第9話 2日目の訓練と講義
翌朝、1の鐘で起きる。朝が早い人向けの鐘(4時頃)らしいが、夜寝るのも早いので自然と目が覚めてしまった。
用意してもらっていた服に着替えて、軽くストレッチ。そのついでに、部屋にある物を鑑定してみるのも面白い。鑑定文から、こちらの世界の事が垣間見えるのだ。
その後、1階へ降りてみると、パンの焼ける良い匂いが立ち込めている。その香しい香りに、腹の虫を鳴かせていると、食堂のテーブルを拭いていたメイドさんに聞かれ、笑われてしまった。
「ふふっ……おはようございます。直ぐに朝食を準備致しますね」
笑顔のまま一礼し、キッチンに行ったメイドさんは、程なくしてワゴンに朝食を乗せて戻って来た。そして、昨日と同様、豪華な朝食が並べられるなか、パンが山積みにされているのを発見した。昨日、絶賛しておいたのが効いたらしい。
他のおかずも美味しいが、やはりパンとバターは別格である。給仕をしていたメイドさんに美味しかったと誉めちぎっておくと、少し喜んでくれた様で、笑顔で一礼してくれた……仲良くなるための一歩にはなった様だ。
朝食の後は、訓練場へ移動する。少し離れている上、一人での移動だったがなんとか迷わずに着いた。ウベルト教官は既に待っていたようで、挨拶をする。
「お早う、ほれ、早く着替えて来なさい」と言って、ロッカーのある建屋の鍵を投げ渡して来た。
待たせてはいかんと、手早く着替えていると2の鐘(仕事始め、7時)が鳴るのが聞こえた。軽くジョギングで身体を温めた後、ウベルト教官から本日の訓練内容を聞いた。
「今日は、剣の基礎から始める。剣の振り方や、足運び、型の練習じゃな。
例え戦士のジョブに就いても剣の扱いが急に上手くなる訳ではないのじゃ。ジョブはあくまでステータスの補正とスキルを覚えるだけ。
武器の訓練をした戦士と、訓練していない戦士、同レベルでも強さは雲泥の差じゃ」
そう言われて訓練を始めた。
ウベルト教官の指導のもと、素振りや型を繰り返していくが……無意識に動いている方がスムーズに動ける気がする。体の方が覚えているという事だろうか?
逆に、型の次の動きとか考えると、途端に動きがぎこちなくなる。意識と体が同調するよう、ひたすら型を繰り返した。
午前中いっぱい、基礎訓練は続けていると、3の鐘(昼休憩、11時)が聞こえた。今日の訓練は終了である。
ウベルト教官にお礼を言ってから別れ、帰り支度をした。シャワーを浴び、着替えを済ませるのだが、半日動き回っていたのに、それほど疲れていない事に気が付いた。筋骨隆々な身体を見れば分かるものだが、ザクスノート君はフィジカル強者なようで、かなり鍛えてある。ダンジョンで魔物と戦うには、これくらい鍛えていないと駄目なのだろう。
実際に言葉を交わす機会は無かったものの、ザクスノート君には感謝である。
離れに戻り、昼食の後、4の鐘(昼の始業、13時)と共にエヴァルトさんがやって来た。
昨日と同じく、リビングで講義を受ける。
「今日はダンジョン学の基礎から始めようか。
まあ、ダンジョン学と言っても一般常識レベルの話である。本格的な事は学園で学ぶのだが、そっちは時間があればにしよう」
邪神が作っていると言われているダンジョンだが、大地を流れる魔力【マナ】の多い土地に出来やすい傾向がある。マナが溜まると成長して階層が増えるが、マナは魔物や採取地を生み出すのにも使われていて、魔物を倒し採集を行う事で、ダンジョンにマナが溜まるのを阻害出来るそうだ。ダンジョンを討伐するのは貴族だけど、一般人も低層で採取するだけでも、貢献になっているらしい。
ダンジョン内に出る魔物の強さは階層数=レベルで分かりやすい。1対1の場合、同じ基礎レベルの戦闘職で楽に勝てるが、非戦闘職(職人等)では苦戦する程度の強さ。ただし、階層が深くなれば、魔物もスキルや魔法を使うので、あくまで目安程度にした方がいいらしい。
その魔物もパーティー単位で出現し10層以下では1匹だが、11層からは2匹、21層からは3匹と、10層置きに増えていくので、集団戦が出来ないと厳しくなっていくそうだ。出来れば、早めに仲間を募って、こちらも数の利を得る方が良い。
そして、魔物パーティーを全滅させると、死体が消えてドロップアイテムが現れるらしい。ゲームみたいに思えるのは今更か、ステータスがあるくらいなのだから……
驚きなのが、ドロップアイテムが食品の場合は、半透明な袋に包まれており衛生的となっている事だ。ビニール袋?
