第21話 初日の成果
翌朝、朝食を取った後、レスミアに見送られて雑貨屋に向かっていた。農村のせいか2の鐘前なのに人通りが多い。まだ夏の終わりで日中が暑いので、朝方に作業をするのだろう。
などと考えていたのだが、村の中心に行くにつれ人通りが増える一方だ。雑貨屋が見える所まで来てようやくわかった。みんな野菜を籠などに入れて並んでいる、もしかしなくても俺が物資の買い取りを出した件だろう。
行列のため開いたままのドアの向こうにいるフルナさんと目が合った。
「あ、ザックス! 見ての通り買い取り中だから、もう少し待っていなさい。
みんな!臨時収入の立役者のザックスよ、お礼言っときなさい!」
そのとたんに周りから感謝の声が飛んできた。
「聖剣のあんちゃん、ありがとよう。臨時収入は助かるわ」
「ほんとに助かるねえ。葉物の野菜とか、雑貨屋の旦那さんが街に行く時しか買い取って貰えないし」
「今年は豊作なのは良かったんだけど、取れすぎて毎日食べるのに飽きてきたしなあ」
「なんなら一本あげるわ、レスミアちゃんに料理して貰いなさい」
周りから色々な野菜を渡されそうになり、慌てて断る。
「ちょっと待ってください。買い取りは領主様からの指示なんですよ。俺はただの使い走りです。感謝は領主様にお願いします。
それと、今その野菜を受け取ると領主様が買い取る分が減ってしまいますので、すみませんが受け取れません。」
俺の声に周囲の人たちもクールダウン出来たようで、野菜を差し出すのが収まった。
「そうはいっても、領主様を見たことも無いしなあ。そうだ、あんちゃんに感謝しておくから、領主様に伝えておいてくれ」
「そりゃいいな。畑の世話があると、なかなか街まで行けないし。ありがとうって言っといてくれ」
「みなさんの感謝の言葉は、領主様に必ず伝えます。俺が村にいる間は随時買い取りますので、数に余裕がある物は雑貨屋に売りに来てくださいね。
では、俺はダンジョンギルドに用事がありますので、これで失礼します」
皆さんに笑顔を向け、手を振り、ダンジョンギルドの方へゆっくり逃げた。自分はただの運搬役なのに、あそこまで感謝されると、ちょっと後ろめたい気がする。
ダンジョンギルドに入るとフノー司祭がカウンターから出迎えてくれた。
「お疲れさん。朝から大変だなあ」
「おはようございます。あんなに感謝されるとは思いませんでしたから、びっくりしましたよ」
「農家は殆ど自給自足出来るとはいえ、酒場で飲むとか、雑貨屋で買い物するのにはお金がいるからな。出荷予定にない物が売れるなら、そりゃ喜ぶさ」
フノー司祭は笑いながら農村の実情を教えてくれた。
「今日は買い取りか? 昨日ダンジョンに行くって言ってたしな」
「ええ、1層と2層の採取場に行ってきたのでお願いします。どこに出せばいいですか?」
フノー司祭はカウンターの裏から籠を取り出し、
「植物系の嵩張らないものはここに入れてくれ。重い鉱石類はカウンターの横から奥の倉庫に行けるから、そっちに持って行ってくれ」
先に重い方から片付けることになり、フノー司祭に連れられて倉庫に行く。
倉庫内は鉱石ごとに仕分けされているようで、沢山の木箱が並んでいる。部屋の中央には体重計のようなものが置かれているが、あれで重量でも量るのだろうか?
フノー司祭が体重計の大きな籠を指さして、
「ここの籠に鉱石だけ入れてくれ。石炭は別にな」
言われた通りに、銅鉱石とスズ石をストレージから出して籠に移す。少し待つと籠の内側が光り出し、体重計に1800の文字が表示された。
「お、1800円と、石炭が4つで400円、合計で2200円な」
「どういう原理なんです、これ? 石炭は一緒に計測出来ないのですか」
フノー司祭は後頭部を手でかきつつ、すまなそうな顔をした。
「原理は分からんが、鉱石の値段を決めてくれる魔道具だ。
ほら、鉱石ってとれた階層で品質……金属の量が変わるだろ。表面ならまだしも内側の金属量まで分からん。持ってきた人の自己申告を鵜吞みには出来んしな。
そこで、この魔道具だ。籠に入れた鉱石の金属の種類と量を計測して、値段まで計算してくれるんだ」
「確かに便利ですね。それで石炭は?」
「知らん。使い方の説明を受けた時も、石炭は別にとしか言っていなかったな。まあ、中に金属が入っているわけでもないし、個数で計算するだけだな」
石炭は金属じゃないから計測出来ないのかね。それにしても、石炭は個数でしか計算されないなら、どの階層で出ても100円か。外れ枠だな。
カウンターの方に戻り、植物類の買い取りを続ける。ストレージから火種の実を3袋、煙キノコを2袋、丈夫なツタを1袋取り出して、買い取り籠にいれる。
「ちょっと待っていてくれ、植物系は物の状態を確認しないといけないからな」
そう言うとフノー司祭は袋から火種の実を取り出してチェックしていく。全てチェックした後は量り重量を図っているようだ。丈夫なツタは長さだったが。
「お待たせ。火種の実が350円、煙キノコは150円、丈夫なツタは200円で合計700円。鉱石の方と合わせて2900円な」
大銅貨2枚と中銅貨9枚を手渡された。
この世界に来て初めて自分で稼いだお金だ。アドラシャフト家から援助を受けて不自由はしていないが、やはり心苦しい部分はある。このお金は決して多くはないが、もっと深い階層に行き自活できるようになりたい。
「ザックス殿、煙キノコの採取についてなんだが、煙キノコは胞子を出す傘の部分が重要でね。柄の部分はいらないから、採取するときは上の傘のみ切り取ってきてくれ。柄があると嵩張るし、柄を残しておけば採取地の回復も早くなる」
フノー司祭はチェックの終わった煙キノコを見せてくれたが、傘の根元で柄が切り取られていた。知識不足から余計な手間を掛けてしまったようだ。
「それは知りませんでした。今日の採取から傘の部分だけ採取してきます。
それと魔物のドロップというか、丸太や木炭は買い取りしていないのですか」
「パペットの素材は足りないときのみ買い取りするが、殆ど無いな。品質が良くないから薪ぐらいにしかならないし、村の人達も自分で取りに行くから、買うやつが居ないんだ。お金がある家は魔道具使うから薪はいらないし。
10層のボスの丸太なら買い取りするぞ。お手頃の家具や小物を作るなら断然こっちだな」
パペット君の丸太が沢山あるのに、使い道がないのか……出来る限り燃やして木炭にした方がマシかもな。
ダンジョンギルドでの買い取りを終えて、隣の雑貨屋に入る。今朝の喧騒は収まり、フルナさんがカウンターで何か書いている。
「お疲れ様です、在庫を買いにきました。
フルナさん、今朝のはちょっと酷いじゃないですか、あんな煽るような真似して」
フルナさんは気にした様子もなく、笑いながら手をひらひらさせている。
「こっちが早朝から忙しいところに、のほほんと歩いてきたのを見てイラっとしただけよ。ほんの可愛らしい悪戯じゃない、男なら気にしないで流しなさい。
そっちの木箱に種類別で分けてあるから、木箱ごと持っていきなさい」
軽く中身を確認してからストレージにしまう。ストレージ内のフォルダに今日の日付を入れて別管理にする。
フルナさんが手招きしているのでカウンターに行くと、先ほど書いていた紙、ちょっと厚めの和紙のような紙を手渡された。
「はい、これが今日の分の明細書ね。種類と個数に相場金額、私の手間賃や木箱、この紙みたいな諸経費。
ちゃんと目を通してから、合計金額をお支払い下さい」
ストレージに入れたままでも、個数や重量、容量が表示されるので、明細書と比較して間違いがないか確認する。
「これ、多少の誤差はあるけれど大体重量が統一されていますし、一束何グラムと決められているのですか?」
「呆れた、量りも使わずに重量が分かるの? まあ、街へ出荷する物はサイズや重量が決まっているわ。家の旦那のアイテムボックスには限りがあるし、出来の良い物を買い取って街に卸しているのよ」
そんな雑談をしながら、明細書と現物のチェックを終え、合計金額を支払った。
「はい、毎度ありがとうございます。明日はもう少し落ち着くはずよ。後、明日は保存のきく穀物系も余剰在庫を用意しておくからそのつもりでね」
「了解です。
あと、雑貨屋の商品にあるか聞きたいのですが、夜一人の時に暇つぶしが出来るような物ありませんか?本とか」
フルナさんは途端に笑顔になり、口に手を当てて、
「あらあら、レスミアちゃん口説いてイチャイチャしてればいいじゃない。夫婦とか恋人の夜なんてそんなものよ。
あ、一人の時の本ってそういう……ごめんなさい、流石に置いていないわ。大きい街にはあるって聞いた事があるような?アドラシャフトの街に売っているかは知らないけれど。」
慌てて手を振って否定する。
「いやいやいや、なんでそっちに行くんですか。俺が欲しいのは普通の小説とか、図鑑とかですよ。ほら、ダンジョンギルドに魔物や採取物を纏めた本があるでしょう」
先ほどとは逆に、フルナさんの顔が笑顔から半目になり睨まれた。
「まったく、つまらない男ねえ。
まあいいわ、ちゃんとした図鑑は羊皮紙をまとめたものだから高いわよ。金貨は必要ね。
ギルドにあるような薄い本なら銀貨数枚くらい。
小説は分からないけれど、吟遊詩人の歌をまとめたのがあったような。値段は知らないけれど」
やっぱり高いか。アドラシャフト家にあった蔵書も、分厚くて重く、表紙に金属で装飾されており、中には手書きの挿絵が付いているくらいだ。値段が金貨=100万円は当然か。
ダンジョンギルドにある本は、和紙のような紙なので多少は安くなるのだろう。
「銀貨クラスの本なら、なんとか買えるかな」
「あ、先に行っておくけど、旦那が街から帰ってきて注文して、さらに往復だから、10日位は時間が掛かるわよ。後、元の商品が高いほど手数料も高くなるからね。娯楽品だし1.5倍はみておいて」
「お金のかかる趣味はやめときます!」
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