第38話 穴掘り魔法
ツルハシを肩に担いで部屋を見渡す。大部屋との間の壁には8つの土山があるが、そこは掘れない。土山が生えてくる部分の壁は非常に硬くてツルハシが通らないからだ。見た目は周囲の壁と変わらない土壁なのに……キノコの菌糸みたいなものだろうか? 採取地はダンジョンのマナが集まって出来ると習ったし、マナを栄養に生える菌床みたいな鉱脈と言ったところか。
まあ、それは置いておいて、採取地の部屋の一番奥は、土山が生えて無いのでツルハシを振るってみる。表面はただの土なのでザクザク掘れたが、内側から岩になっていて固い。村の英雄の筋力値なら掘れなくはないが、1,2時間で終わるだろうか? 一応、迷路内の通路の壁の厚さから、ここも1mくらいの厚さと想定しているが……ゲームのようにツルハシ一本で掘れる程、楽ではないか。いや、魔法学園物には穴掘り呪文なんてのがあったな。穴掘り魔法なら……。
「〈ディグ〉!」
ワンドを壁に向けて便利魔法で穴を掘る〈ディグ〉を使用したが、壁ではなく足元に穴が出来た。
「今度は何をやっているんです?」
いきなり後ろから声を掛けられてビクッと震える。特に失敗したところだったので猶更だ。振り向くと、レスミアが小首を傾げている。
「ああ、地図で見たら、この壁の向こうは大部屋だろ。わざわざ階段から正解ルートを歩くより、ここに穴を開けた方が早い。と、考えたんだが、ツルハシでは固い岩があるし、〈ディグ〉の魔法も不発だし、どうしたものかなと考えていたんだ」
地図を広げて見せて解説したが、あまり反応は良くない。穴掘りショートカットは一般的では無いようだ。
「大変そうですし、正解ルートに行きましょうよ。〈ウインドシールド〉でゴリ押しすれば早く抜けられますよ」
「また〈ウインドシールド〉を張って歩くだけ………………その手があったか!」
壁の方を向いて〈ウインドシールド〉を張り、レスミアに耳を塞ぐように指示する。そして、ストレージから取り出した石玉を〈ウインドシールド〉に投げ入れて射出した。
轟音と共に土煙が巻上がる。準備していた便利魔法の〈ブリーズ〉で土煙を出口側に吹き流すと、崩れた土壁と大きな亀裂の入った岩壁が目に入った。
「これなら、何発か撃ち込めば壊せ「ハイ!ハイ!私もやりたいです!」」
後ろを見ると、レスミアが目を輝かせて挙手している。そう言えば、シールド魔法の検証の時にも撃ちたそうにしていたな。
「でも結構な轟音が鳴るけど大丈夫か?大きい音は苦手だろ?」
「う~ん、ザックス様が後ろから押さえててくれませんか?」
ネコミミをピコピコさせながら、上目遣いでお願いしてくる。合法的にネコミミに触るチャンスが!
「……いや、土埃が舞うから〈ブリーズ〉を使わないといけないし」
かなり葛藤したが〈ブリーズ〉は風向きを手で指し示す必要があるので、苦汁を飲んで断った。
「駄目ですかぁ。そうなるとキャップで押さえるしかないですねぇ」
頭に被っていたレザーキャップを脱ぐと、ネコミミ穴付近を弄り始めた。そして、再度かぶり直すとレザーキャップの中にネコミミが収まっていた。
「どうです? 獣人向けのキャップはネコミミ穴を塞ぐ事も出来るんですよ」
頭を突き付けてキャップを見せてくるので、じっくりと見させてもらった。ネコミミ穴は切り取られている訳ではなく、大きな半円形の切れ込みの様で布地が残っており、ボタン留めすることで今のように閉じることも出来るようだ。俺の地味なレザーキャップと違って、女性用だからオシャレでボタンが付いているのかと思っていたよ。
その後〈ウインドシールド〉を解除してから、壁周辺に便利魔法の〈ウォーター〉で水を撒いておいた。多少は粉塵対策になるといいが。レスミアを対象にして〈ウインドシールド〉を張り直し、その足元に石玉を10個出しておいた。
「それじゃあ、行きますよ! えい!」
射出された石玉は亀裂の入った岩壁に当たり、轟音を響かせる。先程よりはマシだが、壁付近は土煙に覆われて見えないので〈ブリーズ〉で吹き流す。レスミアに目を向けると尻尾をプルプル振るわせて喜んでいる。
「もう一発!」
待ち切れなかったようで、1発目の結果を見る前に2発目が射出された。土煙で見えないが、今度は轟音と共にガラガラと崩れる音が続く。
「レスミア、一旦止ま「アハハハ!」」
静止する前に3発目が射出されたが轟音は鳴らず、壁よりも奥の方でドスン!と何かにぶつかる音が聞こえた。取り敢えず〈ブリーズ〉で土煙を晴らしつつ、空いている手でレスミアの頭を軽くはたいた。
「そこまで!もう貫通したみたいだから!」
レスミアもそれで我に返ったのか、徐々に顔を赤くして俯いてしまった。頭に手を乗せたままだったので、キャップごとぐりぐり撫でる。
「楽しいのは分かるけど、夢中になって我を忘れるのは駄目だ。特にシールド魔法は、味方を巻き込む可能性もあって危険なんだ」
「はい……すみませんでした」
顔は俯いて見えないけど、垂れ下がっていた尻尾が揺れ始めたので大丈夫だろう。
レスミアは待機させて〈ブリーズ〉を使いながら壁に近づくと、徐々に煙が晴れて状況が見えてきた。岩が折り重なるように積み上がり、俺の頭くらいの高さで壁に穴が開いている。しかし、穴の向こうは真っ暗で何も見えない。ヒカリゴケすら生えていないようだ。
穴が出来たとはいえ、少し位置が高いので広げる事にする。ストレージから取り出したスコップを使って、壁の前の積みあがった瓦礫を崩す。射線が通る程度でいいので大分適当だ。そして粉塵対策に水を撒いてからレスミアの元に戻った。
「穴は開いたけど、ちょっと位置が高いからな。次は通れるように下の壁を壊してくれ」
「はい!今度は一発ずつですね」
笑顔が戻ったレスミアに任せたが、ちゃんと注文通りの場所に当てている。一発ずつ土煙を晴らして、壁の状況を確認してから徐々に当てる場所を下げている。〈ウインドシールド〉では狙いも突け難いのに、器用値が高いせいだろうか? レスミアのステータスを見ると器用値D(因みに俺はE)、さらにスカウトのレベルが5に上がって〈投擲術〉を習得していた。物を投げる際の命中率に補正があるから、これも関係してそうだ。
まあ、〈ウインドシールド〉内の見えないミキサーの刃の当たり加減でズレることもある……7発目はそのせいで軌道が上にズレて、残っていた壁の上端に当たって跳ねながら穴の奥に飛び込んで行った。その直後、パンッ!チャリチャリチャリン!と軽い音がした。予想外の音に思わず、レスミアと顔を見合わせる。
「なにか、金属音がしたな?」
「硬貨が落ちる音のような? キャップにネコミミをしまっていたので確証はありませんけど」
〈ウインドシールド〉を解除して、二人で壁に近付く。キャップのボタンを外してネコミミを解放したレスミアに、穴の向こうの音を探ってもらったが、特に不審な音は無いらしい。壁の高さは腰辺りなので、乗り越えるのは問題なさそうだ。先にランタンを持った手を掲げて、穴の向こうを照らしだすと……壊れた木の箱と、辺りに散乱した銀貨がキラキラと反射して輝いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます