第76話 中級属性のボスと丸太の千切り

 中級属性は、雷、氷、木の3種類で3すくみになっている。初級属性は下位なので、中級属性の敵に使っても2,3割程ダメージが減り、逆に中級属性魔法を、初級属性の敵に使えば2,3割ダメージが増える。


 氷や木なんて火に弱そうなイメージがあるが、あくまで魔法的、属性的な相関なのでリアルな物理法則は通用しないらしい。


「だから、魔法使いが居て楽に進んで来たパーティー程、慢心してボスに挑み壊滅的被害を受けたそうだよ。まあ、逆に言えばレベル20の6人フルメンバーで挑めば、損害込みでギリギリ倒せる強さって事だね」

「ボスの皮や角は有用だから、倒せれば美味しい魔物なのよ。最近は騎士団くらいしか挑んでないけど」


 なんでも、新しく騎士のジョブやセカンドクラスのジョブに着いた新人指導の一環で、半年に一度、騎士団が数パーティー村に滞在するそうだ。騎士に貸与される装備の素材回収も兼ねている。フルナさんは錬金術師なので、その皮のなめし加工を頼まれるらしい。ボス素材は騎士団が回収してしまうが、それ以外はダンジョンギルドに売って行くので、村的に潤うそうだ。


「あ、私がこの村に来た頃にも、来ていましたね。酒場が賑わっていた覚えがあります」

 レスミアは春に来たって聞いた事がある。それが4月とすると、次は半年後なので10月かな? 来月じゃん。


「まあ、騎士団に倣うなら、20層のボスは無視して他のダンジョンでレベルを上げ。セカンドクラスになってから素材目的に挑むのが、安全かな」

「あら? こんな角を持ったレア種を倒せる聖剣があるじゃない。ザックス君はそのまま挑んでも大丈夫でしょ。だからボス素材を沢山持ち込んで欲しいわ! ギルドより高く買い取るわよ」


 フルナさんが期待した目で俺を見てくるが、まだ11層の段階で約束などされては堪らない。他に買い物があるからと話題を逸らす事にした。


「買い取りと言えば、蜜リンゴと踊りエノキを買い取って貰えますか」

「あら、蜜リンゴはあるだけ欲しいわ。踊りエノキは採取地で取った物ならいいけれど、イノシシのドロップなら要らないわねぇ。

 ギルドに売るか食べちゃいなさい」


 ポーションなどの調合に使う場合、イノシシ産の踊りエノキは内包しているマナが少ないのか、効果が少し下がる。その為、自分で使う分にはいいが、売り出すにはNGなのだそうだ(値引きすれば売れなくもないが、失敗品を売りだす、腕が悪い店と思われる)



 その後、蜜リンゴを30個売り、釘やかすがい、仕上げ用のニス等の工作道具を買い。更に弓や槍などの装備品を新たに買って帰宅した。



 レスミアは家事をしに行ったので、1人で庭先にやって来た。掃除の邪魔だから追い出された訳じゃなく、DIYする為だ。

 血塗れのズボンとか自分で洗うつもりだったが、笑顔で「メイドの仕事です」と奪い去られただけ。うん、追い出されてはいないな。


 ストレージから野菜の入っていた木箱だけを取り出す。いつもは丸ごと格納していたので、じっくりと見るのは初めてだが、かなり簡単な造りだ。板材を釘で打ち付けただけなので、真似すれば、簡単だろう。


 材料は無駄に余っているパペット君の丸太。50cm程と小さいが、箱にするなら十分だ。

 取り敢えず、角材にする為にノコギリで切り始めた……が、10cmも進まないうちに、バギンッと音を立ててノコギリが真ん中から折れてしまった。


 DIY、5分で終了。


 やはり、倉庫に放置してあった工具では駄目だったか。ノコギリの錆落としに掛かった時間の方が長かったぞ……

 新しく買うべきだったかなぁ。装備品の買い替えで結構お金が掛かったので、倉庫にあった物でいいと思ったのが裏目にでたか。


 さて、新しく買いに行くのも癪なのでストレージのフォルダを漁る。ノコギリ代わりに使えそうな刃物は、薪割り用の鉈、鉱石採取用に買ったけど使っていない蚤、包丁、パン切り包丁、ショートソード、槍……


 実際に使えそうな物は、鉈とショートソードくらいかな? パン切り包丁とか、硬くなったパンでも切れるようにノコギリ状の細かい歯があるが、流石に食べ物を切る物で木を切りたくはない。


 筋力値補正を活かし、鉈を振り下ろして丸太に食い込ませる。そのまま丸太ごと持ち上げて、地面に叩きつけると、パカッっと気持ちのいい音が鳴り、丸太の端が綺麗に割れた。

 それを繰り返し、4辺を切り落として角材になったが、微妙に斜めに切れた部分もある……手作り感があると思おう。


 更に板材にする為に2,3cm幅で切り落とそうと試みたが、斜めに切れて上手くいかなかった。丸太1本切って、使えそうなのが1枚だけとか……鉈は大雑把に切るのにはいいが、細かく精度を求めるのは無理だな。


 最後はショートソードか。ゴリラゴーレムの時には大きな切り傷を付けられたのだから、全力で唐竹割りすれば……スイカ割りか! 精度がでる訳無いだろ!

