第77話 個室と御馳走トンテキ
倉庫内で面取りとニス塗布(片面)を終えて、箱作りを再開したが、釘を打つのは学校の工作や自由研究で経験があるので、直ぐに終わった。
職人のジョブもゲット済み。
それじゃあ、本番に入ろうか。
取り出したのは、ゴリラゴーレムのドロップ品の2mの角材が2本。ブナとヒノキで種類が違うが、気にしない方向で。それに、宝部屋から剥ぎ取って来た木製の扉。これで個室トイレを作ります。
まあ、休憩所のトイレをレスミアが喜んでいたので、ダンジョン用に作ろうと考えていたのだ。便器は無し、地面に穴掘ってするのは変わらないので、見えないように囲いを付けるだけだな。
今度は見本も無いので、簡単な設計図を描く。白紙を買っておいてよかった、わら半紙の色紙よりずっと書きやすい。
そして、なんちゃって3面図だが、計算して板が何本いるか割り出す。角材2本で何とか足りそうだ。ペン先が悪くなりそうだが、角材の両端にインクで切り取り線を入れる。問題なのが、2mの長さをどうやって縦に切り出すかだが……
昨日、聖剣の〈プリズムソード〉を使い続ける中で、新しい操作法を見つけたのでそれを試そうと思う。ロックオンして射出するのと、カーソルを動かしての斬撃、オート攻撃に続く4つ目だな。今更だが、取説が欲しいわ。
「(風属性の1本のみ)、〈プリズムソード〉!」
緑色の光剣が出現する。ロックオンカーソルに注視して、ダイヤルを捻る様に回すと【X】と文字が表示された。更に回すと【XY】、【Y】、【YZ】と変化する。この状態でカーソルを動かしてやると、横方向のみ動くようになった。
つまり【YZ】表示は、Y軸とZ軸を固定したという状態で、X軸のみ動かす事が出来るようになるのだ。
光剣はカーソルを動かして自在に狙いを付けられるが、それは目で見える範囲の話で、標的の背中は狙い難い。しかし、この軸固定があれば死角からも狙いやすくなる。
フェケテリッツァの時は、わざわざ光剣で誘導して向きを変えさせて、脚を潰したんだよな。もっと早く知りたかったぜ。
まあ、戦闘中にX軸が動かなくなった時は、壊れたのかと思ったのは内緒だ。
角材の切り取り線に対して直線になる様に、光剣を下向きにして微調整する。【XZ】軸を固定すると、刃の向きも固定された。
その状態で、奥の切り取り線にカーソルを動かすと、光剣がシャーっと切断音を鳴らしながら移動する。奥の角材の端に着くと、カランと音を立てて切り取られた板が倒れた。
それから、同様にして角材を切り出し、板材同士をかすがいで接合する。そんな感じで組み立てを続け、完成したのは夕方だった。
昼過ぎからは、レスミアも手伝ってくれたのだが、所詮は素人2人。多すぎるくらいに釘やかすがいを打ち付け、補強として板を打ち付けたが、多分、本職からしたら無駄が多すぎるとか言われそうだ。
「扉を開けても、ぐらつかなくなりましたね。これで完成じゃないですか!」
「ああ、やっぱり足回りは大切だな」
四角い筒にすれば自立したけれど、扉を開けたら支えるのが3辺になり、更に重い扉を支えるのにバランスが崩れたのだ。結局、足回りにも沢山補強する事になった。
「後はダンジョンで実際に使ってみて、問題があれば修正するけど、取り敢えず完成だな!」
レスミアと二人でハイタッチして喜び合った。
その夜、昨日のレア種討伐と、俺の快癒、個室トイレの完成を祝って、黒毛豚のロース肉が料理される事になった。
俺としてはトンカツがよかったのだが、ブレンダーは修理中で、更に「最初はシンプルに味わいましょう」と言う料理人の主張で、塩胡椒とハーブのみでステーキに調理される。
皿には2cmと分厚いトンテキが鎮座し、こんがりとした焼き色に、香ばしい香りが堪らない。2人で配膳を終えて座るのと同時に、
「「いただきます!」」
自然と声が合わさり、食べ始めた。
ナイフでカットして、口に入れると脂が蕩けて甘さが口に広がる。赤身部分は歯応えがあり、噛めば噛むほど旨味が出て来て口が止まらない。咀嚼して飲み込んだ時、対面のレスミアと目が合った。お互いに頷き合う。喋るより味わいたい。
自制してゆっくり味わいながらも、一心不乱に食べ続けた。
あっという間だった。結構ボリュームはあった筈なのに、残っているのは付け合わせの野菜と踊りエノキだけだ。踊りエノキは石突から切り落とすと、ただのエノキダケだな。シャクシャクした食感と豚の脂が合わさって美味い。いや、脂が美味いのか。
存在を忘れかけていたスープと、パンで皿に残った脂を拭って食べる。美味い事は美味いが、豚肉本体と比べるべくも無い。
最初が美味しかっただけに、最後の方はちょっとだけ不満に感じてしまった。
レスミアも食べ終わったようなので、今日の食事中初めての会話をする。
「もう一枚、お代わり!」
「それは、流石に食べ過ぎですよ……もう一枚焼いて、半分こしませんか?」
「お願いします!」
2枚目は、フライパンに残っていた脂でニンニクを炒め、ガーリックオイルで豚肉を焼きあげる。更に、残った脂とスープ(ミネストローネ)の余りでトマトガーリックソースにした。
ニンニクの香りにそそられて、あっという間に食べてしまったのは、言うまでもない。半分こじゃなくて、1枚丸々でも良かったかもな。
それでも十分満足して食後のお茶を飲みながらまったりしていた。レスミアも満足気な笑顔で微笑んでいる。
「美味しかったですねぇ〜。
