第33話 6層の前に蜜リンゴ収穫
ジョブを村の英雄レベル4、商人レベル3、職人レベル3に変更した。追加スキルに検証したい〈挑発〉と〈初級属性ランク2魔法〉を付けたいのだが、追加スキルを2枠にするには3ポイント足りない。現状のアビリティ設定を見直してみたが、〈パーティジョブ設定〉と〈パーティ状態表示〉を外しても1ポイント足りない。
いっそ〈初級鑑定〉があるのだし、〈詳細鑑定〉を外すか? 6層の魔物はヒュージラットだけで、採取地も大体知っている物ばかりだ。〈詳細鑑定〉を使う機会も無いだろう。そう考えて〈詳細鑑定〉を外して、空いた5ポイントで追加スキル2枠をセット。その枠に〈挑発〉と〈初級属性ランク2魔法〉を追加した。
「レスミア、今日のジョブはどっちにする?」
自分の準備が整ったので、バスケットや敷物をストレージにしまいながらレスミアに声を掛ける。
「どちらもレベル4だから、どっちでもいいんですよね……今日はスカウトにします! ネズミ相手では〈不意打ち〉も出来ませんし」
「それじゃ、ジョブチェンジするからアイテムボックスの中身を全部出してくれ、ストレージにしまっておくよ」
「は~い、〈アイテムボックス〉!」
しかし、アイテムボックスの穴に手を入れた所で、笑顔のまま止まってしまった。
「ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、近くの木の陰に隠れてしまった。
やがて木の陰から顔を覗かせて、「今日のところは、このまま職人で行きます」と言う。
「まあ、〈マッピング〉スキルくらいしか活用するものはないし、問題ないと言えば問題ないけど。アイテムボックスに何かあったのか? 昨日はどっちをレベル5に上げるか悩んでいたのに」
「気にしないで下さい。さあ、早く行きましょう!」
木の陰から出てきたレスミアは、そのままダンジョンに入って行ってしまった。
静かなエントランスを並んで歩く。日中はまだ少し暑い外とは違い、ダンジョン内の気温は一定なので涼しく感じる。エントランスなら魔物も出ないし、ここに別荘でも立てたら夏場や冬場でも快適そうだ。まあ、30分経ったらダンジョンに呑まれてしまうのだけど。
青い鳥居に触り転移ゲートを起動する。ウィンドウから6層を選択していると、隣で見ていたレスミアが驚いている。
「もう6層なんですか? 昨日4層だったのに」
「昨日みたいに〈不意打ち〉やヒュージラットの倒し方を模索してないからね。サクサク進めたし、5層の採取地が下り階段の隣にあったから、寄り道もせずに進めたのが大きかったな」
そんな話をしながら転移ゲートを潜り、6層に到着。ここも坑道のような構造で土が剥き出しだ。
「一度5層に戻って、採取地で蜜リンゴの収穫をしていかないか? 午前中に半分取ったけど、まだあるはずだ」
階段を指さしてレスミアを誘うと、二つ返事で行くことに決まった。
階段を上って5層に戻り、隣の部屋へ向かう。通路にも魔物はいなかったので、戦闘も無く採取地まで行くことが出来た。採取地には誰もおらず、午前中に採取した蜜リンゴの木には新たに赤いリンゴが生っていた。
「わぁ、まだ木の上の方に蜜リンゴが沢山残っていますね! 私が取ってきますよ」
レスミアは蜜リンゴの木を見つけると、満面の笑みを浮かべてスルスルと木に登っていく。俺も他の煙キノコや丈夫なツタ等を採取し始めた。これらはあまりお金にはならないが、村でも需要があるので片手間でもいいから採取して来て欲しいと言われている。どのみち、レスミアが蜜リンゴを採取している間は暇なので丁度いい。
「いやー、大量ですよ。26個も取れました。〈アイテムボックス〉!」
レスミアのアイテムボックスの下にストレージのウィンドウを開き、アイテムボックスから出てくる蜜リンゴを直接ストレージで受け止めた。フォルダを見ると全部で30個入っている。
「ん?普通のリンゴも取ったのか」
「ええ、全部取ってもルール上は問題ないですけど、この後に取りに来る人が居たら可哀そうですしね。天辺付近の4個だけ残して、代わりに赤いリンゴを収穫したんです。普通のリンゴも使い道はありますから」
採取し終えて、採取袋ストレージにしまっていると、またもや嬉しそうな声が聞こえてきた。
「こっちにキャットニップが生えていますよ! 数は少ないけど、これも取って行きましょう」
リンゴの木の陰や、火種の木の周りに生えている草の事のようだ。キャットニップ……10層以下の採取物一覧で名前だけは見ていたが、この草だったのか。見た目は葉先が丸い青ジソのような、大きいミントのような感じだな。
「〈詳細鑑定〉!……〈初級鑑定〉」
つい、いつもの癖で〈詳細鑑定〉を使ってしまったが不発。〈初級鑑定〉を使い直した。
【素材】【名称:キャットニップ】【レア度:F】
名前しか分からない……アビリティを設定し直して、再度〈詳細鑑定〉を使った。
【素材】【名称:キャットニップ】【レア度:F】
・シソ科のハーブで、猫族の好物。猫の国の特産として流通している。安眠や体調を整える効果がある。
猫族の好物か……猫人族のレスミアも好きなのだろうか? 収穫していたレスミアに聞いてみたが、
「いえ、猫族程ではないですねぇ。彼らはお酒代わりにしていますけど、猫人族としては普通のハーブですね。寝る前のハーブティーはおススメですよ」
収穫したキャットニップの袋を受け取ってストレージにしまうが、重さからしても大した量ではない。
「それなら、収穫した分はレスミアに任せるよ。料理に使ってくれ」
「はい!お任せ下さい」
そう答えたレスミアの猫耳が横にピコピコ動く、索敵している時の猫耳だ。
「あっちの通路からパペットが来ていますけど、階段とは逆方向なので無視しましょう」
少し悩んだが、素早いヒュージラットよりパペット君の方がスキルを試しやすいだろう。
「いや、新しいスキルを覚えたから、パペット君で試したい。案内してくれ」
通路を歩きながらアビリティを元に戻し、武器もワンドに変更する。分岐路の少し手前で待っていると、パペット君が角の向こうから顔を覗かせた。相変わらず待ち伏せしているつもりなのか、こちらには近づいてこない。それを確認してから、充填していた盾魔法を使った。
「〈フレイムシールド〉!」
その瞬間、1mほど前に四角い炎が現れた。大きさは横1m×縦1.5mくらいで、真正面ではなく若干左寄り、右手で武器を振るう事は出来そうだ。ただ、炎越しになるので前は見え難い。
続いて挑発を使ってみるが、罵倒して相手の関心を引く方がいいんだよな?
「中身空っぽの木偶人形が!さっさと掛かって来いやあ!」
挑発の声が届いたのか、こちらを覗いていたパペット君がビクッと体を震わせると、角から出てこちらへ向かってきた。ついでに斜め前で〈フレイムシールド〉を見ていたレスミアも吃驚したのか、尻尾を膨らませている。あ、視線に気づいたのか慌てて尻尾を背中に隠している。可愛くて和む。
近づいて来たパペット君はパンチをしてくるが〈フレイムシールド〉に阻まれて止まり、炎に触れている部分から燃えだしてしまった。〈ファイアボール〉で燃やしていた時でもそうだったが、パペット君は自身が燃えていても気にせず止まらない。燃えたまま逆の腕でパンチしてきたが、これも〈フレイムシールド〉を突破できずに燃え始め、遂には全身に火が回り倒れてしまった。レアドロップの木炭がその場に残る。
「ザックス様!大声出すなら先に言ってくださいよぉ。吃驚したじゃないですか!」
少し頬を赤くしたレスミアが非難してくるが、昨日程怒ってはいないようだ。尻尾も元に戻っているし。
「悪い悪い、〈挑発〉スキルだから魔物にしか影響ないと思っていたんだ。〈挑発〉でおびき寄せて、弱点のシールド魔法で反撃出来ないか「危ない!」」
慌てて近寄って来たレスミアに肩を掴まれて静止した。何の事か分からずに困惑していたが、
「炭が燃えていますよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます