第37話 誤射ではなく流れ弾なので事件性は無い
迷路だけあって分岐路や曲がり角が多く、その都度、鏡で先を確認しつつ進むが非常に疲れる。途中でレスミアと鏡役を交代して進んだが、採取地への道のりを半分程で休憩をすることにした。休憩場所は二つ目の宝箱部屋だが、もちろん宝箱は無かった。ただその部屋の明るさは普通と言うか、ちょっと薄暗い程度のいつものダンジョンの小部屋だった。最初の部屋の明るさは何だったのだろうか?
「ふぅ、確かに動いた後の冷たいお水は良いですね」
休憩セットを取り出して、冷たい水とお茶菓子のマドレーヌで一息付いている。
「そうだろ、まあこれで売り切れだけど」
「そうなると冷やす量を増やす事も……昨日話したリンゴ水も用意しましょうか。
マドレーヌも美味しいです。でもこっちは温かい紅茶の方が合うかな?」
焼き立てでバターの良い香りがするマドレーヌを食べながら地図を見る。現状としては予定の半分程度。この調子で行くと今日は採取地で終わりになりそうだ。いや、鏡による警戒をやめれば早めに採取地に行ける。その後ゲートでエントランスに戻り、転移ゲートで6層の入り口から正解ルートに行けば階段まで行けるか?
休憩を終えて片付けをしながら、レスミアに今後の事を話す。
「鏡を使った警戒はここまでにしようと思う。慣れていないのもあるけど、これ以上疲れては戦闘にも支障がでる」
「でも、角のすぐ先にネズミが居たことが何度かありましたけど、無警戒で大丈夫ですか?」
「〈ウインドシールド〉を張り続けて進むつもりだ。最初の小部屋でヒュージラットの飛び掛かりも受け止めていたし、貫通されることは無いだろう」
「ああ、今度はネズミ相手で検証したいんですね」
若干呆れ顔をされたが、腰に刺したワンドを掴み〈ウインドシールド〉を発動させた。
「レスミアは俺から2m以上は離れててくれよ。万が一巻き込まれたら危ないから」
そう話しながら通路に出ようとして、木の扉に引っかかった。この小部屋も宝箱部屋なだけあって木の扉が付いていて、休憩中に魔物が入ってこないように閉めていたのだ。その扉が〈ウインドシールド〉に切り刻まれて、木片が通路の奥に射出されていく。みるみるうちにバラバラにされ飛んで行き、蝶番を残して無くなってしまった。
「な?危険だろう」
「ザックス様こそ気をつけてください!」
小部屋を出て、木片が散乱する通路を進む。突き当りのT字路には木片が矢のごとく刺さっていて、なぜかヒュージラットが一匹、磔になっていた。大きな木片に腹を貫かれて、小さな破片も体中に刺さっている。流石に哀れなので止めを刺してあげようとしたが、その前に力尽きたのか消えてしまった。
「あっ! お肉出ましたよ!ネズミ肉!」
レスミアが拾ってきて手渡してくれたが、いまいち喜べなかった。棚ぼたではあるんだけどな。自力で入手したわけではないので、ちょっと不完全燃焼だが割り切るしかないか。
ヒュージラットの運が悪かったので反動で肉をドロップしたのか、肉を持っていた反動で事故に巻き込まれたのか?
