第14話 教会とギルド支部
「それでは朝食を持って来ますね」
既に作り終えていたのか、キッチンに向かったレスミアは、すぐにお盆に料理を載せて戻って来た。
出された朝食は、コーンスープにパン、コーン入りのサラダのようだ。ただし、1人前しかない。
「レスミアは朝食食べたのかい?」
「はい、村長とお話になられている間に、手早く済ませました」
「じゃあ、次からは一緒に食べよう。1人で食べるのは味気ないし、せっかく平民になったのだから気楽に過ごしたいんだ」
レスミアは少し迷った様であったが、軽く手を叩いて微笑んだ。
「ご主人様の要望であればそうしましょう。私もメイド教育を受けたものの、実際にメイド業務をするのは初めてで緊張していました。気楽にというのは助かります」
「それ、それ、さっきから気になっていたんだけど、俺は客であってご主人様じゃないからね。名前で呼んでくれ」
高校生くらいの女の子に、ご主人様と呼ばれるのは気恥ずかしい。格好も相まって、メイド喫茶にでも居るような気分になってしまう。いや、物見遊山で一度しか行った事は無いけど。
なにやら拘りがあったのか、食事の件より悩んでいた様だったが、「……分かりました。ではザックス様とお呼び致しますね。宜しくお願い致します」と、幾分態度を軟化させてくれた。
ようやく食事を始める。コーンスープはスイートコーンの甘い香りがして食欲をそそる。舌触りも滑らかでクリーミーで実に美味い。一緒にパンをひと齧りして、コーンの香りと甘味に気付く。小麦のパンかと思いきや、とうもろこし粉も混ぜ込んだコーンブレッドらしい。サラダにもコーンが入っているし、とうもろこし尽くしだ。
レスミアによると、ランドマイス村はとうもろこしの産地らしく、昨日飲んだ強い酒もとうもろこしが原料なんだそうだ。しばらく酒は見たくないが……
朝食後、レスミアがランドマイス村を案内してくれる事になった。
家を出て周囲を見渡すと、この家は丘の上に建っており、まるで別荘のようだ。
「実際に別荘だったらしいですよ。貴族が病弱な子供の静養の為に建てたとか。子供が大きく丈夫になったから引き払われて、今は村長が管理してお客様用にしているそうです」
家の裏手には石階段があり、その下は村長宅。何かあった際にお世話が出来るよう近くに建てたそうだ。
アドラシャフトでも離れ住まいだったが、村に来ても同じな様だ。まぁ、見ず知らずの家に下宿するよりは、気楽でいい。
玄関側から、なだらかな坂を下り村の中心部へ歩いて行く。その道すがら、雑談でレスミアの事を聞いてみた。
出身地である隣国、猫の国ドナテッラはダンジョンが少なく、レスミアの生まれた国境近くの町にもダンジョンがなかったそうだ。その為、効率的なレベル上げをするなら、ダンジョンがある国へ行く必要がある。レスミアの実家は商家であり、ランドマイス村の取引先だった為、そのコネを使って来たらしい。
「私は次女なので好きにしろって言われていますね。跡取りの兄や姉が商人になっていますし、父も御用商人を目指すほど商売に熱心でもありません。まぁ、猫人族自体がのんびり屋気質なので……」
御用商人とは、商人系ジョブのサードクラスらしい。ただ、商売だけでレベル上げするとなると、大金貨(1千万)が飛び交う様な取引をしていないと駄目らしく、余程の大店でもないと成れない。
「私は万が一嫁ぐ事になっても大丈夫な様に、家事を覚えられるメイドになったのですよ。この村ならダンジョンもあるのでレ、ベル上げも出来ますから。
まぁ、休みの日に近所の奥様方と低層を廻るだけなので、殆ど上がっていませんけど」
【猫人族】【名称:レスミア、15歳】【基礎Lv5、スカウトLv3】
ちょっと鑑定させてもらったが、確かに低い。でもジョブがスカウトなのは魅力的だ。11階以降には罠が設置されているらしいので、罠を察知出来る人材は欲しい。
「それなら、俺と一緒にダンジョンへ行きませんか? レベル上げになりますし、罠を察知出来るスカウトがいると心強いです」
「ええ、それは願ってもない話です。ザックス様が頼りになるのは、昨日の山賊相手で分かっていますから。
