第24話 狩猫とお昼寝子

 レスミアがジョブチェンジ出来るのは、基本の見習い修行者、戦士、スカウト、商人、採取師、職人の6種類と、下の方に狩猫、お昼寝子と初めて聞くジョブが2種類。

 いや、一番左上の無職ジョブの位置が猫人になっている。〈詳細鑑定〉が反応しないので、ちょっと聞いてみるか


「レスミア、パーティーを組んだら新しいスキルが手に入ったよ。パーティーメンバーのステータスを見てジョブを変更することが出来るみたいで……レスミアで試してもいいか?」

 先にステータスを覗いていたことは内緒だ。


「ええっ!……ステータスをですか?  ええと……まぁ……ザックス様になら……いいですよ」


 なぜか顔を赤らめて、恥ずかしがっている。この世界だとステータスを見せるのは恥ずかしい事なのだろうか?スリーサイズや体重とかが載っているなら兎も角、パラメータと所持スキルなんて見せても問題なさそうだが……


「ジョブの方なんだが、一番左……最初に猫人ってジョブがあるけれど、どんなジョブか知っているか」


「猫人……ああ、人族は無職でしたっけ。猫人は猫人族が生まれたときから就いている最初のジョブですよ。特にパラメータ補正も無いし、スキルを覚えるわけではないですし」


 なるほど、種族によって最初のジョブが違うのか、無職も〈詳細鑑定〉が効かなかった。いや、それなら人族は人とか人類でいいじゃないか。なぜ無職にした! 特に意味はないと分かっていても、字面で気にしてしまうじゃないか。前世の就職活動で憔悴していた先輩を思い出す。



「なるほど、レスミアがジョブチェンジ出来るジョブは見習い修行者、戦士、スカウト、商人、採取師、職人、狩猫、お昼寝子だ。狩猫とお昼寝子も猫人族特有のジョブなのか?」


「はい、狩猫は攻撃特化のスカウトのようなジョブですね。私は、攻撃がちょっと苦手に思っていたのでスカウトにしましたが。

 お昼寝子は……猫族の方たちに多いジョブです」


 どちらも気になるので〈詳細鑑定〉する。



【ジョブ】【名称:狩猫】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、猫族、猫人族専用

・猫の身体能力を生かした、戦闘寄りのスカウト。罠の看破も出来るが習得は遅め。回避型の前衛として戦おう。

・猫族が狩猫の上位にクラスチェンジすると、猫人族よりの体格に近づく。


・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、敏捷値小↑、器用値小↑

・初期スキル:隠密行動、不意打ち


【スキル】【名称:隠密行動】【パッシブ】

・敵に察知され難くなる


【スキル】【名称:不意打ち】【パッシブ】

・敵に察知されていない場合ダメージアップ



 確かに攻撃型のスカウトか、他にスカウトが居れば、狩猫の攻撃力を取るのも手だな。クラスチェンジの部分が気になるが。



【ジョブ】【名称:お昼寝子】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv5以上、猫族、猫人族専用

・神の寵愛を受けし特殊ジョブ。寝ているだけで経験値が入りレベルアップしていく。戦えないわけではないので、狩猫の様に運用できるが、お昼時になると寝てしまう。睡眠警戒があるので野営の時には便利。幸運値の補正がある数少ないジョブなので、それを目当てにすることもある。

・猫人族がお昼寝子の上位にクラスチェンジすると、猫族よりの体格に近づく。


・ステータスアップ:HP小↑、耐久値小↑、敏捷値小↑、幸運値小↑

・初期スキル:お昼寝経験値小アップ、睡眠警戒、お昼寝の心得


【スキル】【名称:お昼寝経験値小アップ】【パッシブ】

・昼時に寝ると経験値が貰える


【スキル】【名称:睡眠警戒】【パッシブ】

・寝ている時でも周囲の敵を感知する


【スキル】【名称:お昼寝の心得】【パッシブ】

・昼時になると眠くなる



 突っ込みどころが多い。寝ていても経験値が入るのは良いが、眠くなるスキルはデメリットにしか見えない。幸運補正はうらやましいのだが戦力にはならなさそうだ。そして、こっちもクラスチェンジで体格が変わるようだ。レスミアがクラスチェンジしたら猫になるのか?

 〈詳細鑑定〉の結果をレスミアに教える。


「ええ、まあ猫人族と猫族が婚姻する際に使われますね。どっちかの種族に近くなるので。

 お昼寝子の場合、セカンドクラスで子供サイズになり、サードジョブで体毛が生えて大き目の猫族になるそうです。逆の場合は小柄な猫人族になります。

 私は、猫族は可愛いとは思ってもなりたいとは思いませんので、お昼寝子のジョブには成りません」


 胸の前に手で×を作ってアピールしている。


「了解。じゃあ、お昼寝子以外で育てたいジョブはあるかい? さっきアイテムボックスが欲しいとか言っていたし、商人、採取師、職人辺りとかどうだ」


「え? 既にスカウトなので、そのままでいいですよ。教会に行くのも面倒ですし、お布施も掛かりますし」

 

「いやいや、教会に行く必要はないよ。さっき言っただろ、パーティーメンバーのステータスを見てジョブを変更することが出来るって。ダンジョンではスカウトで、日常生活は別のジョブに切り替えることが出来る」


 レスミアは合点がいったようで、恥ずかしそうにして、

「ステータスが見られる方に気が取られていて……取り敢えずアイテムボックスが欲しいので商人……職人も捨てがたいような……たしか商人のアイテムボックスの方が大きい筈ですよね?」


「商人はアイテムボックス小で、職人は極小だから、商人の方が大きいはずだ。

 ただ、知り合いのメイドさんは職人だったな。料理をしているだけで経験値が入るし、レベル5で覚える〈見覚え成長〉で、他の人の技術を学び易いと言っていたぞ」


「それもそうですね。料理で経験値が入るのは美味しいです。アイテムボックスの容量が小さいのは残念ですが、私も職人にします!」


「ああ、ダンジョンから帰ってからな。そろそろ片付けて、ダンジョンに行こうか」

 ストレージから水桶を取り出して、鍋や食器等の洗い物をすませる。別にストレージにしまっておいて、夜にでも洗ってもいいのだが、性分的に後回しにしたくない。後まわしに慣れるとストレージに貯め込んでしまいそうだからだ。2人分程度の洗い物なら数分で終わるし、2人でやればもっと早い。


 ソフトレザー装備を再度身に着けていると4の鐘が村の方から聞こえてきた。MPは既に満タンなので、ワンドも取り出し、ジョブとスキルも付け直す。

 レスミアは帽子を被るだけのようだ。お昼の入っていたバスケットはストレージに預かっている。


 ダンジョン内に入り、エントランスの青い鳥居の前に行く。


「レスミアは3層だったよな。俺も午前中にたどり着いたから、3層でいいよな?」

「もう追いついて来たのですか。まあ、私達は最近3層で採取して帰るだけでしたのでしょうがないですけど」


 転移ゲートを起動して3層へ飛ぶ。


「3層の採取地はマッピング出来ていますので、案内しますよ」


 そう言うレスミアに先導されて進む。しばらく進むとレスミアがネコミミをピクピク動かし、

「あの角の向こうにパペットがいます」


 その声にワンドに魔力を充填しながら進む。やはり、ワンドを使った方が良いな、魔力が流れやすくて充填がしやすい。例えるなら、口の小さいペットボトルに水を貯めようとして、シャワーで入れようとするのが素手の充填。蛇口から注ぐのがワンドと言った感じだ。

 そして角の先に躍り出て、ワンドを向けて魔法を放とうとしたが、パペット君は通路のかなり先にいた。


「あれ、遠くない?

 折角だし狙ってみるか〈ファイヤボール〉!」


 普段の3倍以上の距離だったが、パペット君は避けようともしないので、なんとか足に着弾し燃え始めた。


「よし、当たった!」

「なんで魔法を使えるんですか!? さっき見せて貰ったジョブは戦士や商人だったのに。

 ああ、魔法使いのジョブに入れ替えたんですか……」

 

 燃えているパペット君の元へ歩きながら答える。


「いや、特殊スキルで手持ちのジョブのスキルが1つ使えるようになるだけだぞ。ジョブはさっきのままだ」

「もう羨ましいとか通り越して、呆れますよぅ」

「それを言うなら、レスミアは耳が良いんだろう。さっきのパペット君をあんなに遠くから察知するなんて」


 レスミアはこっちを向いてネコミミをピコピコさせて、さらに両手を頭の上でネコミミにする。ダブルネコミミなんてあざとい。

「猫人族なんで耳は良いですよ。人の耳と合わせて4つありますし、多角的に聞き取れるほど精度が良いのです」

 ダブルネコミミのまま得意げな顔をして胸を張る。つい胸に目が行くが、レザードレスのせいでありがたみはなかった。

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