第44話 隠し部屋の確認と羊?

 それから僧侶の話を聞きながら進んでいたが、フノー司祭が思い出したように急に話題を変えた。


「そう言えば壁壊して隠し部屋を見つけたって話してたが、一応忠告しておくぞ。この6層みたいに、部屋の入り口が丸太で補強してある場所が有るだろ? あれは壊すんじゃないぞ。天井が崩落する事があるからな」


 坑道みたいな階層なので雰囲気作りかと思っていたが、本当に補強だったのか。木材取れるかもなんて、考えた事があったけど危なかったな。丸太を余らせてくれたパペット君に感謝だ。


「7層なんて補強の丸太だらけでしたけど、もしかしてあれも……?」

「ああ、天井まで補強の丸太が並んでいただろ。あれも連鎖的に落ちてくるらしいぞ。どこまで連鎖するかは運しだいだな。足止め程度ならいいが、最悪生き埋めだ」


 そうなると入り口付近でシールド魔法を使うのも危ないな。〈フレイムシールド〉で燃やしたり〈ストーンシールド〉をぶつけて丸太を倒したりしそうだ。



 そんな雑談をしていたら、隠し部屋の扉のあった所に辿り着いた。しかし、既に修復された後のようで、一面ただの土壁にしか見えない。昨日通った場所が〈マッピング〉スキルで思い出せるからいいが、事前情報がないと分からないだろう。


「おい、ザックス。本当にここなのか? ただの壁にしか見えないぞ」

「この土壁の向こうに扉が埋まっているのは確かです。ツルハシで掘ればいいんですが、つなぎ目も見えないのにこちら側から発見するのは無理ですよね? 何か手掛かりがあると思うんですが」


 フノー司祭は俺が示した周辺の壁や床を調べている。


「こういうのはスカウトの仕事なんだがな。ザックスも周りを調べろ。多分スイッチか何かがあるはずだ」



 コンクリートの様に真っ直ぐ平面な壁ではなく多少凸凹していて、ぱっと見では何処も怪しいようにも、何もない様にも見える。取り敢えず、扉が埋まっている周辺を手で触ったが何も見つからない。そんな時、

「邪魔すんじゃねえ!」


 大声がした方を見ると、フノー司祭がヒュージラットをメイスで殴り飛ばしていた。文字通り、飛び掛かってきたのをホームランして、近くの壁に血の花を咲かせている…………壁に違和感がある。

 よくよく見てみると、壁伝いに流れている血が、数㎝程の円形に避けている部分があった。近付いて観察しようとすると、ヒュージラットの死体が消えると共に壁の血も消えてしまった。


「まったく、出てこんでもいい時に……おお!ネズミ肉落としたぞ、こいつ!」

 フノー司祭はドロップ品に目を奪われているが、俺は先ほどの円形の部分が気になり触ってみると、カチッと音を立てて沈み込んだ。次の瞬間に横合いから何かが崩れる音がした。


「お、扉が開いたぞ! ザックス、スイッチ見つけたのか!?」

 音のした方を見ると開いた木の扉と、その前に崩れた土壁があった。扉のカモフラージュに被さっていた土壁だろう。

「ええ、ここの壁に丸いスイッチが、地図に記載しておいて下さい」



 それから小部屋の中を確認したが、木の宝箱は無くなっていた。部屋の奥の壊れた壁も修復され、天井にヒカリゴケが生えて少し明るくなっている。


「聞いたとおりの狭い部屋だな。しかし、こんな低層でも隠し部屋があるとは……」

「低層でもって事は、深層だとよく見つかるのですか?」


「ああ、結構あるぞ。宝箱以外にもモンスターハウスとか採取地、ただのショートカットと様々だな。

 まあ、スカウトのスキルで見つけられるんだが、こんな低層に高レベルスカウトが来るわけも無いから、今まで見つかってなかったんだろう」





 今回の宝箱の一件で、講義で習った事を思い出す事は無かった。ただ運が良かったで、終わってしまったからだ。宝箱はダンジョンのマナから作られるため、マナが多い所ほど宝箱が出現しやすい。つまり、今のランドマイス村のダンジョンはマナが多い状態だ。この事に気付くのは、ずいぶん後になった。





 〈ゲート〉のスキルでエントランスに戻ってきた。フノー司祭は周囲を見回して赤と青の鳥居を見つけると、溜息をつく。


「本当に地上に戻って来られたな。まあ、時間的に助かるからいいか。

 ザックス、明日でも構わんからギルドに顔出せよ。地図改定の報奨金があるからな」


 そう言って村へ帰るフノー司祭を見送り、転移ゲートから7層に戻った。



 7層の階段部屋で周囲の壁や天井を見上げると、先ほど話題にした補強の丸太が一面に見える。話を聞く前ならばログハウスの中にでもいる気分になれたかもしれないが、今では欠陥住宅にでもいる気分だ。

 流石に全てが連動して崩れるとは思えないけれど、試す気にはなれない。この階層では〈ウインドシールド〉の砲撃はもちろんのこと、〈ファイアボール〉等の火属性魔法も使うのは控えよう。


 因みに天井も丸太に覆われているが、その丸太にヒカリゴケが生えており光源は問題無く。壁の丸太にも電球の様と言うか、苔玉のように丸まったヒカリゴケが所々に生えている。光る苔玉とか売れそうなのに、持ちだすと枯れてしまうのが残念だ。



 この階層からは村で人気の豚肉……もとい豚魔物が出てくる。初戦闘なので、村の英雄に聖剣クラウソラスで挑む事にした。

 途中でヒュージラットと出会ったが、飛び掛かりを回避しつつ、雑に聖剣を横に振るうだけで両断する。槍で急所を狙ったりしているのが馬鹿らしくなる切れ味だ。さらに切れ味が鈍らないので血糊を拭う必要もないし、汚れてもポイントに戻して再設定すれば綺麗になって出てくる手間いらず。やっぱり、聖剣に慣れると駄目になるな。


 そしてようやく新しい魔物の羊に出会えた……いや、どう見ても毛が長くてモコモコしているし羊だろう。鑑定を掛ける。



【魔物】【名称:ジーリッツァ】【Lv7】

・羊のように毛が生えた豚。毛が油で濡れているため、斬撃武器は効き難い。油塗れのため火で簡単に燃やすことが出来るが……攻撃は体当たりと噛みつきだけなので攻撃力は低い。

・属性:水

・耐属性:火

・弱点属性:土

【ドロップ:ラード】【レアドロップ:豚ロース肉、豚バラ肉】



 豚だったわ。ドロップ品まで圧倒的に豚。ウールでもあれば羊の可能性もあったかもしれなかったのに。まあ、顔つきは豚鼻があるので豚に……駄目だ、豚顔までモコモコしているので、今度はぬいぐるみに見えてきた。


 観察を続けているとジーリッツァもこちらに気付いたようで、低い唸り声を上げて突進してくる。ただ、ヒュージラットより遅く、飛び掛かっても来ないので避けるのは楽だ。代わりに体が倍以上にデカいので、受け止めたり、受け流したりするのは無理だろう。

 体当たりを避けられたジーリッツァは10m程通り過ぎてから停止し、その場でのたのたと方向転換を始めた。


 暫く観察を続けたが、体当たりと方向転換を繰り返すだけの短調なものだった。方向転換した時に近くにいると噛みついてくるが、速度が遅いうえ、首の届く距離にしか噛みついて来ないので1歩後ろに下がるだけで避けられる。

 避けたついでに頭を叩き切ったが、聖剣の前に頭蓋骨ごと両断してしまった。鑑定の説明文に斬撃武器が効き難いなんてあったが、聖剣では相手が悪かったか。



【素材】【名称:ラード】【レア度:F】

・豚の脂身から精製された油脂。製パンや製菓、炒め物などの料理から、ロウソクや石鹸、潤滑油など、幅広く利用されている。



 ドロップしたのはビニール袋に入った四角い白い塊、ラードだった。説明文にはラードなんてあるので、脂身がドン!と出てくるのかと思いきや、既に精製済みとは……ネズミの皮とかもなめし革状態でドロップすればいいのに、ダンジョンの基準はよく分からない。




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 ぬいぐるみで知った口ですが、マンガリッツァ可愛いよ、マンガリッツァ。お高いけど、いつか食べてみたい。

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