第25話 蜜リンゴと不意打ち

 それからレスミアの耳で広範囲を索敵して、パペット君を倒しながら進む。実力を知るために、途中でレスミアにも戦ってもらった。

 レスミアはパペット君のストレートを避けながら背後に周り、首を切りつける。が、切り口は浅く倒せてはいない。ただ、返す刃は早く2撃目を首に入れ、さらに3撃目を首に突き入れて首を落とした。

 パペット君が振り向く前に3連撃を入れるのは凄い。


「おお、やるなぁ。素早い3連撃だったよ」

「ありがとうございます。私は筋力値が低いので手数で勝負するしかないのですよ」


 そう、レスミアの装備はダガーだ。ショートソードの半分ほどの長さで、大型のナイフといった感じだ。ダガーの軽さと、猫人族とスカウトの敏捷値が上手い事かみ合っているのだろう。この分だと攻撃よりの狩猫の方も気になる。

 ショートソードも使えなくはないけれど、重いので剣を振った時に体が流れてしまうそうだ。まあ、ダガーが通じる敵なら、手数で押せば問題ないだろう。



 採取地までの道のりで出会ったパペット君をレスミアと交互に倒していく。俺の方は〈ファイアボール〉を少し遠くから当てる訓練にしている。パペット君が避けもしないので予測射撃はしやすいが、今後、速度の速い魔物や、回避行動を取る魔物が出てくると厳しいだろう。練習あるのみか。

 魔法を使っても〈パーティー状態表示〉のお陰でMP残量が把握できるのは助かっている。戦闘や探索に夢中になっていると、わざわざステータスを開いてMPを確認する事を忘れてしまうから。



 採取地に到着。ここには大きなリンゴの木が3本立っていてよく目立つ。その木の一つには梯子が掛かり、女性がリンゴの収穫をしていた。ただ、どの木にも赤いリンゴはたくさん付いたままだ。木の下には他に二人のおば……妙齢の女性がいる。こちらは煙キノコを収穫している。


 そんな先客に、レスミアは知り合いなのか声を掛ける。


「お疲れ様でーす。蜜リンゴは取れました?」

「おや、レスミアちゃん、お疲れ様。あたしらより先客が居たみたいでね。あまり多くなかったよ。

 まだ少し残っているからレスミアちゃんが取っていくといい」


 先客の女性3人とレスミアで井戸端会議になりかけたが、10分ほどで俺の存在に気付き、今度はレスミアの肩を掴んでひそひそ話になった。俺?井戸端会議に加わるなんて無理だろ。スキル変更をした後は大人しく丈夫なツタを収穫していたよ。


「お邪魔しちゃいけないから、お姉さん達は先に帰るよ。聖剣のお兄ちゃんも頑張ってね!」


 お……お姉さん達の声に手を振り返しておく。

 レスミアが戻ってきて事情を説明してくれた。


「ここ3層のリンゴの木にはランドマイス村の婦人会の協定がありまして……

 ダンジョン産のリンゴは地上の物とは違って、熟すとものすごく甘くなるんです。完熟するとハチミツと同じくらい甘くて、村の女性陣の貴重な甘味になります。ただ、赤いリンゴが生ってから、熟すのに2,3日かかるので、熟した物のみ半分取っていいとなっています」


「なるほど、赤いリンゴまで取ると次の完熟まで時間が掛かるから、御婦人達の不興を買う羽目になると。了解した、熟した物の半分だな。熟した物の見分け方は……鑑定しておくか」



【素材】【名称:リンゴ】【レア度:F】

・ダンジョン産のリンゴ。赤いリンゴは地上産と大差はないが、長期間採取されずにいると蜜入りになる。蜜の量で赤からピンク、蜂蜜色へ変色する。


【素材】【名称:蜜リンゴ】【レア度:E】

・全体に蜜が回ったリンゴ。蜂蜜色が取りごろ。果実のままだと腐りやすいが、熱すると蜂蜜のごとくとろけて保存が効くようになる。癖のない甘さのため様々な料理や菓子、薬類の味付けにも使われる。



