第15話 雑貨屋と宿屋
「フルナさん、こんにちわ〜」
「あら、レスミアちゃんと、そっちは話題のザックス君ね、いらっしゃい」
カウンターで店番をしていたのは、若いお姉さんだった。カウンターの周囲の棚には値札と共に様々な商品が並んでおり、部屋の奥の方には壁に展示されている剣や、立て掛けられている槍が見える。煩雑な感じが雑貨屋らしくてワクワクする。
「初めまして、ザックスです。話題のって何ですか?」
「そりゃ、山賊の半分以上を一人で蹴散らし、キラキラ光る剣を操るなんて話題にならない方が可笑しいわよ。
ついでに宴会でぶっ倒れてしまうのもね。男衆が飲ませ過ぎたって大慌てしていたのも面白かったわ」
「初めてお酒飲んだので、加減が分からなかったんですよ。ちょっとお酒が苦手になりました」
「私もお酒は苦手ですね〜。苦いだけですよ」
フルナさんはクスッと笑い、子供を諭す様に言う。
「まだ成人したばかりじゃ、そんなものよ。慣れるまでは、最初の乾杯の1杯だけにしておきなさい」
レスミアはその1杯ですら、嫌そうな顔をしている。
「ここのダンジョンに潜るのに必要な道具類を一式お願いします」
「道具類一式ね。剣は昨日の聖剣があったけど、防具は準備してあるの?」
「防具は前衛用のソフトレザー製を一式持ってきています。手入れ道具も一緒に」
フルナさんは棚から小物を取り、カウンターに置く。ポーション2個、カンテラ、火打ち石、軍手10枚、採取ハサミ、小さい採取袋10枚、乳鉢と乳棒、包帯、固形石鹸、手鏡、10層までの地図だ。
「採取について説明はいる?低層のルールとか」
「一応勉強して来たので大丈夫です。ルールって採取は半分までってやつですよね」
「そうそう。あと地図は取り敢えず10層までね、10層のボスを倒せたら残りの20層までの分を売ってあげるから」
地図の読み方(階段や採取地のマーク等)を教えて貰った。
ポーションは15cm程の試験管に、緑色の液体が入ってコルク栓で封がしてある。定番の回復薬が来たので〈詳細鑑定〉してみる。
【薬品】【名称:ポーション】【レア度:E】
・服用するか、患部にかける事で傷の治りを早める。HP+20%(5分)
徐々に回復するため、複数服用しても治りが早くなる訳ではない。
事前に服用しても、効果時間内に怪我をすれば効果は出る。
錬金術で作成(レシピ:薬草+踊りエノキ)
20%回復か、即時に治る訳でないのは残念だが、事前に服用出来るのは良いな。ボス戦前に準備して挑める。
ただ、レシピの踊りエノキが気になる。踊るの?
「採取地で薬草とか植物を採取したら、こっちの採取袋に種類毎に分けて入れて来てね。混ざっていると買い取り拒否される事もあるから」
まあ仕分け作業するくらいなら、最初から袋を分ける方が楽か。
「この乳鉢と乳棒は何に使うのですか?」
「それは薬草や毒消し草を煎じるための道具ね。磨り潰して患部に貼るか、水に溶いて飲むのよ。生のままでも食べられるけど苦いし、患者が噛んで飲み込める容態とは限らないから、ポーションを切らした時の緊急手段として持っておいた方が良いわ」
講義でも習ったが、生の薬草は苦い野菜を丸かじりする程度だが、毒消し草の方は苦くてエグ味も強く飲み込むのが大変らしい。しかもある程度噛まないと効果が薄くなる。
僧侶が重宝される訳だ。
「小物はこれだけ、次はあっちに行くわよ」
フルナさんはカウンターから出ると、武具が陳列してある部屋の奥へ向かった。
付いて行くと荷物持ちとして色々手渡される。
ロープに小さいスコップ、大きいシャベル、ツルハシ、ピックハンマー、タガネ、ブラシ、大きい麻袋10枚、3m程の棒。
大体は鉱石掘りに使う物だ。ツルハシで崩して、大きいシャベルで選り分け、ピックハンマーとタガネで鉱石に付いた無価値な岩石を取り除く。小さいスコップは細かい作業用でブラシは砂払い用だ。
「鉱石も種類毎に袋に入れて来てね。道具だけで結構量が多いけど、ザックス君はアイテムボックスが有るそうだし問題無いわよね」
「確かにツルハシやシャベルはそれなりに重くて嵩張るし、長い棒は邪魔ですよね」
「だからパーティにはアイテムボックス持ちか、魔道具のアイテムカバンが必須なのよ。その棒は10層未満なら必要無いかもしれないけれどね」
棒の話題で、レスミアが得意げに言ってきた。
「私みたいなスカウトがいれば11層以降も、棒は不要ですよ。罠探知のスキルがありますから!」
「……スカウトが居れば助かるのは確かだけど、棒は他にも色々使い道が有るって教わったぞ」
「そうね、遠くから罠を起動させたり、鏡を括り付けて曲がり角を確認したり、森や草原フィールド階層だったら怪しい草叢を突いたり、使い方は多いから持っておいて損はないわよ」
立て続けに反論されたレスミアは、むくれてそっぽ向いてしまった。スカートの裾から見える尻尾がブンブン振られて、スカートが揺れている。
「まあまあ、スカウトは必要不可欠なのは分かっているよ。ただ棒を使えばスカウトが危険な目に遭う確率を減らせるってだけさ」
尻尾の動きがゆっくりになったので大丈夫……かな?
