第78話 ランク3魔法、効果検証

 休憩所の転移ゲートで一旦エントランスに戻り10層に入り直した。

 そこから9層の採取地に行こうとしたのだが、ここだけ階段が長いことを忘れていた。9層の入り口より、出口の方が採取地に近いと思ったのに、無駄に時間をロスしてしまう。ワープ装置が有るくらいなんだから、エレベーターも設置しろ!



 採取師は既にレベル10になっているので外し、ここからは3次職と経験値増の5倍、それに追加スキルで〈初級属性ランク3魔法〉を装備した。採取地への最短ルートではなく、少し遠回りをして経験値を稼ぎながら、試し打ちをするつもりだ。



 ワンドを持ち、ランク3の魔法陣に充填しながら歩くが、普段の魔法陣よりも一回り大きく、魔力の通りも悪い。普段の倍の時間とMPを掛けて充填が完成すると、地面に薄く点滅する魔法陣が現れた。それも通路の幅いっぱい……いや、壁際で切れているからもっと大きいようだ。


 多分、範囲指定の魔法陣なのだろうと、当たりをつけて調べてみると、〈プリズムソード〉のカーソルの様に動かせる事に気が付いた。 地面からは離せないが、X軸とY軸だけ動かす事が出来る。左手に担いでいた槍を地面に置き、点滅する魔方陣と比べて見ると……直径5m程か?


 通路いっぱいの点滅魔法陣を見ると大きく見えるが、体育館程の広さがあった宝部屋や、10層の大きさを考えると、小さくも感じる。まあ魔法だからな。ダンジョンから魔物が溢れるスタンビートなんてのもあるらしいから、それに対処するもっと広範囲な全体攻撃魔法もあるに違いない。まだランク3魔法だしな。


 魔法を発動待機させたまま、魔物(実験台)を探し歩く。点滅する魔法陣も一緒に動くので、チカチカして若干目障りだ。

 そして、通路の先にヒュージラットを発見。点滅魔法陣を動かし、範囲内に入れたところで、ヒュージラットを中心にロックオン出来る事に気付く。これは便利だ、動き回る魔物にも確実に当てられる。

 なんて考察しているうちに、ヒュージラットがこちらへ走って来る。……

 このままだと、俺まで巻き込まれてしまう! 慌てて魔法を発動させた。


「〈フレイムスロワー〉!」


 点滅魔法陣が赤色に変わり、次の瞬間、魔法陣から炎が立ち上がった。ガスバーナーの様な勢いで吹き上がり天井を焦がした……



 ここは9層、天井と壁には崩落防止の丸太が並ぶ階層だ。つまり、壁際を走るヒュージラットを中心に立ち上がった炎は、天井と壁の丸太まで燃やしていた。魔法の炎自体は数秒で消えていったが、燃えている丸太はそのまま延焼している。

 あっという間にキャンプファイアー会場となった。



 試し打ちに浮かれていた俺が迂闊だったとはいえ、ここまで大事になるとは。逃げたくなるが、9層は他の人も訪れる事がある所だ。このまま放置して全焼なんて事態は避けたい。完全に放火魔だしな!


 ワンドに魔法陣を出して、魔力を充填し始める。時間が掛かる事に焦りを感じるが、ランク0の〈ウォーター〉では消火が追いつかないだろうし、燃え盛る現場に入るのは危険すぎる。

 燃え広がる炎を避けるためにジリジリと後ろに下がりながらも、充填が完了し、点滅魔法陣が視界の……通路のに現れた。〈フレイムスロワー〉は地面だったが、今度は天井の位置から下に降ろせない。XY軸は動かせるので、炎が一番燃え盛っている部分を中心にして発動させた。


「〈ウォーターフォール〉!」


 点滅魔法陣が青色に変わり、滝の様な瀑布が降り注ぐ。溢れんばかりの水を見た俺は、後ろへ逃げ出した。


 降り注いだ水は、燃え盛る炎の大半を消化して行くが、地面に落ちた水は狭い通路を水路に変えて流れ始める。更に炭化して脆くなった丸太がその水の流れに耐えきれず、倒れ始めると、ドミノ倒しの様に周辺の丸太も倒れ始め、最終的には天井の丸太が落下し、支えを失った天井が崩落した。



 這々の体で逃げ出した俺は、後方近くにあった分岐路に逃げ込んだ。そこまで水は流れてきたが、数cm程だったので新品の硬革ブーツが泥水で汚れただけで済む。角から様子を伺い、崩落の轟音が収まるまで様子見した。