「アドラシャフトの街に居た時に見かけなかったのは、果実のままだと腐りやすいせいか? もしかしてストレージで保存して街に行けば高く売れるか?」


「どうでしょうね。蜜リンゴは生のまま食べても甘すぎますから、甘党なら好きな人はいるかもしれませんけれど。普通に街で売っているのは、熱を通して瓶詰にした物ですよ」


 料理やお茶菓子に蜂蜜が使われているのがあったが、もしかすると蜜リンゴの方かもしれないという事か。


「なるほど、知らず知らずのうちに食べていたのかもしれないな」

 蜜リンゴ以外に、普通の赤いリンゴやピンクくらいに熟した物を食べ比べてみたいが、別の階層で取れるまではお預けか。



 リンゴの木に残っていた蜂蜜色のリンゴは8個。採取ルールで4個のみ採取した。リンゴと思って手にしたら、柔らかい果物のようなグニグニ感で少し気持ち悪い。

 木の高いところだったため、レスミアがスルスルと木登りして取ってきてくれた。俺が昇ると下の太い枝は兎も角、上の細い枝は折れそうだ。ザクスノート君の体は身長が高くて筋肉ムキムキなので重そうなんだよな。まあ、それ以前に現代っ子なので木登りをしたことが無い。いっそ、テレビCMで見た覚えがある高枝切狭とかあると良いかもしれない。



 蜜リンゴ以外の素材も採取し終えて、ジョブとスキルを戻す。そのついでにレスミアのステータスを見てみると、スカウトがレベル4に上がっていた。その事を伝えると、

「あ、本当です!やっとレベル4、長かったぁ。」

 奥様パーティだと採取がメインなので経験値が稼げていなかったのだろう。


「3層でレベル4だと貰える経験値が減るだろう。次の階段までジョブを戦士か狩猫に変えてみないか?」

「それも良いですね。それなら……狩猫でお願いします。せっかくの固有ジョブですから」


「よし、変更したぞ。狩猫のスキル〈不意打ち〉を試してみよう。俺が前衛で注意を引くから、レスミアは隠れて背後に周ってくれ」


 地図で階段の位置を確認して、目指しながらパペット君を探す。レスミアの耳があるので、俺一人の時よりも楽に見つけられる。

 通路の先に見つけたパペット君に接敵して盾を構え、攻撃を盾で受ける。その隙に、俺の後ろに隠れていたレスミアが横をすり抜けて背後に周り、ダガーで首元を攻撃するが、以前と同じ程度しか削れず。結局追加で2回攻撃して倒した。



「う~ん、失敗でしたね。パペットに気付かれていたんでしょうか? 顔が無いから見られたのかどうかも、分からないのですよね」


「スキルの説明文だと『察知されていない場合』だからな。何らかの手段で俺たちを察知しているのは間違いないはずだ。

 取り敢えず、人型だから人間と同じく顔で見ていると仮定して、最初から視界の外に隠れているのはどうだろう?さっきは通路だと隠れるのは無理だから、小部屋で待ち伏せするとか」


「では、小部屋の近くにいるパペットを探してみますね。……スキルの〈マッピング〉がないと小部屋の位置が分かりません……」

 地図を取り出し、二人で顔を突き合わせて確認をする。階段へ向かう途中の小部屋で、近くにパペット君が居たら俺が釣りだす事になった。



 通路で出会うパペット君は〈ファイアボール〉で焼いて木炭にしていく。木材と木炭が溜まってきたが使い道が無いな。安値でしか売れないし、料理も魔道具のコンロなので木炭の出番は無い。ストレージが容量無限だから問題ないが、このままだと死蔵しそうだな。


 そして小部屋と、その先にいるパペット君を発見。


「それじゃ、俺が釣りだしてくるから、レスミアは壁際に隠れていて」

「この〈隠密行動〉も常時発動パッシブだけれど、どれだけ効果があるんでしょうか……。 狩猫のスキルってイマイチ実感が湧かないわ」

 レスミアは、ブツブツ言いながら壁際にしゃがんで小さくなった。


 通路の先の方にパペット君が見えるが、レスミアの耳で索敵したので距離が遠い。牽制目的で〈エアカッター〉をパペット君の腕を狙って撃つ。片腕を切り飛ばせればと思ったが、外れて浅く切れたのみ。パペット君が気にもせずコツコツと木の足音を立てて、こちらへ歩いてくるのを尻目に、小部屋に戻った。

 

 小部屋の真ん中で盾を構え、壁際のレスミアに目線で合図。レスミアも頷き返してくる。小部屋に入ってきたパペット君を引き付け、ストレートパンチを盾で受け止める。その背後に音も無く忍び寄ったレスミアが、首筋にダガーを横一閃すると、パペット君の首が切り飛ばされた。


 ポーンとサッカーボールのように飛んで行くパペット君の首を目で追いながら、レスミアはダガーを振り切った体勢で硬直していた。尻尾をピンと立たせて、小刻みにプルプル振るわせている。


「気持ち良い~~~!!」

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