第30話 ギルド依頼

 アドラシャフト領は秋に入った所で夜は涼しいが、昼間の日差しはまだ暑い。日本ほど湿度が高くないので過ごしやすいけれど。


「冷やしたのは今でも美味しそうだな。ダンジョン内も温度は一定だけど、戦闘や採掘すると冷たい物が欲しくなるし」


 現状、ストレージには給水の魔道具から出した水を、水差しや桶等の空いた容器に入れて保管している。常温よりは冷たいが、キンキンに冷えたのも飲みたい。あれ?別にリンゴ水じゃなくても水を冷やすだけでもいいな。それをレスミアに話すと、


「リンゴ水は蜜リンゴが取れた時に作るとして、冷やす方はどうしましょうか? 冷蔵庫の中は一杯で入れるスペースが・・・」


 実際に冷蔵庫を覗かせてもらうと、ものすごいみっちり具合だった。有名なパズルゲームだったら隙間に棒を差し込んで高得点になりそうなくらいに。


「確かに凄い量だな。半分くらいストレージで預かろうか?」

「それだと朝食や昼食を作る際にザックス様が居ないから、あれが作りたい、あの食材が欲しいってなると困るんですよ」


 なるほど、給食や定食屋じゃないので、急に献立が変わる事もあるみたいだ。ネズミ肉がそうだったし。


「それなら、朝食で使う分は残しておいて夜中だけ水を入れさせて貰うのはどうだろう?そこの大きい塊肉をしまえば水差しくらいは入りそうだろ」

「分かりましたけど、朝出かける前に冷蔵庫の中身を交換するのを忘れないで下さいね」


 今日だけで、レスミアからの信頼度が下がった気がする……




 翌朝、朝食の後で忘れないうちに冷蔵庫の水差しと塊肉を交換しておく。冷蔵庫の中身を見て、野菜類がやけに多い気がした。朝食でもサラダを食べたので、料理に使っているはずなのにまだまだ多い。俺とレスミアの二人で食べるには何日も掛かりそうだが……


「レスミア、冷蔵庫の中身に野菜類が多いけど、普段からこんなに準備してあるのか? 2人分にしては多い気がするが」

「昨日の午前中に農家の人から差し入れを貰ったんですよ。ザックス様が山賊を退治したお礼じゃないかと。

 常温保存できる物はいいんですが、葉物は冷蔵庫に入れておかないと足が速いですし」

 何か引っかかった気がしたが、そろそろ2の鐘が近いので出かける準備を始めた。



 レスミアに見送られて家を出ると快晴で、日差しと涼しい風が吹いてきて気持ちいい。日中は殆どダンジョン内なので余計にそう感じるのかもしれない。

 雑貨屋の近くに来たが、今日は数人並んでいるだけだった。丁度、店から出てきたおじさんに声を掛けられる。


「おはよう!聖剣のあんちゃん。昨日あんちゃん家に差し入れの野菜持って行ったが食べてくれたかぁ? 形が悪かったり虫食いが多かったりで市場には出せない奴だが、味には問題ねえからよ」


 肩をバンバン叩かれながら、冷蔵庫が満杯だった理由と把握した。


「ええ、レスミアに料理して頂きましたよ。美味しかったです」

「はっはっはっ、そりゃあよかった。また今度、持って行ってやるよ」


 おじさんそう言うと、のっしのっしと去って行った。

 農家のご近所付き合いなのだろうけど、どう対応するべきだったんだろうか? 昨日も話したおじさんで、市場に出せないB級品をわざわざ持ってきてくれたみたいだし、冷蔵庫が一杯だからといって断るのも悪い気がするし……後でレスミアに相談するか。



 ダンジョンギルド支部に入ったが、フノー司祭の姿が見当たらない。取り敢えず、声を上げてみる。


「おはようございまーす。買い取りお願いします」

 すると教会側からフノー司祭がやって来た。そう言えば兼任だったね。


「ザックス殿、おはようさん。先に重い方から計測しようか、奥の倉庫に行くぞ」

 



