第43話 現地確認と僧侶の手掛かり

 翌朝、忘れていたジョブの確認をしたが、職人は追加されていなかった。蜜加工は料理カテゴリーで、物作りにカウントされていないとかだろうか? 他に何か簡単に出来る物作りを考えるしかないか。



「いらっしゃい。蜜リンゴ待ってたわよ。あら、レスミアちゃんもおはよう」

 雑貨屋に入ると、やけにニコニコ笑顔のフルナさんが出迎えてくれた。挨拶を返して明細書を受け取り、定位置に置いてある野菜入りの木箱をストレージにしまう。


「はい、今日の分の代金です。後は昨日話していた蜜リンゴを26個買い取りお願いします」

「あら、30個じゃないの? 容器を準備して待ってたのに」


「昨日、売りに来た時はあったんですけどね。食材に関しては家のメイドさんの権限なんで」

 陳列されている弓を見に行っているレスミアを指差して、軽く返しておく。


「仕方がないわねえ。1個1200円で31200円ね。蜜リンゴはこっちのバスケットに入れて頂戴」

 ストレージにから取り出してバスケットに入れると「先に冷蔵庫にしまってくるわ」と、奥に引っ込んでしまった。


 レスミアの様子を見に行くと、小さめの弓を構えて弦の具合を確かめているようだ。


「良さそうな弓はあったかい?」

「多分、これが使い易そうなんですけど……ちょっと自信がないのでフルナさんに相談してからにします。

 それとこの後、革のドレスの上に付けるプロテクターとかも見ますので、時間が掛かりますよ。そこまで付き合わせるのも悪いですし、ザックス様は先にダンジョンに行って下さい」


 レスミアを眺めているのも目の保養になりそうだけど、防具とはいえ服に絡む話だと男は邪魔か。ストレージからスモールソードを取り出して渡しておく。


「それなら、こいつの鞘も買っておいてくれないか。レスミアが使うものだし好きな鞘を選ぶと良いさ」

「分かりました。豚革の鞘だと、あまり種類は無さそうですけどね。

 お気を付けて、行ってらっしゃいませ」


 レスミアに見送られて、隣のダンジョンギルドへ向かった。



 ダンジョンギルドに入ると、いつもより威圧感の増したフノー司祭がいた。いつもの司祭服の上にブレストアーマーや籠手を身に着け、腰の後ろには厳ついメイスが頭を覗かせている。


「おはようございます。物々しい恰好をして、どうしたんですか?」

「待っておったぞ。では、昨日話した6層の現地確認に行くぞ」


 そう言うと、さっさと出て行ってしまったので、慌てて追いかける。そしてダンジョンへの道すがら話を聞くと、本来現地確認には第3者のスカウトに依頼するそうなのだが、人手不足で頼める人がいないらしい。


「それ以前に、今この村のダンジョンを攻略している探索者がザックス以外に居ないからな。農家の人たちは肉狩りか蜜リンゴを取りに行くだけだ。

 それに、6層だと外に出るのに急いでも5,6時間はかかるからな。半日以上かかるのに報酬は安いから誰も依頼を受けてくれんだろう」


「急いでいたのはそう言う訳でしたか」

「ああ、午前中は来客も少ないからフルナに店番を頼めるが、夕方前には農家の人達が来る。それまでには戻りたいな」


 ダンジョンから出るには1層まで戻るか、10層ごとのボスを倒した後の帰還ゲートを使うしかないので、その中間の6層辺りだと昇るのも下るのも大変だ。その点、俺は特殊アビリティ設定が合ってよかった。取り敢えず、フノー司祭に〈ゲート〉の話をして、急ぐことはないと説明する。



