第11話 訓練の日々と出発
次の日以降も訓練と講義は続いた。
訓練では剣以外にも、短剣と槍、徒手空拳の格闘術の基礎も習った。色々と新しい事を学んだ方が、基礎レベルが上がりやすいからだ。
ただ、乗馬もやるはずだったのだが、馬に近づくと体が動き難くなる。馬に乗ろうと促されると、足が竦んで動けなくなる程だ。恐らく、記憶はないけどザクスノート君の体が怖がっているのだろう。型の訓練で体が覚えていたのと同じだと思う。頭では何にも感じないのに、体が動かないのは変な感じだ。
乗馬は兎も角、馬車に乗ったり、街中ですれ違ったりする程度は出来ないと困る為、リハビリを行った。
最後の2日は、他の見習いに混ざって訓練となった。休憩中の雑談で色々話を聞けた。見習いは15歳〜20歳で、ジョブは戦士が一番多く、スカウト、僧侶、魔法使いの順に少なくなっている。ジョブレベルは5〜20程。
商人や職人がいないので、何故か聞いてみたところ、ここは騎士団や衛兵などを目指して、ダンジョンに潜る事を前提にしているので、戦闘職しか集まらないらしい。
非戦闘職は仲間内で低層を廻ったり、護衛を雇ってレベル上げしたり、そもそも生産活動でも経験値が少し貰えるためダンジョンには入らない人も多いそうだ。
フロヴィナちゃんがダンジョン怖いと言いつつ、レベルが6もあったのはそう言う事か。
因みに騎士団なのに、騎士を目指している戦士以外のジョブもいるが、ただ単に古くからの組織名が騎士団なだけであるらしい。
土地や民を守る=騎士団なだけで、ダンジョン攻略には色々なジョブが必要なので戦闘職なら問題ない。
歳が近い見習いと模擬戦をするが、相手のジョブの補正があるせいか苦戦する事が多かった。
その分、経験値も多かったのか基礎レベルが3に上がり、ジョブ欄に【NEW】のマークが付いていた。喜び勇んでジョブ欄を選択するとジョブツリーが表示される。
今のところ一番左の無職と、隣にある【見習い修行者】しかないが、それ以外の大きな空白部分が目立つ。思っていたよりジョブの種類は多いのかもしれない。
見習い修行者を選択するとメッセージウインドウが出た。
〈ジョブを【見習い修行者】に変更しますか?〉
〈YES〉〈NO〉
見習い修行者がどんなジョブなのか表示されないのか。〈詳細鑑定〉をセットして鑑定してみる。
【ジョブ】【名称:見習い修行者】【ランク:1st】解放条件:基礎Lv3以上
・誰でもなれる基本のジョブ。魔物と戦うスキルは無いが、ステータスアップの分だけ長く訓練出来る。初期スキルでさらに効率アップ!
・ステータスアップ:HP小↑、筋力値小↑、耐久値小↑
・初期スキル:獲得経験値小アップ
見習い修行者は、13歳になっても他のジョブになれなかった者が渋々なるハズレ職と聞いていたが、ステータスアップと経験値アップがあるなら十分じゃないか!
早速、見習い修行者にジョブ変更する。
その瞬間、力が湧き出るような感覚がした。体の外観上変化はないが、ステータスを開いてみる。
【人族、転生者】【名称:ザックス、15歳】【基礎Lv3、見習い修行者Lv1】
HP D □□□□□
MP F □□□□□
筋力値D
耐久値E
知力値F
精神力F
敏捷値E
器用値F
幸運値C
アビリティポイント:11/31
所持スキル
・特殊アビリティ設定
・獲得経験値小アップ【NEW】
確かに見習い修行者のステータスアップ分が加算されて、HPと筋力値がDに、耐久値がEに上がっている。所持スキルに【NEW】マークがあるので〈詳細鑑定〉すると、
【スキル】【名称:獲得経験値小アップ】【パッシブ】
・自身の獲得経験値が少し増える。
名前そのままの効果すぎる。詳細なのに……
あと、なぜかアビリティポイントの上限が31に増えているが、基礎レベルが上がったせいだろうか?ただレベル2の時は増えていなかったし……
まあ保留だな、あと何レベルか上げれば法則性も見えて来るだろう。
その後、模擬戦で苦戦した相手と再戦したが、互角以上に戦える事が出来た。力負けしていた部分が、見習い修行者のステータスアップで補われたお陰だろう。
講義の方では、ジョブついて教わった。
ジョブは基本の8種類をファーストクラス、レベルを上げてクラスチェンジするとセカンドクラスと呼ばれ、非戦闘職はセカンドクラスになると専門職に分岐するらしい。
ベアトリスちゃんが目指している料理人もセカンドクラスのようだ。
さらにレベルを上げてクラスチェンジするとサードクラス、フォースクラスと上がっていくが、ダンジョン攻略の主力はサードクラスであり、フォースクラスは殆どいないそうだ。
ダンジョン学の方も色々と教わった。
魔物について、宝箱の注意点、採取地のルールの話、11層以降には罠が仕掛けられている等。
休憩中の雑談で日本の事も色々と話してはいるものの、珍しい話の域を出ていない。テレビやラジオ、車などの仕組みの概略は説明出来ても、詳細な作り方は分からないからだ。エヴァルトさんも珍しい話は好きだが、技術的な事までは分からないらしいので、
専門家にアイデアだけ投げてみる事にした。
ゴーレム馬車は馬をゴーレムにして引っ張っているだけなので、車体の方、もしくは動力部分をゴーレムに出来ないか。他にはハンドルやブレーキなどのアイデアと共に、エヴァルトさん経由でゴーレム職人に依頼した。
あれ以来、メイドさん達ともよく話すようになった。フロヴィナちゃんはお喋り好きなので、休憩時のお茶に誘うと一緒にお喋りする様になり、ベアトリスちゃんはフロヴィナちゃんから聞いたお菓子の件を話して、食べてみたいとお願いしたら、お茶菓子として出してくれるようになった。
本邸の料理人には及ばないと本人は謙遜していたが、特にアップルパイがシナモンとリンゴの香りがよく、程よい甘さで中のカスタードクリームも美味しかった。美少女メイドの手作りだから尚更だ。
結局ベアトリスちゃんもフロヴィナちゃんに誘われて一緒に休憩する様になり、講義途中の休憩ならエヴァルトさんも加えて4人でお茶とお喋りを楽しんだ。
日本の話題も多く、ベアトリスちゃんには簡単なお菓子として生キャラメルとポテトチップスの作り方を教えた。生キャラメルなんて牛乳、バター、砂糖だけと材料が少ない上、牧場が近くて新鮮な牛乳とバターが手に入るから美味しくなるに違いない。
そんな感じで過ごしているうちに、訓練の1週間が終わり、村への出発の朝となった。
この一週間で知り合った人たちが見送りに集まってくれた。
ノートヘルムさん、いやノートヘルム伯爵が4人の見習い騎士を連れてきた。
今日の午後には俺と光の柱の件が発表され、俺は平民となる、そろそろ貴族籍の方への対応を変えなければならない。
「ザックス、ランドマイス村までの護衛を紹介しよう。
騎士団102分隊、隊長のエクベルト、隊員のダンド、カムボ、ベルンヴァルトだ。皆まだ見習いではあるが、村までなら問題ない」
隊長は初見だが、他の3人は訓練場で見たことがある。特にベルンヴァルトは目立つ。大柄で背が高いのもあるが、額に生えている1本のツノが特徴的な鬼人と言う種族だからだ。
「皆さんよろしくお願いします。あと俺が馬に乗れないせいで馬車移動になってしまい、すいません」
村まで馬なら2日でいけるのだが、馬車だと3日かかる。俺の馬恐怖症で1日余計に時間がかかるのだ。
「坊っちゃん、いやザックスは気にすることはない。むしろアイテムボックスで食料や野営道具を持ってくれるのは助かるぜ。のんびり行こう」
隊長や他の皆も、そう声をかけてくれる。
因みに荷物を詰め込んだのはアイテムボックスではなく、特殊スキルの〈ストレージ〉の方だ。
【特殊スキル】【名称:ストレージ】【アクティブ/パッシブ】【必要アビリティポイント:5p】
・アイテムボックスの上位互換。容量無限で、格納したアイテムは時間が止まる。
生き物は入らない(ただし、種子や菌類、細菌類は格納可)
内部では自動でフォルダ分けされるが、設定変更も可能。
中身を全て出さないと、解除(ポイントに戻す)出来ません。
実際に色々試してみたところ、
スキルを発動すると手の前に黒いウィンドウが出現、手を入れると視界内に格納アイテムリストが表示され、リストから選択して手を引き抜くとアイテムを取り出せる。格納する場合は黒いウィンドウに入れるだけ、入れる物がウィンドウより大きくても吸い込まれるように入る。
内部のリストもフィルタで抽出や、種別や日付でフォルダ分け出来るので便利だ。パソコンにHDDを追加した気分だ。
因みに【アクティブ/パッシブ】は、スキルを発動して黒いウィンドウを出すのでアクティブ。黒いウィンドウを出していないときは裏で待機しているのでパッシブ。2面性があるので、こんな表示なのだろう。
これのおかげで3日分の物資どころか、10日分ほど格納されている。余った分はダンジョン内や、街へ帰ってくる際に使えば良いとのこと。
まあ、村の特産で余剰品があれば、多めに買って来いと、お土産が要求されているけどね。
食料品も時間停止で腐らずに保管出来るから。
「お菓子を追加で焼いてきましたから、持って行ってください」
「クッションを追加で作っておいたよ〜。馬車は揺れるから、2つ3つ使うと良いよ〜」
メイドさん達にお礼を言って、ストレージに格納する。
「車の件は職人に頼んでおいたから、結果を楽しみにしていると良い。後は面白そうなアイデアを思い出しておけよ」
エヴァルトさんの声に「暇な時に思い出しておきます」と返す。
「基礎は問題ない、後は実戦に慣れるだけじゃ。ただし、慣れと慢心は別だぞ。油断すれば低層でも死者は出るものじゃ。気を抜かぬようにな」
ウベルト教官の言葉を噛み締める。
「ザックス、分かっているとは思うが、この後に君の事を布告する。村にいる間は問題無いと思うが、この街に帰って来るときは気を付けなさい」
「はい、ノートヘルム伯爵。お気遣い感謝します。そして、今までありがとうございました」
アドラシャフト家の皆さんに向け頭を下げる。
そんな俺に奥さんが駆け寄って来て、手を握ってきた。
「いいえ、これからもよ。ダンジョンを討伐するまで待っているわ。あとアドラシャフトの街に寄ったら、必ず家に来なさい。必ずよ」
「はい、ありがとうございます」
ノートヘルム伯爵の後ろから顔だけ覗かせている、弟妹達にも手を振り、
「では、行って来ます」
そう言って馬車へ乗り込み、出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます