第26話 首狩り猫と4層

 レスミアは不意打ちの一撃で仕留めたのが余程よかったのか、頬を両手抑えて満面の笑顔だ。体と尻尾がくねくねして落ち着かない様子。これはこれで可愛いので、眺めて和んでいたら、我に返ったレスミアが早口で捲し立ててきた。


「凄いですよ〈不意打ち〉スキル! 一撃で首を飛ばす時のスカッとした爽快感! これは病みつきになりますよ。ぜひザックス様も覚えて使うべきです。魔法でも一撃ですが、手応えを感じるなら物理ですよ物理!この爽快感を知らなかったなんて人生損していた気分です。

 さあ、次の獲物を探して練習しましょう。次も〈不意打ち〉を狙いますよ!」



 レスミアとパーティ組んでから魔法しか使っていないが、俺は剣でパペット君を両断出来るし、槍でも急所に当たれば一撃だ。まあ、機嫌の良いレスミアに水を差すのも悪いので黙っておくけど。

 

 その後も小部屋を通るたびに索敵して、パペット君を釣ってきては〈不意打ち〉で倒していく。小部屋で待ち伏せする分には簡単に成功するが、手間が掛かる。さらに、通路で出会ったときでも〈不意打ち〉したいと言うお願いに屈して色々検証することにした。美少女のお願いを断れる男なんていない(物騒なお願いだが……)



「フッ!」カツンッ、  「フッ!」カシャッ。


 パペット君の攻撃を盾と剣で受け流し続ける。レスミアは既に背後に回り、少し離れた所でソワソワしながら待っている。剣で受け流していると、つい返す刀で両断したくなるが、練習と思い我慢。30秒程経ってから、パペット君を盾で殴って押し返す。それを合図にレスミアが音も無く駆け寄り、抜刀しながらの一閃で首を刎ねた。


「フーー、今のは良い感じでしたね」

 笑顔になるのを堪えているのか、口元をニヨニヨさせてレスミアは満足そうだ。

「受け流しの練習になったから構わないけど、パペット君の視界から外れて30秒か。ちょっと長いな。」

 パペット君も顔で敵を認識していると仮定して、視界から外れて10秒、20秒で攻撃したが失敗。先ほどの30秒が初成功だった。


「次は25秒を試してみたいが……パペット君も顔で見ているようだし、視界を塞げば時間を短縮出来るかも?」

「でも私の姿が見られる前に視界を塞げますかね? 大きな盾でもあれば隠れるでしょうけど、ザックス様の後ろに隠れるのも限度がありますよ」


 う~ん、顎に手をあてて考えながらストレージを覗く。長い棒に盾を括り付けてパペット君の視線を塞ぐ?パペット君も動くから難しそうだ。〈ファイアボール〉を地面に当てて煙幕代わりにする? MPが余っている状況ならまだいいけれど、そのまま当てた方が早い。ただ、煙幕で思い付き、アレを取り出した。



 野営用のマントを羽織り、後ろのレスミアを隠しながら通路の先のパペット君に近づく。間合いからは少し遠い距離で、右手に持った煙キノコをパペット君に投げつけた。胴体に当たった煙キノコは軽い破裂音と共に弾けて周囲を胞子で満たす。3m程の範囲が見えなくなるが、そこにレスミアが側面から入っていった。

 数秒後、パペット君の首がポーンと胞子の中から飛び出して来るのを見て、


「〈ブリーズ〉!」

 風の魔法で胞子を後ろに吹き流した。


「ケホッ、ケホッ、ケホッ。確かに早く〈不意打ち〉出来ましたけど、これは駄目です」


 全身が胞子で白くなったレスミアに手鏡を見せると、慌てて全身を払い始めた。もう一度〈ブリーズ〉の魔法を使う。


「流石は煙幕代わりに使えるキノコだな、あそこまで濃く広がるとは思わなかったよ」

「私も初めてですよ。低層じゃ使う機会もないので売るだけでしたし。道具屋で買った煙幕玉はアレよりも広範囲なのですよね?」


「そうらしい。実際の効果範囲を事前に聞いておいた方が良いな。いざという時に使って退路まで見えなくなったら不味い」



 結局、小部屋で釣りだしたパペット君だけ〈不意打ち〉して、通路では焼き払って進むことになった。が、直ぐに階段にたどり着いた。〈不意打ち〉の検証をしているうちに、ずいぶん進んでいたようだ。


