第34話 ランク2盾魔法の検証

 指差す方を見るとドロップ品の木炭に〈フレイムシールド〉が上に乗り、赤々と火が点き燃えている。吃驚して立ち上がると、それに合わせて〈フレイムシールド〉も持ちあがった。


「ああ、なるほど。〈フレイムシールド〉の説明文にあった追随して動くって、こういう事か」


 隣にいるレスミアに当たらないよう、体を捻って左右に振ると〈フレイムシールド〉も、体の正面に位置するように動く。体を反らすと斜め上に動き、しゃがむと〈フレイムシールド〉も下がり、木炭を燃やした。

 先ほどはレスミアの方を向いて喋りながら、木炭を拾おうとしていたので気付かなかったようだ。


「さっきはありがとう。危うく火傷するところだったよ」

「もういいですよ。それより、他の属性のシールド魔法も試すんですよね?」


「ああ、もちろん。パペット君なら兎も角、飛び掛かってくるヒュージラット相手にぶっつけ本番で使うのは怖いしな。少なくとも特性や使い勝手は把握しておきたい」


 そう言いながらストレージのウィンドウを出して、燃えている木炭に触れさせて格納した。ストレージ内のフォルダを見ると【名称:燃えている木炭】と名前が変わっている。火が点いたまま格納出来たようだが、これなら火種として使えそうだ。使う機会があるか分からないが。



 まだ〈フレイムシールド〉が効果時間内のようなので、色々検証してみた。〈フレイムシールド〉の内側と言うか、俺の方は手を伸ばしても熱さは感じないが、側面や相手側は炎その物のように熱いらしい。味方側への安全対策のようだ。

 レスミアに3mの棒で突いてもらったら、固い粘土のような抵抗を受けるらしいが貫通はする。ただ、接触面や貫通している内部でも燃えて、棒の方が焼け落ちて2.5mの棒に……


 〈フレイムシールド〉を壁に押し付けた場合、壁から1m以内に近づけなくなった。壁からと言うよりシールド魔法と術者の距離は固定されているようだ。これは逃げる際に壁や扉に引っかかったら危ないな。

 ただし、床の場合はしゃがんでも寝転んでも、シールド魔法は垂直に立つだけだった。下方向には向けられないようで、寝転んだ状態から仰向けになっても、転がってみても頭から1mの位置で垂直ままスライド移動するだけだった。レスミアからは何やってんだコイツ、みたいなジト目で見られたが、服や鎧に付いた土埃を払うのを手伝ってくれた。優しさで惚れてしまいそうだ。



 他の属性も検証するが、今度はレスミアを対象にして〈アクアシールド〉を使ってみた。レスミアの1m程前に横1m×縦1.5m×厚さ0.3mの水槽が現れた。炎と違って物理的なので厚さがよくわかる。しばらく動いてシールド魔法に慣れてもらったが、挙動は同じようだ。寝転びはしなかったが……


 2.5mの棒を突き入れてみたが、奥に行くほど固いゼリーのよう。半分程貫通させて手を離すと、そのまま浮いてしまった。ダメージは無さそうなので素手で触ってみたが、表面はネバネバでグチョグチョしているが、奥に行くほど粘度が高くなっている。手を引き抜いても粘液のようにネバついていたが、手元の魔方陣の魔力を散らしてキャンセルすると、〈アクアシールド〉と共に手の粘液も消えていった。これは上手く使えば捕獲に使えるか?


 〈ウインドシールド〉は自分に使ったが、見た目は盾ではなく緑色の小さい竜巻が2本並んで渦巻いている。サイズは他のシールド魔法と同じで、向かって左の竜巻が反時計回りで、右が時計回り。回転的に相手を左右に押し流すような流れだ。体に追随する挙動も同じなので割愛、レスミアの目線が気になったので寝転びはしなかったよ。


 レスミアに2.5mの棒を突き入れて貰ったが、竜巻の風に流されて外側に弾き出された。ある程度の力がないと風の力に堪えられないようだ。〈ウインドシールド〉を一旦解除して、レスミアを対象に張り直す。

 攻守交替して2.5mの棒を竜巻の中心目掛けて突き入れると、見事貫通! 外側の風速にある程度耐えられる力や速度があれば突破できそうだ。矢ぐらい軽いなら兎も角、剣や槍を突き入れられると危険だろう。等と考えていたところ、いきなり手元が軽くなったと同時に、バシュッと音がして、顔の横を何かが凄い速度で通り過ぎて行った。


「ザックス様!大丈夫ですか?」

 振り返って飛んで行ったものを確認したが、思いのほか遠くまで飛んで行ったようで正体が分からない。


「俺は大丈夫だ。それよりも何が飛んで行ったんだ?レスミアからは見えたか?」

「何って、その棒の先ですよ。切れた棒きれが風に乗って、二つの竜巻の間から飛んで行ったように見えました」


 手元の棒先を見ると斜めに切断されている。〈ウインドシールド〉の厚さは30㎝程なので、突き入れた分が切られて全長が2.2m程になっていた。竜巻の中に見えない刃でもあるのだろうか? 確かめようにも棒が切断される威力なうえ、切れ端が射出されてくるのも危ない。〈アクアシールド〉の時のように手を入れたら大惨事だな……


「〈アクアシールド〉! レスミアはまだ動かないでくれ」


 〈アクアシールド〉の内側から棒を差し入れて貫通させる。さらに角度をつけて、石突側を地面に接地させておく。いざという時は足で踏んでも押さえつけられるだろう。そうして斜めにした棒を二つの竜巻の間に押し入れる。

 棒が手前に弾かれそうになるが、〈アクアシールド〉の粘度と石突を踏むことで堪える。〈アクアシールド〉の水槽越しに観察していると、棒は1/3ぐらいずつ左右から徐々に切られていき木屑や木片となって飛ばされていく。飛んできた木片などは〈アクアシールド〉の粘着に絡め取られているので安全だ。木片が若干視界の邪魔になるが。


 こうして観察してみると竜巻というより、見えない刃のミキサーのようだ。棒が両断されずに1/3ぐらいずつ切られていくのも、二つのミキサーの刃が接触しないような長さになっているせいだろう。木片で前が見えなくなったところで、棒を引き抜く。俺の背丈ぐらい……1.8m程になってしまったが、実験に犠牲は付きものだしょうがない。〈アクアシールド〉を解除すると、食い込んでいた木片がバラバラと地面に落ちた。


 ちょっと気になった事が出来たので木片をいくつか拾い、レスミアの横から竜巻に投げ入れてみる。シュッ、シュッと音がして木片が通路の奥に射出されていった。


「うわぁ! 面白そうですね。私にもやらせてください」


 レスミアに木片をいくつか渡して、通路の壁に向かって撃たせてみた。木片が軽いので壁に当たっても跳ね返るだけ。いや、尖った木片は壁に刺さったようだ。こうなるとカタパルトと言うか、ピッチングマシーンのように見えてくる。もっと殺傷力のある矢尻とか投げナイフとか射出してみたいが、生憎と手持ちに無い。何か投擲できそうなもの……ストレージを漁ってみるが、リンゴは勿体ない、フォークやナイフも駄目。ゴミのような物でもと探したが、本当にゴミな物はダンジョン内に捨てている(吸収される)ので無い。そうなるとパペット君のドロップする木材か木炭……採掘のハズレ枠、石玉があった!


「大きな音が鳴るかもしれないから、耳押さえてて」


 レスミアが猫耳を抑えたのを見てから、石玉を取り出して投げ入れてみたところ、ガリッガリッ、と耳障りな音の後、射出された。その直後、轟音と共に土煙が通路内を満たす。ガラガラという音も聞こえるが土煙で何も見えない。便利魔法の〈ブリーズ〉を使いたいが、盾魔法しかセットしていない。ジョブの商人と魔法使いを入れ替えて〈ブリーズ〉を使用した。

 生み出した風により、土埃が通路の奥に流れていく。徐々に晴れていくと、壁にめり込んだ石玉が見えてきた。


「人の耳で聞いても凄い音でしたけど、凄い威力ですね! 壁が崩れてますよ」

 レスミアが指さすように、めり込んだ石玉の周囲は崩れて、その下に土山になっている。石玉もよく見ると3つに割れている。


「次は私がやっても良いですか?」

 なぜか尻尾をくねらせてウキウキしているようだが……あれか?猫が転がるボールを追いかけるように本能が刺激されているとか? ちょっと試してみよう。ストレージから石玉を取り出してレスミアに渡す。


「今度は通路の奥に向けて撃ってくれ。飛距離とか見たいし」

「え~、そこの崩れているところに追撃したかったんですが。まあ、検証なら仕方がないですね。ていっ!」


 〈ウインドシールド〉から射出された石玉は、おおよそ30m程は直進して飛んだだろうか。おおよそなのは、通路が土煙で煙っているからだ。レスミアも追いかけたそうにはしていないし、飛距離を見るならもう少し〈ブリーズ〉で土煙を晴らしておくべきだったか。

 徐々に下降した石玉は地面に衝突し割れたが、大きい破片はそのままバウンドして飛んで行き、土煙の向こうから現れた人影にぶち当たった……

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