第22話 2層から3層へ

 結局、暇つぶしの本は諦め雑貨屋を出た。ダンジョンのエントランスでソフトレザー一式を装備する。


 青い鳥居の転移ゲートの柱に触れると、ステータスの様にウインドウが表れ、転移先の階層が表示された。といっても2層しかない。それを選択すると、鳥居の内側に青い壁が現れた。壁の表面には青い光が上から下に流れている。下層行という事だろう。鳥居を潜ると2層の階段がある部屋に出たようだ。

 階段のある部屋は魔物が巡回に来ないので、転移直後にアンブッシュという事態は少ないだろう。魔物が獲物を追って階段までくる場合や、赤字ネームが待ち構えている可能性もあるから100%安全ではないらしい。


 周囲が薄暗いことでランタンの出し忘れに気付き、ストレージからランタンと小さいスコップを取り出す。昨日使ったヒカリゴケは既に光っておらず、ただの苔になっていた。ヒカリゴケはダンジョンのマナで光っているので、外に持ち出すと長くはもたないらしい。古い苔は捨て、壁に生えているヒカリゴケを削りランタンに入れる。


 まずは採取地を目指しつつ、3層を目指そう。MPは満タンなので、半分になるまでは木炭の量産といこう。ワンドを持って進んだ。



 遭遇したパペット君はファイアボールで燃やしていくのだが、2つ程気になる事があった。1つはワンドを使っているのに、昨日より充填が早くなった気がしない。2つ目はパペット君の胴体にファイアボールを当てても胴体しか燃えない。一発で倒せるのは変わらないが、昨日は手足にまで延焼していたはずなのに。


 現在のジョブは戦士、商人、採取師に、特殊アビリティ設定の追加スキルで〈初級属性ランク1魔法〉を追加している。まぁ、よく考えなくても分かる話だ。魔法使いの知力値の補正がないせいで、威力が落ちて充填も遅くなっていると思われる。



 一次的に採取師を魔法使いのジョブに変更。懐中時計を片手に検証してみた。

 結果、魔法使いでファイアボールを充填すると30秒、ワンドを使うと27秒。採取師にしてファイアボールを使うと33秒、ワンドを使うと30秒。

 補正無しと比べると、魔法使いの補正で1割早くなり、ワンドを使うとさらに1割早くなるようだ。


 威力に関しては魔法使いなら、昨日と同様に手足まで延焼したが、ワンドの有無では変化はなかった。ワンドの説明文に合った通り、充填速度にしか寄与していないのだろう。



 結局、戦士、商人、採取師に戻して、ワンドでパペット君を燃やす事にした。3秒遅くなってもパペット君相手なら問題ない。もっと深層なら1秒が生死を分ける、なんて映画のような状況があるかもしれない。



 採取地に到着するまで木炭を量産し続けた。MPを確認すると4割程だったのでワンドをしまい、ツルハシに持ち帰る。

 採取地の土や岩の盛り上がり部分……土山は2つと再生中のところが3つ。既に先客に掘られていたようだ。まあ、朝はダンジョンギルドと雑貨屋に行っていたのでしょうがない。採取はルール通り1か所のみにしよう。


 ツルハシを振るって土山を崩すが、昨日よりも崩し難い。またこのパターンか、と直ぐに思い至り戦士ジョブから村の英雄に切り替えると、昨日と同様に崩せるようになった。


 戦士の筋力値補正は小、村の英雄の補正は中なので、その差が影響したのだろう。面倒でもこまめに付け替えるのが一番良い。などと考えていたら、MP回復を付けていない事に気付いた。〈経験値増3倍〉を外して〈MP自然回復量極大アップ〉に付け替える。



 採取した鉱石をストレージにしまい、3層を目指す。ジョブやスキルを元に戻し、武器は槍を取り出した。昨日は剣しか使っていないので、訓練していた槍も試したい。


 これはダンジョン内の狭隘空間でも使えるよう1.8m程の短槍だ。突く以外にも、穂先はナイフ程度の長さの刃があるため、切ることも出来る。柄は木製なので比較的、軽くて扱いやすいらしい。総重量的にショートソードより重いけれど、両手で扱うのが前提だからだそうだ。まぁ、筋力値補正が高くなれば、総金属でも扱えそうだけどな。



 パペット君を見つけて攻撃するが、一方的に突ける。リーチが長いのは正義だな。突きだと攻撃が点になるので、動いている腕などを狙うのは難しいが、胴体を狙うなら問題ない。貫通して抜けなくなった時は焦ったけれど、槍を手放して殴ってトドメをさした。


 突きについては、スキルの〈二段突き〉が参考になった。一撃目が穂先の7割程刺さったところで、引き抜き素早く2撃目を刺す。スキルは体が自動で動いてしまうので、感覚的には気持ち悪いが、体の動かし方を覚えるのには丁度よかった。練習してスキルを使わずに同じ行動が出来るようにしたい。


 他には、足払いで簡単に転ぶパペット君は笑ってしまったし、そこから叩きおろしで倒すのは気持ちが良い。

 パペット君のパンチに合わせて、石突でカウンターするのも良い。石突に鉄製のキャップが付いているとはいえ、胴体が陥没するほどの威力が出た。

 ただ、部屋内ならともかく、通路では振り回すと壁や天井に当たり、振り回すような取り扱いは出来ない。いや、部屋内でも他に仲間がいたら危ないか。


 等々、槍の訓練がてら練習に励んだ。




 3層への階段に着き、ストレージから水を出して一息つく。懐中時計を見ると昼にはまだ少し時間があるので、3層を覗いていくことにして階段を下りた。


 3層も1、2層と代り映えが無い。時間的に採取するのは無理なので、地図を確認して採取地とは別方向へ行ってみる。


 パペット君を探して戦っていく。何度か戦っているとパペット君の行動に変化が見られた。曲がり角や分岐路で足を止め、角から顔を覗かせて警戒するようになったのだ。角からそ~っと見てくるのは小学生サイズな事も相まって、かくれんぼの鬼を警戒しているように見えて和む。

 まあ、警戒しているように見えるだけであり、俺の姿を見つけるとそのまま歩いてくるので、あまり意味はない。そこは待ち伏せや、距離が近いなら走って強襲するべきだろうに、まだまだパペット君のレベルが低いからだろうか?


 ただ、俺自身も曲がり角や分岐で殆ど警戒していないのも危ないな。低層で罠が無いうえ、魔物はパペット君のみ。どうしても警戒心が薄れる。エヴァルトさんの講義や教科書でダンジョンの心得で習ったはずなのに……


 はっ! 次の4階層で新しい魔物が出てくるから、警戒しろというパペット君からの警告に違いない。

 ……そんな訳ないか。



 パペット君をとっかえひっかえしながら(槍で)突き合っていたが、お昼の時間になったので〈ゲート〉のスキルで地上に戻った。

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