている。嫌な予感がしたので横にズレると、腹の先端から白い糸が噴き出した。ああ、蜘蛛の巣に掛かった獲物は糸で雁字搦めにするのか。
しばらくして、糸を出すのが止まった。俺は右手に持ったままのショートソードを振り上げる。シルクスパイダーが振り向き、俺の姿を見てビクンと驚いた瞬間に、ショートソードで頭を斬り裂いた。
ふう、聖剣すら通じない強敵だったが、何とかなったな。きっとレア種だったに違いない。
嘘です。俺の立ち回りがポンコツだっただけです。
若干、自己嫌悪しながらも、階段を降りて14層に入る。そして直ぐに〈ゲート〉で脱出した。
ダンジョンの外に出て、いつもの木陰で小休止をする事にした。スポーツドリンクくらいの甘さのリンゴ水に、手土産用に作ってバスケットに入りきらなかったアップルパイを頂いた。甘さが染み渡るようで、頭も動くようになってきた。セットした〈MP自然回復大〉の効果もあるのだろうけど。
先程の戦闘を振り返るが、今思えばMPを使い過ぎたな。ランク3の範囲魔法は消費が倍なうえ、倒し損ねた場合には〈エアカッター〉も追加で使っていたのだ。普段の3倍消費している。
それに、浮かれて使っていた〈緊急換装〉、消費は少ないが2,3回使えばランク1魔法を使うのと同じくらいだ。戦闘終了後なのだから、普通に特殊アビリティ画面からセットし直せばよかった。緊急でもないのに〈緊急換装〉は使うべきじゃないな。
しかし、蜘蛛の巣に引っかかったのは怪我の功名でもある。ワザと蜘蛛の巣に引っかかって、誘き寄せれば、ソロでも倒せそうだ。何度か試して再現性があるのかも確認したいな。
MP回復も兼ねてのんびりしていたが、休憩を終えても、まだ9時半だった。このくらいの時間は肉狩りやリンゴ狩りの村人の出入りが多いようで、結構人通りが多い。普段は10層くらいしか見かけないのに不思議なものだ。
しかし、まだMPは心許ないので、午後までに回復させるため無駄使いはしたくない。そうなると採取地巡りも控えた方がいいか……あ、5層の階段近くの採取地ならいいか。
早速、5層の蜜リンゴ狩りに出かけた。途中で出会った、懐かしのパペット君は殴り倒した。硬革のグローブなので、手の甲側は硬質化しており、殴ってもあまり痛くない。多少のストレス発散になったかな。
採取を終えて、外に出て来た。30分程しか経っていないので、MPはまだまだ少ない。
お昼まで時間があるので、蜘蛛の巣の解体?を始めることにする。
ダンジョンの裏手の林、以前レスミアが弓の練習をしていた切り株付近の空き地に、ストレージの丸太を2本立てた。〈ストームカッター〉で輪切りにされた3m程の丸太だ。その丸太の間に、蜘蛛の巣を取り出すと投網のようにバッと広がり、丸太の間にくっ付いた。
蜘蛛の巣は張られた状態で格納したから、取り出すとその状態に戻ろうとするのだろうか? 初めての現象だったので確証は無いが、その方が都合が良いので、そういう事にしておこう。
後は熱したナイフと、巻き取り用の木の棒だったな。杉の木の残骸があるので木の棒は良し。熱したナイフは……〈トーチ〉だとMPを消費するな、焚火でも起こすか。以前、イノシシ解体の際にオルテゴさんから教わったウッドキャンドルを試す事にした。
パペット君の丸太を縦に置き、Xの字に切れ目を入れる。切れ目は丸太の半分くらいまで、そこに火種の実を詰め込んで火を点けた。
火種の実の油が着火剤となり、切れ目の中心から炎が上がる様子は、確かにキャンドルのよう。オルテゴさんが言うには切れ目が多いほど、そこから空気が入り燃えやすくなるのだとか。
更に、このまま丸太の上に鍋やフライパンを乗せれば料理も出来るらしいが、今回はナイフをかざして熱してみよう。
蜘蛛の巣の外周部から、粘着質の横糸の始点を探すと一番上だった。背が高いザクスノート君の体なのでギリギリ届く、手を伸ばして熱したナイフを当ててみる。すると、熱でチリチリと少し縮み、ベロンと剥がれた。巻き取り用に持っていた木の棒で、つついてみるが、くっ付く様子は無い。熱で粘着力が無くなったようだ。
それを木の棒で巻き取っていき、次の縦糸と横糸の接着面をナイフを当てて剥がす。この繰り返しで、徐々に横糸を巻き取っていった。ただ、度々ナイフを温め直す必要があり、巻き取った分も毛糸玉ほどに大きくなってきたら交換しなければならない。手がくっ付いたら剥がすのも大変そうだしな。
横糸を全て外したら、残った縦糸を熱したナイフで1mの長さで切り取る。縦糸は時計の様に張られていたので12本。更に巣の最外部で木と繋がっていた部分や、補強に使われていた部分も粘着質ではなかったので、ついでに採取した。
巣1つで、最低でも12本採取出来たから、残り8個解体すれば必要数に達するが……思った以上に手間が掛かるな。特にナイフを温め直す待ち時間が勿体無い。何かいい手はないものか……ストレージのフォルダを眺めながら考える。
ふと、野営セットフォルダに入っていた小さいフライパンが目に入った。あ!ウッドキャンドルに置いておけば勝手に加熱されるな。これを2つ交互に使えば効率的だ。フライパンをウッドキャンドルに乗せて、2つ目の蜘蛛の巣を準備し始めた。
実際に使ってみると、小さいながらも分厚いフライパンなので、最初の加熱に時間は掛かるが、代わりに熱が長持ちするので、交換頻度も少なく済んだ。
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