第69話 煙を切り裂く剣閃

 レスミアは2匹目のワイルドボアを切り伏せると、ミスリルソードを構えて叫んだ。


「ここからは通しません!!!」



 打開策としては単純に煙幕で時間稼ぎをするだけだが、後方で統率する黒いジーリッツァが居るので、煙幕の効果が薄い可能性を考えて2段構えにした。


 最初は煙キノコ2個で煙幕を張り時間を稼ぐ。ただ範囲が狭い(3m×2個)ので短時間と割り切って、特殊アビリティ設定の〈詳細鑑定〉を外し、同じ5pの特殊武器ミスリルソードを取り出すだけにする。


 20pの聖剣には比べくもないが、5pぽっちで安いと侮る事なかれ。そもそもミスリル自体が深層で手に入る鉱物なのだ。更にスキルがいくつも付いていて、刀身はロングソードと言えるほど長いのに、レスミアは軽々と振り回している。因みに、以前鑑定した結果はこうだ。



【武具】【名称:ミスリルソード】【レア度:B】

・軽くて魔力伝達率が良い金属、ミスリルで作られたロングソード。普段は銀色の刀身だが、魔力を通すとエメラルド色に反射するようになる。

 ミスリル武具の特徴として、魔力を通していると魔力で刀身が保護され強度が上がり、攻撃は無属性の魔力攻撃となる。

・付与スキル〈剛腕〉〈敏速〉〈軽量化〉



 鑑定結果には鑑定出来ないので、スキルの詳細は分からないが、名称で大体察しはつく。

 ただ幾ら対抗手段を得ても、魔物側が最初の様に5匹まとめて襲って来られたら、レスミア+ミスリルソードでも対応しきれないだろう。怪我をしてお荷物な俺が居るから……



 そこで2段目の策だ。俺の小物入れの奥で忘れ去られていた煙幕玉を使い、再度煙幕を張り、ミスリルソードを煙で隠す。効果範囲は分からないが、煙キノコよりは広いはずだ。

 魔物からすると二番煎じの煙幕は無視して、引き続き嬲るために1匹ずつ突進が来るに違いない。そこを、煙の中でも猫耳の音感知で戦えるレスミアがミスリルソードで1匹ずつ始末して時間を稼ぐ、と言う算段だ。


 念の為、俺自身に〈ストーンシールド〉を簡易防壁として貼り、レスミアに守られながら特殊アビリティを再設定する。



 そこまで時間を稼ぎ、念願の聖剣クラウソラスを取り出した。

「〈プリズムソード〉!」

 直ぐさまスキルを使用すると、MPバーが目に見えて減って、3光剣を召喚された。光剣は何故か1本増えて、赤、青、緑の3色だ。

 煙幕は徐々に晴れてきている。動く影くらいは見て取れたので、その動く影にロックオンカーソルを合わせて1本ずつ射出した。



 3匹目がレスミア目掛けて突進していたが、ミスリルソードの間合いに入る前に、光剣が頭から尻まで貫通して倒す。他の2本も残りのワイルドボアを貫通して倒した様だ。

 ミスリルソードを構えたままのレスミアは、こちらへ振り向いて笑顔を見せたが、直ぐ不満気に頬を膨らませている。獲物を横取りするなって言いたげだが、無事なら良い。



 その後、残りの赤く燃えるジーリッツァ4匹も光剣で討伐して、残りは黒いジーリッツァのみとなった。こちらを向いて咆哮を上げ、前脚をかいているので、リーダー直々に突進して来る気が見て取れる。


 走り出す前に、光剣3本全てを順にロックオンして射出する。同時に撃ちたいが、ロックオンカーソルを動かす必要があるのでタイムラグが出るのは仕方がない。

 3本の光剣が黒いジーリッツァ目掛けて殺到する…………次の瞬間、キィーンと硬質な音が響いた。それも2度、3度と。


 黒いジーリッツァが、その鼻の上の大きなツノで光剣を切り払った音だった。


 光剣はロックオンが切れてオートモードに移行して、自動攻撃し始める。目に見えない誰かが剣を振るっている様に、赤や青の剣閃が煌めき、斬撃で黒い毛が舞い散った。


 光剣なのに毛が散っただけ?!

 慌てて、緑のロックオンカーソルを動かして攻撃指示を出したところ、その後ろ脚に緑の光剣が根本まで突き刺さった。

 流石にこれは効いたのか、獣の咆哮が響く。


 更に追撃するために、緑のロックオンカーソルを動かして、突き刺さったまま横に斬撃する様に指示を出すが、緑の光剣は動かない。代わりに赤のロックオンカーソルを動かして攻撃指示を出す。赤い光剣は突き刺さったが、刀身の半分程だった。


「レスミア!肩を貸してくれ!」

 その声に、普段の倍近い速さで走り寄って来た。


「私も、このミスリルソードで攻撃に行った方が良いんじゃないですか?」


 その顔にミスリルソードの強さを試したい、と言うのが透けて見えたので却下する。手を貸してもらって立ち上がり、視界を確保する。正直座ったままだとロックオンし難かったのだ。そして、


