第53話 宝探しの戦利品と願い事

 一通り捜索して、使えそうな物を作業台の上にまとめて置いた。改めて戦利品を確認する。


 砥石や革製品用のブラシ等の手入れ道具。

 大きいシャベルに小さなスコップ、木製のじょうろ、熊手等の園芸用品。

 のこぎりやハンマー、釘、やすり等の工具。

 どれも使い古した物なので、使用人やメイドさんが使っていたものだろう。少し錆びている物もあるが、手入れすれば使えそうだ、有難く頂いておこう。



 そして、倉庫の一番奥にしまわれていた……と言うよりボロ布でグルグル巻きにして隠されていたのが、ミキサーと卓上サイズのカセットコンロだった。電化製品ではなく、魔力で動く魔道具に違いない。


 ミキサーは分厚いガラスの筒の底に3枚の刃が付いており、下の動力と思われる金属箱の部分と一体型で重い。金属箱の部分が一部凹んでいるのが気になる。

 そして、カセットコンロの方は破損しているようで、鍋を乗せる部分が2本折れており、真ん中の火が出る部分も割れていた。明らかに壊れているが、念のため〈詳細鑑定〉を掛ける。



【魔道具】【名称:ブレンダー】【レア度:D】

・内部に入れた物を刃で破砕する道具。複数の素材を混ぜ合わせる事にも使われる。

 風晶石が動力に使われているが、魔水晶も使えるように補助動力箱が増設されている。


 ※動力炉が断線している。補助動力箱が紛失している。



【魔道具】【名称:携帯コンロ】【レア度:C】

・運搬可能な小型調理用の炉。屋外での煮炊きに使えるように、金属部品にチタンを多く使い、軽量化と頑丈さを両立している。

 火晶石が動力に使われているが、魔水晶も使えるように補助動力箱が増設されている。


 ※バーナーヘッドが破損している。五徳が折れている。



 どっちも壊れてんじゃないか!

 所詮は倉庫の奥にしまい込むような物か。若干落胆してボロ布に包み直すと、ガラクタを棚に戻した。



 倉庫整理が丁度いい時間つぶしになったようで、リビングに戻るとレスミアも準備が終わっているように見える。メイド服からレザードレスと硬革装備に着替えて、髪型も後ろでお団子にまとめていた。女性の髪形には詳しくないが、三つ編みをグルグル巻きにしているようだ。

 昨日のポニーテールも弓を使うのに纏めないと邪魔と言っていたし、時間があったから念入りに纏めたのかな? 今日は風も強いし。


 ふと、伯爵家にいた頃、メイドのフロヴィナちゃんが「友達とか同僚の髪を切ったり髪型変えたりしても、男共は気付かないとか愚痴が多いのよ~」と俺に愚痴っていたのを思い出し、せっかく気付いたのだから誉めておくことにした。


「髪型変えたのかい。いつも長いから新鮮だな。それも似合っているよ」

「あ、ありがとうございます……

 丁度呼びに行こうと思っていたところです。そろそろ出ないと、依頼の時間に間に合いませんよ」


 自分的に頑張って褒めたつもりだったが、レスミアの反応は薄い。一瞬硬直したものの、いつもの笑顔で返されたからだ。

 慣れない事を言ったうえ、外すとは……俺の方が恥ずかしくなってしまい、目を背けてしまう。

 丁度その先の調理台に、作ってくれた昼食が並んでいたので、一言確認してからストレージにしまった。そして、視界の端にいたレスミアに、「それじゃ、出発しようか」と声を掛けてから家を出る。


 後ろに着いてきているレスミアは尻尾を立てて震わせていたが、前を行く俺が気付くことはなかった。

 



 依頼人への道すがら、秋の涼しい風と言うには強い風を受けて、気分が少し落ち着いてきた。気分転換も兼ねて、先程の倉庫整理の件を話すと、



「ミキサーの方は怪しいですね。案外、料理人やメイドがうっかり落としたのを隠したのかもしれませんよ。お貴族様はキッチンまで来ないので、バレ難いですから。

 それに、ミキサーが無くてもおろし金や、すり鉢で仕事には支障がありません。手間は掛かりますけど」


 メイドの間では偶に聞く話だそうだ。後々バレてしまうのが普通だが、この家の場合は引っ越しの際に大荷物にならないよう、貴族の私物以外を置いて行ったらしいので、隠し通せたのだろう。



