第87話 騎士団からのもう一つの依頼
酒場を後にして、素材売却のためにダンジョンギルドへ寄ろうとしたが、何故か閉まっていた。仕方ないので雑貨屋に入ると、久し振りにフルナさんが一人で店番をしている。ちょっとホッとしながら、挨拶をした。
いや、今日は捕食されてないなと思っただけだぞ。
「いらっしゃい。今日は野菜の買い取りは無いわよ。全部騎士団が買っていったもの」
「そうなんですか。元々余っている物が対象なので問題ありませんよ」
「騎士団の人達、「帰り道は山菜じゃない野菜や、干し肉以外の肉が食べたい」なんて言ってたの。山狩りは大変だったみたいねぇ。
お陰で色々売れて儲かったわ~」
量が多いので、ムッツさんはフノー司祭も助っ人に連れて、食料品を納品しに行っているらしい。通りで居ない訳だ。
待っている間に、蜜リンゴと踊りエノキを売却しようとしたが、
「ん~、蜜リンゴは何個でも買い取るわ。でも、踊りエノキは売らずに取っておきなさい。錬金術の調合では色々使い道があるから、確保しておくのよ。
普通なら古いエノキは効能が落ちてしまうから、定期的に手に入れる伝手や、取り易い採取地を見つけておくのだけど、ザックス君の場合は溜め込んでおけばいいわ」
まあ、ストレージがあるからな。羨ましそうな目で見られても、どうしようもないので笑い返しておく。
取り敢えず、蜜リンゴ90個で9万円ゲット。最近は収入の殆どを蜜リンゴになっている。リンゴ農家のジョブに付いた覚えはないのになぁ。
それにしても、こんなに大量の蜜リンゴをいったい何に使っているのだろうか? 聞いても、調合素材としか教えてもらえないし……
それから雑談で錬金術の事を色々聞いた。先ほどの踊りエノキのように、ここのダンジョンで取れる素材で調合に使える物は何か? 確保しておきたいと相談したのに、帰って来たのは、全部と言う身も蓋も無い答えだった。
「錬金術は生き物以外なら、あらゆる物を調合に使えるわ。成功するかどうかは人によるけどね。
まあ、強いて言うなら鉱物系は売ってしまっても良いわ。鉄鉱石からインゴットを調合出来るけれど、使い道が少ないのよねぇ。武器とかは鍛治師の方が良い物を作るうえ、鍛治師もインゴットを作れるから、高く売れないの」
そりゃ、自前で作れるなら、素材の鉱石を買った方が安く出来るからなぁ。鍛治師のジョブは欲しいが、鍛治場は用意出来るとは思えない。鉱石は売ってしまうか……
因みに、上位の鉱石になると魔道具の素材に引っ張りだこになるので、鍛冶師との取り合いになるのだそうだ。主にダンジョンギルドからの販売配分で協会どうしが揉めるほどに……
そんな雑談をしていると、ムッツさんとフノー司祭が帰って来たので、ダンジョンギルドの方へお邪魔した。フノー司祭がやけに上機嫌なので、理由を聞いてみると、
「騎士団の連中の多くが、二日酔いで辛そうにしておってな。〈ディスポイズン〉を掛けて回って来たんだよ。なかなか良い小遣い稼ぎになったぞ」
司祭なのに、小遣い稼ぎとか言っても良いのだろうか? 今更か、教会よりもギルドにいる時間の方が長そうだし。
さっさと買い取りをお願いした。鉱物系の魔水晶とピンクソルトは半分、それ以外は全部売り、植物系は半分だけ売り払う。ついでに蜘蛛の足も半分売る。気分的には全部売ってしまいたいが、食材はレスミアの取り分もあるので勝手は出来ない。
「鉱物が全部で2万3600円、植物系とネズミの皮、蜘蛛の足が1万1600円。全部で3万5200円だ。
蜘蛛のいる13層に行ったのか、確かにこれなら問題ない。
ザックス、騎士団から指名依頼がきているが、話は聞いているな?」
「ええ、20層までの調査と、その途中で手に入る素材採取ですよね。詳細はギルドで聞けって 言われたので、教えて下さい」
フノー司祭はカウンター裏から2枚の依頼書を見せてくれた。
1枚目は、『20層までの調査と宝箱部屋の確認せよ。調査結果は報告書にまとめて、騎士団副団長、もしくは領主様に提出する事。報酬は報告書と引き換えに直に渡す』
2枚目は、『13層以降で出現する蜘蛛の巣の縦糸と、16層から出るウインドビーの蜜蝋から作られる、シュピンラーケンを10枚、騎士団へ直接納品。報酬は5万円。なお、追加1枚につき5千円で買い取る』
ほうほう、直接納品するのは街へ帰る時で問題無いだろう。しかし2枚目の方がよく分からない。もう少し詳細を聞いてみると、
「13層に行ったなら、シルクスパイダーが張っている蜘蛛の巣は見かけただろ。縦糸ってのは放射状に伸びている巣を支えている糸の事だな。横糸……螺旋を描くように張られている粘着質の糸は使えないから、間違えるなよ」
フノー司祭が依頼書の裏に、蜘蛛の巣の絵を描いて説明してくれる。縦糸はネバネバしないのか……知らなかった。
「それで採取の方法だ。火で熱したナイフを、横糸に触れさせれば粘着力が弱くなる。それで木の棒で横糸を巻き取るように外していけば、縦糸だけが残るって寸法だ。
面倒臭いからって、火をそのまま近付けるなよ、糸が溶けて台無しになるからよ。逆に温度が低くても駄目だ。お湯で温めた程度だと粘着力が落ちないからな。お湯以上の温度……金属を火で熱するのが丁度いいらしい。だからといって、鍛冶のように真っ赤になるほど高温だと、溶けてしまうから程々にな。
縦糸だけになったら、熱したナイフで切り取って紐状にしてくれ。ギルドでも買い取りをしているが、1mの長さ10本ワンセットで3千円ってところだ」