「あの光剣を切り払う相手だぞ、危険すぎる。それよりも先ず情報収集が優先だ」

 特殊アビリティ設定を変更し、ミスリルソードを消して〈詳細鑑定〉をセットした。


「ああ! 私のミスリルソードが! まだ2匹しか倒してないのに!」



【魔物、幻獣】【名称:フェケテリッツァ】【Lv21】

・幻獣種でジーリッツァの希少種。通常種の倍以上の巨体と、真っ黒な毛、大きな牙、サイのような角が生えていて狂暴化している。油に濡れてはいないが、斬撃武器は極めて効き難く、その角は鉄装備など易々と貫く。鳴き声で周囲の魔物を従え、大きな咆哮で獲物を恐慌に陥らせる。

・属性:水

・耐属性:火

・弱点属性:-

【ドロップ:黒豚ロース肉、黒豚バラ肉】【レアドロップ:黒毛豚の角、黒毛豚の皮】



 幻獣とか明らかに強そうな種族なうえレベル21、出る場所間違えてないか? ここ11層だぞ。

 そして、斬撃が極めて効き難い……元がジーリッツァなら斬撃が効かないのも当然か。それに弱点属性が無い……そう言えば光剣にも属性があったな。赤(火属性)と青(水属性)の光剣の効きが悪いわけだ。


 フェケテリッツァの方へ目を向けると、オートモードの光剣3本と角を振り回しながら斬り合いをしている。光剣の斬撃が当たるごとに毛が舞い散っているので、ダイナミックな散髪に見えなくもないが。

 緑(風属性)の光剣の斬撃だけは、薄く血が流れる程度には切れているようだが、突き攻撃に比べて明らかに効いていない。やはりオートモードに任しているだけでは駄目だ。攻撃指示を出して、先程と同じ後脚に緑の光剣が突き刺さる。しかし、周囲に響いたのは鳴き声ではなく、甲高い金属音だった。


 音がした方に目を向けると、赤い火剣が折れて消えていく。

 予想外の光景に唖然としてしまう。聖剣は【破壊不可】の特性があるはずなのに……そこでハッと気付いた。光剣はスキルで召喚しているから対象外なのか? 制限時間だけでなく耐久値にも限界があると……

 山賊の時は一方的に勝てたので、光剣を過信しすぎていたようだ。


 フェケテリッツァは足を引き摺りながらも自慢げに角を振り、次は青い光剣に狙いを定めている。慌てて青い光剣のロックオンカーソルを動かして、フェケテリッツァの側面に回り込ませてから攻撃指示を出すが、角に切り払らわれてしまった。しかし、その隙に緑の光剣で無事な方の後脚へ攻撃指示を出す。流石に真後ろからの攻撃には対処出来ないようで、光剣の根本まで突き刺さった。



 片方を囮に、もう一方で攻撃するためにカーソル操作しているが、慌ただしい! 目視と言うか、思考で3次元に動かすのは難しく、コントローラが欲しくなる。

 そうこうしているうちに、青い光剣も折れて消えていった。


「ザックス様、後一本になっちゃいましたよ。不味いです! 追加は出来ないんですか?!」


 レスミアの言葉に、MPバーを見ると丁度半分。半分で3本召喚出来たなら、後2本は召喚出来るはず! ただし、そのまま追加しても火と水属性では効果が薄い。ならば!


「〈プリズムソード〉!」

 召喚したのは黄色の光剣。弱点が無くてもなら有利になる筈だ。ただし、代わりにMPバーがググッと減って残り1/3程になる。予想以上に消費が多い!


 黄色の光剣のカーソルを動かしてロックオンした時には、緑の光剣も折れて消えてしまう。追加召喚している間、少しオートモードに任せ過ぎたようだ。緑の光剣は囮に使いたかったのに……

 1本のみの状態で射出された黄色の光剣も角で迎撃されてしまったが、その角に大きな傷跡を残す。


 次いでオートモードで胴体に斬撃が入り、毛皮が斬り裂かれて鮮血が舞った。

 フェケテリッツァは、今まで斬撃を耐性に任せて無視していたが、鳴き声を上げて黄色の光剣そのものを警戒し始める。傷だらけの後脚を引きずりながらも、黄色の光剣を正面に捉えるように動いている。やはり、もう1本いるか。


「〈プリズムソード〉!」

 今度も(雷属性の1本のみ)と考えながら追加召喚する。紫色の光剣が現れるが、MPバーもググッと減って1.5割にまで落ち込んだ。上級程ではないけれど、も消費が重い。MPの枯渇し掛けたせいで、頭が重くなり思考が鈍る。思わず足が崩れ落ちそうになったところを、レスミアに支えられて何とか持ち直す。


「ちょっとザックス様! どうしたんですか? もしかして傷が……」

「大丈夫、ただMPを使い過ぎただけだ!」

 それでも、気合いを入れ直して紫色の光剣を射出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る