第85話 血塗れの盾の真相と騎士団からの依頼

「ふむ、君も驚くのは無理もないが、まだ続きがある。

 山賊達が村を襲っている間、別動隊がダンジョンに入っていたらしい。そいつらがアジトに戻っていたところを、我々が捕縛した。しかし、あまり口を割らなくてな。木箱を1つ持ち込み、直ぐに出てきたらしいので、ダンジョンを住処にしていたわけではないようだが、それに何の意味があるのか分からない。

 そこでだ、山賊の襲撃以降でダンジョンに何か痕跡……いや吸収されて残っているはずもないか。ふむ、何か異変が起きていないか、情報が欲しい」



 何か異変と言われても、思いつくのは隠し部屋、レア種との遭遇くらいか。いや、異変といえば捨てても戻ってくる血塗れの盾があったな。

 これらをクロタール副団長に話してみたが、


「……異変と言うには少し弱いな。

 隠し部屋は、今まで見つからなかっただけとも言える。

 レア種は、低層で出現するのは珍しいが、過去にも事例はある。

 最後の戻ってくる血塗れの盾、これは単にダンジョン内に捨てたから、宝箱から出てきたのではないのか?」


 ダンジョン内に捨てたから? 関連性が分からなかったので、詳細を教えてもらった。


 木の宝箱からは、その階層で手に入る素材が入っている事が多いが、稀に中古の武具が入っている事がある。これはダンジョンに吸収された物で、状態の良いものが宝箱に入るらしい。それは捨てられた物、もしくはダンジョン内で亡くなった人の遺留品だ。もし、遺留品と分かるような目印があれば、ダンジョンギルドが報奨金をくれるそうだ。



「私も学園のダンジョンで木の宝箱を見つけたことがある。喜んで開けたら、中身は学園支給の剣でね。パーティーメンバー全員が気味悪がって、ダンジョンギルドに提出したんだ。支給の剣には製造ナンバーがあり、誰に支給された物か追えるからな。

 ギルドの調査の結果、既に卒業した侯爵家の人が在籍当時、買い替えるから捨てた、なんて笑い話に終わったがね」


 俺の方は血塗れな時点で、遺留品確定じゃないですか! ただ、安物のスモールレザーシールドには識別出来るような物は何もついていないので、遺族がいたとしても探すことすら出来ない。封印しとくか。

 因みに高価な武具には大抵製造ナンバー等があり、オーダーメイドになると家名や紋章が付くらしい。



「ダンジョンに捨てる場合は、壊してから捨てなさい。そうすれば、戻ってくることもないだろう。


 話を戻そうか。現状では異変とは言い難いが、それは君が到達した13層までの話だ。そこで、残りの階層、20層までの調査を依頼したい」


「元々20層まで攻略する予定でしたので、構いません。しかし、調査と言われても、何を調べればいいのか……地図の隅々まで見て回るというなら、騎士団の方で人海戦術した方が早いと思いますが」


 俺としては、錬金術師を取りたいので、さっさと15層以上に行きたい。ここで足踏みするのは避けたいなあ、なんて考えていたが、クロタール副団長は少し困ったように騎士団の内情を教えてくれた。


「明確に異常事態であれば、私の権限で騎士団に調査させることも出来るのだが、現状では無理だな。それに、この村に来ている騎士団は、半月に及ぶ山賊の調査と山狩りで疲れが溜まっている。早めに街に戻しておきたい。

 更に言うなら、資源用ダンジョンの調査は第2騎士団の管轄だ。緊急性もないのに第1騎士団が調査したのでは越権行為として、後々に禍根を残しかねない」


 時折、話に出ていたが、騎士団は3つに分かれているそうだ。

 第1騎士団は領主一族と領都の守護、見習いの育成、緊急時の対応。

 第2騎士団は領都以外の町や村の守護と、街の資源用ダンジョンの管理、新しいダンジョンが発生していないか領内の見回り。

 第3騎士団が貴族用ダンジョンの管理(50層以上育たないように)と、新規ダンジョンの調査や討伐。

 今回の山賊退治は緊急ということで第1騎士団が動いていたらしい。越権行為云々とか、お役所仕事という単語が頭を過ったが、組織である以上仕方がないか。


「それに、地図の隅々まで周る必要はない。君は今まで通りのダンジョン攻略に加えて、宝箱部屋を見に行ってくれればいい」

「宝箱部屋? 異変とやらは宝箱部屋で起きるものなのですか?」


「確証はないので詳細を述べることは出来ない。領主様に報告と相談が必要だ。ただ、運が良ければ宝箱やレア種と出会えるから、君にとってもメリットはあるだろう」


 クロタール副団長は微笑を浮かべているが、その表情からは何も読み取れなかった。情報を隠しているのは言葉からして分かるが、それが良い事なのか悪い事なのか判断がつかない。今までの会話から罠に嵌めようとしているのではないと思うが……


「そのレア種に苦い経験をしたばかりですし、木の宝箱では中身も大した物ではありませんよね。私としてはメリットを感じませんが……あ!探索者への依頼という事なら、報酬はあるんですか?」

「……ダンジョンギルドへ指名依頼として出しておこう。報酬の金額はあまり出せないが、私の権限で出来る事なら考慮しよう。そちらから報酬を要求したのだ、何か要望があるのだろう?」


 おお!駄目元でも言ってみるものだな。丁度、この村ではどうしようも無い案件が2つあったのだ。ストレージからフェケテリッツァの角をテーブルに出して見せた。


「このレア種の角を加工できる鍛冶師を紹介してください。後、錬金窯を購入したいので、錬金術師協会への紹介が欲しいです」


 しかし、クロタール副団長の反応は芳しくない。角を一瞥しただけで、溜息をつかれてしまった。


「君は領主様の紐付きだろう。まずは領主様に相談するのが筋ではないかね?」

「え、既に生活費等の資金援助は受けているので、追加で頼むのは心苦しいというか……」


「馬鹿者。領主様でも無理な案件なら兎も角、その程度の案件で直属の上司を頼らずに別の者に頼るなど、上司が信用出来ないと言っているようなものだ。

 特に伝の紹介など、紹介した者が後ろ盾と見られる。私を巻き込まないでくれ」


 おおう……俺は大学で一人暮らしをしている時の、実家からの仕送り程度の関係と思っていたが、外から見ると上司かスポンサーだったのか。それは確かに不味い、援助金だけ貰って上司やスポンサーを乗り換えようとしている裏切り者じゃないか。


「すみません。そこまで考えていませんでした」


「援助が心苦しいのならば、今回の調査の報酬として願い出れば問題無いだろう。先程話した事を報告書として、まとめて来なさい。

 我々は明日の2の鐘過ぎに、この村を出立する。それまでに持ってこれば領主様へ届けてあげよう」

「ありがとうございます! では、急ぎ書き上げてきますので、今日は失礼します」


 テーブル上のカップ等をストレージに回収して、席を立つ。しかし、扉へ歩き出したところで、呼び止められた。


「報告書だけでなく、近況も書いてくるように。その方が領主様はお喜びになるだろう」


 報告書は分かるが、近況も? 廃嫡されたのに、良いのだろうか? まあ、援助金を無駄遣いしてない事が分かるように、近況も書いておくか。

 再度、クロタール副団長に御礼を言って、部屋を出た。

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