「ま、実際にダンジョンで使ってみれば分かるわ。
取り敢えず道具類一式はこれで全部よ。多少オマケして4万円ね」
ストレージから銀貨4枚を取り出して、フルナさんに手渡し、道具類一式をストレージに格納した。フォルダ分けして取り出し易くしておく。
「それじゃ、もう一つの件について相談しましょうか。村長から聞いたけど時間停止のアイテムボックスなんてお伽話じゃない。売って頂戴」
「スキルなんで売れる訳ないでしょう」
「魔道具のアイテムカバンだったら何千万、いえ何億でも欲しがる商人や貴族は多いでしょうね。
ザックス君自身をアイテムカバン扱いする為に、誘拐される危険性もあるけど……」
ニコニコと笑いながら、誘拐されるとか話されるのはちょっと怖い。
「だから脅かさないで下さいよ。」
「領主様が後ろ盾にいれば大丈夫だと思うけど、万が一に備えてアドラシャフト家の紋章入りの短剣とか持っておいた方が良いわ。まあ、あまり吹聴しないことが一番ね」
「アドバイスには感謝します。
話を進めますが、村の人が雑貨屋に売り、俺が買いに来るという形で良いですか?」
「そうねえ、買い取りや保管、書類作成の手間賃は上乗せするけれど、大体村で買う値段と同じくらいになるわ。
後、穀物はいつでも良いのだけど、野菜類を買うなら早い方が良いわ。鮮度が落ちてしまうもの」
「分かりました、明日から2の鐘には買いに来ます」
商談成立という事で、握手を交わす。なぜかレスミアも手を乗せてきたが。
「それじゃ店の売り上げのためにも、じっくりとダンジョン攻略して滞在期間を伸ばしてね」
そんなフルナさんに見送られて雑貨屋を後にした。
「もう次で最後ですね。あそこの宿屋兼酒場です」
レスミアが指を指すのは広場の向かい側、昨日風呂に入っただけの宿屋だった。
1階が昼は定食屋、夜は酒場になるらしい。
宿屋に入ると見知った人に声をかけられた。
「ザックス!生きとったか!!こりゃ目出度い」
見習い騎士隊のベルンヴァルトとダンドだが、昼間から酒盛りしている様だ。
「ベルンヴァルト、昼間から飲み過ぎじゃないか?エクベルト隊長とカムボは?」
「これくらい鬼人族なら飲んだうちに入らないぜ。
隊長達なら山賊討伐の本隊に連絡に行ったぞ。昨日で結構な人数を討ち取ったからな。本隊が空振りになったら可哀想だろ」
それに付き合って飲んでいるダンドの方は大分酔っぱらっているようで、眠そうだ。
空いた席を勧められたので座り雑談をする。レスミアは酒臭いのが嫌なのか少し遠目に座った。
ベルンヴァルト達は、今日は休みだが明日には街へ戻るらしい。
「そういえば隊長がザックスに相談したがっていたぜ。山賊供の持っていた金銭やアイテム、武具とかの分配についてな。
本来ならアイテムと武具は騎士団が貰い、金銭は村に被害金額分、余りは騎士団と村で折半になるんだが、ザックスが活躍し過ぎたからな。
騎士団所属じゃないから、余りの金銭は騎士団と村とザックスで3等分するべきか?ってな」
俺的にはアドラシャフト家から資金援助を受けているし、ザクスノート君の武具一式もそのまま使わせて貰っているので、騎士団=領地の方へ還元したい。
ただ貢献した人が無報酬というのも体裁が悪いのも分かる。
少し考えて、手持ちに無い武器を要求した。
「確か山賊には魔法使いが混ざっていたよな。そいつの使っていたワンドとか有れば譲ってくれないか。代わりに金銭の方は辞退するから」
ベルンヴァルトは少し考えたが、怪訝な顔で聞き返してきた。
「2、3個見た覚えがある。この村じゃ魔法使い用の装備は無さそうだから欲しがるのは分かるが、お前は前衛じゃなかったのか?」
まあ、剣等の戦闘訓練しかしていないので、そう思われても無理はない。レベルが足りなくて魔法使いのジョブになれなかったので仕方がないじゃないか。
「せっかく魔法が使える世界に来たんだ、使ってみたくなるだろう」
「魔法使いは貴重だからな、分からんでもない。それじゃ、後で村長に話して、ワンドも見繕っておくぜ。ザックスはこれからどうするんだ、あの別荘にいるなら届けるが?」
「俺はダンジョンの様子を見に行くつもりだよ。1、2層なら問題ないだろうし、試したい事がある」
そこでレスミアがおずおずと手を挙げる。
「それでは私が預かりましょうか?村長にダンジョンの件を相談した後は、家で家事を済ませておきたいので」
「それじゃ、レスミアに頼むよ。ベルンヴァルトもよろしく」
ベルンヴァルトは了解と返事をすると、ウエイトレスを呼んで精算して出て行った。すれ違いざまに「家で家事しているとか、まるで新婚さんだなあ」とからかわれたが。
ドキッとしたのは確かだがほっとけ。
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