第13話 宴会とレスミア
ダンジョンに山賊の遺体遺棄をした後、ランドマイス村に戻り、宿へと案内された。戦闘と旅の汚れを落とせる様に風呂を準備してくれたようだ。
預かっていた見習い騎士の荷物をストレージから出して渡し、順に風呂へ向かう。しかし、湯船が3、4人分くらいの広さしかないため別れて入る事になり、俺とエクベルト隊長が先に入ることにした。(いや、鬼人族のベルンヴァルトはガタイが良すぎて2人前なのだ)
シャンプーが無く固形石鹸しかないため、髪も身体も石鹸で洗い。その後湯船に浸かりつつ、エクベルト隊長と風呂について雑談した。
「風呂用の魔道具はそれほど高くないから、ちょっと裕福な家庭なら風呂はあるぞ。まぁ、一般人は共同浴場の方が多いな。この村にも有ると聞いたな。
後は、ここの宿屋や騎士隊の寮みたいに人が多い所には、風呂は大抵あるだろう」
日本人としては風呂に困らなそうなのは助かる。訓練でもそうだったが、ダンジョンに入るなら、汗や埃に塗れそうだし。ついでにシャンプーについても聞いてみた。
「ああ、女が髪を洗うやつか。聞いた話になるが、あれは個人ごとに持ち込むらしいぞ。なんでも香りとか種類が多いから、自分の好みに合った物を買うんだと。
男の場合は、あの石鹸一つで十分だがな!」
アドラシャフト家には、香りが控えめな男向けのシャンプーも有ったのだから、平民には普及していないだけだろうか?いや、むしろ女性の方にだけ浸透しているのに驚くべきだろう。世界が違っても、女性の美に対する意識は高い様だ。
その夕方、広場で宴会が始まった。
広場に沢山のテーブルが準備され、沢山の料理や酒が置かれている。
壇上の村長から村人へ、今回の山賊襲撃について顛末が話され、功労者として俺が紹介された。
俺は壇上に上げられ、村長から頼まれていた通りに聖剣クラウソラスを取り出して、抜刀し剣を掲げる。
「〈プリズムソード〉!」
現れた2本の光剣の内1本を、村人達の上空にロックオンし飛ばす。十分に人目を集めた所で、あらかじめ広場の端に準備されたテーブルの上の酒瓶をロックオンして、瓶の先端を切り飛ばす。その酒瓶から炭酸の噴水が上がったのを見て、村人達から大きな歓声が上がった。
まあ余興の一貫だ。現場に居なかった人は、若造の俺が隊長より活躍したなんて信じ難いだろうし、現場にいた自警団からも、もう一度見たいと言う要望があったためだ。
その後は席で宴会料理を食べるつもりだったが、村人達が代わる代わるに酒を注ぎに来る。感謝と共に勧められるので、断る事も出来ずに何杯も飲んでしまい、大分酔ってしまった。
香りが強いビールの様だが、この世界で初めて飲むのでこの身体のアルコール許容量が分からない。
俺の飲みっぷりに喜んだ村人達が、村の名産品だと言うお酒を勧めてくる。ビール用の木製コップとは違い小さいグラスだったので、これくらいなら飲めると酔った頭で判断してしまい、グイッと飲み干した。
喉が焼ける様に熱い、頭がクラクラするのを感じた後、俺は意識を失った。
目が醒めると知らない天井だった。
いや、宿屋の天井も見ていないけど。見回してみると、この部屋には机や本棚などの家具が多いので、宿屋ではない気がした。ベッドから降りると、宴会の時の服のままだったので、そのまま部屋の外へ出る。
「おはようございます。体調の方は大丈夫ですかな?」
声のした方を見ると、手摺りの下に吹き抜けのリビングが有り、そこには村長が居た。階段を下り、村長へ挨拶する。
「おはようございます。幸いにも二日酔いにもならず、元気です」
村長に、向かいの席に座わる様勧められたので座る。すると、軽く頭を下げられてしまった。
「昨日は村の衆が、酒を無理に飲ませてしまったみたいで申し訳ない。
あの後、僧侶に〈ディスポイズン〉を掛けさせましたが、効果があって何よりです」
〈ディスポイズン〉……僧侶の回復魔法、いや回復の奇跡だったか。回復や状態異常回復の多い僧侶のスキルは、神の奇跡なんだそうな。二日酔いに神の奇跡を使うってのもアレだけど。
「私も自分の限度も知らずに飲んでしまったので、次は気を付けます。
因みに、ここは村長のお宅ですか? 昨日の宿屋ではない様ですよね?」
「いえいえ、ここは来客用の家ですよ。領主様の手紙に、ザックス様がダンジョンに挑む間の拠点を用意しろと有りましたので、準備しておきました」
村長は軽く手を振りながら答えてくれた。話はノートヘルム伯爵から聞いている。ダンジョン攻略を目指す際の、援助の一環だな。俺はやるべき事を思い出し、ストレージから貨幣袋を2つ取り出して、一つを村長の前に置いた。
「領主様よりお預かりしていた滞在費と謝礼金です。お納めください」
貨幣袋の中身の金額は知らないが、中身を確認した村長は、顔を綻ばせた。どうやら、余程の金額が入っていたようだ。
「これだけ頂けるのは助かります。当座の食料品や、生活雑貨は運び込んで有りますので、ご自由にお使いください。もし、足りなければ、広場にある雑貨屋でも色々買えますよ。まぁ、都会のアドラシャフトに比べれば、品揃えは負けますけどね」
ハハハと笑う村長に対して、俺も「後で見に行きます」と笑い返しておく。まぁ、離れと訓練場にしか行っていないので、都会のお店も知らんのだけどね。色々突っ込まれると反応に困るので、話を逸らす。
もう一つの貨幣袋を見せつつ、お使いの件も話しておいた。
「こちらは領主様からの依頼です。この村の余剰生産品が有れば、買い取りたいと。特に日持ちがしない食料品が良いです」
村長は目を見開き驚く。そりゃそうだ、普通は逆だからな。
「日持ちがする物の間違いでは?」
「いえ、私のアイテムボックスは特殊で、中の時間が止まります。なので、敢えて日持ちがしない物の方が良いのです。
ああ、村内で消費する分は駄目ですよ。あくまで余剰品、街で需要があり、且つ豊作で余り気味な作物とかが有れば買い取ります」
村長は顎に手を当てて考え込む。急な話なので、暫し考え込んでいたが、村の状況と擦り合わせて考えた案を提示して来た。
「では、村の雑貨屋で余剰品を買い取ると、村民に連絡を回しましょう。その後、ザックス様が雑貨屋で購入して頂くというのはどうでしょう。やはり商人を通した方が、売買の金額や街の需要も分かります」
「雑貨屋の商人には、私が買う際の品数と金額をまとめる様に伝えて下さい。領主様への会計報告が必要ですので。
後、この件は私が滞在中ならば買い取りますので、随時連絡下さい」
「分かりました。雑貨屋にも話しておきます。では、急ぎで話す事は、これくらいですね。1人、紹介したい者が居ます。
……おおい、レスミア、こちらの話は終わった。入って来なさい。」
村長がリビングの奥の方に声をかけると、扉が開き1人のメイドさんが入って来た。その銀髪とメイド服には見覚えがある、山賊に捕らわれていた人質娘だ。昨日は遠目であったから、銀髪に目が行っていたが、近くで見ると顔立ちも綺麗な美少女である。
彼女は俺の前で片膝を付くと、両手で俺の手を握り、御礼を言ってきた。
「初めまして、レスミアと申します。昨日は危ない所を助けて頂きありがとうございました」
美少女に手を握られるという美味しいシチュエーションであるが、そちらよりも俺は目の前に来たネコミミに目を奪われていた。てっきりカチューシャのリボンか何かと思ったのに、間近で見ると見事なネコミミだ。人間の耳もあるので作り物かと一瞬思ったが、ネコミミ自体が動いているので本物だろう。
空いている手で撫でたくなるが、初対面では失礼だ。自制心をフル稼働させ、さらに唇の内側を噛んで我慢する。
「レスミアは隣国の商人の娘さんでしてな。行儀見習い兼、レベル上げで私の家で家事手伝いをしているのです。昨日のお礼がしたいと強い要望があったので、この家の管理を任せる事にしました」
「掃除、洗濯、料理にダンジョンのお供まで、何でもやります。よろしくお願いします」
「この家には魔道具も色々あるから、レスミア1人でも大丈夫でしょう。使用には魔水晶が必要になりますが、領主様からの滞在費があるので遠慮なく使って下さい」
この世界に来てから、自分で料理や家事をしていないので非常に助かる。魔道具も照明やシャワー、湯沸かしポット程度しか使っていない。平民として生活するなら、多少は家事も覚えた方が良いかもしれない。
「では、宜しくレスミアさん」
「レスミアとお呼び下さい、ご主人様なのですから!」
主従関係を結んだ覚えはないのだが……ニコニコ笑顔のレスミアの様子を見て、お客様じゃないのか?と村長に視線を向けると、スッと顔を逸らされた。
「じゃあ、後はレスミアに任せて、私は雑貨屋に買い取りの話をして来るよ」
そう言うと、村長はそそくさと出て行った。
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