第41話 ホワイト村と地味な英雄
ダンジョンギルドに入ると、フノー司祭が木箱を抱えて整理していた。先ほどの自警団の人の持ち込みだろう。
「お疲れ様です。今朝受けた依頼のネズミ肉。手に入りましたよ」
こちらに気付いて、木箱を抱えたまま詰め寄ってきた。司祭というより、ギルド長とかが似合ってそうな厳ついおっさんなので暑苦しい。木箱に押されて数歩下がる。
「早かったじゃないか! お前さんはいつも朝に来るから、今日は我慢する気だったんだぞ」
「ハハハ、依頼を受ける時に「今食べたい」なんて言われたので、早めに切り上げて来たんですよ。他の素材もあるので買い取りお願いします」
「それならさっさと終わらせよう。
おっとこれ以上、人が来ないように先に閉店にしないと……」
扉の外に閉店の札を掛けてから、奥の倉庫で鉱物系の買い取りを始めた。
「鉱石類が8400円、植物系が800円、ネズミの皮が6600円、ネズミ肉が3000円、合計で18800円だ。ネズミ肉3つとは運が良いな!」
ついに収入が銀貨(1万円)越えになった! レスミアと山分けしても1万弱なうえ、蜜リンゴはまだ別にある。まだ低層なのに儲かるようになってきたな。植物系が蜜リンゴ以外、安値なのはいただけないが…… でも植物系の採取地行かないと蜜リンゴは手に入らないしなあ。
「それじゃあ、これで閉店な。俺は酒を買いに行かなきゃならん。今夜はネズミ肉パーティーだ!」
買い取り金額を手渡すと同時に、出て行こうとするフノー司祭を呼び止める。
「ちょっと待って! 6層の地図に誤りがあったというか、隠し部屋を発見したんですけど、ギルドに報告が要りますよね?」
「ふむ。6層というと迷路の所か。それが本当なら現地調査が必要になるが……緊急性も無さそうだし、また明日の朝来てくれ。いや、何だったらネズミ肉の串焼きでも食べながら聞いてもいいが?」
「いえ、レスミアが夕飯の用意をして待ってますから、遠慮しておきます」
そう返事をするや否や、背中を押されて雑貨屋に押しやられた。
「あら、いらっしゃい。もうすぐ5の鐘だから手短にね」
フルナさんがモップで床掃除をしながら、出迎えてくれた。いや、暗に「早よ、出てけ」と言われた気もするが。
「今朝話した時に、蜜リンゴがもっと欲しいような事を言っていたので売りに来ましたよ。あと、蜜リンゴの蜜を入れる瓶と、水を入れるピッチャーが欲しいです」
「瓶ならそっちの棚に並んでいるから好きなのを選びなさい。ピッチャーは木製でいい? 陶器やガラス製は高いわよ」
昨日、蜜リンゴの蜜を詰めた瓶と同じサイズを10個選んで、カウンターまで何度か往復して持っていく。
「木製でお願いします。あ、このビアジョッキも良さそうですね。これも2つ下さい」
瓶を運ぶ際に目に留まったのが、木製の小樽に取手を付けたビアジョッキで、1リットルは入りそうな大きいサイズだ。フルナさんが持ってきてくれた木製のピッチャーも2リットルは入りそうな物で、これも3つ程選ぶ。
「こんなに容器ばっかり、宴会でも開くのかしら? それじゃ、しめて1万7千円ね」
今日稼いだ分が殆ど消えたが、必要経費と考えよう。
「後は、蜜リンゴを30個買い取りお願いしますね。あ、先にカウンターの瓶とか片付けますから」
買った物をストレージにしまっていると、フルナさんが驚いた様子で聞き返してきた。
「30個?! ちょっと多いわね。蜜リンゴは早めに加工処理したいし……」
話の途中で5の鐘の音が鳴り始める。
「あら、時間切れね。今日はもう閉店よ~」
「ええ、またですか? さっきギルドでも追い出されたところなのに」
フルナさんに腕を掴まれて、出入り口まで連れていかれた。
「主婦は夕飯の準備をしないといけないのよ。それにあなたのアイテムボックスなら時間が止まっているから明日に回しても問題ないでしょう。
またのご利用をお待ちしておりまーす」
笑顔で手を振られて見送られた。定時で閉店とか、なんてホワイトなんだ。
いや、田舎特有の閉店時間が早いだけな気もするが……蜜リンゴだけでなくスモールソード用の鞘も見たかったけど、フルナさんの言う通り、急ぎではないので明日でも構わないか。そう考えて帰路についた。
