第5話 アビリティ設定2

 気持ちを切り替えて、〈詳細鑑定〉で色々調べてみるとしよう。どうやら、このスキル、物だけでなくステータスウィンドウの項目にも掛けられるようなのだ。

 詳細なだけあって内容が多いので下記にまとめてみた。概ね名前の通りではあるが、この世界の仕様が見て取れるのは助かる。



・基礎レベル (一定レベルが上がるとステータスアップする。ジョブ変更しても変わらない。最大99レベル)

・ジョブレベル(現在のジョブレベル。レベルが上がると補正値が上がり、スキルを覚える。ジョブ毎にレベルは別管理されている)

・HP(0で死亡、1割以下で戦闘不能、出血や毒で継続的に減るので処置が必要。一度に5割減るとスタン(一時的な気絶)する)

・MP(魔法やスキルで使用する。3割以下で頭が重くなり、1割以下で気分が悪くなり、0で気絶する。ただし0になる一撃を撃つ場合、無理にでも使わなければ不発になる)

・筋力値(物理攻撃力、武具の重量制限に影響)

・耐久値(物理防御力、HP量、HPや状態異常の自然回復力に影響)

・知力値(魔法攻撃力、バフデバフの確率に影響)

・精神力(魔法防御力、MP量、回復魔法の回復力、MPの自然回復量に影響)

・敏捷値(移動速度、攻撃速度、回避率に影響)

・器用値(武具の取り扱い、クリティカル率、騎乗スキル、罠の解除と設置等に影響)

・幸運値(Cが中間。あらゆる行動に補正、クリティカル率、宝箱の中身に影響。レベルアップでは変動しない)




 幸運Cは中間値だったのかよ。高いと思って喜んでいたのに……

 MPの減少で気分が悪くなる記述は、執事さんの言っていた通りだな。MP管理は重要そうだ。


 それにしてもスキルを使う事に、〈詳細鑑定〉と発言する必要があるのは面倒だな。ステータスを開くみたいに念じるだけで使えないものかと探してみたところ、特殊アビリティ欄の特殊スキルにそれらしいスキルを発見した。



【特殊スキル】【名称:無充填無詠唱】【パッシブ】【必要アビリティポイント:10】

・魔法を使う際の魔力貯めが必要なくなる。発動時の魔法名を言わずに、念じるだけで発動可能になる。スキルでも同様に念じるだけで使用可能になる。

 誤爆防止のため考えた程度では発動せず、魔法を使用するという意思を持って念じる必要がある。



 早速、チェックを入れて有効化し、目の前のテーブルに対して〈詳細鑑定〉と念じてみた。



【家具】【名称:リビングテーブル(ミズナラ材)】【レア度:C】

・オーク材とも呼ばれる材木で作られたテーブル。重厚感があり多数の装飾が彫られた家具は貴族の間で人気。



 よし!〈詳細鑑定〉も念じるだけで発動出来た。

 パッシブというのは、このスキルを持っているだけで効果が適応されるという事だろう。反対はアクティブかな?

 俺がステータスと〈詳細鑑定〉に夢中になっていると、不意に声を掛けられた。


「ザックス様、食事の準備が出来ました。こちらのテーブルに配膳してもよろしいですか?」


 俺が了承すると、執事さんがベルを鳴らす。メイドさんがワゴンを押して部屋に入ってきて、執事さんにワゴンを渡し、一礼すると戻っていった。

 スカート丈の長いクラシカルなメイド服だ。フリル等の装飾も多く、可愛いメイドさんだったので、彼女に配膳して欲しかったなあ。なんて考えていたが、執事さんの配膳してくれた料理に目を奪われる。

 前菜は、花弁のように盛り付けられたハムと飾り切りされた野菜。コーンスープに、トマトサラダ、牛ステーキ、ロールパンと、まるでホテルのコースディナーのようである。

 ハムは燻製の香りが良く美味しい。コーンスープやトマトも味が濃くて良い。ステーキは赤身メインではあるが、噛むほどに肉の旨味が出て来るし、ロールパンはふわふわだ。デザートにオレンジシャーベットまで出て来た、後味がさっぱりして美味しい。


 ……おかしい、ここは日本じゃなくて異世界のはずだよな?

 そんな疑問が浮かぶほどに美味しかった。


「とても美味しかったです、ご馳走様でした。 ちなみに、今の食事は一般的なものですか?」

「貴族としては一般的かと。下級貴族なら1段ランクが下がり、平民ならさらに1、2段ランクが下がると思います」


 貴族なら、日本の高級レストランレベルの食事が普通なのか…。平民の方がどれくらいなのか気になるなぁ。




 食後のお茶をしながら、執事さんと雑談をした。常識レベルの話を色々教えて貰っていると、他のメイドさんがやってきて、お風呂の準備が出来たと知らせてくれた。

 そのまま執事さんに連れられて、部屋を出る。階段を下り1階の風呂場の脱衣所へ案内されると、そこには丈の短いメイド服のおば……ご婦人が待っていた。


「ではエルマ、後は任せます」

「あいよ、お任せあれ。さあ坊ちゃん、服を脱いだ脱いだ」

「ちょっと待って、一人で脱げるし、お風呂も一人で大丈夫ですよ」


 所謂、『三助』みたいなものだろうか?

 流石に恥ずかしいので、拒否しようとしたが、あれよあれよと言う間に、服を脱がされてしまう。


「アハハ! 坊ちゃんの小さい頃からお風呂入れているんだから、今更恥ずかしがるんじゃないよ!」

 大笑いしたエルマさんは、俺の尻をぴしゃりと叩き、お風呂場に押し込んだ。そして、椅子に座らされると、シャワーで暖かいお湯を掛けられ、液体シャンプーの様な物で頭を洗われる。ちょっと乱暴に、頭をわしわし洗われていると、後ろからしんみりとした声が聞こえた。


「坊ちゃんが亡くなったって……別人になったなんて聞いた時は信じられなかったけれど、実際に会うと確かに別人だねえ」

「まだ会ったばかりなのに、そんなに違いますか?」

「坊ちゃんなら服は脱ぎ散らかすし、恥ずかしがることもなかったねえ。むしろ体を見せつけてきたね。鍛え始めて筋肉が付くのが嬉しかったみたいでさ」


 エルマさんの声は、懐かしさだけでなく悲しさも含んでいるように聞こえ、元凶の俺は振り向く事は出来なかった。

 そのまま、髪だけでなく、身体の隅々まで現れてしまう。特に股間は恥ずかしいと言ったのに、おばちゃんは笑い飛ばして、問答無用で洗うのだった。



「はい、体洗いは終了! 後は湯船に浸かって温まっておいで。10分は出ちゃ駄目だからね。あたしは脱衣所で待っているから」


 俺の身体をシャワーで流すと、エルマさんはそう言って風呂場から出て行った。本当に豪快なおばちゃんだぜ。

 人に洗ってもらうのも、気を使って疲れるものだと初めて知ったよ。精神の回復のため湯船に浸かっていると、湯船の端にあるライオンらしき石像が気になった。気になったら、取り敢えず、〈詳細鑑定〉だ。



【魔道具】【名称:ライオン型給湯機】【レア度:B】

・火の宝玉と水の宝玉が目に組み込まれ、お湯を出す事が出来る。顎下の赤い部分を触ると決められた湯量を吐き出す。魔力の補充は両目の宝玉を触って行う。

 ライオン型にインテリア以上の意味はないが、背中に跨ったり、頭の上から湯船に飛び込んだり出来るので子供に人気がある。



 ただの石像じゃなくて魔道具だったよ。よくよく見たらシャワーの方も温水の魔道具と表示された。エヴァルトさんが「魔法と魔道具が……」とか言っていたが、電化製品の代わりに魔道具が普及している世界なのだろうか?


 十分温まり脱衣所に出ると、待っていたエルマさんに全身を拭かれ、ドライヤー(魔道具)で髪を乾かしてもらった。風呂に来て初めて気付いたが、ザクスノート君の真っ赤な髪は長く、肩の後ろ位まであった。色が個性的過ぎて、自分の髪だと一瞬分からなかったよ。個人的には短くしたい。


 服を着せられていると、執事さんが迎えに来た。

 エルマさんにお礼を言い、執事さんと共に部屋に戻る……と思いきや、2階の別の部屋に案内された。ノートヘルムさん達が戻って来たので、話し合いの続きだそうだ。

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