「もっと早く教えろよ。6層だけならメイス一つでよかったじゃないか。

 それに、歩きながら食べれるように燻製肉を作って来たのに……一つ食うか?」

 フノー司祭が腰に付けた袋から平べったいジャーキーのような物を取り出す。燻製の香りに隠れているが、独特な獣臭に嫌な予感しかない。


「その臭いはもしかして……」

「ああ、昨日のネズミ肉だ! 3つも塊肉が手に入ったからな、串焼きで飲みつつ燻製も作ったんだよ!」

 一応善意で勧められているので、断りにくい。小さめの一口サイズの物を受け取り口にした。


「味は良いですけど、やっぱり臭いが気になりますね。もっと香草で臭み消しすると美味しいと思いますけど……」

「ザックスもそれを言うか……なかなか同志はおらんなあ」


 後味が悪く、食べ終わっても口の中が臭うので、ストレージからリンゴ水を出して口直しをする。一番甘いタイプを飲んでみたが、ハチミツとレモンのジュースに近い。スポーツドリンクと言うにはちょっと甘いけれど、これはこれで女性や子供受けしそうだ。




 7層から6層の大部屋に戻ってきた。スカウトのジョブを装備してあるので昨日歩いた部分は思い出せるので、隠し部屋へ向かって先導する。昨日と同じくヒュージラットに出会っても壁に向かって走り去ってしまうので戦闘にもならない。フノー司祭は「肉のチャンスが」なんて呟いている辺り、肉狩り農家の人たちと同じ村の住民って気がするなあ。


 戦闘は無さそうなので、雑談ついでにフノー司祭が腰に付けているメイスを見せて貰った。手に持たせてもらうと総金属な見た目ほど重くはない、自分のショートソードと同じくらいの重さと感じるが……何か違和感がある。腰に付けていたショートソードを抜いて比べてみると、ショートソードがいつもより軽い!? ダガーくらいの重さに感じて頭が混乱しそうだ。一言断ってからメイスを鑑定させてもらうと……


【武具】【名称:ウーツバトルメイス】【レア度:C】

・ウーツ鋼製のメイス。頭部には6枚のウーツ鋼板が放射状に取り付けられており、打撃の衝撃点を集中させることにより威力を上げている。魔法媒体ではないが、ウーツ鋼自体は魔力が通しやすいので充填速度は少し早くなる。

・付与スキル〈怪力〉〈毒耐性小〉


「この付与スキルにある〈怪力〉って、どんな効果なんですか?」

「はっはっは、思ったより軽くて驚いただろう。実は、その〈怪力〉の効果で筋力値が上がっているだけなんだがな。何でも戦士のサードクラスと同じ筋力値補正が付くスキルらしい」


 今装備している村の英雄の筋力値補正が中で、メイスを持つと筋力値が増えているので中より上の補正か。サードジョブがダンジョン攻略の主力とか言われるのがよく分かる。ショートソードがこれだけ軽くなるなら、一息で2段斬りどころか3段斬りくらいスキル無しで出来そうだ。槍なら3段突きか……沖田総司ごっこが出来るな、あれは刀だけど。


「まあ、司祭のジョブは筋力値補正が無いから、重量装備が出来なくてな。このメイスみたいに付与スキルで何とか前線に立てていたんだよ」

「司祭……僧侶系って前線に立つ職業じゃないような。因みに僧侶系のジョブに就くにはどうしたらなれますか?」


「ん~、教会で1,2年見習いをやれば、大抵は僧侶になれるぞ。

 あと、僧侶は普通後衛だな。俺は孤児院の出身だから僧侶になったが、戦士にも憧れていてな。戦士の様に前衛で戦えるように体を鍛えたんだ。まあ、戦闘系の攻撃スキルが無いから殴るしか出来ないし、耐久値の補正も無いから柔らかい壁役なんて中途半端になっちまったがな」


 厳ついおっさんでギルド長をやっているので、引退した高レベル探索者とは思っていたけれど、それほど強くないのだろうか? 失礼とは思うが〈無充填無詠唱〉をセットしてこっそり鑑定させてもらう。


【人族】【名称:フノー、36歳】【基礎Lv32、司祭Lv32】


 講義では30層からがダンジョンの本番なんて聞いているが、その本番に通用しなかったんだろうか? まあそれでも、ランドマイス村のダンジョンは20層までしかないうえ、探索者が1パーティー(俺)しかいない過疎地だから、ギルド長としては十分なんだろう。

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