帰宅してレスミアに声を掛けてから、裏の倉庫で装備品の手入れを始める。今日は土埃の汚れだけなので、簡単に済んだ。槍とショートソードのついでに、スモールソードも手入れをしておく。ただ、一緒に手に入れた血まみれの盾は一旦取り出したものの、直ぐストレージに戻した。改めて明るい所で見ると、あまりの汚れ具合に目を背けたくなったからだ。呪いが無くても安物なので、わざわざ洗浄する気も起きない。取っておいてもしょうがないし、ダンジョンにでも捨ててしまおうか。
そして、お風呂に浸かりながらステータスチェック。今日のダンジョン攻略で商人以外はレベル5を超えた。それに伴い新スキルが手に入ったので、戦力は上がったはず。特にシールド魔法は色々と使い勝手が良くていい、〈ウインドシールド〉なんて壁破壊に使えたからな。まあ、6層みたいに壁が薄く、反対側に部屋があるという情報がないと有効活用は難しそうだ。闇雲に掘っても近道になるわけないし、鉱脈があるわけでもない。土や岩取ってもねえ。
それは置いておいて、採取師がレベル5になっているので新スキルを確認する。〈反復動作〉か……
【スキル】【名称:反復動作】【パッシブ】
・同じ行動を連続して取るとMP消費や疲労が少し減る。
これ、見習い修行者が持っているのと同じじゃないか。見習い修行者は山賊討伐の影響でレベル8もあり、経験値的に勿体ないので使った事は無いけど。
まあ、採取するときはツルハシ振るったり、ハサミで採取したり同じ行動をするから、あって損は無いかな?
では、お楽しみの村の英雄の新スキルも見てみようか。
……【NEW】マークが無い!? 村の英雄はレベル6になっているのに……ジョブレベル5毎に新スキルを覚えると習ったのに、特殊ジョブだからか?
確認のため他のジョブを鑑定してみると、
【ジョブ】【名称:魔法使い】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、魔法使い系の血筋、他のジョブで属性魔法攻撃を使う
・攻撃魔法を主体とする魔法を使えるが、どの属性が使えるかは本人の資質による(最低でも1種類は確定)
魔法は威力が高く、属性の弱点も突けるためダメージディーラーになる。反面、HPや防御力は低く、魔物の物理攻撃に弱い。魔法で敵の注目を集めやすいが敏捷が低いので逃げられない。前衛職に守ってもらおう。
・ステータスアップ:MP小↑、知力値小↑、精神力小↑
・初期スキル:初級属性ランク0魔法、初級属性ランク1魔法、MP自然回復小アップ
・習得スキル
Lv 5:初級属性ランク2魔法、カームネス
ちゃんとレベル5の新スキルが記載されていた。続いて村の英雄を鑑定する。
【ジョブ】【名称:村の英雄】【ランク:1st】解放条件: 基礎Lv10未満で自身よりLv30以上高い敵を倒し、村の窮地を救う。村人全員から感謝される
・厳しい解放条件を満たした者だけがなれる特殊ジョブ。村を救う程度の力しかないが、長く険しい旅路の第一歩でもある。
強力なステータス補正を持つ反面、習得スキルは前衛用と後衛用の両方を覚えるため中途半端になりやすい。他のジョブで補強しよう。
・ステータスアップ:HP中↑、MP中↑、筋力値中↑、耐久値中↑、知力値小↑、精神力小↑、敏捷値小↑、器用値小↑
・初期スキル:ブレイブスラッシュ
やっぱり無い。説明文には習得スキル云々と書かれているので、習得はするはずだ。
そうなると次のレベル10に期待するしかないか。スキルの〈ブレイブスラッシュ〉も今は槍装備だから使用できないし、ほんとにステータス補正しか強みがない残念なジョブだ。名前負けしているようにしか……いや、村レベルならこんなものだろうか?
いっその事、採取地を回るのを止めて10層を目指すのも良いかもしれない。今のところ苦戦する程の敵は出ていないので、さっさとレベルを10にして次のスキル取得を目指すとか。それに11層からは採取地の素材が変わり、電池替わりの魔水晶が出ると聞いているので、そちらの方が稼げるだろう。
まあ、それも7層の豚魔物と戦ってからだな。安全な倒し方が確立出来ればいいんだが。
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