ただ、メイドの仕事もありますので、村長と相談してみますね」
そんな話をしていると、村の広場に着いた。昨日、風呂に入っただけの宿屋や、数件の店が並んでいるだけで、それほど広くはない。昨晩、宴会したのもここだな。既に後片付けされているので、痕跡は残っていない。
その中で、先ずは教会兼ダンジョンギルド支部へ案内された。
十字架は無いが屋根にステンドグラスが見える。中に入ると長椅子が左右に4個ずつ並び、奥にはステンドグラスの光を浴びる石像が2体祀られている。多分、この世界を作った女神フィーアと男神トーヤだろう。
その神像の前に、30後半くらいの厳つい男性が居た。教会に入って来た俺達に気が付くと、気さくに話しかけてくる。
「おお、ザックス殿!もう体は大丈夫ですかな?」
「昨日倒れたザックス様に〈ディスポイズン〉を掛けてくれたフノー司祭ですよ」
「村長から聞いています、昨日はありがとう御座いました。お陰で二日酔いにもならずに済みました」
「ハハッ、なんのなんの。怪我や毒状態になった時は、是非お越し下さい。有料ですがね。
後は、この転職装置でクラスチェンジやジョブの変更が出来るので、必要な時はどうぞ。あ、こちらもお布施を頂きます」
教壇の上には、水晶の様な石版が設置されている。ガラス面のようなそれには、手のマーク描かれていた。まるでATMの様だが、手を置くとジョブ変更が出来るのだろう。ちょっとアレを見られたくないので話題を逸らす。
「ダンジョンギルド支部も此処だと聞きましたが、買い取りや依頼はどちらで?」
「それなら隣の建屋ですな、案内しましょう」
フノー司祭は右手のドアを指差して、案内してくれた。
扉を潜るとカウンターのある部屋だった。フノー司祭は端のスイングドアからカウンターの奥に行く。
「こちらがギルド支部だ。主にダンジョンでの採取物や魔物のドロップ品の買い取り、住民からの依頼の斡旋、近場のダンジョンの情報、お金の預かりが出来る。
まあ、この田舎じゃ依頼は殆ど無いがな」
採取物等は、他の店や商人でも買い取ってくれるが、その値段は相場に左右される。対してギルドの買い取りは一定金額の補償をしてくれる。低層の供給が多い品はギルドで売り、深層の供給が少ない品は商人に売るのが良いそうだ。
信頼の置ける商人に、コネが有ればの話だが。
「お金の預かりは、初めて聞いたので教えて下さい」
「大金を持ち運ぶのは不安だろう? アイテムボックスでもあれば別だが、それでもダンジョン内で死亡すればダンジョンに吸収されちまう。
ギルドでは魔道具で簡易ステータスと紐付けし、お金を預かる事が出来る。さらに、本人以外の受取人も指定出来てな……万が一、死亡や行方不明になった場合は指定の人、まあ家族にお金を渡せるって寸法だ。
ああ、預けたギルド支部でしか降ろせないので注意してくれ。支部毎に別管理だから、他の街に行く時は金を降ろすのを忘れずにな」
銀行として使えるのは良いが、支部毎に別ってのが面倒だな。20層までしかないダンジョンなら必要ないか。万が一の受取人も指定する人がいないし。(廃嫡されて平民に落とされているので、貴族のアドラシャフト家は指定出来ない)
「近場のダンジョンの情報はどちらで閲覧出来ますか?」
「カウンターの端に本があるだろ、自由に読んでくれ」
カウンターの端を見ると2冊の本が立てかけてある。パラパラっと内容を見るが、全て講義で教えて貰った情報だ。
「色々と教えて頂き、ありがとうございました。今後ダンジョンに潜る予定なので宜しくお願いします」
「ああ、くれぐれも無茶はしない様にな。無理だと感じたら逃げて来い、怪我くらいなら俺が癒してやれるからな」
フノー司祭にお礼を告げ外に出ようとするが、レスミアに服を引っ張られる。
「次の雑貨屋も横の扉で繋がっていますよ。教会、ギルド、雑貨屋は全部繋がって併設されていて、何処からでも出入り出来るので便利なのです」
確かにギルド支部なんて、カウンターのある方向以外の3方向に扉がある。レスミアに引っ張られながら、雑貨屋への扉を潜った。
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