第47話 8層と弓の腕前

 まあ、商人のスキルは残念だったが、非戦闘職なのでしょうがない。今後の転移門のスキルがメインだし……いや、〈ゲート〉のスキルがあるから必要ないな。何か役立つスキルを覚えるのを期待しよう。

 気を取り直して、ジョブを村の英雄レベル6,商人レベル5、採取師レベル5と経験値増の4倍をセットした。次は8層なのに少しレベル差が出てきた。魔物の相手をするのには苦戦はしていないが、どこかでレベリングをするのも良いかもしれない。



 レスミアを伴って8層に到着。ここまでの道中で、フノー司祭に聞いた崩落の危険性について話しておいた。そのせいかレスミアは周囲や天井を見回している。


「本当に丸太だらけ……天井の丸太が落ちてきたらと考えるとゾッとしますね。〈ウインドシールド〉が使えないのは残念ですけど」


「……だから、この階層は採取地を無視して階段を目指そうと思う。それに、さっさと11層を目指した方が採取地で取れる素材も良くなるしな」

「私もそれで良いと思いますよ。蜜リンゴが取れないのは残念ですけど、他の階層でも取れますし」


 先を急ぐために7層と同じく〈エアカッター〉でヒュージラットを倒し、ジーリッツァは槍で突き殺した。レスミアもジーリッツァ相手にスモールソードで刺突攻撃してくれるので、さらに楽になる。


「この豚肉相手なら、私の弓でも当たるかもしれません!試していいですか?」

 もはや豚どころか豚肉扱いされているジーリッツァが可哀そうになる。まあ、ノロノロと方向転換している間ならいい的になるだろう。



 道中、ジーリッツァを見つけたので待機中の〈エアカッター〉をキャンセルする。そして、追加スキルを〈初級属性ランク1〉から〈挑発〉に切り替えて注意を引き付けた。


「毛を長くしても豚は豚だな!その無駄な贅肉落としてから出てこい!」


 一応効いたようで、ジーリッツァがこちらを向いて突進してくる。それを躱して、レスミアの射線に入らないように迂回してジーリッツァを追いかけた。方向転換しているジーリッツァの足を一突きして、さらに動きを鈍らせる。ブーブーと苦情のような鳴き声が煩いが、無視して離れた。

 レスミアに視線を向けると、向こうも気付いたのか頷いて矢を放った。


 レスミアの持っている弓は雑貨屋で見ていた1m弱の短めの物だ。日本で見たことがある弓道の弓の様に大きくもないし、アーチェリーの様にゴテゴテもしていない。削りだした木に弦を張り、持ち手に革を巻いた程度の簡素な作りだ。

 そんな弓から放たれた矢は、ジーリッツァの横腹に刺さった。矢も刺突判定のようで、易々と毛皮に食い込んでいる。命中したことに気をよくしたのか、2発目3発目が矢継ぎ早に射られた。

 1発目の当たった場所から大分離れた場所に2,3発目が刺さるが、一応命中だ。その後、5発目を当てて倒すことが出来た。


「見ましたか!全発命中ですよ!」

 喜ぶレスミアに、少しおざなりに拍手をしておく。


「おめでとう!…………ただ、次はもうちょっと距離を離そうぜ」


 レスミアが弓を撃っていたのは、ジーリッツァから3m程離れた位置。弓の事は殆ど知らないが、さすがに近すぎるのは分かる。槍でも届きそうな距離では、弓である意味がない。


「順番に!順番に離して行くんですよ! 最初から遠くては当たりませんよ!」


 レスミアは尻尾を大きくブンブン振って反論してくる。可愛いので暫く眺めていたいが、死体が消えて刺さっていた矢が地面に落ちる音が聞こえたので、回収に向かった。

 矢と一緒にドロップしたバラ肉を拾う。贅肉落とせと罵倒したら、バラ肉を落とすとか潔い。まあ、偶然だろうけど、次も〈挑発〉しておこう。

 矢は血と油で汚れているので、手分けして軽く拭き取り矢筒に戻した。特に破損した様子は無いが、回収は少し手間だ。




 次のジーリッツァでは宣言通り、距離を倍の6m程にしてチャレンジさせてみた。8発目で何とか倒すことに成功。

 更に3頭目は距離を9m程にしてみたが、10発撃ち切っても倒せなかったので、俺が槍で止めを刺した。10発中3発しか命中していないので、現状では実用は厳しい。

 余談だけど、ここまでの道中でヒュージラット相手にも弓矢を試していたが、1発も当たりはしなかった。


 離れて見ていた分には、やはり弦が胸のプロテクターに当たっているせいだと思う。弓が小さいので弦を引いても顔の前までしか来ないが、弦を離すと片胸に当たってブレが生じている。

 っと、ジロジロ見過ぎたのが気付かれたみたいで、レスミアはサッと両腕で胸を隠した。


「今日のところは、これくらいにしておこう。弓は訓練して、体格に合った撃ち方を習った後の方がいいさ」

「むぅ、悔しいですけど、その通りですね」

 まだちょっと顔が赤くて不機嫌そうなので、良い情報を教えて話題を変える。


「狩猫がレベル5に上がって、新しいスキルが増えているぞ。〈猫着地術〉と〈投擲術〉だ」



【スキル】【名称:猫着地術】【パッシブ】

・高所からの着地、吹き飛ばしからの着地など、着地の衝撃を減らし体勢を整えて直ぐに行動できる。



 鑑定の説明文を教えたが、反応は薄い。


「ええ、故郷で聞いたことがあるスキルですね。建物の2階から飛び降りても大丈夫になるらしいです。体術が得意な人だともっと高くても平気になるとか。

 吹き飛ばしの着地は初耳でしたけど、ダンジョンだとこっちがメインになりそうですね」

 確かに、ダンジョン内で5mくらいの高さから落ちる状況ってあるのか……


「いや、21層以降に出てくるフィールドタイプの階層なら使い道はありそうだぞ。森とか山みたいなフィールドなら、木に登ったり、山に登ったりする可能性はある」

「あ~、でも随分先の話ですよ。ここのダンジョン20層しかありませんしね。他のダンジョンに行ってから気にしましょうよ」


 レスミアはこの村での世話役だけど、このダンジョンを攻略した後も着いてくるつもりなのだろうか? 可愛いうえ、家事や料理が出来るので、是非ついてきて欲しい。ただ、確実に50層以上の深層を攻略するのに、ただのメイドさんを巻き込むのも悪い気がする。


 まだ低層をウロウロしている時点で考えても仕方がない……そう結論を後回しにして先に進んだ。




 その後はサクサク進み9層への階段を発見したので、一時休憩をとる。ここでもリンゴ水の飲み比べを行った結果、薄目の方が良いという事で一致した。まあ、普段は甘い方が良いらしいので2種類用意することになったが、さほど手間の掛かる事ではないので問題はない。


「そうなるとリンゴが欲しいですね。皮の煮だし用なので蜜リンゴじゃなくてもいいのですけど」

「時間にはまだ余裕があるし、9層は採取地によってみるか? 奇数層だから多分植物系だと思うぞ」


「良いですね、そうしましょう! あ、ザックス様のMPは大丈夫なんですか? 8層ではずっと魔法を使ってましたよね」

「まだ大丈夫だよ。ギリギリまで使って、後は槍で戦えばいいさ。そのために魔法抜きで戦う練習をしたんだしな」


 ジョブレベルが上がったおかげか、魔法を使ってもMPバーの減りは少なくなっている。それに、今みたいな休憩中に〈MP自然回復量極大アップ〉を着けていれば、なんとか賄えるだろう。


 休憩を終えて、9層へ足を進めた。

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