「あ、私からのフルナさんへのお願い事で、そのミキサーと携帯コンロを直して貰うのはどうでしょう?」


 魔道具は錬金術で作られていると聞いているので、修理出来るはずだ。

 この世界では科学の代替技術として錬金術が普及しているようだが、具体的にどのような技術なのかは知らない。前世では、錬金術は化学の前身になったと習ったが、流石に魔力がある世界だから別物だと考えている。まあ、それはそれで気になるところ。


「修理費用が2万5千円以内なら大丈夫じゃないかな。俺の方の願い事は、そんなにお金は掛からないから、そっちにお金が掛かっても問題ないよ」

「お金が掛からないお願いって、なんです?」

「錬金術を体験させて貰うつもりだ。今までの傾向からして、錬金術に絡む事をすれば錬金術師のジョブが取れる筈だからね」

 若干呆れ顔で見られた。


「今幾つジョブ持っているのか知りませんが、まだ増やすのですか? 錬金術師はダンジョン攻略には向かない気もしますけど……」

「今は7つだけど、まだまだ増やすよ。複数ジョブが俺の強みだからね。

 それに錬金術師ならポーションや、役に立つ魔道具が自前で作れるじゃないか。まだ僧侶のジョブが無いから、ポーションの費用を考えずに使えるのはいいと思う」


 フノー司祭に聞いた僧侶のジョブの取り方が、教会で1年、見習いとして奉仕するだからなぁ。見習いの仕事の何かが解放条件だと思うが、確かめる術がない。この村の教会は、季節の行事と出張ヒールくらいしかしておらず、普段は開店休業状態で参考にならない。今のところは怪我をすることなく攻略出来ているが、緊急時の備えは多い方がいいに決まっている。


 後は職人か。料理では駄目と分かったので、倉庫にあった工具で適当にDIYをしようと考えている。



 村の広場を通り過ぎて、畑が多い区域に入る。家の高台から見る分には緑一色に見えていたが、実際に歩くと、通りから横に農道らしき細い道が多く伸びていた。広めの通りはいいが、農道に迷い込むと、背の高い農作物もあるため迷ってしまいそうだ。先導してくれているレスミアは、特に迷う素振りもなく歩いている。


「レスミアは、ここら辺には詳しいのか?」

「各区域のまとめ役の家には、村長のお使いで何度か行きましたから分かりますけど、流石に農道の先の小さい家までは把握してません。

 後は、休みの日にパーティーを組んでいた奥様方の家にも、お茶に行きましたねえ。お茶と言うより、取ってきた蜜リンゴの加工や、お菓子作りながらの井戸端会議ですけど」



 そんな雑談をしながら進むと、ポツンポツンと小さな家が建っている中で、平屋建てではあるが大きい家が見えてきた。近くまで行くと、家の前に40代程の見覚えのあるおじさんが立っている。野菜を差し入れてくれた人だと見ていたら、向こうもこちらに気付いたようで手を振ってきた。


「おーい、こっちだ、こっち。

 聖剣のあんちゃん、依頼を受けてくれてありがとうな。レスミアちゃんもいらっしゃい」


「オルテゴさん、お久しぶりです。今日は奥さんにお世話になります」

「おはようございます。腰の方は大丈夫ですか?」

 挨拶を交わすと、オルテゴさんは俺の肩をバンバンと叩きながら笑う。


「はっはっはっ!フノーに〈ヒール〉して貰ったから大丈夫だ……と言いたいが、無理をするなと釘を刺されてしまってなあ。それで、あんちゃんに頼むことになったんだ。頼りにしてるぜ。

 おっと、母ちゃんも呼ばんとな。おーい、母ちゃん! レスミアちゃんが来たぞー!」


 その大声に、家の中から「はいよー!」と、負けないくらい大きな声が返って来る。少し遅れて、玄関から大柄な女性が出てきた。レスミアの教官役で奥さんのジニアさんだ。

 頭に布巾を被って、ふっくらとした顔に柔和な笑みを浮かべているので、農家のおばちゃんといった感じだが、それ以外の全てが大きい。背が高く、骨太でガッチリして旦那さんと遜色ない体格で、胸はレスミアより大きそうだ。そして、胸と同じくらい大きなお腹も……前後左右、縦と全方位に大きく、豪快そうなおばちゃんだった。

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