 しばらくして、静寂が戻ったので現場の手前まで戻ると、通路が半分程、丸太と瓦礫に埋まっている光景が目に入る。一応、火災は消えているし、崩落も止まっているので、これ以上災害が広がる事は無いだろう。後はダンジョンの自己修復に任せておけばいい。

 そう結論付けて、別ルートで採取地へ向かう事にした。




 いや〜、流石は範囲魔法だ。たった二発で、あそこまでダンジョンを破壊するとは。

 では、次を試そうか。


 残りは風属性と土属性だから炎上する可能性は無いから大丈夫な筈だ。万が一、また崩落しても最短ルートでは無いので、他の人の迷惑にはならないからな。



〈ストームカッター〉は地面の点滅魔法陣から、上方向への突風が吹き出し、その中をエアカッターの様な緑色の刃が3本舞い飛ぶ魔法だった。

 対象がジーリッツァだったので、倒せずに毛刈りで終わったが、盛大に散髪されていたので〈エアカッター〉よりもダメージは大きそうだ。因みに、壁の丸太は切り刻まれ、天井は丸太ごと切られて崩落した。



 ドロップ品? 崩落事故にあった豚さんごと埋葬されたよ。散髪帰りに事故った様だ、可哀想に……




 さて、気を取直して、別ルートへやって来ました。

〈ロックフォール〉は天井の点滅魔法陣から、通路ギリギリサイズの釣鐘状の岩塊が落ちて来る魔法だった。他属性の魔法もそうだったが、魔法陣から魔力で生み出された様に感じる。一瞬、また天井が崩落したのかと思ったが、天井の丸太は無事だった。3度目の正直だな。

 他の属性は5m点滅魔法陣=効果範囲だった。〈ロックフォール〉も同じだった場合、3m幅しか無い通路では、そもそも5mの岩塊は入らない。どうも自動でサイズ調整してくれた様な感じがした。



 対象のジーリッツァは下敷きになっていたが、そんな事よりも、その釣鐘状岩塊が残ったままと言う事の方が問題だ。岩塊で通路が塞がれてしまうが、俺にはストレージがあるのでしまえばいい。問題はその下、豚ロース肉が押し潰されて煎餅状態になっていた事だ。


 魔物がペシャンコに潰れるのはいいが、ドロップ品までペシャンコになるのは……しかもビニールが破れて消えて、地面に生肉が直置き状態である。

 お肉の下拵えの方法の一つで、叩いて伸ばすのは知っているが、まな板ではなく地面でやるのは駄目だよな。勿体無いが諦めよう。


 折角、通路でも使えそうな範囲魔法だったのに……魔物の死体が消えてドロップ品が出る前に、岩塊を回収すればイケるか?



 結論として上手くいった。

 小部屋に居たヒュージラットを〈ロックフォール〉で押し潰し、素早くストレージに岩塊をしまう事で、ドロップ品は回収可能だった。ただ、しまった後に、ペシャンコになったグロ死体を見る羽目になったが……次からは目を背ければ問題無い。


 ついでの話だが、小部屋で使った〈ロックフォール〉は一回り大きく、点滅魔法陣と同じ大きさだった。やはり通路の時はサイズ調整してくれたのだろう。気がきく魔法だな。




 総括すると、全種類とも充填時間とMPはランク1の倍はいるが、範囲が5mと広く、威力も高い。そして〈ロックフォール〉以外は通路で使用禁止。〈フレイムスロワー〉に到っては引火物が近くにある場合も禁止だな。



 点滅魔法陣について、地面に現れて上方向に吹き上がるのが〈フレイムスロワー〉と〈ストームカッター〉。それに対して、天井から落ちて来る〈ウォーターフォール〉と〈ロックフォール〉。名前にフォールなんて付いているから分かりやすい。XY軸は自由に動かせるが、Z軸の上下は固定。いや、天井が無い所で試していないから確定では無い。天井が高い10層で試してもいいかもしれない。



 今回は、あまり悪用方法が思い浮かばない。偶然、ダンジョンを破壊しただけだしな。〈ウォーターフォール〉の水量を見るに、水攻めや水責めに使えそうだが……



 その後は〈初級属性ランク1魔法〉に付け替えて、経験値稼ぎと採取地巡りに専念した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る