でもこれ、マズイです。これに慣れたら普通の豚肉が食べられませんよ。残ったお肉はストレージにしまっておいて下さい。冷蔵庫に置いておくと料理に使いたくなっちゃいます」
「了解。残りは2/3くらいだから、楽しめるのも後2回。次は、なにかのお祝いの時にしよう。20層クリアした時とか」
「そうしましょう。それにしても、あの黒豚とはもう戦いたく無いと思っていましたけど、こんなに美味しいお肉だったなんて……20層までにもう一回くらいお肉欲しいですね」
「レア種だから、そう簡単に会えるとは思えないけどな。この村が始まってから、今回が3度目らしいし。
まあ、美食家の貴族が、深層の食材調達に探索者を派遣するなんて聞くし、もっと先に進めばレア種じゃなくても美味しい食材に出会えるさ」
レスミアは何か言いたげな顔をしていたが、お茶を一口飲むと、いつもの調子に戻っておしゃべりを続けた。
翌日、雑貨屋でブレンダーを受け取ってから、新しい装備品に慣れるため、10層を訪れていた。
破れたウエストアーマーの他にも一新している。革のジャケットはそのままだが、その上から追加装備する硬革製のブレストプロテクターを着けて、キャップ、ウエストアーマー、グローブ、ブーツは硬革製に買い替えだ。
【武具】【名称:硬革のブレストプロテクター】【レア度:D】
・アクアディアーの革を錬金術で硬革処理した防具。軽いうえに防御力も高く、ある程度の斬撃や衝撃に耐える強度を持つ。
レスミアに「私とお揃いにしましょう」なんて言われて色も黒。微妙に気恥ずかしさはあるものの、雑貨屋で売っている最強装備なので仕方がない。
因みにアクアディアーというのが、20層ボスのお供で出てくる雑魚の鹿だそうだ。騎士団がボス素材を持っていき、雑魚の方の鹿皮は村のダンジョンギルドに売却されている。自警団が11層から先に進まないのに、20層の素材の防具があるのはそう言う訳だった。
槍を含めて一式買い替えになったので、15万円ほど飛んで行ってしまった。今まで稼いだ分など、軽くオーバーしている。ノートヘルムさ……伯爵からの活動資金があるので問題は無いが、赤字の気分だ。
今日は4次職で、採取師レベル8、僧侶レベル1、修行者レベル1、職人レベル1という育成セットだ。更に経験値増の4倍と、追加スキルで初級属性ランク1魔法を付けている。基礎レベルが15に上がったことでアビリティポイントの最大値が37に増えたから、4次職に増やすことが出来たのだ。
道中、まだらに居るジーリッツァで新しい槍の使い勝手を試し、ワイルドボアの牙を見てちょっと左足が痛む気がしたが、部屋の上から〈エアカッター〉で倒してサクサク進む。ボスのゴリラゴーレムも、追加スキルを〈ブレイブスラッシュ〉に切り替え、ダウンハメで倒した。デカくて威圧感があっても、フェケテリッツァのように威圧してくる訳でも無いので恐れる必要も無い。3回目なので慣れただけかもしれないが。
休憩所でステータスを確認すると採取師レベル10、僧侶レベル5、修行者レベル5、職人レベル5と、一気にレベルが上がっていた。経験値増の4倍と修行者の〈獲得経験値中アップ〉、そして一応はボスの経験値が合わさった結果だろう。やっぱりボスを周回した方が、効率が良いのだろうか? でも、10層は素材が殆ど取れないから、お金にならないのが痛い。
採取師レベル10で増えたスキルは〈隠密行動〉、狩猫と同じスキルのようだが、レスミアは効果が実感できないと言っていたし、気休め程度と思っておこう。
僧侶レベル5の方は〈ディスポイズン〉と〈カームネス〉。〈カームネス〉は魔法使いと同じだな。冷静沈着に行動出来るので重宝するが、ワンドがないと使えないのが痛い。あ、ストラップは昨晩加工して着けたぞ。
【スキル】【名称:ディスポイズン】【アクティブ】
・対象の体内にある弱毒を消す。人体に毒と認識されている症状に効くが、強毒の場合には気休め程度にしかならない。
ん?万能薬か何かかな? 何にでも効く風邪薬みたいな。
取り敢えず、体調が悪かったら使っとけ見たいな扱いに……既に二日酔いに使われていたな。この村に病院や診療所が無くて、怪我や病気になったら教会に行くのが常識、と言うのがよく分かる。
ハイ次、修行者レベル5は〈受け身〉だ。もっと早く欲しかった。
【スキル】【名称:受け身】【パッシブ】
・転倒時のダメージを減らし、復帰しやすくなる
パッシブで補正してくれるのは助かる。体育の授業の柔道で少し習い、アドラシャフト家で受けた訓練で、少しは練習したが、付け焼刃なのは否めない。こういった修練が必要な事ほど、身体が覚えていてくれると助かるのだが、何故か受け身に関しては全くない。剣や槍の型を振るうのは身体がしっくり来ていたのに……ザクスノート君は受け身が苦手だったのだろうか?
最後は職人レベル5のスキル〈見覚え成長〉だ。
【スキル】【名称:見覚え成長】【パッシブ】
・他人の作業や動作を見て、学習しやすくなる。職人として何かを創造するならば、まず模倣から始めよ。
メイドのフロヴィナちゃんとベアトリスちゃんに教えて貰って、欲しかったのがようやく手に入ったな。ただ、模倣と言われても、この村だと模倣する相手が……錬金術と、レスミアの料理くらいか?
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