袋は破ると消えてしまうので、ギルドや店で買い取ってもらう場合、袋に入っていないと買い取り拒否されるらしい。
……使い終わったら消えるビニール袋とか、エコ過ぎない???
ダンジョンの10層おきに中ボスがおり、倒さなければ先には進めない。ボス部屋には1パーティー6人までしか入れないので、数押しは出来ないのでレベル上げは必須。ボス1体と、その階層の出現最大数までお供の雑魚が出現するので、連携も必要だ。ボスを倒すとステータス欄に〇〇階層ボス討伐の証が記載される。
ボス部屋の前には、休憩用の小部屋があり魔物は入って来られないらしく、避難地帯にも使える。
そして、ボス攻略後にも休憩室があり、こちらは水源や個室トイレ、帰還用の転移ゲート等が設置されている。
ダンジョンから出るには、1層まで戻るか、ボス戦後の休憩部屋の帰還ゲートを使うか、スカウト系のスキル〈帰還ゲート〉が必要。どちらの帰還ゲートでも、潜るとダンジョン入口のエントランスにある、出口用ゲートに出て来るそうだ。
又、エントランスには転移ゲートも有り、こちらはスキル無しで使用できる。ただし、パーティーリーダーの到達階層までしかワープ出来ず、パーティーメンバーにボス討伐証が無い場合は、その手間の階層までしかワープ出来ない。
「楽をしたければ、ちゃんと関所を通って来い。と言う事ですか」
「そうだね。仮に私がリーダーとして、君を連れて行ったとしても10層までしか飛べない。そして10層のボスを倒せば、次は20層までは飛べる。
追加メンバーを入れた時は、大抵このボス巡りが必要だね」
なるほど……それでも1層からやり直すより、多少スキップ出来る方がマシだ。
ただ、1層からと言う話でで、ふと、気になった事があった。
「因みに、このボス討伐証って、別のダンジョンでも効果有りますか?」
「ハハハ、無いよ。討伐証はダンジョン毎に別管理だ。
1層から頑張るか、お勧めしないけど別の探索者に報酬を払って、連れて行って貰うかだね」
「お勧めしない理由も教えて下さい」
「信頼出来るか分からないからだよ。赤字ネームや灰色ネームなら警戒は楽なのだが。
赤字ネームの盗賊が、困窮していた白字ネームの探索者を雇って、他の探索者を罠に嵌めた事件があってね」
そう言えば、聖剣クラウソラスの鑑定結果にも、赤字ネームと灰色ネームは攻撃対象とあったな。
赤字ネームの説明もお願いする。
「赤字ネームは殺人を犯した犯罪者で、灰色ネームは殺人以外の犯罪者だ。
灰色は高額な窃盗や、恐喝、横領、計画殺人の指示など様々ある。
貧困の子供がパンを盗んだとか軽度なら色は変わらないけれど、あまりに繰り返していると灰色になるらしい」
灰色の罪の重さがバラバラだなぁ。窃盗で灰色ネームになったからと言って、殺すのはちょっと気が引ける。まだ日本の常識に囚われている俺としては、例え犯罪者であっても殺せるとは思えない……いや、そう言えば、聖剣クラウソラスには自動攻撃するスキルがあったな。〈プリズムソード〉だっけか。
「聖剣の自動攻撃対象に灰色ネームが入っているのですが……もし、攻撃指示をしたとして、重傷、最悪殺してしまった場合はどうなります?」
「ああ、赤字ならば、躊躇せず殺すべきだ。灰色は殺しても構わない程度かな。捕まえて騎士団に引き渡せば多少の謝礼金は出たはずだよ。
まあ赤字も灰色も神様が判断して変えている様だし、我々はそれに従うしかないさ。
戦争で敵兵を殺すとか、正当防衛で反撃して殺しても、赤字に変わらないと聞くからね」
実在している可能性の高い神様の判断とか言われると、反応に困る。この世界の人類が何人いるか知らないけど、2人の神様で全員チェックしているとか……
神様が超ハイスペックでチェックしているブラック業務よりも、プログラム的なので自動的にチェックされている方がマシかなあ。
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本来1日の流れを鐘の音とともに解説するはずでしたが、長すぎて分割してしまいました。下記にまとめます。
貴族や探索者は時計や懐中時計の魔道具を持っているけど、持っていない平民向けに1日の時間の目安として鐘を鳴らしている。
●鐘は3回鳴らされる。昼のみ2回(聞き間違い防止)、深夜は鳴らさない。
・1の鐘、 4時(朝の早い仕事始め)
・2の鐘、 7時(仕事始め)
・3昼の鐘、11時(お昼休憩)
・4の鐘、13時(昼の仕事始め)
・5の鐘、17時(仕事終わり)
・6の鐘、20時(就寝)
娯楽が少ないから夜寝るのが早く、朝が早い。昼休憩が長めで午前午後ともに4時間働くって感じです。
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