第45話 豚肉の仕入れ

 1戦してみたものの、やはり聖剣は過剰なのでしまい、ジョブやスキルを再設定する。

 ジョブは戦士レベル5、魔法使いレベル6、スカウトレベル5の基本に戻した。武器は少し迷ったが、ショートソードにする。説明文にあった斬撃武器が効き難いと言う記述が気になるので、先に試しておきたい。

 スモールレザーシールドも久しぶりに左手に着け……ついでにストレージのフォルダで目に付いた血塗れの盾と鞘をポイ捨てしておく。ここならダンジョンに飲まれて消えていくだろう。いや、最初から捨てておくべきだったな。



 ヒュージラット相手にショートソードで戦うのは手間なので、〈エアカッター〉で処理して進む。魔法を充填して発動待機させながら進むと、出会い頭に撃ち込めるので楽だ。発動待機させていると息苦しくなる問題があったが、新しく覚えた杖スキルの〈カームネス〉が解消してくれた。発動待機中に〈カームネス〉を使うと息苦しさがリセットされるのだ。まあ、〈カームネス〉のMP分は消費してしまうが、魔法をキャンセルするよりはマシだろう。


 そんなこんなでジーリッツァと遭遇した時も〈エアカッター〉を発動待機させていた。風属性なのでジーリッツァには等倍で効くはず。まあ、キャンセルするのも勿体ないので、突進を避けつつ長い胴体に〈エアカッター〉を撃ち込んだ。


 豚のような鳴き声と共にウールのような毛が舞い、横一文字に大きく切り裂いた。両断どころか内臓にも届いていなさそうだが、怯ませるには十分だった。動きの止まったジーリッツァに近付き、ショートソードで斬り掛かる。長い毛皮に阻まれて、表面を滑るような感触が手に伝わる。返す刀で疑似二段斬り……しかし、2撃目も毛皮の上を滑るだけで斬れなかった。


 のたのたと方向転換してきたジーリッツァが噛み付いて来たので、バックステップで避けつつ顔を斬るが、これも毛を少し切り落としただけ。べちゃりと音を立てて毛が地面に落ちるのが聞こえた。ジーリッツァから円を描くように距離を取り、観察する。〈エアカッター〉とショートソードで切り落とした毛は、地面に水溜まり……説明文からして油溜まりを作っている。ショートソードの刀身をチラリと見てみると、滴り落ちそうなほど油に濡れていた。


 日本刀じゃあるまいし、油が付いただけで切れなくなるなんて……いや、一撃目から切れていない。切れ味を確かめるために、ジーリッツァの周囲を回り〈エアカッター〉の傷口に重ねて斬り付けた。肉を切り裂く感触と血が溢れ出るのを見て、ショートソード自体の切れ味は鈍っていない事が分かる。しかし、傷口を広げようと傷の端から皮を斬るものの、肉は斬れても皮はほんの少しだけしか斬れない。


 色々と考えを巡らせている最中に、近くで豚声が五月蠅かったので、ついジーリッツァの喉元をショートソードで刺突して黙らせた。斬撃とは違い、ショートソードが深々と喉に食い込む。それが止めとなり鳴き声が止んで、辺りに静寂が戻った。

 まあ、刺突なら効く事が分かったから、問題ないな……


 結局、斬撃は殆ど効かずに、刺突は易々と食い込んだ。それに、鑑定の説明文にわざわざ『斬撃武器は効き難い』なんて記載されるくらいだ。物理的に油で滑って入れないというよりは、魔法的かスキル的に斬撃が効かないと考えた方がいいだろう。いや、聖剣は楽々切り裂いていたから、効かないではなく斬撃耐性と言ったところか……


 つくづくゲームっぽい世界だ。まあ、魔法がある時点で日本の物理現象なんて参考程度にしかならないか。問題は鑑定の説明文にしか情報が無いという点だ。属性的な弱点は項目があるのだから、斬、打、突といった物理属性の項目もあればいいのに。新種の魔物の説明文はよく読むしかないか。


 そう言えば、説明文にある『火で簡単に燃やすことが出来るが……』の文言に引っ掛かりを覚えた。油で燃えやすいが、耐属性が火なので、効き難いのは分かる。ただ、濁しているのが少し気にかかった。火を纏ってパワーアップとかだろうか? まあ、どちらにせよ、この丸太だらけの階層だと延焼から崩落のコンボになりそうなので止めておこう。



 ドロップしたのは残念ながらラードだったが、使い道は色々あるのでストレージに入れておく。ストレージを開けたついでに、刺突が効くのなら槍の方が楽だろうと考えて武器も槍に持ち替えた。

 6層の採取地が鉱石系だったので、この7層は植物系と推測できる。蜜リンゴを取る当てはあるので、先を急ぐことにして、階段を目指した。


 結果として、槍に変えたおかげで、かなり楽になった。突進を避けてから方向転換している間に追いついて、周りを回りながら槍で刺すだけで倒せてしまう。

 槍も易々と刺さり、足を重点的に刺していくと方向転換も出来なくなって一方的に刺し放題だ。気分的に海賊の入った樽を刺して回っているみたい。豚は飛びあがらないけど……

 4,5回は刺さないと倒れないのでHPは高いのだろう。それ以外はヒュージラットより弱そうだ。村人にお肉扱いされているのがよく分かる。そして何匹も倒していると念願のお肉がドロップした。



【素材】【名称:豚ロース肉】【レア度:E】

・豚の背中の肉。きめ細かくてやわらかく、適度な脂肪がついていて脂身の甘さを感じやすく美味しい。



 手に持つと1kgはありそうなデカい塊肉だ。スーパーのようなパック売りではなく、お肉屋さんで量り売りしているような大きさなので、ちょっとテンションが上がる。こちらの世界に来てから豚肉料理も食べているが、煮込みやステーキが多い。サクサクのトンカツが食べたくなってきた。後でレスミアに相談してみよう。



 ジーリッツァは槍で刺し殺し、ヒュージラットは〈エアカッター〉で両断してサクサク進む。新しい魔物が増える階層なのに、少し拍子抜けな気分だ。まあ、魔物が複数出るようになればジーリッツァ相手にも苦戦するかもしれないし……

 むしろジーリッツァは数が多い方が美味しいかもしれない。ヒュージラットと同じ程度の数を倒して、ネズミ肉は0だけど(要らないが)、早くも新しい豚バラ肉もゲット出来た。



【素材】【名称:豚バラ肉】【レア度:E】

・豚のあばら骨周辺の肉。皮と赤身と脂肪が層になっており、とても柔らかい。



 皮付きの豚バラなんて初めて見たよ。皮付きの料理なんて……修学旅行で行った沖縄料理の角煮くらいしか思い出せない。名前も覚えていないけれど、プルプルで柔らかく、甘辛くて美味しかった覚えはある。記憶が曖昧なのは今更なのでしょうがないが、醤油がないと日本の角煮は作れないよなあ……何か他の料理がなかったか、暇な時にでも思い出してみるか。



 その後は特に波乱も無く、ラードや豚肉を仕入れて8層へ辿り着く。8層の階段部屋を見渡すと、7層と同じく丸太に囲まれている。

 懐中時計で時間を確認すると11時少し前だったので、慌てて〈ゲート〉で外に出た。

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