火の温度って1000℃以上なかったか? お湯の100℃以上1000℃未満……幅が広い。ただ、火で熱したナイフの温度なんて分からないし、計る方法も無いからな。実際にやって経験を積むしかないか。
「なかなか手間の掛かる素材なんですね。もう一つの蜜蝋は、ウインドビーのドロップ品ですか?」
「ああ、レアドロップだが、結構落とすから苦労はしないと思うぞ。それで、その二つを錬金術で調合すれば、シュピンラーケンが出来る。フルナに頼めばいいだろう。手数料は取られるだろうが」
錬金術か、16層で取れる素材なら俺でも作れるかも? いや、錬金術師のジョブも取っていないのに気が早いな。先に素材を集めながらレベル上げだなぁ。依頼は10枚だから、必要な蜘蛛の糸は100本、地道に集めよう。
ダンジョンギルドを出ると、外の広場は騎士団と村人達でごった返していた。馬車が数台に、馬に騎乗した騎士も多く、それらを囲むように村人達が集まっている。
門の方へ目を向けると、副団長の護衛騎士が号令を掛けて出発し始めた。知り合いは副団長とエクベルトくらいだが、どちらも見当たらない。副団長は立派な箱馬車だろうけど、エクベルトは騎乗している集団のどれかなのに、見習いの鎧兜も似たような格好なので区別がつかん。挨拶でもと思ったが、ちょっと遅かったな。
周囲の村人は手を振ったり、声援を上げたり、笛を吹いている者までいる。なかなか盛大な見送りだ。
どのみち、騎士団が村を出るまで動けなさそうなので、ステータスを見直す事にした。
昨日1日でレベルが上がったのは以下の通り。
・戦士レベル8→11 ・スカウトレベル7→11
・僧侶レベル1→7 ・採取師 レベル8→10
・職人レベル1→11 ・修行者 レベル1→7
大幅に上がっているように見えるが、半分はレベル1だったからな。こんなものだろう。そして新しくレベル10に達したジョブを鑑定してみたが、新しいスキルではなく、ステータスの補正値が上がっていた。
【ジョブ】【名称:戦士】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、武器を使用しレベルを上げる
・前衛系の基本ジョブ。重い金属製武具を装備しパーティの盾となり、物理攻撃役になる。反面、魔法攻撃は出来ず、魔法防御力も低いため魔法を受けると脆い。上位職は複数の候補があり、戦闘スタイルに合わせてクラスチェンジしよう。
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値中↑【NEW】、敏捷値小↑
・初期スキル:二段斬り、二段突き
・習得スキル
Lv 5:受け流し、挑発
Lv 10:耐久値中↑【NEW】
【ジョブ】【名称:スカウト】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、罠を5種類覚える
・前衛職ではあるが、戦闘よりもダンジョン踏破がメイン。罠の発見に、魔物の位置を感知、マッピング等、ダンジョン攻略には欠かせないジョブ。素早さを生かして敵を撹乱し、不意打ちする。戦士のように盾になれるわけではないので注意。
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、敏捷値中↑【NEW】、器用値小↑
・初期スキル:罠看破初級、マッピング
・習得スキル
Lv 5:投擲術、弓術の心得
Lv 10:敏捷値中↑【NEW】
【ジョブ】【名称:職人】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、物作りをする
・非戦闘職。何かを作ると少し経験値が貰え、出来の良いものほど経験値も増える。下積み期間なので、コツコツと練習し、〈見覚え成長〉で技術を学ぼう。物作りの際に〈作業集中〉しておくと、出来の良い物が作れる。
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑、器用値中↑
・初期スキル:作業集中、アイテムボックス極小
・習得スキル
Lv 5:見覚え成長
Lv 10:器用値中↑【NEW】
それぞれのジョブの長所である、耐久値、敏捷値、器用値が中アップの補正になっている。新しいスキルじゃないのは残念だが、これはこれで良い。ジョブ組み合わせれば、村の英雄と同じ補正が得られるからな。と、思ったが、まだ筋力値の中アップは村の英雄しか持っていなかった。
筋力値小アップでも槍を扱うのには支障はないが、中アップになると槍が軽く感じて長時間振り回しても苦にならない程になる。後は魔物、特にワイルドボアみたいに毛皮が少し硬めの奴への刺さり具合が変わるな。まあ、近接戦での攻撃力に直結するから、他のジョブでも習得して欲しいものだ。
取り敢えず、今日の最初はレベル10以下のジョブを上げておこう。10層ボス狩りだな。僧侶レベル7、修行者レベル7、商人レベル8をセットして、経験値増も5倍を着けた。他は追加スキル1つとストレージという、レベル上げ仕様だ。
準備が整い各種ウィンドウを閉じると、騎士団の最後尾が出ていくところだった。周囲にいた村人達も徐々に解散してバラけて行く。そんな中、弓を肩にかけた青年と、見覚えのあるおっさんが門の外へ走っていくのが見えた。あ!10層の肉狩り勢か。お肉には不自由してないが、ボス以外の獲物がいないというのも、レベル上げ的にはよろしくない。
俺も彼らの背を追うように走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます