第12話 道中と初陣の後始末
騎乗した馬3頭と馬車1台で、ランドマイス村へと続く街道を進む。
道中は、馬車の揺れが思っていたより酷いものの、フロヴィナちゃんのクッションのおかげで問題なく過ぎていった。街を出てから牧場地域を進んでいるが、広過ぎる。結局、夕方になって野営地に着いても牧場地域の中だった。その野営地も牧場を経営している集落の片隅に間借りしているほどだ。
「まあ、この辺りはダンジョンも無いし、家畜を襲うような野生動物さえ狩って減らせば、牧場の拡大は出来るからな」
エクベルト隊長はそう言いながら、馬の世話を始めた。
俺もストレージから飼葉を出し、テントを出して張るのを手伝う。
その日の夕食もストレージから出すだけで、作り立ての物が食べられる。今日は具沢山のコンソメスープに、スペアリブを1本ずつ、焼き立てのバゲットだ。
「美味い!ただのスープじゃないな、汁だけでもうめえ。ザックスのアイテムボックスは特別製とは聞いていたが、凄えな」
大袈裟に騒いでいるのはベルンヴァルトだ、美味いものに目がないらしい。これだけ、美味い美味いと食べてくれるならば、用意してくれた料理人やメイドさん達も喜ぶ事だろう。
「確かにバゲットのパリパリ感に、中身の柔らかさは、正に焼き立てだぞ」
「暖かいのもあるが、料理自体も貴族用のだろ?美味い訳だ」
「お前ら、美味いのは分かるが、少し声を落とせ。周りの集落の迷惑になる」
エクベルト隊長が窘めると、皆も少し落ち着いた。近くには集落の家の明かりが見え、その先には畜舎もある。牛さんの鳴く声も時折聞こえるので、こっちの声も丸聞こえだろう。
「あまり美味い夕食だと、この後の夜番がキツクなるんだがな。
あまり緩んでも不味いし、一応言っておくか」
夕食を食べ終わってから、エクベルト隊長は真面目に切り出した。
「一昨日の話だ。国境付近に山賊が現れたとの情報が入った。既に騎士の討伐部隊が向かっているが、万が一の可能性がある。
今向かっているランドマイス村は、ここより国境が近い。特に牧場地域を抜ける明日、森に近付く明後日は注意してくれ」
「「「了解」」」「分かりました」
その後、3交代で夜番をする。俺は2番目の担当なので、寝てから3時間程で起こされる。
眠い目で濃い紅茶を飲みながら、ペアのベルンヴァルトと雑談する。
この領地では鬼人は珍しいらしい。なんでも、彼の父親が運良くダンジョン討伐出来たため準男爵になったが、派遣される領地を決める際に「肉が美味い領地」と要求したため、アドラシャフト領に来たそうだ。
「なるほど、そんな父親に憧れて騎士を目指した、なんてところか」
「いや、オヤジのジョブは鬼人族固有の【鬼侍】だ。金棒や大剣でガンガン攻撃するジョブで、良く言えば豪快、悪く言えば粗野で乱暴な感じだな」
種族特有のジョブがあるとは知らなかった。鬼武者みたいな感じで格好いいな。
「父親のパーティーに騎士がいてな。仲間を身を呈して守り、シールドバッシュで敵を吹き飛ばし槍でトドメを刺す。そんなスマートな戦い方に憧れたんだ。
特に、馬に乗りランスを構えて突撃するのは痺れたぜ」
「馬に乗るのも格好良いよな!俺はまだ身体の方が拒絶して駄目だけど。
そう言えば、ダンジョンで馬は使えるのか?」
ダンジョンと言えば洞窟や遺跡みたいなイメージだ。広間ならともかく、通路では狭そうだ。
「フィールド型の階層であれば使えるし、スキルでテイムした馬なら転移ゲートも使えるぞ」
21層以上で偶に出て来るフィールド型か、講義で少し聞いたな。草原や森、山、海岸などが広がっていて探索が大変だが、採取は捗るとか。
「50層以上で活躍するパーティーだと、動物じゃなくて魔道具製の馬を使う事もあるらしいぜ。
走るのにMPを消費するし高価らしいが、疲れ知らずで飼葉や水がいらず、さらにアイテムボックスで持ち運べるので重宝するらしい」
「ああ、魔道具製の馬って、ゴーレム馬車とやらの馬部分か!」
そこで、ふと気付いた。魔道具製の馬なら、俺も乗れるのではないか?
いや、いっそのことバイク型にすれば忌避感なんて無いだろう。ゲームじゃバイクに乗って大剣を振り回すキャラもいたしな。
エヴァルトさんに頼まれた新しいアイデアが決まった。街に帰ったら職人に依頼しよう。
そんな雑談をしながら、夜は過ぎていった。
翌朝、ストレージから出した朝食を食べ、移動を開始する。
昼過ぎに牧場地域を抜けたが、問題なく進み野営地で夜を過ごす事が出来た。
異変を感じたのは3日目の昼過ぎ、もう村の近くに来てからだった。
進行方向、村の方から黒い煙が立ち上っているのが見えた。
その後、山賊達との初陣になる。
勝ち鬨を挙げたエクベルト隊長の声に、騎兵や自警団、農夫たちも武器を掲げて大いに歓声を上げた。
少し離れた場所に馬車ごと取り残された俺は、御者席に座り込み、戦いで昂ぶっている心を落ち着かせていた。
いきなり聖剣を使う羽目になるとは思わなかった。初見による奇襲で山賊親分を倒せたから良かったものの、外していたら苦戦どころじゃ済まなかっただろう。
聖剣の自動攻撃の方も、本来ならダンジョンの低層で自動攻撃の性能を試すはずだったのに、ぶっつけ本番で自動攻撃に頼る事になった。
やはり聖剣を使う練習はやっておいた方が良いな。
考えがまとまる頃には、ベルンヴァルトが戻ってきて、馬車に馬を繋いだ。
そして村の方へ進む。
「それにしても、あの光る剣は凄かったな。異世界人とは聞いていたが、あんな力があるとは知らなかったぞ」
「俺の特殊スキルだよ。切り札なので普段は使わないけどな」
「最初に外して、笑いを取ったのも狙い通りなんだろ。あれで山賊の親分を倒せたのが決定的だったぜ。あの親分は見習いの俺達じゃ、倒すのは無理だったろうしな」
ベルンヴァルトとの雑談出来た事で、少しは緊張が解けて来た。ただし、地面に転がる山賊の死体があるので、気分は急降下する。吐き気を催すほどであるが、祝賀モードに水を差す訳にもいかない。ぐっと飲み込んで耐える。
そして、村の入り口に着くと皆に囲まれ、エクベルト隊長から紹介された。
「光の聖剣の使い手、ザックスだ。
彼が山賊の親分を倒したお陰で、山賊達は瓦解し楽に討ち取る事が出来、人質も救えた。
今回の戦いは皆で勝ち取った勝利だが、一番の功労者として彼を讃えよう」
周りで拍手と歓声が上がる。
その中から1人のご老人が進み出てくる。
「ランドマイス村の村長です。ザックス様の事は御領主様の手紙にて存じ上げていましたが、村の窮地をお救い下さるとは、女神様の御導きでしょう。
今夜は村を上げての宴会にしますので、皆さん楽しんで行ってください」
村長の宴会宣言に、またしても歓声が上がる。
その後は村長の指示で、戦闘の後始末や宴会準備を始めた。
俺も後始末を手伝うが、胴体を両断された死体や生首を見て気分が悪くなり、結局吐いてしまった。胃の中が空になるまで吐いた後は、気持ち悪いのを我慢して作業を手伝った。
自分が殺したのだから、目を背ける事は出来ない。
村の荷車に死体を載せて、10分ほど歩くと森の中の建物に着いた。
いや建物ではなく洞窟と言うか……地下鉄の入り口のようだ。階段とスロープがあるので余計にそう見える。
入り口は荷車でも余裕で通れるくらいに広く、スロープを降りていく。
降りた先の部屋も広く、正面には下り階段、右の壁側に青い鳥居、左の壁側には赤い鳥居がある。
こんな所に鳥居があるとは思わなかったので、一緒に来ていたベルンヴァルトに聞いてみる。
「ベルンヴァルト、もしかしてここがダンジョンなのか」
「ん?ああ、ザックスは初めてだったな。ダンジョンのエントランスだよ。
ほら、青いゲートが攻略中の階層に跳ぶ転移ゲートで、あっちの赤いゲートが出て来る用だ」
なるほど、青が進めで、赤が止まれの一方通行と覚えれば分かり易い。ダンジョンに関しても講義で習っているので、ある程度の知識はある。ここに死体を持ってきた理由も分かった。
「もしかして死体をダンジョンに持ってきたのは、ダンジョンに吸収させて処分するためか?」
「ああ、エントランスでも30分ぐらいで吸収されるからな。街や村の近くのダンジョンは、ゴミ捨て場代わりにしている所は多いぜ」
ダンジョンは資源が取れるだけでなく、ゴミの最終処分場でもあるのか。放置すると魔物が溢れるデメリットはあるものの、ダンジョンがないと、この世界は成り立たなそうだ。
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