 う〜む、切れ味的に振り降ろさないと切れない。精度を出す為に、包丁くらい軽々と使うにはショートソードは若干重い。


 軽くて、切れ味の良い……ピコン!と閃いた。


 特殊アビリティ設定を変更して聖剣クラウソラスとミスリルソードを取り出す。


 そして、実際に使ってみたが、やはり聖剣の切れ味は格別だ。丸太も豆腐の如く切れる。ただし、ショートソードと同じくらいの重さなので、包丁の様に扱うにはちょっと辛い。筋トレと思えば……今日は無理するとレスミアに怒られそうだな。



 次を試そうと、地面に置いていたミスリルソードを左手で拾った瞬間、右手の聖剣が軽くなった。思わず右手の聖剣をブンブンと振ってみるが、まるでダガーの様な重さに感じる。ミスリルソードを地面に置くと、元の重さに戻った。


 もしかしなくてもミスリルソードの持っているスキルのせいだよな。



【武具】【名称:ミスリルソード】【レア度:B】

・軽くて魔力伝達率が良い金属、ミスリルで作られたロングソード。普段は銀色の刀身だが、魔力を通すとエメラルド色に反射するようになる。

 ミスリル武具の特徴として、魔力を通していると魔力で刀身が保護され強度が上がり、攻撃は無属性の魔力攻撃となる。

・付与スキル〈剛腕〉〈敏速〉〈軽量化〉



〈豪腕〉の仕業かな?おそらく〈軽量化〉は字面から、その武器だけだろうし。


 色々試してみると、鞘ごと腰に佩いたり、鞘ごと持ったりしても駄目。ミスリルソードの柄を握った時に効果を発揮するようだ。二刀流でも効果があるのが知れたのは嬉しいな。



 現状では使い道は無いが。

 包丁を二刀流して、野菜を短冊切りにするようなものだ。ミスリルソードは長いので、逆手で持っても邪魔になって危ない。


 結局、聖剣は〈プリズムソード〉を使う案もあったが保留にして、ミスリルソードで試し切りを始める。軽くて包丁の様に使いやすく、丸太を大根の如く切る事が出来た。

 しかし、切っ先が地面にめり込むのがいただけない。

 丸太を4つ並べて台代わり……まな板代わりにして、丸太を2cm程の厚さで短冊切りにし始めた。



「ザックス様、何やっているんですか?」

 不意に聞こえた声に手を止める。むう、せっかく集中力が研ぎ澄まされて、1mm以下、下敷きの様な厚さが切れる様になったところだったのに。

 顔を上げると洗濯カゴを持ったレスミアが近くにいた。


「木箱を作るって言ってたのに、こんなに薄い板だと直ぐに割れてしまいますよ?」

 そう言われて、ハッと我に返る。いつの間にか、丸太が5本程短冊切りにされていた。後になる程、薄く千切りになっている。レスミアが一番薄い板を手に取り、少したわませると、パキンッと乾いた音を立てて割れた。


「……いや、ミスリルソードを上手く使える様に練習をしていただけだよ。そう! ついでに下敷きがあると便利だから切り出してみたんだ」


「あ、それなら私も1枚欲しいです。私の机、ちょっと凸凹していて書き難いんですよ。ペン先が引っかかってインクが滲むんです。数ヶ月に一度、実家への手紙を書く程度なので、忘れた頃に欲しくなるんですよね」


「分かった。少し厚めで、これはどうだ? これで良いなら、角の面取りとニスを塗って仕上げしておくよ」

 5mm程の厚さの板を選んで、見せると破顔して喜んだ。


「それでお願いします。

 そうそう、血塗れのズボンは綺麗になりましたよ。ホラ、乾かしてから、繕っておきますね」


 笑顔でそう言うと、裏手の村長宅へと去って行った。その後ろ姿、バレッタで一つにまとめられた銀髪と、揺れる尻尾に目を奪われて、つい目で追ってしまう。昨日の死線を一緒に潜ってから、レスミアの事が気になって仕方がない。

 う〜ん、顔が可愛くて、料理が得意で、掃除洗濯も好きで、繕い物まで、女子力高いなあ。いや、メイド修行に来ているのだから、メイド力と言った方がいいのか?


 その姿が建物で見えなくなる直前に、レスミアが振り返った。ずっと見ていたので、ちょっとドキッとしたが、続く言葉を聞いて脱力感を覚える。


「そのミスリルソード! また今度、私にも使わせて下さいね!」

 若干、好戦的なのは種族のせいなのだろうか? 猫だしなぁ。

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