「レスミア、4層に行くけれどジョブはどうする? 狩猫はレベル2だ」

「狩猫のままで行きます。スカウトにしてもマップが使える程度ですし、レベル差のある狩猫から育てましょう」


 声には出さないが〈不意打ち〉気に入ったの?って突っ込みたい。まあ、罠が出る11層まではどっちでもいいからな。俺のジョブの方は3層で着けていた戦士、商人、採取師がレベル3になった。4層にはレベル2の村の英雄、魔法使い、スカウトで行くので変更しておく。4層からは新しい敵の大きいネズミが出るらしいので、念のために村の英雄の方が良いだろう。




 4層に降りてきた。今までの石作りの洞窟ではなく、坑道というか土が剥き出しの洞窟だ。部屋の入り口は補強のためか丸太が立てられている。ヒカリゴケが若干上の方に生えているので、足元が少し暗めか。


「この層からは大きいネズミが出るらしいが、レスミアは動物を切ったことはあるのかい? 」

「学校の実習で鶏を絞めたくらいですねぇ。兄とか男の子グループは森に狩に行って鳥やウサギ、ネズミとか小動物を取っていたみたいですけど。女の子グループの私は、姉について家事とか店の手伝いをしていましたし」


 因みに俺はある訳ない。山賊達も聖剣のオート攻撃だったので、この手で切ったのはパペット君だけだ。自分で殺した死体も見ているし罪悪感や色々な感情はあるものの、実際にこの手で切っていないのも事実だ。ネズミなら小動物だ、なんとかなるだろう。


 この層でも地図を確認して採取地を目指す。パペット君はまだ出現するので燃やしておく。

 そして小部屋に入った時に、部屋の真ん中に大きな塊を見つけた。ヒカリゴケが壁の上の方にあり下の方は薄暗くて見え難いが、嫌な予感がして〈詳細鑑定〉を掛けた。



【魔物】【名称:ヒュージラット】【Lv4】

・50~100㎝ほどの大型ネズミで隅を走るのが好き。攻撃は体当たりと噛みつきだけだが、素早いので注意。

・属性:土

・耐属性:水

・弱点属性:風

【ドロップ:ネズミの皮】【レアドロップ:ネズミ肉】



「あの大きな塊、魔物だ!」

 レスミアに警告して、魔法の充填を始める。大きなネズミ……ヒュージラットもこちらに気付いたようで、赤い目をこちらに向け動き出した。赤い目がふっと暗闇に消え、ヒュージラットの姿を一瞬見失う。よく見ると奥に向かって逃げて……いや、部屋の奥に通路はないから行き止まりだ。

 ヒュージラットは奥の壁まで行くと壁沿いに走り、部屋の角を経由して壁沿いでこちらへ走ってくる。隅が好きってそういう事か! デカい図体なのに素早い、魔法の充填は間に合わない! 盾の取手を握って構えたところで、近くまで来たヒュージラットが俺に向かって飛び掛かってきた。


「危ない!」


 隣にいたレスミアが前に出て、ヒュージラットとすれ違いざまに切りつけるが浅い。毛皮を切り裂いた程度だ。


「フンッ……重っ」


 飛び掛かって来たヒュージラットの肩口を盾で殴りつけながら後ろへ受け流すが、その勢いと重量に負けて体勢を崩して片膝をついてしまう。ヒュージラットは難なく着地して、そのまま反対側の壁に走り去って行った。

 てっきり反転して襲ってくると思っていたので呆気に取られていると、また壁沿いに走りながらこっちに向かって来るのが見えた。俺は立ち上がって壁際に行くと、壁と平行にワンドを構えて「エアカッター!」を放った。壁と平行に飛んで行った風の刃は、壁沿いを走っていたヒュージラットを両断した。

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