取り敢えず言えるのは、これは誤射ではなく流れ弾なので事件性は無いな、うん。
なぜか俺の背中に張り付いたレスミア(2m以上離れていても撃たれそうだから)の指示通りにずんずん進む。
時折ヒュージラットが飛び掛かってくるが〈ウインドシールド〉に阻まれ、切り裂かれて終了だ。〈ウインドシールド〉は正面の2本の竜巻の間で受けると、しばし滞空しつつ左右から切られて大ダメージを与え、そのまま正面に押し返す。ヒュージラットは50㎏以上の重さあるので飛ばすのは無理なようだ。そして、どちらかの竜巻で受けると、ミキサーの刃で切りつつ横に弾き飛ばす。それで死ななくても、しゃがんで〈ウインドシールド〉を接触させれば終了だ。
レスミアがドロップ品を拾ってきてくれるので、本当に歩いて、待ち構えて、たまにしゃがむ、楽過ぎる。今日だけならいいが、これが続くと楽過ぎて腕が鈍りそうだ。
暇なので他の属性のシールド魔法を試してみた。〈フレイムシールド〉は貫通こそされないものの、毛皮が焼ける臭い匂いが充満して駄目だ。
〈アクアシールド〉は少し貫通されて、頭だけ突き抜けた。しかし、上半身が〈アクアシールド〉に埋まった状態で藻掻いているが抜け出せないようだ。捕獲こそ出来たが、止めを刺さないといけないので二度手間だ。
〈ストーンシールド〉は石壁なので貫通こそしないが、衝突時に少し衝撃を感じて1歩後ろに下がってしまった。もっと大型の魔物の場合は、体重の軽い女性では危険かもしれない。衝突したヒュージラットは気絶していたので、近くでスクワットをして〈ストーンシールド〉で頭を叩き潰した。
結局、ヒュージラット相手には弱点の〈ウインドシールド〉が一番のようだ。他の属性の検証も終わってしまったので、暇になる。レスミアに地図を借りて道順くらい自分で見ようとしたが、「スカウトの仕事です」と素気無く断られてしまった。また前からヒュージラットが走ってくるが、張ってある〈ウインドシールド〉で終わりだろう……
「後ろから新手! 多分走り回っていた奴です!」
気が抜けているところで挟み撃ちとは、ネズミの癖によくやる。まあ、ただの偶然だろうけど。背中に当てられていたレスミアの手が離れ、ショートソードを抜く鞘鳴りが聞こえる。後ろの方を迎撃するようだ。
「俺は先に前の奴を倒す」
後ろに声を掛けてから、俺は前方のヒュージラットを片付けるべく前に出る。ただ待っているよりは早い筈。壁際から飛び掛かって来たヒュージラットを正面で受け止め、竜巻の間に捕らえたまま体を捻り〈ウインドシールド〉を横の壁に押し付けた。壁と〈ウインドシールド〉に挟まれたヒュージラットは竜巻の中にまで食い込み、ミキサーの刃で両断された。バックステップで壁から離れ、死体が壁際に落ちるのを確認してからレスミアの方に目を向ける。
丁度、ヒュージラットが助走ジャンプを始めたところの様で、手前に待ち構えているレスミアの背中と尻尾が見える。
「どれだけ走っても痩せねえな!このデブネズミがぁ!」
〈挑発〉が効いたのか3段目の飛び掛かりを止めて、赤い目をこちらに向け走ってくる。そして飛び掛かりを先程のように、受け止めてから壁に押し付ける。咄嗟に試したが、ただ単に受け止めるだけより早く倒せるな。小間切れになった手足や肉片が竜巻で射出されて、壁に血の花を咲かせるので絵面が悪いが。
「ありがとうございます。でも、後ろから〈挑発〉を聞くのは慣れませんね。つい、驚いちゃいます」
「〈挑発〉と弱点属性のシールド魔法は相性が良いのは確かだし、これからも使うから慣れてくれ。
ただ、ネズミを罵倒するのってあれでいいのか分からないが……まあ、効いたのならいいか」
ドロップを回収して進もうとしたが、なぜか2つともネズミ肉がドロップしていた。ギルド依頼は3個までだからいいが、これ以上は要らないぞ。
ようやく迷路を抜けて採取地に到着した。流石に低層でミノタウロスが待ち構えているようなことは無いようだ。いや、10層ごとのボスがいる階層で迷路があったら出てきそうだな。そんな考えもフラグになりそうなので中断し、採掘セットを取り出して鉱夫になる、そんなジョブは持ってないが。
採取地の部屋は長方形で、入り口が短辺側だったので手前の一つしか見えていなかったが、斜めから見ると長辺側に土山がずらっと並んでいる。その数8つ、ボーナスステージかな。ギルドのルール上、半分しか取れないのがちょっと勿体ない。元日本人なのでルールには従ってしまうが……万が一見られたらとか罪悪感とか考えるとねえ。レスミアもいるしルールを守らない奴とは思われたくない。
ツルハシを振るって土山を崩す。レスミアと作業分担出来るので、午前中より早く採掘が進む。出てくるのはいつもの銅鉱石とかで代り映えしないが、石玉も使える事が分かったので全て回収することになった。今まではハズレ扱いで、ぞんざいに扱っていたので割れる物も多かったのだ。
鉱石も大量で22個も手に入れる事が出来た。採掘道具をストレージにしまっている最中、ツルハシを持った時にアイデアが降って湧いてきた。レスミアから地図を受け取って確認すると、採取地の向こう側は大部屋だ。ゲートで戻って正解ルートを1,2時間掛けて通るより、ショートカットを掘った方が早くないか?
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