「鉱石類が3600円、植物系が600円、ネズミの皮が4000円、合計で8200円だ。

 あと、蜜リンゴは雑貨屋に持って行ってくれ。フルナが寄越せと煩いのでな」


 思ったよりネズミの皮が沢山あったので良い値段になった。石炭は売っても100円なので木材や木炭と共に死蔵行きとした。


「別にギルドに売っても、ここから仕入れれば良いだけでは?」

「他の素材とかはそうなんだが、蜜リンゴと踊りエノキは早く欲しいらしい。まあ腐り易いからじゃないか?」


 どのみち、この後に雑貨屋に行くので問題ないが、ちょっと気になる。フルナさんは店番しているから自分で取りに行けないからとか?



 清算が終わった後、フルー司祭はネズミの皮を箱にしまいながら残念そうに言う。


「それにしても、ネズミの皮が沢山あるのにネズミ肉は無いのか? レアドロップだからしょうがないが……」

「1個だけ手に入れましたよ。レスミアが念入りに臭み消ししてから料理してくれたので美味しく食べられましたし」

 俺の言葉にフノー司祭は勢いよく振り向いて、カウンターに乗り出してきた。


「おいおい、わざわざ臭み消しして食べるなら売ってくれよ。俺が割り増しして買い取るぞ」

「ええ⁉ 個人的に買い取るくらい好きなんですか?」


「ああ、あの野性味のある匂いが良いんじゃないか! 村の連中ときたら豚の方が美味しいとか言って、豚狩りばかりしてネズミは殆ど狩ってこないからな。

 ううむ、最近食べていないから、食べたくなってきたじゃないか! よし、何ならギルド依頼にしてやろう」


 フノー司祭はそう言って、薄い色のついた紙に依頼内容を書き始めた。


 「よし、書けた!ネズミ肉を一つに付き通常の倍額1000円で買い取るぞ。ここにサインしてくれ」

 サインする前に依頼書をよく読むと、期日や個数制限が書かれていた。


 「期限は1日以内で数は3個まで、ですか。」

 「今食べたいからな。それにあまり数が多くても、今度は飽きる。まあ、レアドロップだからそんなに数は手に入らんだろう」


 今日も一日ヒュージラットの階層だし、おそらく手に入るだろう。そう考えて依頼書にサインをした。


 「そう言えば、ギルド依頼を受ける時は本人確認の魔道具を使うって習いましたけど、サインでいいのですか?」

 「田舎のギルドにそんなもんは無い! 全部手書きだ!」




 ギルド支部をお暇して、雑貨屋の方にやって来た。カウンターに目を向けると、


「いらっしゃい。はい、今日の分」

 早速フルナさんから明細書を渡されたので、昨日と同じ位置にある木箱をストレージにしまう。


「昨日話していた通りに、大体半分くらいになりましたね。

 この明細書の下の方にある、トウモロコシ粉は?」

「裏の倉庫にあるから取りに行くわよ」


 武器が陳列されている部屋の方に行くと、衝立の裏の扉から倉庫に入る。ギルド支部と同じつくりのようだ。入ってすぐに粉袋の山が目につく。倉庫の3分の1は粉袋のようだ。その反対側には多くの木箱や棚が並び、傘立てのように武器が入ったタルもいくつかある。

 フルナさんは粉袋の山を指さして、


「それがトウモロコシ粉よ。明細書と現物を確認しておいてね」

 ストレージにしまって数や重量を確認していたが「倉庫はお客に見せるものじゃないから」と背中を押され店に戻った。


「はい、本日分の確認取れました。これは代金です」

「毎度あり。今売れる穀物類は今日の分だけね」


「穀物と聞いていたので小麦とかを想像していましたが、トウモロコシなんですね。それも凄い量ですし」

「ランドマイス村はトウモロコシが名産だからねぇ。そりゃ売るほど取れるわよ。

 小麦は数か月前に取れたけど食べる方に回されるし、大麦も少しあるけど全部ビール作りに回されているわ。ああ、あと2週間もすれば大豆や芋が取れるけどね」


 流石、村の流通を任されているだけあって農作物にも詳しい。が、聞きたい情報が出てこないので突っ込んでみようか。

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