第66話 ボスの攻略法(表)

 ジニアさん達入るとボス部屋の扉が自動で閉まったあと、レスミアがポツリと呟いた。


「ザックス様はジョブをコロコロ変えていますけど、普通の人は殆ど変える事は無いんですよ。それこそ、最初に着いたジョブが合わなかったとか、上位のセカンドクラスのジョブに変える時ぐらいですから」


「でも、どうせ10層で足踏みするなら、経験値が勿体ないだろう。交代でスカウトにジョブを変えれば、もう少し先に進めるだろうに」

「……ジョブを変えるのも教会に5000円のお布施が要りますから。払えなくはないですけど、頻繁に変えるのはちょっと難しいですよ。

 それにしても、自警団の実情があんまりじゃないですか。 あれで村を守れ……ていませんでしたね」


 レスミアは山賊の事を思い出したのか、憤慨しながらも一人で自己完結してしまった。フォローしようにも、掛ける言葉が見当たらない。山賊との戦いの前に、適当に〈詳細鑑定〉してレベルを見たけど、殆どレベル15以下だったからなあ。それも肉狩りだけでレベルが上がっているとすると、正直戦力としては期待できないと思う。


 ただ俺は、この村では探索者で、何の権限も無いただのお客だ。自警団の改善なんてのは、村長や自警団自身で行うべきだしな。藪蛇になる前に、話題を変えることにした。


「それよりも、ボス戦の段取りを決めないか? 俺は、ジニアさんから教えてもらった燃やす方法は使わないつもりだ。

 レスミアは狩猫のままでいいなら、〈不意打ち〉を掛けて欲しい。ボスを中心に位置取りを…………」

 



 20分後、ボス部屋への扉が開いた。

 既に打ち合わせと準備は整っている。今回の武器は槍にして、ジョブは村の英雄レベル9、魔法使いレベル8、見習い修行者レベル8に、追加スキル〈二段突き〉と〈挑発〉をセットした。経験値増の3倍と見習い修行者の〈獲得経験値小アップ〉でボスの(多分)多い経験値を倍増する算段だ。


 レスミアを伴って部屋の中に入ると、後ろで扉が閉まる音が聞こえた。次いで部屋の中央で魔方陣が光始める。


「あれが、ボスが出てくる魔方陣ですね。それじゃ私は後ろに周ります!」


 そう言うと、レスミアは魔方陣を迂回しながら反対側へ走って行った。初めから挟み撃ち、と言う体で初めてのボス戦のレスミアを離したのだ。ボスのゴリラゴーレムの大きさに慣れるのと、攻撃方法を観察する時間はあった方が良い。


「〈ウインドシールド〉!」

 魔方陣の光が大きくなり、光の中から巨体が見える。それと同時に〈ウインドシールド〉へ石玉を投げ入れると、ガリッガリッと耳障りな音と共に射出された…………が、石玉はゴリラゴーレムに届く前に、魔方陣の光に当たって砕けてしまった。



 あ、登場演出の途中で邪魔するのはNGみたいな事か。先制攻撃になると思ったのに。仕方ないので、ストレージから石玉を取り出して、魔方陣の光が消えゴリラゴーレムが動き出してから2発目を射出した。


 的が大きいので胴体に命中して、大きな音が鳴り響くが、石玉大の凹みが出来た程度だった。衝撃でゴリラゴーレムが歩みを止めているので、効果はあると言えるが、これだけで倒すには10発以上は要るだろう。

 しかし、攻撃したおかげで俺を敵みなしてくれたようだ。

 ゴリラゴーレムがズシンズシンと足音を鳴らして近付いてくるが、正直いって鈍いのでこちらから近付いて攻撃を誘発する。丸太のような腕が振り上げられるのを見てから、距離を取るだけで簡単に振り下ろし攻撃を避けることが出来た。


 攻撃の範囲も挙動も前回と同じ、地面を叩いて硬直している丸太に〈ウインドシールド〉を押し付けてみる。風のミキサーの刃が幾筋もの線を刻んでいくが、その傷は浅い。ゴリラゴーレム自身が風属性なので、ダメージを半減しているようだ。

〈ウインドシールド〉をキャンセルして、距離を取りながら別の魔法を充填し始める。その後、攻撃を誘い避けして充填時間を稼ぎ、次の魔法を放った。

「〈アクアニードル〉!」


 針というには太い水の針が5本、魔法陣から射出され、ゴリラゴーレムの胴体に突き刺さる。属性的に等倍ダメージなので、貫通こそしなかったが、深々と刺さった針は5つの穴を開けていた。

 あと2本多ければ、胸に7つの穴で格好良くなるのに、5つだとオリオン座にしかならないな。


 そんな益体もない事を考えていると、ゴリラゴーレムの右肩から金属の針が飛び出した。金属の針は直ぐに引っ込んだかと思いきや、ゴリラゴーレムの後ろから銀色のポニーテールが翻って離れて行く。打ち合わせ通り、レスミアが後ろから〈不意打ち〉を仕掛けたようだ。防御力無視と推測していたが、貫通するほどとは……スモールソードの長さ的に根本まで刺さっていそうだ。


 実際、ダメージが大きかったのか、ゴリラゴーレムは後ろを向くために旋回し始める。レスミアの〈不意打ち〉は魔物に察知されていては発動出来ない。こちらへ注意を引くため罵倒した。


「人型の癖に可動域狭すぎだろ! 1層のパペット君を見習って、球体関節に改造してこい!」


 スキル〈挑発〉が効いたのか旋回が止まり、改めて俺の方へ向き直るが、その隙に槍を突き刺した。狙いは右肩なので、斜めに突き上げるよう刺さったが少し浅い。だが、ゴリラゴーレムが丸太を振り上げ始めたので、槍を引き抜き攻撃範囲外へ逃れる。

 そして、ゴリラゴーレムの攻撃後の硬直時間中に、槍でチクチクと攻撃を繰り返した。




 3度目の〈不意打ち〉が右肩を貫通する。それに合わせて〈挑発〉して注意をこちらへ引いた。


「腕が丸太のままなんて、手抜きだろ!」

 〈挑発〉が効き、ゴリラゴーレムが俺に向かって丸太を振り上げ…………メキメキと音を立てて圧し折れた。振り上げた勢いでそのまま後ろに丸太が倒れたため、丁度後ろに向かって逃げていたレスミアは尻尾を膨らませて驚いている。


 取り敢えず、作戦通り。〈不意打ち〉と槍の攻撃を集中させて、片腕を落とす。まだ、圧し折れただけで、1/4程くっ付いてはいるが、片腕を引き摺るように旋回する速度は更に鈍重になっていた。

 旋回に合わせて歩き、折れた右肩の根元に追撃する。


「〈二段突き〉!」

 反撃の心配が無いので、全力の突きからの〈二段突き〉という、疑似三段突きをお見舞いしてやると、右腕の丸太が千切れ落ちた。


 右腕の重量が無くなり、ゴリラゴーレムがバランスを崩して仰向けに倒れ伏すと、その脳天に〈不意打ち〉が突き刺さる。流石狩猫、やることがエグイ。多分、急所を狙えるタイミングを狙っていたな。

 しかし、ゴリラゴーレムはまだ動いており、立ち上がろうと藻掻いている。


「ザックス様~! 脳天刺したのに、まだ動きますよ! 次はどこを狙えばいいですか?!」

「ゴーレムだから、急所は無いかもしれない。立つようなら足、立てないなら頭を狙え! 左腕の攻撃範囲には入るなよ!」


 声を上げてレスミアに指示を出す。

 定番なら体のどこかに刻まれた文字を削るとか、コアを壊すとかなんだろうけれど、どちらも見当たらない。1戦目も胴体を両断したら動かなくなったけれど、内部にコアが入っていたなんてことは無かった。地道に攻撃してHPを削るか、急所っぽい所を攻撃するしかないだろう。



 しかし、片腕を無くしたゴリラゴーレムはバランスが取れなくなり、立ち上がろうとしても途中で転んでしまっていた。仕舞いには寝転んだ状態で左腕を振り回していたが、可動範囲の関係で届かない安全地帯は沢山ある。そこから、レスミアと二人でチクチク攻撃していたら、動かなくなっていた。


「やりました! ボス討伐しましたよ!」

 レスミアは喜びを隠せないようで、笑顔でこちらに手と尻尾を振っている。その様子に当てられたのか、俺も嬉しくなり、レスミアとハイタッチを交わした。

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